2019年11月11日の香港、ネイザンロードから車が消えた夜

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エアポートエクスプレス(機場快綫/Airport Express)

今回、私が反政府抗議デモ(Hong Kong anti-government protests)が頻発しているにもかかわらず、香港へ行った目的は、HSBC香港での口座関係の手続きのためだ。

10月までは、在香港日本総領事館の「香港における今後の主な抗議活動や関連情報」を見る限り、反政府抗議デモは週末(週によっては金曜日も)に集中していて、銀行が営業している平日は比較的平穏だったからだ。

そして、予定通り、11月11日(月曜日)に、私は台北から香港へと向かった。

パスポートの残存期間が少ないと香港のビザなし滞在も短縮される

香港ランディングスリップ(香港入境標籤/Hong Kong landing slip)

午後2時半過ぎ、私たちを乗せたエバー航空(EVA Airways)869便が、香港に到着した。

台北発のフライトが満席だったのとは対照的に、いつもなら空港職員が交通整理をしないといけないほど混んでいる入国審査場が妙に空いている。
やはり、2019年3月の逃亡犯条例改正案への反対運動に端を発した、半年以上に及ぶ反政府デモの影響で、外国人のビジネス客や観光客が大幅に減っていることが窺える。

もっとも、私は、フリークエント・ビジター・eチャンネル(Frequent Visitor e-Channel)を通ることができるので、そのままe道(自動ゲート)へ向かう。

ところが、私がパスポートを読み取り機に通したところ、警告音が鳴って通れなくなった。
係官が寄ってきて、私のパスポートを見るなり、「こっちへ来て」と言われる。

「えっ確か、香港政府観光局の情報によれば、香港の入国条件は『予定滞在期間後少なくとも1ヵ月間有効なパスポートが必要です。』とあったので、ギリギリのハズ!」が変わったのか、とギョッとしたが、係官は「何日滞在するの?」と聞いただけで、私が3日と答えると、手作業でランディングスリップ(入境標籤/landing slip)を打ち出した。

日本国籍者のノービザでの香港の滞在許可期間(Visa free period for visit not exceeding)は、入国から90日だが、私のようにパスポートの残存期間が短い人は、有効期間が切れる1か月前までしか許可されないようだ。

つまり、私のパスポートは2020年1月5日で切れるので、香港の滞在許可も2019年12月5日までしか認められなかったのだ。

香港国際空港からホテルまで

エアポートエクスプレス(機場快綫/Airport Express)

空港の観光案内所で情報収集

入国審査を終え、荷物をピックアップした私が、まず寄ったところは、空港内にある観光案内所だ。

普段なら地図やイベントのパンフレットをもらう程度なのだが、今回は、外務省たびレジに旅程を登録したため、台北にいる間にメールで受け取っていた「在香港日本国総領事館 香港における抗議活動に関する注意喚起(その51)」の内容について現状確認をしないといけなかった。

本11日朝は、インターネット上で香港全域でのストライキ等の呼びかけがあり、地下鉄の運行が妨害等されて複数の駅や路線が閉鎖、運行停止等しているほか、幹線道路が渋滞等しています。
この混乱に伴い、西湾河や大囲では、警察が実弾を発砲し、負傷者が出たとの報道があります。

エアポート・エクスプレス(機場快綫/Airport Express)を始めとする市内の港鐵(MTR)は運行されているのか、西湾河(Sai Wan Ho)や大囲(大圍/Tai Wai)というのが、自分の行動範囲にあるのかを確認するためだ。

幸いに、中心部を走るMTRが止まっていることはなく、西湾河(Sai Wan Ho)や大囲(大圍/Tai Wai)も、ザ・ミラ香港(美麗華酒店/The Mira Hong Kong)のあるチムサーチョイ(尖沙咀/Tsim Sha Tsui)からは相当に離れていた。

彼女たちの説明で気になったのは、supposed to をやたら強調したことだ。
この意味は、(義務・規則・取り決め・約束・任務などにより)~することになっている、~するはずだ、ということなのだが、今の香港での真意は、とりあえず~となっているけどね、というレベルの意味だった。

エアポート・エクスプレス(機場快綫/Airport Express)

エアポートエクスプレス(機場快綫/Airport Express)

私は空港の到着ロビーからエアポート・エクスプレス(機場快綫/Airport Express)の乗り場に行こうとしたとき、目の前の出口がシャッターで閉じられていることに、危機感を感じた。

観光案内所では運休しているなんて言ってなかったのに・・・
しかし、近づいてみると、何のことはない。
「別の出口から電車に乗れ」と書かれていただけだった。

エアポートエクスプレス(機場快綫/Airport Express)

しかし、ここの出口には、以前はいなかった警備員が立っていた。
何もチェックされることはなかったが、デモ隊が入って来ないようにしているのだろうと感じた。(参考:2019年9月2日 BBC Japan-香港デモ、空港への交通を妨害 警察は威嚇発砲や放水

そして、私が乗ったエアポート・エクスプレス(機場快綫/Airport Express)は何事もなく、九龍駅(Kowloon Station)に到着、ここで、私はK4番の無料シャトルバス(機場快綫免費穿梭巴士/Complimentary Airport Express Shuttle Bus)に乗り継ぐ。

シャトルバスの乗り場には、ほとんど待っている人がいない。
私は、香港には何回も来ているが、こういうことは非常に珍しいと思えた。
もしかすると、シャトルバスが運休しているのではないかという錯覚を覚えたが、幸いにそんなことはなかった。

ただ、K4番のバスルート上には、ザ・ミラ香港(美麗華酒店/The Mira Hong Kong)がないので、ザ・ラックスマナー・ホテル(帝樂文娜公館/The Luxe Manor)で降りて、少し歩く必要があった。

私がこんな分不相応なホテルに泊まる理由はただ一つ、万が一、市内のどこにも出かけられなくなっても、このホテルなら室内プールがあって、退屈しないで済むからだ。

チムサーチョイ(尖沙咀)で感じた別世界の香港

ザ・ミラ香港(美麗華酒店/The Mira Hong Kong)

ホテルにチェックインした私は、さっそく友人の由美子さんに電話をする。
今夜の食事をご一緒しようと思ったのだが、彼女からの返事は驚くべきものだった。

私は自宅のある香港島から動けないわ。
今日の昼に何があったか知ってるの?
セントラル(中環/Central)で多くのビジネスマンが昼食を取ろうかと外に出たとき、警察がデモ隊に向かって催涙弾を何発も発射して、皆が逃げまどっていたの、オフィスのスタッフは3時半には早退よ!

携帯電話から聞こえる彼女の話は、とても自分がいるところの近くで起こったこととは信じらなかった。
私のいるチムサーチョイ(尖沙咀/Tsim Sha Tsui)界隈が平穏だったので、余計に別世界の出来事のように感じた。

そして、私はiPhoneに挿している3香港の残高が少ないのに気づいて、散歩がてらリチャージしようと、キャメロンロード(金馬倫道/Cameron Road)にあるショップへ出かけた。

ところが、周囲の喧騒とは裏腹に、そこだけは店員がまさにシャッターを閉め、帰宅しようとしていた。
平日の営業時間は夜の9時半までのはずだが、数人のお客さんがいるところに私も交じって、店員に聞いた。

私:「何があったんだ?閉店か?」
店員:「すまないが、今日は5時で閉店で、明日も休業だ。」

私の胸の中にドス黒い不安がこみ上げてきた。
先ほどの由美子さんの言っていたことと何か関係があるのだろうか。

3香港の残高情報
店員に詳しい話は聞けないまま、私はホテルに帰り、iPadを使って、3香港のオンライン・リチャージ(Online Payment)を試した。
こちらは何の問題もなく作動した。

今後、香港へ渡航される方へのアドバイスだが、今回のように携帯電話会社のショップが突然閉まることもあるので、SIMカードは、あらかじめ日本で仕入れていく方がいいだろう。
香港国際空港の到着ロビーにある携帯ショップは、チャイナモバイル(China Mobile)だけだ。

また、日本人観光客の場合に良くあることだが、短期間の渡航だからといって、通信手段をホテルの無料Wi-Fiだけに頼った行動はしないことだ。
つまり、SIMロックされた特定の電話会社しか使えないスマートフォンしか持っていない場合は、必ず国際ローミングの設定をしておく。
出先で何があるのかわからないのが、今の香港だ。

午後6時のテンプルストリート(廟街)~ミニバス乗り場が長蛇の列

鳴發川辣蟹(Ming Fat Spicy Crabs)

お一人様なら食事は廟街(Temple Street)、最近ではそう決めている私は、ホテルから歩いて佐敦(Jordan)へ向かった。
尖沙咀(Tsim Sha Tsui)からなら、バスを使っても良いのだが、街の様子を見たかったので、ネイザンロード(Nathan Road)を歩くことにしたが、そこはいつもと変わらない街の光景だった。

鳴發川辣蟹(Ming Fat Spicy Crabs)

ところが、廟街(Temple Street)に足を踏み入れた瞬間に私は違和感を感じた。
今まであった店のところがコンビニになっているし、何か総入れ替えになったような感じがする。

鳴發川辣蟹(Ming Fat Spicy Crabs)

家賃が高く、店の栄枯盛衰が激しい香港で、昨年あった店がなくても、不思議でも何でもないのだが、私が感じた違和感はそんなものでは説明できないものだった。
それにも増して、食事をしている人が少な過ぎたのだ。

鳴發川辣蟹(Ming Fat Spicy Crabs)

来る時間が早過ぎたからか?
いや、たぶん違うだろう。
それにも増して、おそらく、客寄せのためだったのだろうが、私は路地に面したテーブルに、たった一人で、弾除けのように座らされたので、心が落ち着かなかった。

明記甜品(Ming Kee Desert)

私の感じた違和感が最高潮に達したのは、廟街(Temple Street)の至る所にできた行列を見たときだ。

良くみるとミニバスの乗り場だ。
香港の路地には、こうしたミニバスの乗り場が至る所にあるが、それにしても6時半になぜ帰りを急ぐのか、行列に並んでいる人に向かって、何があったんだという言葉を発しかけて私はやめた。

明記甜品(Ming Kee Desert)

午後7時 足マッサージ屋にて~デモ隊 v.s. 香港警察 生中継

Now直播

夕食が終わったとき、時計の針はまだ夜の7時前だった。
とりあえず、マッサージ屋でも寄ってからホテルへ帰ろうと、1件の店に私は入った。

そこでは、NOW直播台というテレビ番組で、デモ隊が警察と対峙する映像が流れていた。
広東語の放送なので、私には地名である銅鑼湾(Causeway Bay)、油麻地(Yau Ma Tei)、將軍澳(Tseung Kwan O)しかわからなかった。

私は最初、これは過去に起きた事件の放送なのだと思った。
しかし、フト思うところがあって、世間話でもするつもりで、マッサージ師に尋ねた。
「これはいつ起こったのか?生中継なのか?」
彼らは、英語がわからないと言ったので、そこで話は終わった。

ただ、一応、確認しようと私は、香港在住の笹子さんと、由美子さんにメッセージを入れた。
すぐに反応があった。

貴方はどこにいるの?
まだ佐敦(Jordan)にいるんじゃないでしょうね。

油麻地(Yau Ma Tei)にいるデモ隊が路地に逃げ込んだら、警察が追いかけて廟街(Temple Street)にも来るのよ。
マッサージ屋になんかいないで、すぐにホテルに帰った方がいいわ。
あのテレビは生中継よ。

ミラホテルなら朝食が食べられると思うけど、帰りに明朝の食料は調達した方がいいわ。
突然、店が全部閉まるかもしれないのが今の香港なのよ。

私は足マッサージを受けながら不思議な感覚にとらわれていた。
テレビに映っているもの、由美子さんの切迫した電話は現実のことなのだろうか。
目の前の香港人(中国人?)は、淡々と仕事を続け、手の空いている人はスマートフォンで遊んでいる。
いつものマッサージ屋の光景なのだ。

ネイザンロードから車が消えた夜

ネイザンロード(彌敦道/Nathan Road)

とりあえず、足マッサージを終えた私は、ホテルへの帰路につくことにした。
路地をうろうろしていて、血気盛んなデモ隊や警官に殴られたりしたら困るので、表通りを歩く。

由美子さんのアドバイスに従い、開業していたベーカリーに入った私は、史上最強クラスの台風19号(10月12日)が襲来すると予報された関東圏のスーパーマーケットに記憶がフラッシュバックした。

何だ、これは、夜の8時前で商品がほとんどない・・・
残されたパンを数点買い込み、ネイザンロード(彌敦道/Nathan Road)に出た私は、そこにバスはおろかタクシーも自家用車も通っていないことに驚いた。

ネイザンロード(彌敦道/Nathan Road)

そうか、油麻地(Yau Ma Tei)が封鎖されているからか・・・
油麻地(Yau Ma Tei)と私のいる佐敦(Jordan)は、目と鼻の先という距離だ。
「そんなところで何をやっているの貴方は?」と言った由美子さんの声が頭に蘇る。

わずか2時間でここまで様相が一変するのか。
幸いに、わずかながらも歩行者がいるから救われると思った。
まるで夜間外出禁止令(curfew)か戒厳令(martial law)でも発令されたかのような香港の夜、これが現実のこととはとうてい思えなかった。

この日の夜、ホテルでインターネットをしていた私は、香港に関する記事をいくつか見た。

これが昼間、由美子さんが言っていたセントラル(中環/Central)の事件だった。
こんなことは、香港に来る前、昨日の段階でも予想もしていなかったことだ。

ホテル代を節約するために、シャンワン(上環/Sheung Wan)のホテルを取っていたら身動きが取れなかった。
そういった意味では、平穏な尖沙咀(Tsim Sha Tsui)にいる私はまだ救われたのかもしれない。

2019年11月 台湾・香港旅行のトピックス

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