中村氏の裁判に見る日本の司法の現実

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日本地図とビジネスマン

2004年11月19日付の「サラリーマン・ポイ捨て時代の報酬」というコラムで、私は「日本の企業の多くが言う『実績主義』など人件費を体よく削るための方便でしかないのだから本当に実力のある人は力ずくで報償をもぎ取るしかない。」と書いた。

つまり、その方法はヘッドハンティングをちらつかせるか、事後請求の場合は、中村修二氏のように裁判に訴えて勝ち取るしかない。

その司法制度なのだが、カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel Van Wolferen)が書いた「日本 権力構造の謎〈上〉 〈下〉 (The Enigma of Japanese Power: People and Politics in a Stateless Nation)」という本の中に、日本の司法は憲法上は独立しているように見えるが、実のところ最高裁事務総局という法務省内の一官僚機構が人事・予算権を握っており、判事の出世や昇進、そして裁判所の運営予算が彼らの手にある以上、独立は見せかけに過ぎないと断じている。

また、彼曰く、民事裁判の過程で、原告・被告双方に「和解」を薦めるのは、裁判を迅速に終らせる手段としてやっており、あくまでも判決を求める側の論証はなかば聞く耳を持たない判事すらいる。

つまり、判事がそうしている最も大きな理由は、裁判が長引くといかに「迅速な裁判」を行なったかという法務官僚が下す成績評価が低くなり、引いては立身出世に影響が出るからだと彼は論じている。

このことは全司法労働組合2000年7月7日に出した「司法改革提言骨子案」にも触れられている。
つまり、「事務総局側の意見が持つ事実上の説得力なるものが,背後に制裁の威嚇を伴ったものであることは,否定できないでしょう。」というものだ。

これを実証する出来事は、私のエッセイ「イラク戦争に思う」で少し触れたが、2002年の第154回通常国会に出された「裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案」で彼らの報酬が減額される案が通ったことに現れている。

これは明白な憲法第79条、第80条違反であるにもかかわらず、当の裁判官が了承したということで、マスコミが全く伝えない(もちろん日頃憲法第9条、靖国問題で噛み付くところも含め)官僚独裁国家の真髄として歴史に刻まれることだろう。

つまり、この「裁判官の報酬を在任中は減額できない」という憲法の規定は、金銭的な困窮や誘惑(買収行為)から司法官を守り、引いては司法の独立を守ることに立法趣旨があるのだが、「どこをどう読めば合憲になるのか理解できない官僚の作文」で、かくも無残に法治国家の最高法規が、また1つ無視される結果となったようだ。

また、ベンジャミン・フルフォード(Benjamin Fulford)はその著書「ヤクザ・リセッション さらに失われる10年」の中の「偽りの民主主義国家」で、「日本の裁判では個人に勝ち目はない」というタイトルの記事を書いている。

その中の一コマに、「(そんなことを裁判所に)訴えても何にもなりませんよ。時間の無駄です。そういう連中(権力)にケンカを売るのは頭のいい人間のすることではありません。」という、ある事件の被害者に相談を受けた弁護士のセリフがある。

つまり、日本の司法制度は独裁国家でしかあり得ないことが平然と行なわれているということを、この弁護士は言っているのと同じことなのだ。

ただ唯一、勇気を持って訴訟を起こしても、本当の独裁国家と違って監獄へ入れられたりしないが、数々の嫌がらせが舞い込み、それに対する取締りや検挙は全く行なわれないこともあると、ベンジャミン・フルフォードは書いている。

さて、下の記事を読んでいかがだろうか。
中村修二氏の青色LED訴訟に関する記事は山ほどあるが、下の5つだけで、日本の司法の実態が証拠付けられたと言えないか。

東京高裁の和解金額で、中村氏は何の根拠もないと言ったが、官僚の論理からすると、立派に根拠がある。
それは「経済同友会代表幹事」の意見という日本の支配階級の意思が、地裁判決の金額からはゼロを2つ取れと言っているからだ。

そう、日本でいう民意とは「政府に非常に協力的で、自民党に献金を欠かさない企業の代表者、またはそういった有力者」の意見なのだ。

最後に中村氏が言った「大企業中心で、個人を重んじない」というのは日本社会の真理である。

中村修二氏の裁判とは全く関係ないが、日本政府の支配階級に属する人々が自分たちにとってメリットのない人間をどう扱うかという典型的な例と言えるのではないだろうか。

さらに、政府に敵対行為を取る人間がどうなるかは、故石井紘基議員(2004年6月18日「石井議員の死の陰でふざけた奴らが笑っている」)や故宮本政於氏(2003年7月28日「内部告発」)の例を見れば明らかだ。

青色LED訴訟で和解の中村教授が帰国・「全く不満足」(2005.1.12 日経新聞)

青色発光ダイオード(LED)訴訟で、日亜化学工業(徳島県阿南市)と和解した中村修二・米カリフォルニア大教授(50)は12日、東京都内で記者会見し「全く不満足。無理やり和解に追い込まれ、怒り心頭に発した」と、東京高裁の訴訟指揮を痛烈に批判した。

和解を受けて緊急来日した中村教授。
充血した目で「高裁は山ほど提出した書面をまるで読まず、最初から和解金額を決めていた。これで正義の判断といえますか」と声を荒らげ「これだけが言いたくて日本に来た。日本の司法システムは腐っている」と切り捨てた。

東京高裁は和解案で、一審判決が認定した発明の対価約604億円(支払い命令は200億円)の100分の1にあたる6億円を対価と提示。
日亜が遅延損害金を含む約8億4000万円を支払うことで11日、和解が成立した。

中村教授は「勝つ可能性が0.1%でもあれば最高裁まで闘おうと何度も弁護士に頼んだ」と明かした上で「判決になればさらに額が下がるし、最高裁は法律論しか争わない。結果が同じなら打つ手がない」と和解を決断した理由を述べた。

和解金については「大部分は税金で持っていかれ、裁判費用でいくらも残らない」としながら「発明当時の報奨金2万円がここまで増えたのだし、日本の企業ががらりと変わった。裁判はやってよかった」とも。

紛争が終結したことについて「これで自由に研究に打ち込める。また新しい材料を使って誰もやらなかったことをやってみたい」と話すと、ようやく笑顔を見せた。

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青色LED訴訟、中村氏「高裁では100%私の負け」(2005.1.12 日経新聞)

青色発光ダイオード(LED)訴訟で、遅延損害金を含め計約8億4000万円を受け取ることで元勤務先の日亜化学工業と和解した中村修二.米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授(50)が12日、東京都内で記者会見し、「和解内容には全く不満。裁判所に和解に追い込まれ、怒り心頭に発している。高裁では100%私の負け」と心境を語った。

中村氏は、日亜在職中にかかわったすべての発明の対価を6億円と算定した東京高裁の和解案について「何も根拠がない。一審判決が認定した600億円が大きすぎるので、100分の1にして適当に計算式を作っただけ」と批判した。

しかし「和解しなければ同じ内容の判決が出て、上告しても法律論だけの最高裁では変わる見込みがなかった」と和解に応じた理由を説明。

「この訴訟で企業の報奨金制度が変わり、研究者の地位も上がったが、高裁が発明対価の上限を作ったのは残念」と振り返った。
「大企業中心で、個人を重んじない」と批判の矛先は日本社会のありようへ向かい、「実力主義で大変だが、やる気のある理系の人は米国へ行くべきだ」とも。

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青色LED訴訟、総額8億4000万円支払いで和解・東京高裁 (2005.1.11 日経新聞)

青色発光ダイオード(LED)の発明対価を巡り、開発者の中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授(50)が、勤務していた日亜化学工業(徳島県阿南市)に対価の一部として201億円を求めた訴訟は11日、同社が対価として約6億800万円とその遅延損害金約2億3000万円の計約8億4000万円を支払うとの内容で東京高裁(佐藤久夫裁判長)で和解が成立した。

同高裁が先月、訴訟の対象となった特許だけでなく中村氏が日亜在職中にかかわったすべての発明の対価を総額約6億円と算定した和解案を提示し、双方が受諾した。

昨年1月の一審・東京地裁判決が発明対価を約600億円と認定、請求通り200億円の支払いを命じた注目の訴訟は、一審判決の認定額は大きく下回ったが、発明対価を巡る訴訟で判決や和解により確定した企業の支払金としては、日本国内では最高額で決着した。

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青色LED判決「非常に問題ある」同友会代表幹事 (2004.2.3 日経新聞)

北城恪太郎経済同友会代表幹事は3日の記者会見で、青色発光ダイオード(LED)訴訟で東京地裁が日亜化学工業に200億円の支払いを命じたことについて「非常に問題のある判決ではないか」と批判した。

「企業に多大な負担が発生すると、研究開発拠点としても日本の魅力がなくなる」と指摘、日本の国際競争力に悪影響を及ぼすとの見方を示した。

企業に勤める研究者は一定の給与が保証されていると指摘。優れた成果が出た場合は数百万円、多くても1000万円程度のボーナスで報いるべきだとの考えを表明した。

日亜が開発者の中村修二氏へ支払った報奨金が2万円だったことについても「(判決も日亜も)両方とも100倍くらいずれている」と批判した。

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中村修二教授「貢献度評価50%は当然」-青色LED判決で (2004.1.31 日経新聞)

青色発光ダイオード(LED)の開発者、中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授は31日、日本経済新聞記者に対し、発明の対価を約604億円と認定した30日の東京地裁判決について「青色LEDで(元勤務先の)日亜化学工業(徳島県阿南市)が得る利益に私の貢献度50%をかけた金額であり、当然」との認識を示した。

中村氏自身の請求が200億円だったため、判決が日亜化学に支払いを命じた金額も200億円にとどまったことに関しては「訴訟費用が用意できれば604億円まで引き上げたい」と、二審で請求額を引き上げたい考えを明らかにした。

経営への悪影響を懸念する産業界が発明者への対価支払いを義務付ける特許法第35条の改正を主張している点には「怒り心頭だ。35条は絶対に残すべきだ。対価があってこそ研究者は画期的な発明に向けて努力する。画期的な発明が生まれれば企業も必ずもうかる」と反論した。

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青色LED訴訟、日亜化学は中村教授へ200億円支払いを (2004.1.30 日経新聞)

青色発光ダイオード(LED)の開発者として知られる中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授(49)が、勤務していた日亜化学工業(徳島県阿南市)に発明の対価の一部として200億円を求めた訴訟の判決が30日、東京地裁であった。
三村量一裁判長は発明の対価を約604億円と認定し、請求通り日亜に200億円の支払いを命じた。

同種訴訟での発明対価としては、光ディスク関連特許について東京高裁が29日に日立製作所に支払いを命じた1億6300万円を超え、過去最高額を大幅に更新した。

訴訟の対象となっていたのは、中村氏が発明し、青色LEDの基本技術とされる「404特許」。
2002年9月の中間判決は「職務発明のため特許権は会社に帰属する」との判断を示し、その後は日亜側が中村氏に支払うべき発明対価の額が争われていた。

 

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