食事時にテレビを付けると、明けても暮れても、「コロナ、コロナ」とこれ以外に話題はないのかというくらいな状況だが、去る5月12日にデジタル改革関連6法案(デジタル社会形成基本法案、デジタル庁設置法案、デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案、公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律案、預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律案、地方公共団体情報システムの標準化に関する法律案)が成立し、2021年9月1日に、デジタル庁が正式に発足する運びとなった。
私は、こうした法案が成立しても、日本は遅々として何も変わらないのではないかと危惧している。
その理由を書いていきたいと思う。
コロナワクチン大規模接種も定額給付金支給事務の二の舞か
5月12日付で報じられた産経新聞の記事「デジタル改革関連6法案が成立」の中に、こんな下りがあった。
新型コロナウイルス対応の10万円給付が遅れたことを教訓に国や自治体の情報システムの標準化を図り改善する。さらに、さまざまな行政手続きをオンラインして国民の利便性を高める。
奇しくも、今日から東京と大阪で、防衛省のウェブサイトを通した新型コロナウイルスワクチンの大規模接種の予約が始まり、数十分で枠が埋まったとの報道もされているが、産経新聞など各メディアでは「加藤官房長官、高齢者接種めぐり二重予約解消へ協力要請」として、
大規模接種センターと市区町村での二重予約の解消へ協力を呼び掛けた。「二重予約している人は速やかに取り消していただきたい」と述べた。
と、繰り返し報じているが、これは、2020年6月13日付で私が掲載した「ダブリ上等!横浜市内全戸配布の郵送用特別定額給付金申請書」にあるように、オンライン申請と郵送申請がダブリ、二重支給や自治体職員による手作業のし直しなどの問題が生じた定額給付金のときと同じ構図ではないか。
わずか3カ月で新システムの構築ができないことは理解しているが、2月19日付で報じられた「ワクチン接種で新情報システム開発 『ミラボ』と随意契約」はどこまで進んでいるのか。
これによれば、マイナンバーを活用した云々と書かれているが、いつになったらこうした後手後手の対応は改善されるのか。
おそらく大規模接種センターでは、「地方自治体から送付された接種券」に「接種済」の印などを押すことになるだろうが(これすらしないかも)、こうした手作業に頼るのではなく、システムで接種済と出るようして、コールセンターや地方自治体でも確認できるようにしないと、いくら政府が自治体のトップがテレビで叫んでも、記憶力の衰える高齢者に、すべてを委ねること自体が間違っているのだ。
実際に、同一自治体内でさえ「コロナワクチン 同じ人に2回接種のミス 北九州市と新潟 妙高市」と17日付のNHK News Webでは報じられている。
根本的に、政府閣僚も国会議員や地方自治体の首長も高齢者ばかりで、ITのことなど何も気にしない人が多過ぎるのではないか。
結果的に、政府・地方自治体の職員や、現場のスタッフにすべてを丸投げして、トップが必要な戦略を体系的に構築できないことがすべての原因だろう。
そして、同日に、NHK News Webで報じられた「ワクチン大規模接種 架空番号で予約可能状態 適正入力呼びかけ」を読んで、もはや呆れるしかない。
二重予約は元より、当日具合が悪くなってキャンセルする人が出たら、余ったワクチンは破棄するのか。
菅政権は国民の健康を何だと思っているのだろうか。
ウェブサイトすらダメダメなところが開発したアプリが秀逸なわけがない
私が2021年1月28日付で掲載した「ハイクラス人材の副業紹介『クラウドリンクス』への招待オファー」で、神戸市の事例を挙げたのは、「神戸市のホームページをわかりやすくデザイン性の高いものにして・・・」というのを外部人材に委託したからだ。
つまり、官公庁を始め、ダメダメ企業のウェブサイトには、この「わかりすく」というコンセプトがないものがあまりにも多い。
おそらく、うちのウェブサイトなどほとんど見ていないだろうという思い込みが強いか、多忙なスタッフに片手間仕事でやらせているのか、そういった組織の常套句は、「いざとなれば電話で問い合わせてくるよ」なのだ。
ウェブサイトを見やすく、コンテンツを充実させることが、問い合わせ電話を減らすことにつながるということが理解できていない。
私なら、こんなところにできるだけ関りを持ちたいとは思わないし、電話も「いざとなれば」でなく、「常に」になるので、ますます一部のスタッフだけが多忙になる。
そんなメンタリティの組織が開発させたアプリが秀逸になるわけがないだろう。
つまり、「わかりやすく」とか「使いやすく」というコンセプトが仕様書にないので、とりあえず、IT化すれば楽になるだろうくらいにしか思っていない。
私が、デジタル庁ができても、ほとんど何も期待できないと思うのはそこにある。
少子化時代でもコロナ禍でも変わらぬFAXの文化
ちょうど昨年の今頃(2020年5月1日付)、米国のニューヨークタイムズ(New York Times)で「Fax-Loving Japan to Introduce Online System for Reporting Coronavirus」と報じられたのを受けて、共同通信が5月7日付で「コロナ届『日本ついにデジタル』米紙、ファクス脱却と報道」と掲載したのを覚えているだろうか。
これを見て、ため息が出た人も多かっただろうが、官公庁に限らず、およそ、遅れていると言われている組織は、令和時代になろうが、コロナ禍になろうが、相変わらず電話とFAX主体の仕事をしていることが多い。
ところで、今のご時世では、政府や自治体の新型コロナウイルス対策の話題が毎日のように出る。
テレビで東京都のことをやるときは、小池都知事が主役として報道されるのは当然なのだが、港区のみなと保健所の仕事ぶりが放映されたことがあった。
その港区のことが、2020年9月号の月刊J-LIS「港区(東京都)マイナンバーを活用してコロナ禍で窮地の保健所事務を救う」として書かれているのだが、
発生届が昼夜問わずFAXで送られてきたため、みなと保健所はその対応に追われることとなりました。達筆で判読できないものや記入漏れ、正しい住所や氏名ではないものも多く、診断した医師に確認の電話を深夜までかけ続けざるを得ない状況になったのです。
日野係長はすぐ動きました。みなと保健所の松本加代所長の了解を得て、着任翌日の22日に中間サーバー接続端末や庁内連携情報照会用の端末を確保したほか、住基ネット用端末の利用権限を追加申請し、保健所会議室に設けられた仮設事務室にこれら端末とプリンターをセットアップして新たな取り組みを開始しました。
大きく変わったのは、人海戦術による電話かけが激減したことでした。発生届の管理と医療費公費負担事務については、端末操作をするだけで必要な情報を入手できるようになったからです。こうして事務処理がスムーズに動き出したのみならず、患者の属性把握や統計処理にも効率的に繋げられることがわかりました。
これを手掛けたのは、情報政策課個人情報保護・情報公開担当の日野麻美係長と書かれていて、一地方自治体の職員の機転だけでこうできたのだったら、政府は元より、ほかの自治体でも同じようにできないのだろうか。
昭和時代のような、電話とFAX主体の仕事というのは、人海戦術に頼らざるを得なくなる。
それに、ただでさえ少なくなった担当者を、膨大な手作業で過重労働に追い込むことになり、事務改善の余力もなくなる。
私はかつて、接客窓口が主体の部署を相手にしていたとき、頻繁に聞いたセリフがある。
(電子)メールで送ってもらっても(パソコンを)開く時間がないから・・・・FAXで送ってもらわないと見ないかも。
私の知り合いの弁護士が「裁判所は100枚書類があってもFAX送信なのよね。」と言っていたことがある。
調べてみると、裁判所のウェブサイトに「書類及び電磁データの提出について」というページがあり、おおお~変わったんじゃないのかと想ったら、ぬか喜びだった。
- 注意事項:電磁データの提出だけでは、書面の正式提出にはあたりません。
- 電磁データは、フロッピーディスク、CD-R等の記録媒体に記録して、提出してください。
- 早急に裁判所に提出する必要のある書類や期日請書、受領書については、ファクシミリを利用してください。
令和になっても、急ぎの場合は、ITツールを使うのでなく、ファクシミリなのね。(笑)
さて、「お前ら、社畜で人生楽しいか?」というブログを書いているAtusiさんが、2019年11月17日付で「設備投資を惜しむ会社は就職する価値なしのブラック企業だ!」ということを書いているが、この観点から見れば、一部の先進企業以外は、官公庁も含めてフルブラックな組織が日本を覆っているのではないか。
ITに堪能でも職場では積極的に言わない処世術
今朝のFM横浜の番組「ちょうどいいラジオ」を聞いていたら、このようなことを言っていた。
私の職場のおじさんたちはパソコンが全く使えないんです。
それで、高い給料をもらっていて、パソコンを使った仕事は全部私たちが担当、おじさんたちは毎日、仕事とは言えないことをやって、定時で帰るんです。
私はこれを聞いて、10年以上前にいた職場のことを思い出していた。
当時、私の職場に異動してきた女性が、実は凄腕のIT女子だったのが、途中でわかったのだ。
なぜ、そういうことを前面に出さないのかというと、ヒラのときに、ITに堪能だと職場にわかると、日本の組織では、そういった仕事を全部押し付けられるリスクが高いからだ。
ただ、そのときは私のいた職場全体が、前年のノンITピープルの巣窟から、一気にIT企業の職場へ変わったかのような変貌ぶりだった。
それで彼女も、「〇〇もできます。△△もやろうと思えばできるかも」となった。
2019年7月31日付のコラム「職場では口が裂けても『パソコン扱えます』アピールはしてはいけない!」で、前出のAtusiさんがこう書いている。
そういうわけで、職場でパソコンを扱えることを公言すると、大体ろくでもないことにしかなりません。
私はこれらの経験から、職場ではパソコンが扱えないフリをして隠すようになりましたし、実際に隠したほうがメリットが多いんですよ。
ぶっちゃけ日本の会社なんてのは、いろいろできるようになっても、給料据え置きで仕事量と責任だけ増やされるんで、何もできないアピールをしたほうがお得なんですよね。
これで決して稀有な事例ではないだろう。
ノンITピープルの巣窟になっている組織は、結局は、こうなる運命にある。
なぜならば、これが日本の組織における処世術の一つだからだ。
「社内でIT人材を発掘せよ」などという記事を読んで、私はいつも心の中で笑っている。
そのような人材がいれば、なぜ今まで活用できなかったのか、その人にいくら報酬を上乗せするのか。
そういったことに手を上げないのが賢明な組織が多過ぎるのだ。
そうかといって、外部からIT人材を採用しようとしても、トップにその価値観が理解されていないから、まるで話にならない採用条件が提示されたりする。
先にも書いたが、日本は一部の先進企業以外は、官公庁も含めてダメダメなのだ。
仮に、デジタル庁でいろいろなIT施策が提示されたとしても、それを導入し、使いこなせるのは一部だけだろう。
最後に
私がかつて読んだ本の中に、清水ちなみさんと、古屋よしさんの共著である「おじさん改造講座-OL500人委員会」がある。
ここで、書かれていたのは、ファクシミリやワープロ(当時はパソコンもスマートフォンもなかった)すら使えるようにならなかった企業幹部の実態だ。
舞台はバブル経済(1987年)当時のことだが、そのときに40代だった人でも、もはや30年以上経っているので、今や70代に突入しているだろうか。
平成の30年間を通して、日本が世界の潮流に乗り遅れた最大の要因は、こうした人が少数派ではなかったことだ。
それをデジタル庁の施策だけで取り戻そうというのは、相当に無理があると思うのは私だけだろうか。
コメント
ネット回線も電話回線もパンク、なんてことは容易に想像がつくと思うんですが。
オリンピックの医療従事者不足とかも、なんで今頃騒いでいるかですよね。
リスクマネージメントの意識が絶望的にないんですよね。
ところで、これまでIT担当大臣のあの人は、何をやってきたのかな?
コメントありがとうございます。
あの方は何もしていないでしょう。
顔で判断しちゃいけないけど、どう考えても知的に見えない。
というか、政界でITができるなんて、メールとLINEが自分で送れるだけかもしれませんから。(笑)