これからの海外ロングステイヤーは外貨資産保有が必須か

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2015年12月1日 HSBC香港本店

大企業のサラリーマンや公務員の中には、定年退職したら物価の安い東南アジアでロングステイという目標や夢を持たれている方もいると思う。

そういう私もロングステイフェア2014年12月6日-ロングステイフェア2014に行ってみた)や、ロングステイセミナー(2013年3月24日-越境の第一歩、ロングステイセミナーに参加してみた)に参加して、本格的に海外ロングステイを検討したことがある。

そして、このようなセミナーではロングステイの資金計画についての講演も行われるが、そのほとんどは、公的年金プラス円建ての貯蓄などで賄うことを想定している。
しかしながら、昨今のアジア諸国の経済発展に伴う物価上昇は、そういった淡い期待を打ち砕くような情勢になりつつある。

2014年12月6日付のコラムでも書いたように、JETROの国・地域別情報にある東南アジア諸国の消費者物価上昇率は着実にプラスを重ねており、それを反映した記事が配信された。(2015年10月28日 CNN Japan-アジアでショッピング、最も高くつく都市は?

たいていの場合、欧米の調査機関が調べた統計は、白人ビジネスマンの生活様式に沿ってなされた調査が基になっているため、あまり実態を反映していないことが多いのだが、今回の記事は私の海外旅行経験から言っても実態を反映しているように思える。

これによれば、今まで世界で有数の物価高の都市であった東京が、アジアの大都市で7位になっており、20年以上にわたってデフレが続いた日本(東京)はバンコクや台北よりも物価が安いという位置づけになっている。

この記事による調査で、現地の物価が富裕層向けの商品が高いだけだろうと思ってはいけない。
ほとんどの日本人ロングステイヤーは滞在先で現地の労働者のような暮らしをするわけではない。

滞在先を拠点に旅行へ出ることもあるし、現地で知り合った人たちと宴席を囲むこともあるだろう。
それに、長期間の滞在では食事がかなり重要で、現地の食事に飽きて、ときには日本食を味わいたいと思うこともある。

そう考えていくと、快適な暮らしをしようと思ったら想定しているよりも費用がかかるものだ。

実際のところ、アベノミクス(第二次安倍内閣の経済政策)による円安外貨高と現地の物価高のダブルパンチで、年金だけが頼りのロングステイに行き詰まった高齢者が多く出ているようだ。(2015年3月28日 フィリピン・ネグロス島(主にバコロド)の話-厳しくなってきた熟年移住?

その頼みの綱である公的年金だが、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)基本ポートフォリオの考え方によれば、名目上の運用利回りを3.2%、実質1.1%とすることを目標としているが、この運用利回りを安全資産とされる国内債券だけで確保することは不可能なので、リスク資産である国内外の株式や外国債にも投資している。

ところが、2014年10月31日の日銀金融政策決定会合(黒田バズーカ第2弾/「量的・質的金融緩和」の拡大)を受けて、実質的な運用利回り1.7%が確保されるようにポートフォリオが大幅に変更され、安全資産である国内債券への投資が60%から35%に、リスク資産である国内外の株式と外国債に65%の資金が投入されることになった。(参考:2014年3月18日 BLOGOS-年金財政検証:実質運用利回り1.7%のカラクリ

したがって、これらのリスク資産はいずれも円安になることが運用益を生み出すことにつながっているため、必然的に今後の経済政策運営も円安を誘導するようなものになっていくだろう。

ちなみに、15日の衆議院予算委員会の安倍首相の答弁で、GPIFの運用悪化が年金給付減額につながる可能性が示唆されたが、2012年3月30日付の学習院大学経済学部教授の鈴木亘氏のブログ「年金積立金は、本当はいくら残っているのか?」にあるように、何も手を打たなければ、2030年代には年金積立金が枯渇する可能性が高いようなので、リスク資産への投資は、それをできるだけ延命させるための手段の一つなのだろう。

ただ、悲しいことに、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、カルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金/CalPERS=The California Public Employees’ Retirement System)のようなプロ集団とは全く異なり、投資のド素人集団で構成されているようなのだ。(2015年12月11日 日刊ゲンダイ-市場平均下回る成績・・・GPIFがひた隠す素人レベルの運用下手

これでは将来的な公的年金給付の増額はおろか、安定化すら見込めず、年金資産だけを当てにした海外ロングステイは非常にリスクが高いと言える。
それでも円の為替レートが強含みであれば救われるが、円安外貨高と現地の物価高のダブルパンチに見舞われれば、海外で困窮化することにもなりかねない。

それゆえ、将来的な海外ロングステイを考えるなら、今から外貨資産を保有することは必須と言えるだろう。

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年金給付減額あり得る=GPIF運用悪化なら-衆院予算委・安倍首相 (2016.2.15 時事通信ニュース)

衆院予算委員会は15日午後、安倍晋三首相と関係閣僚が出席して経済などに関する集中審議を続けた。

最近の株価下落で年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用損拡大が指摘されていることに関連し、首相は「想定の利益が出ないなら当然支払いに影響する。給付に耐える状況にない場合は、給付で調整するしかない」と述べ、運用状況次第で将来的に年金支給額の減額もあり得るとの認識を明らかにした。

民主党の玉木雄一郎氏への答弁。首相は「運用は長いスパンで見るから、その時々の損益が直ちに年金額に反映されるわけではない」とも強調した。

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アジアでショッピング、最も高くつく都市は?(2015.10.28 CNN Japan)

ニューヨーク(CNNMoney) 腕時計や女性用の靴、男性用スーツなどの買い物をするのに、アジアで一番お金がかかる都市はどこ?-スイスの富裕層向け資産管理大手、ジュリアス・ベアがこのほど、11都市を比較したランキングを発表した。

ジュリアス・ベアは独自の基準で商品やサービスを選び、各都市でのそれぞれの価格を調べた。
その結果、アジアで最も物価が高い都市は上海と判明。男性用のスーツを上海で買うと平均より34%、ワインは21%、腕時計も16%値段が高くなることが分かった。

中国の景気はこの夏大きく減速し、ぜいたく品の価格も下落したが、それでも安いといえる価格になったとは限らない。
上海ではサービスも高価で、結婚披露宴や美容医療のボトックス注入、ビジネスクラスの航空チケットなどが高くつく。

一方で商品、サービスとも最も安いのはインドのムンバイだった。
平均と比べてスーツなら26%、ワインも4%ほど安く手に入るという。

2~10位は順に、香港、シンガポール、ソウル、バンコク、台北、東京、クアラルンプール、マニラ、ジャカルタという結果だった。

英文記事:Shanghai named most expensive city in Asia (October 28, 2015)

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コメント

  1. 前川 より:

    >ただ、悲しいことに、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、カルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金のようなプロ集団とは全く異なり、投資のド素人集団で構成されているようなのだ。
    この記述は100%間違いですよ!
    GPIFはポートフォリオの割合を決めるだけで、運用はしていません。
    運用してるのは、GPIFから委託されたプロ集団(投資顧問)ですよ。カルパースと同じです。
    ★「物価が安い東南アジア」なんて昔の話ですよ!
    バンコクのFUJIスーパーやエンポリウムデパート内のスーパーで買い物したら、日本のスーパーより格段に高いですよ。
    バンコクに進出した日本のレストランチェーンの価格は日本の1.3倍です。
    今や、日本の田舎で生活するのが一番コストが低いですね。

  2. カルロス より:

    前川さん、ご指摘ありがとうございます。
    でも、日本の投資顧問会社は、売りも何のヘッジもせず、ただ買っているだけですかね〜
    それともGPIFが指示しないとできない?
    いずれにしろ、それでは外国人投資家のカモですよね。
    タイの物価に関しては私も同じ感覚ですね。

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