裁判員制度に対する漠然とした不安(1)

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日本地図とビジネスマン

法務省の「あなたも裁判員」のトップページには、こう書いてある。
「裁判員制度は、国民から無作為に選ばれた裁判員が、殺人・傷害致死などの重大事件の刑事裁判で裁判官と一緒に裁判をするという制度です。」

それでは、こちらを見てみよう。
これは今年の2月23日に開かれた第162回国会の衆議院法務委員会の議事録だ。
例の奈良の女児誘拐殺害事件に関して性犯罪者の情報をどうするか、という議論がされているようだが、その中の自民党の松島みどり議員の「今の制度の中でも、例えば、お礼参りとかそういうものを危惧して、その心配がある場合には出所情報を被害者に伝えるというのがございます。」という発言がある。

これは、平成15年11月10日に開かれた行刑改革会議 第1分科会 第6回会議の議事録の中で、鈴木保護観察局長の何とも頼りないコメントにある制度のことだろう。

滝鼻卓雄委員

お礼参りというのはあるんですか。要するに、仮出獄した、しかし、それはもちろん仮出獄条件に反するわけだろうけれども、被害者の家族のところに行ったり、被害者のところへ行ったり、あるいは法廷に出た証人のところに行ったり、脅かしたとか、威迫したとか、そういうケースというのはありますか。

鈴木観察課長

余り聞いてはおりませんけれども、もし可能性としてあるとすれば、現在は再被害防止の手続をとることになる。
警察の方にいついつ仮出獄する。被害者の方が希望して、そういうことで危険であるとかということで出所情報等をお伝えすると同時に、警察の方にそういうことで。

これらからイメージするに、裁判員にも「殺人・傷害致死などの重大事件の刑事裁判」で有罪判決を下そうが、冤罪事件じゃないかという疑いを抱いて無罪判決を下そうが、前者の場合は「お礼参り」、後者の場合は「第三者からの無責任な嫌がらせ」の不安が常につきまとう、ということだ。

しかも、それに対する国家のバックアップは非常に頼りないし、むしろ何もないと言っても過言でないぐらいだ。

ここに図書館で借りたシドニィ・シェルダン(Sidney Sheldon)の「逃げる男」(アカデミー出版のための書き下ろしのため原書なし)がある。

ストーリーは、
恋人との結婚を控えた主人公の男が不運にもマフィアが死体を遺棄する現場を目撃してしまう。
FBIから裁判での目撃証言を依頼されるが、災難に巻き込まれる事を恐れた男は依頼を拒絶したものの、男が証言さえすれば絶対的有利な立場で裁判に勝つ事が出来るとFBIから促され男は渋々裁判で証言する事を承諾する。

ところが、裁判が始まると、マフィアの裏工作により次々と陪審員が原因不明の不慮の死を遂げ、それを知ったほかの陪審員達はマフィアの親分を無罪にしてしまう。
FBIにより、主人公の男は証人保護プログラム(Witness Security Program)が適用され別人として生活するようになるが、意外なところから素性がマフィアにばれて逃亡生活が始まる。

この小説にある陪審員を日本の裁判員に置き換えてみるといい。
裁判員制度の対象となる事件(裁判員が評決を下すことになる被告人)は、凶悪犯罪(者)の方が多いのだ。

殺人のみならず、放火犯や飲酒運転の加害者、町中で因縁を付けて殴ってくるような輩を相手にするのだ。
法的には裁判員になった人の情報などは、本人が意図しない限り、他人が知りえないようにはなっている。

しかし、こういうものはいくらでも抜け穴があるのだ。
実際にダイレクトメール、迷惑電話、ひどい場合は架空請求や振り込め詐欺などが来ている経緯を考えれば不安にならない方がどうかしている。

だいたい会社員が裁判員になったことを理由に休暇を申請して、上司や先輩からいろいろ聞かれ、「詳しいことは言えないんです」と突っぱねられるくらいなら、日本のサラリーマンはもっとまともな労働環境にあるのだ。

また、日本の場合、よくあることだが、「情報だけあげるから自分で守ってくださいね。でも過剰防衛になるとヤバイから気を付けてね」という趣旨のことを平気でやるのだ。

イラクに派遣した自衛隊員の処遇をはじめ、今回の中国の「反日デモ」に対する政府のやり方もそうだ。
国家意思として本気で自国民の安全を守ろうという気概に欠けるから、どんなに法律(書面)で格好いいこと言っても信用されないのだ。

「君子危うきに近寄らず」
残念ながら日本ではこれが最高の処世術なのだ。
従って、「国民の司法参加」という制度の根幹にかかわる部分を理由に参加に消極的な人が目立った、ということが制度発足までに覆る可能性は低いと言わざるを得ないだろう。

裁判員制度、7割が「参加したくない」…内閣府調査 (2005.4.16 読売新聞)
国民が刑事裁判に参加する「裁判員制度」について、7割の人が「参加したくない」と考えていることが16日、内閣府が発表した「裁判員制度に関する世論調査」の結果で分かった。

裁判員法成立直後の2004年5月に読売新聞社が行った世論調査でも、7割が「参加したくない」と答えている。
制度は2009年5月までに実施することが決まっており、現在は周知期間にあたっているが、制度に対する国民の理解が一向に進んでいない実態が浮き彫りになった。

調査は今年2月、全国の成人男女3000人を対象に行い、2077人(69.2%)から回答があった。

裁判員制度が始まることは、71.5%の人が「知っている」と答えた。
しかし、「裁判員として刑事裁判に参加したいと思うか」の問いには、「参加したくない」(35.1%)と「あまり参加したくない」(34.9%)を合わせ計70%の人が参加に消極姿勢を示した。

「参加したい」「参加してもよい」は計25.6%にとどまった。
参加したくない理由(複数回答)では、「有罪・無罪などの判断が難しそう」(46.5%)と「人を裁くということをしたくない」(46.4%)が上位を占め、「国民の司法参加」という制度の根幹にかかわる部分を理由に参加に消極的な人が目立った。
「仕事に支障」(19.9%)「面倒」(17.4%)「家事に支障」(10.0%)などは比較的低率だった。

「参加したい」と答えた人を男女別で見ると、男性が33.0%だったのに対し、女性は18.8%だった。
年齢別では20歳代で34.7%。以下、30歳代が32.2%、40歳代が27.3%。年代を追うごとに参加意識の低下が目立った。

今回の結果について、法務省の裁判員制度啓発推進室は「数字は真摯(しんし)に受け止めている。
参加したくない理由を見ると、参加の意味を真剣に考えてもらえているので、理解を得られるよう努力したい」と話している。

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