サービス残業などの未払い賃金請求権は5年に延長されるのか

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横浜地方裁判所 川崎支部

2017年11月19日付の日経新聞は、サービス残業などによる未払い賃金の請求時効(労働基準法第165条により2年)を、第193回国会(2017年1月20日から6月18日)で成立した民法の一部を改正する法律(平成29年6月2日法律第44号)(改正民法)に合わせて、5年にするかどうかが今後の労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)などの議論の焦点になると書いている。

私が10月10日に掲載した「憲法違反のサービス残業、不払い賃金は民法の不当利得返還請求で取り戻せるか」の中で、不当利得返還請求権の消滅時効(現行民法第167条)が10年であることを書いたが、改正民法第166条第1項によって、原則として5年に統一されることが決まったことがわかったので、今後は過去5年分が請求の対象になるわけだ。

ただ、改正民法は、公布の日(2017年6月2日)から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとなっているので、現時点では改正前の法律が適用される。

ちなみに、日経新聞の記事にある未払い賃金の請求時効の1年というのは、現行民法の第174条(1年の短期消滅時効)第1号(月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権)のことを指している。

この改正民法と労働基準法の時効の規定が統一されなかったことについて、弁護士の水口洋介氏は6月22日付のコラムで「賃金債権の時効と民法(債権法)改正」という記事を掲載しており、国会審議の過程で将来的な労働基準法改正を視野に入れるという趣旨の答弁をしていることから、今回のことに繋がっているのであろう。

とりあえず、今後、労働基準法の改正法が成立すれば、改正民法と改正労働基準法の施行がほぼ同時になって、問題はなくなるのだが、果たしてうまくいくだろうか。

この際、サラリーマン諸氏は、この改正論議を機に、サービス残業(無賃金労働)の命令者を、刑法第223条(強要罪)で処罰できるようにすることや、過重労働が原因で過労死や精神疾患に至らしめた場合は、未必の故意による傷害罪(刑法第204条)や傷害致死罪(刑法第205条)を適用できるように、国会議員や厚生労働省の「国民の皆様の声」に働きかけていくことも必要だろう。

これらのことは10月10日のコラムでも書いたが、日本の国民が健康で文化的な最低限度の生活を営めるようにするための責務と言ってもいい。
もし、今回、そういうことをやらないで傍観しているようなことがあれば、それこそ日本のサラリーマンは一生虐げられて終わりになるだろう。

ところで、前出のコラムでは、民法に基づいてサービス残業代を請求した例として、「『とんかつ和幸』元社員、未払い残業代を求め提訴(2010年1月21日 My News Japan)」(不当利得返還等請求事件 2010年1月9日横浜地方裁判所川崎支部に提訴 原告:皆本吉彦氏 被告:和幸商事株式会社 平成22年(ワ)第18号 2010年7月21日和解/民事事件記録の閲覧謄写の申請/和解調書の保存期間は30年)を上げたが、この結末の詳細は裁判所に足を運ばないと閲覧することができない。

インターネットで公開されている民事訴訟記録(個人情報を除く)は、裁判所ウェブサイトの裁判例情報から検索できるのだが、この提訴案件については和解が行われたことと、インターネット等で和解の内容を掲載してはならないという条項が付いているため、メディア等で続報が上がって来なかったし、裁判例情報でもヒットしなかったのだ。

私が現地で和解調書を閲覧した結論から言うと、被告から原告に解決金は払われたのだが、原告の提訴金額からすると、ずいぶんと値切られたなというのが率直な感想だ。

ただ、民法に基づいて訴えを起こすことが無駄ではなかったことが救いと言えるのだが、おそらくは原告が裁判の長期化を望まなかっただろうという推測は成り立つ。

この例からも言えるように、企業側はサービス残業代を民法に基づいて請求されては困るというのがありありと感じるし、日経新聞の記事でも財界の思惑を忖度して、「厚労省は働きやすい環境づくりを進めるうえで、未払い賃金の請求期間延長は必要とみる。ただ企業負担が急増するようだと、採用を減らすなどの影響が出かねない。企業活動への配慮も考慮する。」と締めくくっている。

これを単純に読むと、従業員に賃金不払い残業(違法労働)させないとダメな企業が日本には山ほどあって、それを5年も遡って請求されると財界は困ると言っているに等しいのだが、このままいけば「労働基準法を守ると潰れるような会社は潰してしまった方が世の為だ!(2016年8月25日 お前ら、社畜で人生楽しいか?)」という論理には傾かないような気がする。

とりあえず、厚生労働省は労働基準法の時効規定を民法の規定に合わせるように提案すると思われるが、財界の代表が難色を示すようだと紆余曲折があるし、それに負けないようにサラリーマン諸氏が声を上げていかないとならないと思うが、いかがなものだろうか。

余談になるが、2017年12月1日まで在日米陸軍基地管理本部(座間キャンプ基地内)就職説明会の事前登録を受け付けている。
興味がある人は「在日米陸軍キャンプ座間 就職説明会 参加申込書」に必要事項を記入して応募すればいいと思う。

労働条件は、給与水準は日本国政府の公務員に準じ、しかも時間外労働がほとんどない上に、有給休暇の取得率もほぼ100%とPRされているので、相当なホワイト職場なことが期待できる。
18歳から39歳までの日本国籍者又は永住資格者が応募の対象とあるので、正直言って、日本の役所や企業でサービス残業させられている若手は、転職のチャンスと言えるだろう。

今年は日本の金融危機(1997年)からちょうど20年という年だが、1997年は私の人生の転機になった年でもある。
今更こんなことを言っても始まらないが、私が今、20代なら無論、30代で扶養家族がいても迷わず応募するだろう。

私は自ら講師を務めた大阪セミナー「ちゃんとリタイアして豊かな生活を実現する人生の選び方」でこう言った。
「子供に対しては、『生き方改革』を迫られていることを理解させ、グルーバル社会に対応できるようにするのが親の責務である。海外や外国語に対して嫌悪感を抱かせないようにするのは必須である。」

自分がそうならないで子供が付いてくるわけがない。

未払い賃金請求、最長5年に サービス残業抑制へ検討 (2017.11.19 日経新聞)

厚生労働省は働き手が企業に対し、未払い賃金の支払いを請求できる期間を延長する方針だ。
労働基準法は過去2年にさかのぼって請求できるとしているが、最長5年を軸に調整する。

サービス残業を減らし、長時間労働の抑制につなげる狙いだが、企業の負担を増やす面もある。
厚労省は専門家や労使の意見を幅広く聞いて結論を出すことにしている。

厚労省は年内に民法や労働法の学識経験者らによる検討会を設置。
そこでの議論を踏まえ、来年夏をメドに労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で労使を交えた具体的な時効の議論を進める。

法改正が必要となれば、2019年に法案を国会に提出し、2020年にも施行することにしている。
検討会では、請求可能な年限を何年にすべきかについて一定の結論を出してもらう。

長時間労働の抑止効果や企業の人事労務管理の負担増などを点検。
未払い賃金の時効期間を議論することで、有給休暇の取得が進むかどうかについても議論したい考えだ。

労働政策研究・研修機構によると、未払い賃金の時効は英国とフランスで2年、ドイツは3年となっている。
一般的な債権の時効より短めだという。

日本は民法で1年とするが、労基法は労働者保護の観点を強くして2年に延ばしている。
ただ5月に成立した改正民法では、賃金の支払い請求ができる期間を1年から5年になることを決めた。

労基法を民法の基準に合わせるかが議論のポイントになる。
労働者に賃金を払わず、残業をさせている企業は少なくない。
望ましくない労働慣行といえるが、働き手も評価への影響を恐れ断りきれない面がある。

暗黙のサービス残業が未払い賃金の発生につながっている。
連合総研の調査では、今年9月に残業した人の31.5%がサービス残業があると答えた。

厚労省は働きやすい環境づくりを進めるうえで、未払い賃金の請求期間延長は必要とみる。
ただ企業負担が急増するようだと、採用を減らすなどの影響が出かねない。
企業活動への配慮も考慮する。

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