電通女性社員過労自殺事件がもたらす日本の残酷な未来

この記事は約11分で読めます。

苦悩する女性

“Death from Overwork”は、過労死を意味する英語のフレーズだ。

この言葉は、電通の高橋まつりさんが過労自殺したことが大きな事件(電通女性社員過労自殺事件)として取り上げられる前は、英文記事を検索しても国際労働機関((ILO/International Labour Organization)で発表された記事ぐらいしかヒットしなかった。(International Labour Organization – An International Comparison of Unpaid Overtime Work Among Industrialized Countries)

ところが、電通の石井直社長の引責辞任が発表されてから(2016年12月28日 産経新聞-業績に打撃も 社長は引責辞任 広告主、募る不安 2017年1月20日 産経新聞-高橋まつりさん母コメント全文「謝罪、再発防止約束も、娘は二度と帰ってくることはありません」)、海外メディアでも日本の長時間労働の文化が引き起こした過労死事件に関しての報道がクローズアップされるようになった。

例えば、2017年1月12日付のフィナンシャルタイムズ(Financial Times)は、「‘Death by overwork’ in Japan exposes dangers of overtime culture(日本の過労死事件は長時間労働の文化の脅威を露わにした)」と報じている。

同じく英国国営放送のBBCでは2016年12月30日付で、「Is Japan’s culture of overwork finally changing?(日本語版 日本の過重労働の文化はようやく終わりつつあるのか)」という記事が掲載された。

また、2017年6月2日付のBBCは、「The young Japanese working themselves to death(日本語版 死ぬまで働く日本の若者 『karoshi』の問題)」と報じている。

ちなみに、安倍内閣の働き方改革実現会議に関連するものとしては、2017年4月14日付のブルームバーグ(Bloomberg)で、「Japan’s Bid to Stop ‘Death by Overwork’ Seen Falling Short(日本語版 働き方改革に課題、過労死ライン超の100時間残業に改悪と指摘も)」という記事がある。

これら以外でも”death from overwork”あるいは”Japan overwork”検索すればいろいろな英文記事がヒットするだろう。

政府は、高い技術や知識を持つ外国人が日本に来やすい環境をつくり、経済成長につなげたいということで、高スキルを持った外国人の受け入れを促進しようとしている。(2017年1月18日 日経新聞-「高度人材」最短1年で永住権、3月実施へ省令改正)(法務省-高度人材ポイント制による出入国管理上の優遇制度

ところが、出井康博氏は、新潮社フォーサイトの記事で、「永住権『安売り』で外国人『高度人材』は集まるのか(2017年2月17日)」という疑問を呈し、「”本物”の高度人材にとって『永住権』の魅力は乏しい。事実、高度人材の資格を得ていながら日本から去っていく人も少なくない。高度人材を国籍別に見ると、圧倒的に多いのが中国人だ。その割合は全体の65パーセントに上る。安倍政権と中国は、決して相性が良いとは言えない。その中国出身者が、政権肝いりの制度で最も恩恵を得ているのは皮肉なことである。」と書いている。

穿った見方をすれば、鈴木傾城氏のコラム「日本にも大量の中国人工作員がなだれ込んでいる事実を知れ(2017年5月22日 Darkness TIGA)」にあるような中国人工作員を優遇している制度と言えなくもない。

これに、私が2015年4月11日付で掲載した「マクロ経済も老後の生活も悲惨にする日本の労働環境」の中で紹介した「日本には遊びに行きたい。でも、働きたいとは思いません。」と考える外国人が電通女性社員過労自殺事件に関する英文記事を目の当たりにして急増することも考えられる。

世界中のどこでも働けるスキルを持った人が、先進国とは思えないような過酷な労働環境で働きたいとは思わないからだ。

実際のところ、経済産業省の「外国人留学生・元留学生を対象とした、日本の労働環境に関するアンケート(2016年2月5日)」でもその傾向は窺えるとキャリコネニュースは報じている。(2016年2月8日 キャリコネニュース-日本は住むにはいいけど、働くにはビミョーな国」 留学生がそう感じていることが経産省の調査で明らかに

つまり、出井康博氏の言う”本物”は日本を去り(あるいは来なくなり)、鈴木傾城氏の言う外国人工作員が政府や企業の要職で跳梁跋扈する時代がやってくるかもしれないのだ。

そうであるならば、「日本の会社は日本人だけの力でやっていけば良い」と考える人は意外なほど多いだろう。

ダイヤモンド・オンラインの記事で、「『43%の企業が「海外からの人材が必要ではない』 外国籍人材活用に消極的な態度に見える、その課題(2012年1月24日)」というものがあり、これは5年前の記事で統計も古いのだが、日本の国内企業が頑迷なまでに保守的なことを考えると、未だに状況は変わっていないように思う。

それでは日本の国内企業は、高スキルを持った日本人を引き留める魅力があるのだろうか。

先月、ある飲み会に参加したとき、参加者の一人が得意顔でこう言った。
「私は社内でのステータスを上げるためならサービス残業も厭いません。私の会社では出世するためにそうすることが常識なんです。」

これが電通女性社員過労自殺事件の元になる日本人サラリーマンのメンタリティなのだと暗澹たる気持ちになりながら、私は、新聞記事の一つを思い起こしていた

それは、「2017年8月27日 日経新聞-役員給与、アジア勢が上 中国4000万円・日本2700万円」、もはや日本の国内企業で過労死の危険を賭して働いても報われることはなくなりつつあるというのが、この記事を読んだ私の率直な感想だ。

それに、私もシンガポール人の友人であるエリック(Tan Eric)さんを通じて薄々感じていたことだが、「シンガポール人の月収は日本人より遥かに高い(2015年12月29日 シンガポール駐在員ブログ)」というのも見つかった。
もはや、言わなくともわかるだろう。

私が15年以上前に海外投資を始めたとき、木村昭二氏の「税金を払わない終身旅行者」の中で、PT (Perpetual Traveler)という言葉を知った。

この終身旅行者(PT: Perpetual Traveler)という概念を提唱したW.G.ヒル(W.G. Hill’s)博士曰く、彼らは国籍を持つ国(Passport and Citizenship)、居住国(Legal Residence)、ビジネスを行う国(Business Base)、資産運用を行う国(Asset Haven)、そして、余暇を過ごす国(Playgrounds)の5つを目的に応じて使い分け、合法的な節税を行っているという。

当然ながら、2000年初頭はビジネスを行う国(Business Base)として、日本人が経済大国だった日本を選ぶことに迷いはなかったと思う。
ところが、今では日本経済の先行きの暗さと、公租公課の過酷さがますます増大するにつれて、富裕層ほど日本を選ばなくなくなっている。

これに今後は日本人の高スキル人材が続くというのも自然の成り行きだろう。
死を賭して働いた結果が庶民の怨嗟と酷税ではやっていられないのは当然である。

2017年8月20日付の日経新聞「違法残業『かとく』がにらみ 厚労省の過重労働対策班」というのを読んで、私は驚き呆れ果てている。

違法残業の慣行は今も多くの企業に残っている。厚生労働省によると、2016年度に全国の労働基準監督署が立ち入り調査した2万3915事業所のうち、43%で違法残業が見つかり、是正勧告をした。『過労死ライン』とされる月80時間を超える事業所は77%に上った。

同省は監督体制を強化する一方で、監督官不足が課題となっている。全国に監督の対象事業所は428万カ所あるが、2015年の監督件数は約15万5千件。監督官不足のため全体の約4%しかカバーできていない。

このため政府は2018年度から、監督官の業務の一部を民間の社会保険労務士などに委託する方針だ。(第9回働き方改革実現会議の金丸恭文氏提出の資料5によれば、2016年度の監督指導対象となる事業場数は428万事業場、対象労働者数は5,209万人。これに対し、労働基準監督官数は3,241人に過ぎない。)

この違法残業が見つかった事業所のうち、是正勧告に応じて不払い賃金を払ったのはもっと少ないようだ。(厚生労働省-監督指導による賃金不払残業の是正結果

この状態で、日本の民間サラリーマンが叫んでいる「私の会社のサービス残業を取り締まってくれ!」というのは何社フォローされるのだろうか。
もはや役所の摘発を待つだけでなく、自分たちで何とかしないことにはどうにもならないことに気づかないのだろうか。

ところで、若年層を雇うと、こうして労働基準監督署へ駆け込みされて困るからと、最近では我慢することだけは世界一優秀だと定評のある日本人中高年サラリーマンをターゲットにえげつないブラック職場が蔓延っている。(2013年6月27日 ダイヤモンドオンライン-中高年退職者を食い物に!ハローワークが紹介する”辞められないブラック企業”)(2015年4月1日 日刊SPA-ブラック雇用主が「中高年バイト」を使いはじめた理由

最近になって私は「エストニア共和国より愛をこめて」というブログを読み始めた。

この中で最も気になったのは、2017年7月6日付の「欧州からは『日本だけが勝手にどんどん貧しくなっている』ように見えている」というもので、記事の中で「今後は『普通の人がやりたがらないような過酷な低賃金労働は、日本人労働者に外注しよう』ってのが一般的になっていくかもしれませんね~。」という一節だ。

サービス残業(unpaid overwork)という悪習を放置し、経営陣に抗議(ストライキやデモさえ)しようともしない日本人サラリーマンに対し、外国人や在外邦人からはNO additional charge(追加料金不要)、NO negotiation(交渉不要)の「便利な下請けくん」としか思われなくなる日がやってくるのではないかとぞっとしたものだ。

再度掲載するが、外国人の中には「日本には遊びに行きたい。でも、働きたいとは思いません。」と言う人が少なくないという。

このことは、7月8日付の「大陸欧州と比べてわかる日本の労働者の働き方の『ヤバさ』について」や、8月5日付の「日本人って勤勉なのに、どうして日本の経済は良くならないの?」 からも読み取れる。

私は自分が生まれた国だからということもあるが、日本は非常にいい国だし、便利さも快適さも世界で有数な国だ。

しかしながら、それを支える側にはなりたくないと考えるのは外国人だけではなくなってきているということだ。(2017年7月4日 キャリコネニュース-人手不足が最も深刻な業界は「宿泊・飲食業」「運輸業」 理由としては「募集をしても応募が無かった」

この悪循環を断ち切るためには、日本の企業が無理難題を吹っ掛けるブラック消費者に対して毅然とした態度を取るようにならないと根本的な解決にはならないだろう。(2016年11月22日 東洋経済-日本の過剰労働は、「お客様」の暴走が原因だ

とりあえず、現状貴方がブラック職場の中で苦しんでいるようなら「お前ら、社畜で人生楽しいか?」を読んでみたらいかがだろうか。

ところで、2017年8月24日付の日経新聞で、「家電や日用品、国内生産回帰じわり」という記事が掲載された。
これを単純に喜んでいるようではいけないと思う。

こうした付加価値の低そうな労働現場が日本に帰ってきたということは、日本企業の経営者からも自国の労働者が前述したように「便利な下請けくん」として認識されているということを感じないといけないのだ。

早坂隆氏の「世界の日本人ジョーク集」という本で、世界最強の軍隊とは「アメリカ人の将軍、ドイツ人の参謀、日本人の兵」、最弱の軍隊は「中国人の将軍、日本人の参謀、イタリア人の兵」というものがある。

日本人の中で世界で活躍している人からすると「えええ~」であろうが、世界の人たちからは「日本人は部下向き」の人材が多いと見られているのだ。
日本が将来的に「世界の下請け」ということになったとき、日本のサラリーマンの多くは今までにない劣悪な老後が待っているに違いない。

おそらく老後という言葉も死語になるかもしれない。
何しろ21世紀初頭まで、アジアの中で有数の高賃金国、経済大国と言われていたのがウソのような状況になるのだ。

内閣府の高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会」の第2回検討会(2017年7月18日)における議事録の内容が世間に波紋を広げている。

詳しくは、2017年8月2日付のマネーポストの記事、「社労士が警告『いよいよ70歳定年・年金75歳受給の時代到来』」に書かれているが、仮に公的年金75歳支給開始となった場合、もはや、ほとんどの人にとって、生きた金として使えるものではなくなることを意味する。

しかも、公的年金の支給額は、現役世代の賃金や物価の上昇分がそのまま跳ね返るわけではなく、逆に、賃金水準や物価が下落すれば、それに応じて年金額も引き下げられることになっている。(参考:日本年金機構-マクロ経済スライド
私が予想しているように、将来的に高スキルのサラリーマンが日本を去り、日本が世界の下請けとして甘んじざるを得ない状況になれば、どうなるかは火を見るよりも明らかだろう。

このままいけば、私が2004年2月29日に掲載した「未来へのシナリオ」、その中で敬愛するピーター・タスカ(Peter Tasker)氏が「不機嫌な時代-JAPAN2020」の中で書いた「長いさよなら」というのが現実のものとなる日がやってくるのもそう遠いことではないような気がしているのだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました