老後2000万円を作るのに必要なのは勇気と電卓だ

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相談する女性

2019年6月3日付の金融審議会の報告書「高齢社会における資産形成・管理」で書かれているように、老後に備えて2000万円準備しろと言われて、日本中が騒然となっている感がある。

6月23日号の日経ヴェリタスの最終面は、「老後資金づくり 個人がお目覚め」「セミナー参加者は定員超え ネット証券の申し込みも急増」という見出しで記事を書いている。

そのような騒動とは裏腹に、投資なんてという人もまだまだ多いと思えるニッポン、果たして、そういう人でも老後に備えて2000万円を用意できるのか検証してみた。

貯金で65歳までに2000万円を用意できるか

みずほ銀行横浜駅前支店

去る6月17日の「老後に2,000万円は本当に必要か緊急会議」で、講師の小野原薫さんは講義の合間に尋ねた。

2000万円を貯金だけで貯めようと思ったら、現在の銀行預金の年利(参考:ゆうちょ銀行の定額貯金)は0.01%なので、ないものとして計算すると、35歳から30年間で月額約56,000円ですよね。皆様はできますか?

これに対して、頑張りますと答える人もいるだろうが、彼女は無理と一言呟いた。
仮に、可能だとしても、人生の楽しみのほとんどを投げ打たなければできないというのが、今の若年層の答えかもしれない。

日本円預金の低金利は四半世紀も続いている

日銀は、6月20日に行われた金融政策決定会合で、長短金利操作付き量的・質的緩和の枠組みによる政策運営方針の維持を7対2の賛成多数で決定した。(2019年6月20日 ブルームバーグ-日銀、金融政策を据え置き 「海外経済巡るリスク大きい」

これで、日銀の公定歩合(基準割引率および基準貸付利率)が、1995年9月に1%を下回ってから足掛け四半世紀、2016年1月に開催された日銀の金融政策決定会合で、導入されたマイナス金利政策(マイナス金利付き量的・質的金融緩和)が、さらに続くことになったので、銀行の円預金の金利がコンマ以下である状態は一向に解消されないようだ。(2019年2月6日 ブルームバーグ-「不思議の国」からの脱却いまだ果たせず、日銀ゼロ金利導入から20年

日本では政策金利が1%台を回復することでさえ夢物語

日銀の「1995年度の金融および経済の動向(要旨)」によれば、この超低金利政策はバブル崩壊後の景気回復基調が足踏み状態に陥ったことで、4回にわたる金融緩和を実施した結果、史上最低水準の公定歩合になったと表記されている。

その結果、「1995年度後半からの景気の再回復は、金融財政政策の効果に負う部分が大きい。」と書かれているので、この当時は、金融緩和の効果が相当にあったのだろう。

日銀の「1997年度の金融および経済の動向(要旨)」によれば、それを雲散霧消させた要因の一つは、1997年4月に橋本内閣の実施した消費税率の引き上げ(3%→5%)のようだが、同年11月の大手金融機関の破綻なども相俟って、1990年代後半における日本の景気回復と金利正常化への道は遠のき、その後は一度も金利が1%台を回復することなく、現在に至っている。

「デフレが続かないと(国家財政が)持たない」と財務省幹部は呟いた

頭を抱えるビジネスマン

21世紀に突入したときに、政府が勇断を下す(金利正常化の)チャンスは何回かあったと思うが、「気がつけばローン地獄?金利1%落とし穴(2004年6月27日)」というのは、当時の住宅ローン債務者のみならず、低利で延命資金を調達していた政府や地方自治体、ゾンビ企業にも言えることだった。

今となっては、公的債務が年々膨張しており、政策金利を上げれば、政府自体が破綻しかねない状態なので、平和裏に金利を上げる政策は、せいぜいマイナス金利を解消する程度、まともな金利に戻すことは夢物語になったと言えよう。

財務省が画策する21世紀の金融政策のすべては、2004年2月26日と27日に朝日新聞で連載された「日の丸ファイナンス-巨大化の果てに」にすべてが凝縮されている。

せっかく株価が上がって景気が良くなったように見えても、したり顔で増税策や負担増をしてくるのが彼らの策略だ。
今秋の消費税率引き上げも、参議院選挙でどんな結果になっても、政府閣僚にやらせるだろう。

2019年6月25日付で、元内閣官房参与の藤井聡氏が「消費増税がリーマン危機『数十個分』の被害を招く」と警告しているが、彼曰く、官邸は理解してくれても、その声はもはや緊縮財政派が多数となった自民党には届かないと言う。

経済財政諮問会議のメンバーで大阪大教授の本間正明は、研究会の冒頭、こう迫った。

景気が回復すれば金利は上がり、国債価格は下がる。それが暴落に至るような事態に備え、緊急避難策が必要ではないか。
だが、この問いかけは取り上げられなかった。

巨額の国債残高は、デフレ脱却を目指した財政出動のつけだ。
それが、景気回復で維持困難に陥るかもしれないという皮肉。
今は10年物国債利回りは1.2%程度と低く、高い経済成長率などどこ吹く風だ。

しかし、それが永続すると考える当局者はいない。
財務省幹部はつぶやく。「デフレが続いてくれないと持たないんだ

あくまで貯金一本という方は

老後2000万円と言われて、それを日本円預金だけで成し遂げるのは、35歳から30年間で月額約56,000円ずつ貯金をするという、気合を入れたストイックな生活を送らないといけない。
しかも、経済ニュースには全く疎いままで終わるというデメリットもあるので、それを解消するための努力も必要だ。

もちろん、公務員夫婦など共稼ぎの人が力を合わせれば、全く不可能な数字ではないので、頑張れる人は、気合を入れて貯金に励めばいいかと思う。
そして、そこまで気合を入れるなら、決意が揺るがぬように、「確定拠出年金(DC)口座で定期預金をすると年末にお年玉が貰えることを知っているか」をお読みになるといいだろう。

老後2000万円報告書に隠された米国株投資の勧め

2019年6月3日に公表された金融審議会の市場ワーキング・グループの報告書「高齢社会における資産形成・管理」に隠された残酷な事実は、別紙1の17ページに掲載されている「米国では75歳以上の高齢世帯の金融資産はここ20年ほどで3倍ほどに伸びている一方、わが国の同年代の高齢世帯の金融資産はほぼ横ばいで推移しており、対照的な動きとなっている。」だ。

それを受けたのか、2019年6月9日号の日経ヴェリタスの一面は「50代 まだ間に合う 老後の資産形成 海外投資がカギ」という見出しとなっていた。
米国市場が、この先も今までと同じようなパフォーマンスが期待できるとは限らないが、勇気を持って飛び出せば、相応の果実が得られることを金融審議会の報告書でさえ示している。

極論すれば、投資の神様と呼ばれているウォーレン・バフェット(Warren Buffett)が、妻に対して 「自分の死後は、資産の90%はS&P 500、残り10%は政府短期国債に投資せよ」と言っているように、S&P 500に連動するETF(VOO: Vanguard’s S&P 500 ETF)を毎月買えばいいのである。(CNBC on Feb 27 2019 – Warren Buffett wants 90 percent of his wealth to go to this one investment after he’s gone

これなら米国株を扱っている日本の証券会社で買うことができるので、是非トライするといいだろう。東証の銘柄であれば、15471557が似たような感じだろうか。

ここで、iDeCo(個人型確定拠出年金)を利用したいなら「ジンギスカン食べながら投資ネタ、iDeCo(個人型確定拠出年金)やるなら米国株型一択か」をご参照願いたい。

日経ヴェリタスが報じる老舗金融機関の黄昏

前述した日経ヴェリタスの記事で、「大手証券は『どうせネット証券にお客さんは集まるんでしょうね』と、どこか他人事のようだった。」とか、「守勢が目立つのは銀行や保険会社も似ている。新たな顧客層を獲得しようといった意欲的な声は聞かれない。」というものが私の目を惹いた。

彼らも薄々わかっているのだろうか。
でも、今の若者を取り込めないということは、既存の高齢顧客層が亡くなった後、資金がそこに残らないことを意味する。
おまけに、海外在住の日本人の口座も原則閉鎖しろでは、彼らはこれからどうやって生き残るのだろうか。

これを書いていて、かつて私が投資セミナーで会った某若手銀行マンが言った「うちの業界は終わりだ。日銀のマイナス金利政策でお陀仏だな。」というのを思い出した。
アベノミクスが完全に終わったとき、いずれ1997年のような金融危機が再燃するのだろうか。

サービス残業代を取り戻せば誰でも2000万円を作れる

驚く外国人男性

2018年11月に公表された連合総合生活開発研究所の「第36回勤労者短観(勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート)」によれば、同年9月に所定外労働(残業)を行った人の約3割(29.9%)が賃金不払い残業(サービス残業)があると答え、その平均は13.9時間だったそうだ。

この調査は、(株)インテージのモニターに登録している民間サラリーマンが対象なので、実際は、もっと多いのではないかと思うが、私が言いたいのは、サービス残業をしている(させられている)サラリ-マンは、生涯を通していかに夥しい富と時間を貢いでいるのか知って欲しいということだ。

要するに、サービス残業をしている(させられている)サラリ-マンが、老後のための2000万円を作るのは難しくも何ともなく、必要なのは、勇気と電卓ということになるのだ。

ちなみに、私が2017年11月11日に掲載した「ちゃんとリタイアして豊かな生活を実現する人生の選び方」では、社畜をやめることが幸せの第一歩と書いた。
投資をやりたい、勉強したいの前にやることは、脱社畜による自由時間の確保だからだ。

生涯で1400万円の会社への貢ぎ物

20時間×1,500円×40年=14,400,000円

この計算式が何のことかわからなければ、拙著「定年ぼっちを防ぐための処方箋」に書いてあるのだが、それをお読みくださいではあまりにも不親切なので・・・

お教えすると、サービス残業で失われる生涯の想定金額だ。
人によって違うというのはそういう意味で、電卓が必要だと言ったのは、給与明細を見て計算して欲しいということだ。

そして、平均的な日本人サラリーマン、上司や同僚に気兼ねして有給休暇を取りたいと言い出せない人は、サービス残業もやらされる可能性が高いと思う。
「仕事が多くて休暇が取れない」というのは、実は上司からすると「あいつは休暇を取らないから多少は仕事を多く振っても大丈夫」という評価にされていないか検証した方がいいのだ。

「ちょっと残るよ。残業代付けるほどでもないけど」が招く悲劇の始まり

上述の計算式の、20時間というのは、月間20時間のサービス残業という意味だ。
週休2日制の会社にお勤めの方が、たった1時間サービス残業(ちょっと仕事が残ってるから・・でも残業代は付けないで帰るよというレベル)を毎日繰り返せば、月間で20時間になる。

2016年3月15日付の朝日新聞の記事「サンクスバイトの高校生、ブラック職場に対抗し労働協約」にある

労働協約は、1分単位で賃金を支払うしくみに改め、アルバイトを含む従業員約70人に未払い賃金計約500万円を支払う内容という。高校生は「行動することが大きなことだと実感した」と話す。

というのが世間の大人たちの非難を浴びているというのに対し、

2017年3月17日付のTogetterの記事「500万円を盗んだ企業ではなく、取り返した学生を叩く大人が多いようじゃあ日本からブラック企業なんてなくならないはずだわ。」と返している記事を見て、私は、本当にニッポン会社ムラの縮図だなと感じた。

日本の社畜サラリーマンたちよ、高校生に理不尽な説教しているヒマがあるなら、老後のための2000万円をどうやって作るか考えた方がいいと思うよ。

自分の時間単価を知っておこう

次の1,500円は何かというと、1時間当たりの残業単価だ。

この計算方法がわからない方は、かなり多いと思うので、勤め先の給与担当に確認しよう。
もし、ご自身でも計算方法を知りたいなら、労務安全情報センターの「正しい割増賃金の計算方法」を見ながらやってみよう。

ざっくりと単純に計算するなら、月額の所定給与÷20日÷8時間で時間単価を出し、それに割増率(平日の22時までの残業は1.25)を掛けるという方法だ。

残業単価が1,500円というのは、逆算すると、所定内給与が20万円の社員の単価となるわけだ。20万円÷160=1,250円(驚いたかもしれないが、月給20万円というのは時給1,250円なのだ)
これに、平日22時までの時間外割増率(1.25)を掛けると、1,563円というわけだ。

サービス残業して2000万円貯まらないってバカだと思わないか

管理職になると、原則として残業手当は付かなくなるので、そうならないと仮定して、勤続40年を経過したとしよう。

毎日1時間程度の残業だから、これくらいで付けるのはな~とか言っているのが、40年(480カ月)積み重なると、残業単価が1,500円の人でさえ、生涯で1400万円も損失を被るわけである。
仮に、途中で管理職になったとしても、数百万円から1千万円の損失は被っているはずだし、月額給与が30万円の人だと、もっと損失が出るのは言うまでもないだろう。

日本人にありがちな自主的に残業を付けないというのでさえ、これなのだから、サービス残業を強要されて、毎月40時間も50時間もやらされたら、どうなるかお分かりであろう

毎日、わずか1時間だと思っていても、それが20労働日すべてに及べば、初任給レベルの人でも3万円になる。
それが溜まっていけばどうなるか、時間を味方にするか、ドブに捨てるかで人生が変わるのだ。

サービス残業代(未払い残業代)を取り戻せ

外国人ビジネスマン

2019年6月3日に財務総合政策研究所が発表した「法人企業統計調査」の2019年(平成31年)1~3月期の結果によると、企業が持つ利益剰余金は、金融業、保険業を除いた統計でも466兆7703億円になり、合算したものになると、529兆2204億円にも達している。

この中には、あなたがサービス残業で貢いだ分も当然含まれているわけで、理論的には、ここからあなたの残業代は出せるハズなのである。

甘い期待も会社ムラの協調性も徹底的に捨てろ

昭和の高度成長期以降の日本人の決定的な間違いは、意図的に不正をやっている相手に対して、話し合いでケリがつくのではという甘い期待を持っていることだ。

今まで自分で残業代を申告してなかっただけで、申請すれば支給されるのであれば何の問題もない。

ところが、ほとんどの場合は、そうでないから泣き寝入りしているのだろう。
職場の皆も残業代を付けずにいるのだから、私だけが・・・などとオンオン泣いた結果がどうなるか、お分かりであろう。

これを日本の会社ムラ用語では協調性と呼ばれていて、会社の労働関連法規の無視(違法行為)や理不尽な命令も我慢しろという意味になっている。

従って、あなたが勇気を持って、会社側に残業代をきちんと支払えと言ったところで、海賊並みの邪魔が入ることも多い。

要するに、あなたの味方をして、一緒に戦ってくれるのでなく、経営者でも取締役でもないくせに、会社の代理人みたいな顔をして説教するヤツも数多くいる。
現実世界でも、インターネット上でも、そういう奴らは一生浮かばれない人生を送ると、冷ややかに切り捨てればいいのだ。

参考までに、電通女性社員過労自殺事件で、遺族側代理人を務めた川人博弁護士の著書「過労死社会と日本」(1992年6月25日初版)の一節を紹介しよう。
この本は、私の人生において貴重なバイブルとなった本の一つで、これでも、あなたは何も行動を起こす気になれないだろうか。

私も、日本企業は実に多くの点で軍隊と共通していると思う。しかしながら、一点だけ、あきらかに相違する点がある。

軍人の場合には、戦場で戦死すれば、その行為をたたえられ、遺族には恩給などの補償が支払われる。

しかしながら、企業戦士は過労死で亡くなると、行為を評価されるどころか、しばしば批判される。そして、遺族には何の補償も行われない。

過労死の現場から見る限り、日本の企業社会ほど冷酷なものはない。

未払い残業代の請求は弁護士に依頼すべき

今の時代の解決方法は、問答無用で法的手段を取ることをお勧めする。
最初は、居住地の役所でやっている無料弁護士相談や、社会保険労務士相談を当たるといいが、自力救済が不可能だと思うなら、最初から弁護士ドットコムなどで検索してもいいだろう。

このとき、労働者側は十分な資力がないことが往々にしてあるので、アディーレ法律事務所のような着手金なし、成功報酬制のところに頼むのも一案だと思う。

基本的には、サービス残業代の請求は、労働基準法第115条の規定で、過去2年分の未払い賃金の請求になるが、証拠書類の揃え方、訴訟を行った後の対処方法など、いろいろ相談してみるといいと思う。

半沢直樹ばりの倍返しは可能か

労働基準法を見ていたら、第114条に「付加金の支払」という規定があった。

裁判所は、第20条(解雇予告手当)、第26条(休業手当)若しくは第37条(時間外、休日、深夜の割増賃金)の規定に違反した使用者又は第39条(年次有給休暇)第9項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から2年以内にしなければならない。

これが、未払い賃金の倍返しの規定なのだが、それにしては、これを払わせたというメディア記事がほとんどない。

調べてみると、法律事務所テオリア(残業代バンク)の記事「付加金が支払われる可能性は?期待してはいけない4つの理由」があり、どうやら困難案件と言えそうだ。
ちなみに、裁判例情報で、全文のところに「付加金」と入れて検索すると、未払賃金請求事件がいくつか出てくるので、勝訴しているかどうか確認するといいだろう。

サービス残業代は民法の不当利得返還請求で取り戻せるか

横浜地方裁判所 川崎支部

私は、かつて倍返しどころか、5倍返しを目論んだ人はいないのか調べたことがある。

この2つのコラムがそうなのだが、労働基準法でなく、民法の不当利得返還請求権(第703条、第704条)を使った方が、民法第167条第1項(2020年3月31日まで)の規定で10年間遡って債権(未払い賃金)を請求できるからだ。

ちなみに、この10年間の規定は、改正民法(平成29年法律第44号)が施行される2020年4月1日以降は、これが5年間(改正民法第166条第1項)になるが、債権が生じた日、あるいはその原因となった法律行為が施行日前の場合は、10年間の規定が適用される。

以下は、2017年11月22日付の私のコラムの抜粋だが、これから社会に出る法学部の学生、長時間のサービス残業させられて痛い目にあった被害者、その家族、労働関係の訴訟を担当する弁護士は、新たな判例を根付かせるために、是非とも横浜地方裁判所川崎支部に足を運んで欲しいと思う。

民法に基づいてサービス残業代を請求した例として、「『とんかつ和幸』元社員、未払い残業代を求め提訴(2010年1月21日 My News Japan)」(不当利得返還等請求事件 2010年1月9日横浜地方裁判所川崎支部に提訴 原告:皆本吉彦氏 被告:和幸商事株式会社 平成22年(ワ)第18号 2010年7月21日和解/民事事件記録の閲覧謄写の申請/和解調書の保存期間は30年)を上げたが、この結末の詳細は裁判所に足を運ばないと閲覧することができない。

インターネットで公開されている民事訴訟記録(個人情報を除く)は、裁判所ウェブサイトの裁判例情報から検索できるのだが、この提訴案件については和解が行われたことと、インターネット等で和解の内容を掲載してはならないという条項が付いているため、メディア等で続報が上がって来なかったし、裁判例情報でもヒットしなかったのだ。

私が現地で和解調書を閲覧した結論から言うと、被告から原告に解決金は払われたのだが、原告の提訴金額からすると、ずいぶんと値切られたなというのが率直な感想だ。

ただ、民法に基づいて訴えを起こすことが無駄ではなかったことが救いと言えるのだが、おそらくは原告が裁判の長期化を望まなかっただろうという推測は成り立つ。

この例からも言えるように、企業側はサービス残業代を民法に基づいて請求されては困るというのがありありと感じるし、日経新聞の記事(2017年11月19日 未払い賃金請求、最長5年に サービス残業抑制へ検討)でも財界の思惑を忖度して、「厚労省は働きやすい環境づくりを進めるうえで、未払い賃金の請求期間延長は必要とみる。ただ企業負担が急増するようだと、採用を減らすなどの影響が出かねない。企業活動への配慮も考慮する。」と締めくくっている。

これを単純に読むと、従業員に賃金不払い残業(違法労働)させないとダメな企業が日本には山ほどあって、それを5年も遡って請求されると財界は困ると言っているに等しい。

会社に居づらくなるリスクへの対処

弁護士を介入させて未払いの残業代を請求すると、会社に居づらくなるというリスクは当然にある。
前述の川人博弁護士の言葉を借りれば、「行為を評価されるどころか、しばしば批判される。」からだ。

批判するのは、面白いことに被告の会社(経営者)でなく、内外の社畜たちで、その心は「お前だけ抜け駆けしやがって」だ。
当事者からすれば、そう思うなら加勢すればいいのにと思うだろうが、日本の会社ムラの人たちは、遠くから様子見だけして、当事者が失敗すれば、そら見たことかと言い、成功すれば妬むのである。

もっとも、そのような会社にオンオン泣きながら何十年もいて、老後2000万必要なのだと言われて、さらに、オンオン泣くより、すっぱりと転職した方がはるかにマシだと思わないだろうか。

それに、経済界の重鎮から、昭和の高度成長時代以降、日本型雇用の典型と言われた終身雇用制度の維持が困難だとの発言が相次いでいる。(2019年5月21日 日経ビジネスー相次ぐ脱終身雇用宣言、信頼と責任築く経営哲学いずこに?
もはや、会社に義理立てする必要など全くないのだし、労働契約を守らない会社など、こちらから見限ればいいぐらいの気持ちを持つべきだろう。

それと、これは忠告なのだが、サービス残業させられるような会社にいるのに、ローンを組んで持ち家をするとか、妻を専業主婦にするとか、転職の自由をなくすような行為は、言語道断と言うのが私の見解だ。

勇気が持てない人はどうなるのか

レッドカードを出す女性

もし、あなたが会社を相手に戦う勇気が持てないとしたらどうなるだろうか。

私が思うに、Atusi氏が言うように「残業代未払い請求は他の従業員の為にも戦うべき」と腹を括るべきなのだが、日本人サラリーマンは、そこまでできない人が多いから、会社に好き勝手にやられてしまうのだろう。

仮に、あなたが不正と戦う勇気が持てないのだとしたら、残念ながら、老後2000万円は諦めるしかないと思う。

毎日のように定時退社できる人なら、投資の勉強や、副業に費やす時間ができるので構わないが、そうでなく、時間外や休日も会社に拘束されているのに、その対価が出なければ、自力で稼ぐ方法も時間もなくなることに気が付くべきだ。

拙著「定年ぼっちを防ぐための処方箋」は、貴重な時間を失うことによって、定年後に楽しみを分かち合う社外の友人ができなくなることを書いているが、友人だけでなく、資産形成のチャンスも逃すことになるのだ。

最後に

私自身、老後2000万円の話題は、金融セミナーの題材にできたらと思って調べてみたのだが、人のことを案じている場合ではないという感じになってきた。

ただ、平成時代の日本人全体を見て思うのは、自分で何とかしようと思って行動する人と、誰かに導かれないと何もやらない人の落差が激しすぎると思う。

私のコラムで2018年下期のダントツ1位のアクセスを誇ったのは、「働き方改革法で民間サラリーマンは2019年4月から最低5日の有給休暇の取得が義務に」だったのだが、これを検索して来られた方は、ほかの方のブログもご覧になっていたことだろう。

労働関連法を軽視している多くの日系企業が、この程度で変われるのかと私は懐疑的だったのだが、サラリーマン(労働者)自身も行動を起こさなければ何も変わらないことは、世界史が証明している。

日本円預金だけで2000万円を作るのが困難だとわかっていて何もしない人と、サービス残業を唯々諾々とやっている人は、表題の通り、勇気と電卓を持つことが必要だと思う。

余談になるが、6月24日付の東洋経済に「人手不足を嘆く地方の組織が陥る『4つの矛盾』」というのがあった。

表題は「地方」と付いているが、都市部も役所も根は全く同じだと思う。
あなたが、唯々諾々とサービス残業を続け、逃げ出しもしないことは、腐った組織の延命に手を貸しているのと同義だ。

平成時代の日本経済の停滞は、日銀がゼロ金利を続けたことと、サラリーマンがサービス残業をやったことで、腐ったゾンビ企業群が延命し、組織の新陳代謝が起きなかったことが最も大きな要因だと思うのだ。

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