去る11月5日、米国のトランプ大統領が東南アジア諸国の複数の首脳に「日本は北朝鮮のミサイルを迎撃するべきだった」と語り、日本政府の判断に疑問を表明していたことが報じられた。(2017年11月5日 産経新聞-「日本は北ミサイルを迎撃すべきだった」? 「武士の国なのに理解できない」米大統領が疑問表明か Japan Times on November 5 2017 – Trump said ‘samurai’ Japan should have shot down overflying North Korean missiles Daily Mail on 6 November 2017 – Trump says Japan should have shot North Korean missiles)
この中の、Daily Mailの記事では、「President Donald Trump is apparently disappointed in Japan.(トランプ大統領は明らかに日本に失望しているようだ。)」という下りがあり、下手をすると長期にわたって維持されてきた日米同盟に亀裂が入る可能性がありそうだ。
日本政府が、二度にわたる北朝鮮のミサイル発射実験に対して、迎撃しなかったことについては、すでに複数の人が技術的あるいは法的な論評をしているので、あらためて私が書くまでもないが、私が韓国渡航のリスクを書いた「日本人にとって韓国の実質リスクレベルは2(不要不急の渡航中止)だ(2017年11月30日)」の最後で紹介した小野寺五典防衛相とフィナンシャルタイムズ(Finacial Times)とのインタビュー記事である「Japan rules out intercepting North Korean missile tests(北朝鮮のミサイル発射実験に際して迎撃はあり得ない)」の内容は、日本の将来を占う上で重大な示唆を含んでいると思われる。
まずは、「Whether it is Japan or any other country, I think that shooting down a ballistic missile could be construed as a military action, said Mr Onodera. Unless you judge it is an attack on your own country, I think it is difficult to shoot down such missiles.(日本でも第三国でも、弾道ミサイルを撃墜することは、軍事行動と受け取られる可能性があると思うと小野寺防衛相は言う。貴方が自国が攻撃されたと判断しない限り、このようなミサイルを撃墜することは難しいと考えている。)」の下りだが、こうした発言は、第三国からすると、北朝鮮の挑発に対して日本は何も行動をしないと受け取られる懸念があり、実際に、フィナンシャルタイムズの記者はそのようなニュアンスで記事を書いている。
それに、原文記事のpacifistというのは、平和主義者、あるいは、無抵抗主義者という意味があり、国際社会は日本が無抵抗主義の国であると受け取る可能性は高い。
それでは安倍首相悲願の憲法改正が成就すれば、晴れて普通の国になれるのかというと、一筋縄ではいかないかもしれない。
軍事評論家の清谷信一氏が「安倍総理よ、憲法改正は『魔法の杖』ではない」の中で、「憲法を変えるまでもなく、政治家の決断で法改正あるいは、単なる規制の緩和は可能であり。それによって自衛隊をより『戦える組織』にすることは可能である。本来これらの問題点を一つ一つ検証し、それを解消してくことが政治家やジャーナリズムの仕事のはずだ。」と言う。
また、「Security analysts who oppose shooting down test missiles say a failed interception could embolden Pyongyang.(ミサイルの撃墜実験に反対する複数の軍事アナリストは、迎撃の失敗が平壌(北朝鮮政府)をつけ上がらせることになると言う。)」というのがあり、これは一面ではそうかもしれないが、私はもっと違う懸念を安倍内閣の閣僚たちが抱いたのではないかと思っている。
自衛隊法第82条の3(弾道ミサイル等に対する破壊措置)では、北朝鮮のミサイルを迎撃するためには、防衛相から首相へ承認を求めなければならず、首相は事後に国会報告を行わなければならない旨が規定されている。
穿った見方をすると、ミサイル迎撃は、事後の国会報告の段階で、閣僚や自衛官に完璧を要求しかねない野党議員に対峙しなければならないため、この時点では、森友・加計疑惑、日報問題に振り回されていた安倍首相が、国会を関与させなければならない指揮・命令を避けた可能性もあると思う。(2017年9月1日 毎日新聞-安倍首相 真摯な説明はいつ? 森友・加計疑惑、日報問題 2017年9月20日 日経新聞-首相、所信表明せず解散 臨時国会、北朝鮮決議は採択)
これは単に、私の推測に過ぎないが、北朝鮮のミサイルを迎撃しなかったことが、小野寺防衛相の公式発言どおりの理由でなく、本音では国会対策という理由だったとすれば、将来に向けて、大きな禍根を残すことになるだろう。
ちなみに、自衛隊法施行令第104条の2(緊急対処要領の作成等)の規定によって作られた「自衛隊法第82条の3第3項に規定する弾道ミサイル等に対する破壊措置に関する緊急対処要領」というのが迎撃用の兵器まで細かく定められており、素人ながらに時代の変化に即応できるものなのだろうかという疑念を抱かせるに十分なものだった。
そして、最後の2節のサイバー戦争の下りで、バカ正直に専守防衛の精神を貫き、米国に依存して敵国に対峙しようという小野寺防衛相の発言に眩暈がしたのは私だけではあるまい。
北朝鮮は軍事力では米国など西側諸国に到底かなわないことがわかっているので、サイバー戦争を仕掛けていることは専門家の間では既知の事実である。(2017年5月22日 ロイター-北朝鮮にサイバー攻撃専門「180部隊」、西側の脅威に 2017年10月7日 日経新聞-米朝、サイバー攻撃が激化 封じ込めにかかる米 北朝鮮はロシアに活路)
残念ながら、日本はサイバー戦争では北朝鮮に実力的に劣っていると、田中達浩・元陸上自衛隊通信学校長は言う。(2017年10月27日 産経新聞-「北朝鮮サイバー攻撃に日本は実力不足 北のハッカーを目指す若者のハングリー精神はすさまじい」と田中達浩・元陸上自衛隊通信学校長)
今や、コンピューターシステムは、世界のほとんどの国で日常生活になくてはならないもの、米軍とギブアンドテイクの関係を築くため、そして日本の社会インフラを防衛するためにも人材育成を急ぐべきだろう。
小野寺防衛相の「Mr Onodera said he had “no doubts whatsoever” about US commitment to defending Japan.(日本の防衛という米国の約束に関して『疑いの余地はない』と述べた。)」という発言は、日本の防衛が米国に全面的に依存している現状を踏まえればやむを得ないことなのだが、冒頭で書いたように、今や、米国は自力で脅威に立ち向かおうとしない日本を突き放すときが来るかもしれないことを頭に入れておくべきときかもしれない。
さらに言うならば、元米陸軍大尉・飯柴智亮氏の著書「金の切れ目で日本から本当に米軍はいなくなる」が現実にならないことを祈りたい。
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Japan rules out intercepting North Korean missile tests
(北朝鮮のミサイル発射実験に際して迎撃はあり得ない)
Defence minister’s comments highlight sensitivities imposed by pacifist constitution
(防衛相のコメントは平和主義憲法で強いられた過敏性を浮き彫りにしている)
(Finacial Times on October 3, 2017)Japan will not seek to shoot down North Korean missile tests unless they threaten its territory, the country’s defence minister has signalled in an interview with the Financial Times.
日本の(小野寺)防衛相はフィナンシャルタイムズとのインタビューで、日本は自国の領土が脅威にさらされない限り、北朝鮮のミサイル発射実験を阻止しようとはしないということを示唆した。
Some US analysts have suggested intercepting ballistic missile tests as a way of stepping up pressure on Pyongyang, but Itsunori Onodera said Japan had not shot at two recent missiles passing through its airspace because they were projected to land safely in the Pacific.
複数の米国のアナリストは、平壌(北朝鮮政府)への圧力を強めるための手段の一つとして、弾道ミサイル発射実験の阻止を提案したが、小野寺五典防衛相は、北朝鮮の実験は太平洋上の安全区域へのものだったため、日本は領空を通過した2発のミサイルに向けて何も撃っていないと述べた。
“Whether it is Japan or any other country, I think that shooting down a ballistic missile could be construed as a military action,” said Mr Onodera. “Unless you judge it is an attack on your own country, I think it is difficult to shoot down such missiles.”
「日本でも第三国でも、弾道ミサイルを撃墜することは、軍事行動と受け取られる可能性があると思う。」と小野寺防衛相は言う。「貴方が自国が攻撃されたと判断しない限り、このようなミサイルを撃墜することは難しいと考えている。」
His remarks highlight the sensitivities imposed by Japan’s pacifist constitution as it responds to a series of missile and nuclear tests by North Korea, as well as the paucity of options for putting effective pressure on Kim Jong Un’s regime.
彼の発言は、金正恩(Kim Jong Un)政権に対して効果的な圧力をかけるための選択肢の少なさと同じように、北朝鮮による一連のミサイル発射と核実験に対処するとき、日本の平和主義憲法によって強いられた過敏性が浮き彫りになっている。
North Korea fired Hwasong-12 intermediate-range ballistic missiles over Japan’s northern island of Hokkaido on August 29 and September 15, prompting thousands of residents to evacuate, but Japan did not try to intercept them using the destroyers it keeps constantly at sea.
8月29日と9月15日に、北朝鮮は、多数の住民に避難を呼びかけることになった火星12 (Hwasong-12)という中距離弾道ミサイルを北海道上空を越えて発射したが、日本は海上に絶えず待機している駆逐艦を使ってミサイルを迎撃しようとはしなかった。
“The recent missile tests by North Korea passed at high altitude and there was no fear of them falling in our territory or territorial waters so we did not shoot them down,” Mr Onodera said. Were a missile targeted at US territory in Hawaii or Guam, then Japan could intercept them under its new national security legislation, he said.
「北朝鮮による最近のミサイル発射実験は高度上空を通過し、我が国の領土や領海に落ちる恐れがないことで、それらを撃墜しなかった。」と小野寺防衛相は述べた。ミサイルが米国領であるハワイやグアムを標的としたなら、日本は新しい安全保障法によってミサイルを迎撃することもあり得たと彼は言う。
Intercepting a ballistic missile test would require a destroyer equipped with the Aegis defence system to be in the right place at the right time. Security analysts who oppose shooting down test missiles say a failed interception could embolden Pyongyang.
弾道ミサイルの発射実験を阻止するためには、適切な場所と時間にイージスBMD(イージス弾道ミサイル防衛システム)が装備された駆逐艦がいる必要がある。ミサイルの撃墜実験に反対する複数の軍事アナリストは、迎撃の失敗が平壌(北朝鮮政府)をつけ上がらせることになると言う。
Having become defence minister for the second time in August – he also held the post from 2012 to 2014 – Mr Onodera’s term has been defined by the North Korean missile threat. Japan is planning to acquire a land-based Aegis missile defence system to supplement its destroyers and its short-range Patriot missiles.
2012年から2014年の防衛相就任以来、この8月に2期目の防衛相に任命された小野寺氏の任期は、北朝鮮のミサイルの脅威が明確になっている。日本は、駆逐艦と短距離パトリオットミサイルを補完するために、陸上型イージス(land-based Aegis missile defence system)を配備する計画である。
“To be at sea around the clock, 365 days a year, is tough in terms of equipment and personnel. Therefore I think it is important to strengthen our deployment of ground assets, including Aegis Ashore,” he said.
「365日間、24時間態勢で海上にいることは、人員的にも装備的な条件からしてもきつい。従って、私はイージス・アショア(Aegis Ashore)を含めた陸上装備の導入の強化が重要と考えている。」と彼は言う。
Despite the unpredictability of President Donald Trump, Mr Onodera said he had “no doubts whatsoever” about US commitment to defending Japan. He welcomed Mr Trump’s tough rhetoric, including calling the North Korean leader “Rocket Man” in a recent speech at the UN. “As part of putting pressure on North Korea, we welcome President Trump’s strong language,” Mr Onodera said.
予測不可能なドナルド・トランプ米国大統領(President Donald Trump)にもかかわらず、小野寺防衛相は日本の防衛という米国の約束に関して「疑いの余地はない」と述べた。彼は、先般の国連総会において、北朝鮮の主席を「ロケットマン」と呼んだことを含めて、トランプ大統領の断固たる発言を歓迎した。「北朝鮮への圧力の一環として、私たちはトランプ大統領の強気の発言を歓迎する。」と小野寺防衛相は言う。
He said America’s security commitment in the region was crucial. “If a conflict breaks out in east Asia, even temporarily, then Asian economic growth will halt. That will have a direct effect on the US economy. I think regional stability is very important not just for the United States and Japan, but for China and South Korea as well.”
彼は、東アジア地域におけるアメリカの安全保障上の関与は極めて重大なものであると言い、「もし、局地的なものであれ、東アジア地域で紛争が起きれば、アジア経済の成長は止まるだろう。それは、米国経済にも直接的な影響をもたらす。私は地域の安定がアメリカや日本のみならず、中国や韓国にとっても非常に重要であると考えている。」と述べた。
Mr Onodera said Japan was strengthening its cyber defences but had not detected a particularly large volume of hacking attacks from North Korea. He said Japan’s current stance on cyber warfare was defensive, indicating Tokyo was not seeking to launch its own hacking attacks against Pyongyang, which was a possible option for the US.
小野寺防衛相は、日本はサイバー空間の防衛を強化してきたが、北朝鮮からの非常に大量のハッキング攻撃に気づかなかったと述べた。彼は、日本のサイバー戦争に対する現下の姿勢は、東京(日本政府)が米国のために実行できる選択肢である平壌(北朝鮮政府)へのハッキング攻撃を開始しようとしないことからも防衛的である。
“Whether as a nation Japan is permitted to conduct a cyber offensive attack – I don’t think that discussion is settled,” he said. “It would help if society, especially in the United States, could define what constitutes a cyber attack and what form a counterattack can take.”
「国家として日本がサイバー攻撃を実施できるかどうか、私は議論が終わったとは思っていない。」と彼は言う。「もし、(国際)社会が、とりわけ米国が、サイバー攻撃を構成するものは何か、反撃の形態を定義することができれば助けになるだろう。」と述べた。
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