観光庁の外国人観光客回復策は全くの愚策なのか

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高山の三町伝統的建築物群保存地区

観光庁が発表した外国人観光客回復策が酷評されているようだ。

確かに11億円という大金を、自国民のためでなく、何の関係もない外国人にタダであげるような政策が批判されるのはやむを得ない気もするが、この政策は果たして世間が激高するほどの愚策なのだろうか。

正直に言って、今後の日本は、エスタブリッシュメントたちが繰り返し言い続けるような「ものづくり国家」として生きながらえることは、もはや不可能に近い。

だとすれば、2010年1月31日の「観光は日本の基幹産業となり得るか」で書いたように、観光を国の収益源へと持っていくしかない。

しかし、主体となる日本人観光客は、可処分所得の長期低落傾向に歯止めがかからず、しかも土日のみの行楽といった一極集中豪雨的なスタイルは相変わらず、今や頼みの綱は外国人といった観光地も数多くあるだろうし、それが今回の観光庁の政策につながったのは想像に難くない。

その外国人観光客も、Lonely Planetが、Travel warning(旅行上の注意)として、米国が福島原発から50マイル(約80km)圏外であればリスクは低いと述べている(The US government now says travel to Japan outside the 50-mile zone surrounding the nuclear plant presents low risks.)が、原発事故の後遺症で、日本行きをためらう傾向が未だに残るのが現実だろう。

しかも、Practical information(お役立ち情報)のATM編として、残念ながら多くの銀行ATMでは外国発行のキャッシュカードを受け付けない(Unfortunately, most of these do not accept foreign-issued cards.)と、「訪日外国人旅行者を困惑させる銀行ATMのバリア」は相変わらずである。(この件について私は政府に意見を送ったが何ら顧みられることはなかっただろう)

このATMのバリアは、自分が外国に行ったときのことを考えればわかることで、個人旅行者にとってはストレス以外の何物でもなく、繁華街でさらなる消費をしようという旅行者を強制的に自粛させる結果となる。

おまけに為替が記録的な円高でますます訪日が敬遠されるといった悪循環になっている。
これらに、英語が通じにくいことを合わせた、四重苦・五重苦の日本の観光業界にコペルニクス的な慈雨をもたらすためには、よほどインパクトのあることをやらなければならない、というのは誰しも思うだろう。

それが1万人の無料招待ということでいいのか、という議論は出るにしろ、一刀両断に唾棄すべきほどのことでもないだろう。
詳細は今後詰めることになるのだろうが、訪日のフライトを日系航空会社に限るならば、それなりに意義を見出すこともできよう。

要するにエアーアジアなどがよくやる激安プロモーションと同じで、空席のまま飛ばすなら、自国へ連れて来てしまえ、というもので、チケット代が浮いた心理的なお得感をそのまま消費に回してもらおうということだ。

本来なら民間企業がこういうことをやれば何の問題もないのだが、まさか公的資金で救済されているJALがやるわけにもいくまい。
かといって青息吐息の国内観光業界にそのようなことをやる体力はない。

そこで、出てきたのが政府、という見方ができなくもない。
いずれにせよ、今まで日の当たらなかった観光業界の支援のために11億円の公的資金を供与したからといって激高することはないだろう。

まして1998年の金融危機以降、10億円など問題にならぬくらいの公的支援を受けた金融機関も多数あるのだから・・・
しかも今後はお題目でなく、本当に観光業界を国際仕様に転換させなければならないのだから、そのコストと割り切るしかない。

それに21世紀は、今までの日本人が得意とした○×の解が明確にある時代ではなく、すべてが試行錯誤の時代になるのだ。

日本行き無料航空券はいかが-観光庁が外国人観光客回復策 (2011.10.12 Wall Street Journal Japan)

3月11日の東日本大震災後、福島第1原発危機が発生し、外国人観光客が激減した。
そのため、日本は数多くの著名人の協力(レディガガも日本観光の振興に貢献)を得て、日本を敬遠する観光客の安全不安を払拭することに努めてきた。

しかし、震災発生から半年以上経った現在でも観光客の回復がみられず、観光庁はレディガガをも超える観光促進キャンペーンを新たに画策している。
今度は、何と無料で日本に招待する方針。

観光庁は来年に1万人の外国人観光客を旅費無料で日本に招待する企画を提案した。
ただし、この計画で観光客に提供されるのは航空運賃のみ。
観光客は食費や宿泊費、その他費用を負担しなければならない。
それでも、実施された場合のコストは約11億円が見込まれている。

この金額は観光庁の2012年度予算の概算要求の約10%であり、日本観光の落ち込みの深刻さを物語っている。
2012年度予算は来年3月に国会で承認される予定だ。
観光庁の担当者は「震災以来観光客数が大幅に減少しており、このように大勢(1万人)の観光客を日本に招待する必要があると考えている」と述べた。

観光客の減少は統計からもはっきりしている。
独立行政法人の日本政府観光局(JNTO)の公式発表によると、8月の来日外国人数は前年同月比32%減の54万6800人。
前年実績を下回るのは6カ月連続。

同担当者は、欧米よりアジアからの観光客の回復のほうが早いものの、ドルに対する記録的な円高が観光業界の二重苦になっていると指摘した。
JNTOのウェブサイト上には訪日を促す有名人の推薦ビデオが掲載されているが、円高と原発危機の影響で観光が目先に回復することはあまり期待できないようだ。

同サイトには、放射線量の最新測定値も提示されているが、それが観光客の不安解消に役立つ情報になるのか、あるいは長引く原発危機を再認識させる不必要な情報になるのかは分からない。
外国人が実際にわざわざ日本を訪問することになれば、観光先としての日本の魅力が口コミで回復する、というのが今回の企画で観光庁が期待している効果だ。

航空運賃を無料にする代わりに、旅行参加者はオンライン上に掲載されるリポートの中で日本での体験を報告するように求められている。
この観光促進策が計画通りに実施されれば、インターネットを通じた応募が来年4月から受け付けられる。
その後、観光庁が初夏までに合格者を選ぶ。

英ガーディアンが先月下旬発表した読者による観光地ランキングでは、国別部門として日本が第1位に選ばれ、都市別部門でも東京が2年連続で第1位に選ばれた。
このニュースは窮地に陥っている日本の観光産業にとっての一筋の希望の光となるだろう。
そして、おそらく日本の観光促進策の中で重視すべき点を示唆するものになろう。

英文記事:Tourism Remedy: 10,000 Free Flights to Japan

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