日本発アジア行きの米系航空会社がなくなる日

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台北・臺灣桃園國際機場(Taiwan Taoyuan International Airport)

2011年にデルタ航空の特典航空券発券要件の改悪がされて以来、私はスターアライアンス(Star Alliance)系列の航空会社を使うことが多くなった。

もちろん、私が加入しているマイレージプラス(Mileage Plus)のマイル積算を加速される目的でそうしているのだが、2012年1月1日以降、このフリークエント・フライヤー・プログラム(FFP/Frequent Flyer Program)のプレミア資格の取得要件に「1暦年にユナイテッド、ユナイテッド・エクスプレス、コパ航空のいずれかが運航するフライトを有償で最低4区間利用すること」が加わった。

航空会社の戦略としては当然とも言えるのだが、ここ1~2年、ユナイテッド航空(United Airlines)は、日本経由のアジア路線のリストラを進めており、私の知る限りでも、台北線(2012年10月)、香港線(2013年10月)、そして、今年の3月でバンコク線を運休することが決まっている。

残るはソウルとシンガポールだけとなり、アジアへ飛ぶだけでプレミア資格を満たすことは、旅のバリエーションからすると困難になりつつある。
このままいくと、日本発のユナイテッド航空の路線は、アメリカへ飛ぶものだけが残ることになりそうだ。

一方のデルタ航空(Delta Airlines)については、私が最近利用していないこともあって、あまり関心がなかったのだが、去る11日付のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)日本語版は、

世界第3位の航空会社、米デルタ航空は成田空港を経由しない太平洋便を増やしており、日本以外のアジア諸国への直行便が初めて日本への直行便を上回る見通しだ。こうした変化は、数年前と比較した大幅な円安や割増料金を払って直行便を利用することにためらいのない中流層階級の旅行者の増加を受け、米国の航空会社にとって中国をはじめとする主要なアジア市場の重要性が増していることを物語っている。

Delta Air Lines Inc. increasingly is forgoing its Tokyo hub for trans-Pacific flights in favor other parts of Asia.The shift underscores the growing importance of other Asian markets for the world’s third-biggest airline, given the significantly weaker Japanese yen and a growing middle class of Chinese and other Asian travelers who are willing to pay more for direct flights.

という書き出しの記事を掲載した。

デルタ航空のエド・バスティアン社長(Delta President Ed Bastian)は、

日本以外のアジア市場が成長しているからと言ってデルタが日本路線から撤退したり、日本への便数を減らしたりしようとしているわけではく、日本は依然重要なハブだと指摘した。

Growth in other Asian markets doesn’t mean that Delta is pulling out of or cutting flights to Japan and Narita, which Mr. Bastian said would remain a hub.

としているが、ユナイテッド航空が世界最大のローコストキャリアグループとPharmさんに揶揄されたANAに、アジアへの就航路線を託したように、将来的にはデルタ航空もそうなる可能性は十分にある。

何しろ、台湾や香港を中心に東南アジアで格安航空会社が競って進出(Budget Airlines Look to Taiwan, Hong Kong)してきているし、政府も2012年(平成24年)7月31日に閣議決定した「日本再生戦略~フロンティアを拓き、「共創の国」へ~」の観光立国のところで「LCC(Low Cost Carrier)やビジネスジェットの参入を促進するべく環境整備に取り組む。」と明示したので、アジア方面行きのデルタ航空の後継路線には事欠かないだろう。

それに加え、バスティアン氏は

日本からハワイやサイパンなどのリゾート地への便については抑制する意向だ。

The airline is, however, throttling back on flights from Japan to resort destinations including Hawaii and Saipan, in the Pacific Ocean’s Northern Mariana Islands.

と述べている。

ハワイ、グアム、サイパンと言えば、1980年代以降、長きにわたって多数の日本人観光客が渡航しているリゾート地で、私が1993年12月に5人の友人とグアム旅行したときは、日本人以外の観光客を見ることはほとんどなかった。

私がウェブサイトを立ち上げた2001年当時も、グアムに関しては英語の観光案内より日本語の観光案内の方が多いほどで、私はグアムは日本人観光客なくしては成り立たないところだと強く感じたものだ。

ところが、そのグアムを含む北マリアナ諸島(Northern Mariana Islands)への便を抑制するということは、余程利用客が減っているのだろうか。

確かに、これらのリゾート地に行く日本人は新婚カップルを含めた若年層が多く、彼らの両親が若かりし頃に「金満OLは南の島を目指す」などと旅行雑誌に書かれたことが夢ではないかと思えるほど、今の20代、30代の所得が急減している。

ましてアメリカは東南アジアに比べて滞在費が高いので尚更行くこともないに違いない。
そうかといって、経済的に余裕のある人が多い熟年世代は、ヨーロッパ人のようにビーチで寛ぐという文化はないので、遺跡観光や食事の楽しみがないハワイやサイパンなどを目指すことはないのだろう。

最後の一節にある「円が最もぜい弱な通貨(the yen is the most vulnerable)」という言い方は、アベノミクス(第二次安倍内閣の経済政策)以降の経済記事に頻発している。

1米ドルが100円の水準は過去の為替レートに照らせば決して円安とは言えないのだが、20年以上デフレが続いて賃金も物価も上がらない日本を一歩出ると、かつては日本人が安く旅行できると言っていた国が、意外にもそうでないことに気づく。

リーマンショックと、その後の民主党政権の経済無策で止めを刺された感のある日本人は、かつてのようにリッチな観光客、あるいは悠々自適なロングステイヤーとして外国へ行くことは次第になくなってくるかもしれない。

一方で、経済力をつけたアジアの人たちが、近隣諸国だけでなく、これからはアメリカやカナダへも多数行くようになる。
最近の米系航空会社の路線構造の見直しは、そういう時代の流れが確実に来ていることを示している。

米デルタ航空、日本から他のアジア諸国に軸足シフト (2014.2.11 ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版)

【シンガポール】世界第3位の航空会社、米デルタ航空は成田空港を経由しない太平洋便を増やしており、日本以外のアジア諸国への直行便が初めて日本への直行便を上回る見通しだ。

こうした変化は、数年前と比較した大幅な円安や割増料金を払って直行便を利用することにためらいのない中流層階級の旅行者の増加を受け、米国の航空会社にとって中国をはじめとする主要なアジア市場の重要性が増していることを物語っている。

デルタのエド・バスティアン社長は、中国国営航空会社との関係強化により、中国国内の中小都市への乗り継ぎ客が増えたことも、中国への直行便の急増の追い風になっている説明した。

バスティアン氏はシンガポールでウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の取材に応じ、「直行便に対する顧客需要に基づいて路線構造を見直しているところだ。また、(デルタの主要国際ハブとして)シアトルの利用を地理的に拡大していることもある」と述べた。

デルタの日本への直行便が同社の全太平洋便の乗客定員に占める割合は夏までにわずか48%になり、その他の直行便が占める割合が52%になる見通しだ。

この背景には、アトランタを拠点とする同社がシアトル発の韓国ソウル行きと香港行きの直行便を新たに就航することがある。
2008年にデルタと合併したノースウエスト航空は長年、米国の数拠点から成田を経由してアジアの約10都市へと飛ぶ、成田空港を中心とする主要ハブ路線を運航してきた。

一方、合併前のデルタの運航便のほとんどは成田止まりだった。
しかし、アジアの航空会社による太平洋路線への参入拡大で中国や香港、韓国といった市場から米国への直行便が増え、デルタをはじめとする米航空各社は太平洋戦略の見直しに迫られている。

そうした変化を加速しているのが、中国をはじめとするアジア諸国からの堅調な需要だ。
ただし、デルタは過去5年、アジアで順調に利益を上げており、同期間の売上高の伸び率は約60%と、乗客定員の伸び率25%を上回っている。

バスティアン氏は「(アジアの)需要は伸び続けている」とし、7〜8%と安定した伸びを示している中国の経済成長について触れ、「これは世界市場で最大の成長機会だ」と述べた。
米航空会社の中で最も太平洋路線に強いユナイテッド・コンチネンタル・ホールディングス(UAL)は数年前からハブとしての成田空港への依存を減らし、サンフランシスコ発のその他アジアの都市への直行便を増やしている。

デルタも同社に倣い、シアトルを西海岸の米国の主要玄関口として強化している。
コンサルティング会社CAPA(Centre for Aviation)によると、ユナイテッドと、アジア路線を運航する米国第3位の航空会社、アメリカン航空グループにとって、太平洋全便の乗客定員に占める日本のシェアは50%未満にまで下がっている。

CAPAによると、米航空3社の米日間の便の乗客定員は2008年と比較して減っているのに対して、米中間の便の乗客定員は同期間に3倍にまで増えている。
デルタは、中国では航空連合スカイチームに加盟している中国東方航空と中国南方航空ともっと密接に協力し、北京と上海に乗り継ぎ拠点を開発したいと考えている。

デルタは現在、シアトルとデトロイト双方発の北京と上海への直行便を運航している。
しかし、米国と中国は現在、乗り入れを原則自由化する航空自由化(オープンスカイ)協定を交わしていないため、同じ航空連合に加盟していても、合弁契約を通じて路線を共同運航することはできない。

デルタは太平洋便に関して航空連合加盟数社と合弁契約を交わしており、バスティアン氏は合弁契約は「国際連携のモデル」だと指摘。
バスティアン氏は「中国ともそこまでこぎ着けたいと考えている」とし、今後5〜10年のうちに米中がオープンスカイ協定を締結するとみていると話した。

日本以外のアジア市場が成長しているからと言ってデルタが日本路線から撤退したり、日本への便数を減らしたりしようとしているわけではく、バスティアン氏は日本は依然重要なハブだと指摘した。

しかし、日本からハワイやサイパンなどのリゾート地への便については抑制する意向だという。
バスティアン氏は「ビーチリゾート向けの便など円が最もぜい弱な路線については恐らくやや慎重になるだろう。一部路線を手控えることになるだろう」と述べた。

英文記事:Delta Shifts Focus From Japan as Trans-Pacific Hub

コメント

  1. いちろう より:

    スカイマークがスカイチーム入りすれば、デルタの成田以遠便はゼロになるのでしょうかね?

  2. カルロス より:

    私が思うに、LCCのカテゴリーになる航空会社がアライアンスのメンバーになっても変わらないと思いますよ。
    元よりデルタが撤退方針のところは、何も関係なく撤退すると思いますが、利益があると思うところは残るでしょう。

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