日本の金融機関は「低所得者向け」と明示して住宅ローンを貸し出すことはしていない。
収入の審査も一般的に厳しいというイメージもあり、9月5日号のNewsweek Japanの「私が落ちたローン蟻地獄」で問題になっているような米国の無書類ローン(本人申告だけで審査が通る)といった杜撰な貸し出しもない。
日本の市場関係者も日系金融機関はサブプライムローンの影響は軽微であり、株安の原因はあくまで米国発の連鎖安であることを言っている。
確かに表向きはそうであるが、本当に何も問題はないのだろうか。
同じ9月5日号のAERAで「世界株安震源地の悲劇」という記事がある。
それによると、低所得者が借りている一般的な住宅ローンは「228ローン (2/28 ARM = Adjustable Rate Mortgage)」と呼ばれるもので、最初の2年間は数%の固定金利だが、後の28年は変動金利に移行し、しかも金利は10%前後の高水準になるというものだ。
もし、彼らが近年の住宅ブームに乗って不動産を購入していれば、今年あたり変動金利への移行が始まり、債務者はたちまち行き詰まることになるだろう。
これに似た話はどこかで聞いたことはないだろうか。
そう、私が2004年6月27日付の「気がつけばローン地獄 金利1%落とし穴」で指摘した、日系金融機関が販売していた「固定金利3年型-当初3年間金利1%」というキャンペーン型住宅ローンと全く同じなのだ。
違いは、日本が変動金利に移行しても米国みたいな高金利に跳ね上がらないことと、一方の米国は不動産の値上がり益による返済が見込めた(今やそれがピークアウトして見込めないから問題になっている)ことだ。
私は日本のこうした住宅ローン問題がアメリカ発のサブプライム問題から遅れること1年、来年中には表面化するような気がしてならない。
なぜならここ数年の企業収益の増加は主として外需主導であったため、米国がリセッション入りすれば、それが一気に逆転すること、そして、小泉政権がもたらした国民の負担増がここにきてボディブローのように効いてきていること、小渕政権が発行した大量の10年国債の償還が来年に迫っていること、団塊世代の公務員の退職ラッシュが本格化することを兼ね合わせると、先送りしている消費税率のアップを誰が行なう(ババを引く)かという問題は避けて通れない。
余談だが、そのババを民主党に引かせるためにわざと自民党は下野するような失態を続ける可能性もある。
おそらく、キャンペーン金利で住宅ローンを借りた人は、家計におけるローンの返済割合も多いだろうし、今でさえ青息吐息(あおいきといき)だろうから、これで消費税が上がり、生活必需品の価格が原油高との相乗効果で目に見えて上がりだせば、ギブアップとなるだろう。
日本経済が今の不安定な状況から本格的に不況になり、企業がリストラを再開すれば、こうした住宅ローン債務者にもしわ寄せが来るに違いない。
そうなれば、住宅ローンを返せなくなる人は激増し、収益のほとんどを国債・地方債の投資、住宅ローンの貸し出しに投資信託の販売に頼っている銀行は一たまりもないだろう。
特に地方銀行はこれが顕著だと聞くし、民営化される郵貯銀行も同じような感じだという。
元銀行員で作家の江上剛氏によれば、昨今の低金利の中、本人の年収の10倍の住宅ローンを貸し付けている金融機関もあるといい、今までの常識では考えられないことがまかり通っているという。
こうしたところが延滞債務者ともどもパンクするのは時間の問題だろう。
そうなったらまた政府が国債を発行して税金(公的資金)を投入するのか。
ちなみに、その国債の引き受け手は存在するのだろうか。
主要国の株式市場が最高値更新のニュースで溢れかえっている中で、ITバブル時代に付けた日経平均20000円台にもはるかに届かない状況から再度独歩安の状況に陥り始めた日本経済、このままいくと在ニューヨーク・ファンドマネージャーでもある大竹慎一氏が言うように「日経平均4000円時代が来る」というのも非現実的でないような気もする。
私は昨年11月19日の「今日の一言」で「2006年度末を目途に(日本株からの)撤退を視野に入れようかと思う」と書いたが、厳密に言えば買い(ロング)ポジションを閉じる、という意味で書いた。
実際、今やほとんどが「売り(ショート)ポジション」である。
生まれた祖国の企業を応援したいという気持ちがないわけではないが、それで自分の資産が増えるわけではない。
残念ながら今の日本に株価が上がる期待はできないのである。
コメント
こんばんはカルロスさん。
これだけの内容と文量を記事にするには、相当の思考と時間を費やした事でしょう。毎度頭が下がります。素晴らしいです。
オフ会の翌日に石田さんがFXのセミナーに参加出来るよう手配してくださって、講義を聴いてきました。
その日の講師の中に松田哲という方がいらっしゃって、サブプラ問題の実際についてこう話をしていました。
「SP問題の実情は、不動産バブルを使って金儲けをしようとした人間が1-3年のうちに売却するのが目的で不動産投資をやり、失敗しただけの事で、所得の低い人間が住む家を買うためにしかたなく高金利のローンを組んで起きた問題ではない。」
なるほど、すべてがそうでないにしてもアリな話だなと感心しました。
実際がどうなっているのかは現地に行って調べでもしないとわかりません。
2004年の記事は、私のよく口にする言葉「真面目に働くだけの怠け者」のいい例ですね。
金利計算や将来設計などはやろうとおもえば誰でも出来ます。やらないのは怠け者だからです。35年もローンを払うなら、自分の頭でものを考えないといけません。やらなければ誰かのコヤシになるだけです。
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こんばんは
>これだけの内容と文量を記事にするには、相当の思考と時間を費やした事でしょう。
書き始めると2時間(それでも使ってますね・・・笑)くらいです。
ただ、記事により正確を期したいので調査には時間がかかることがあります。
>金利計算や将来設計などはやろうとおもえば誰でも出来ます。やらないのは怠け者だからです。35年もローンを払うなら、自分の頭でものを考えないといけません。やらなければ誰かのコヤシになるだけです。
さすがに自営業の方はそれが身に染みてわかりますよね。
我々サラリーマンは税金からして自分で計算するというクセがついてないので、面倒な計算は人任せという形になるのかもしれません。
私も過去のキャリアや投資に目覚めなければどうなっていたかはわかりません。
管理人さんの予想に反して、日本の金融機関の住宅ローンは、焦げ付きが低く、将来、とんでもないデフレにでも陥らない限り、問題化することはありません。
日本では、1990年代に、住宅金融専門会社(日本住宅金融など)が、乱脈融資を行い、バブル崩壊で、全社が崩壊し、税金投入で国会が大荒れになったことは記憶されている方も多いことでしょう。
住専は、サブプライムローンと同じで、通常の銀行からはローンを受けられない方向けの住宅ローン会社でしたが、不動産バブルに乗って、乱脈な不動産会社融資を行い、絶望的な貸し倒れが発生しました。
TOYOTAさん、こんばんは
>管理人さんの予想に反して、日本の金融機関の住宅ローンは、焦げ付きが低く、将来、とんでもないデフレにでも陥らない限り、問題化することはありません。
そうですか。貴殿は今の債務者がきちんと返済が続行できるという見方なんですね。
私はキャンペーン金利で借りている人が、きちんとした計算に基づいて住宅ローンを借りているような気はあまりしまいのですが・・・
某大SNSのコミュニティなどを拝見した感想ですがね。
>とんでもないデフレにでも陥らない限り
インフレになった場合にも、かつての場合と違って賃金の上昇があまり見込めないような気もします。
その場合は、私はやはりパンクと見てますが