ふるさと納税制度の拡充と税申告簡素化は地方創生に繋がるのか

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和歌山県伊都郡かつらぎ町ふるさと納税お礼品

昨年から始めたふるさと納税による特産品獲得も今回で5回目、今までは肉類ばかりだったので、今回は果物にしようと和歌山県伊都郡かつらぎ町に寄附をした。

寄附金の振込から特産品の受取まで約2ヶ月、過熱するメディア報道によって各自治体に寄附(特産品の応募)が殺到していることを考えれば、専任のスタッフをおくことが難しいと思われる中小自治体では致し方ないところだろうか。

このふるさと納税制度だが、半年前に菅義偉官房長官が表明した「ふるさと納税制度の拡充と税申告簡素化」が実現の運びになっていることが東京新聞で報じられたが、その主な内容は次の三点だ。

  1. 減税対象となる寄附の上限額を、概ね現行の住民税の1割程度から2割程度に引き上げる。
  2. 所得税からの減税をなくし、住民税からの減税に一本化する。
  3. 寄附当事者の求めに応じて、地方自治体が減税手続きを代行する。

おそらく第三次安倍内閣で法改正がされ、実施に移されるであろう新制度は、私たち納税者にとってはさらにお得感が増しそうな感じであるが、こんなことがいつまで続けられるのであろうか。

特産品を貰っておいて苦言を呈するのも何だが、私が2014年7月20日付の「鳥取県ふるさと納税のお礼品「奇跡の豚」がようやく到着」で書いたように制度の弊害を指摘するブログも散見され、例えば、民主党衆議院議員(比例九州ブロック選出)の緒方林太郎氏のブログ、治大国若烹小鮮では「ふるさと納税(2014年9月20日)」に続いて「ふるさと納税(続:頭の体操)(2014年9月22日)」と、2014年11月4日付の幸呼来(さっこら)ブログでは「ふるさと納税制度は住民税奪い合いの戦争だと思う」といった記事があった。

実際のところ、地方税法等の一部を改正する法律(平成20年4月30日法律第21号)によって、2008年(平成20年)から始まったふるさと納税の制度は、今や地方自治体の特産品供給合戦の様相を呈しており、もっとも、私もその恩恵を受けた1人であるが、最近ではマネー雑誌だけではなく、メディアの報道合戦も過熱気味、「ふるさと納税ガイドブック(ふるさとチョイス監修)」などのマニュアル本も多数販売されるなど、投資家の目線で見るとピークアウト寸前の状況である。

さらに、先月はふるさと納税のポータルサイトで有名な「ふるさとチョイス」の広告が、東急田園都市線のドア上ポスター(1ヶ月掲出で650,000円)として掲示されてあったくらいだ。

また、2014年11月4日付のNHK NEWS WEBでも「ふるさと納税制度で収入減も」という記事が配信され、特産品供給合戦が「地方創生」でなく、さらなる「地方疲弊」を招きかねない事例が報じられている。

私にはふるさと納税を巡る特産品供給合戦が、出口戦略の見えない金融緩和策(黒田バズーカ)と同じに見えてならない。

もちろん、各地方自治体が人的コストも含めて適正なレベルのお礼品の供給に留めることができれば、私たちにとっては、今まで知り得なかった地方の魅力を知ることができ、そこの特産品を買ってみよう、とか、実際に旅行してみようかという動機付けになって、本当の意味での「地方創生」になるだろう。

また、それが雇用の創出につながれば、それこそ安倍内閣が目指す政策目標の一つを達成することになるわけだ。
当然、各自治体はそういうことを意図しているのか、寄附先の自治体からは、カラー刷りの観光パンフレットなどが、お礼状や寄附金受領証明書とともに送られてきている。

この制度が少しでも地方の活性化に繋がっていることを信じたい。
最後に、各地方自治体にとって脅威になる政策が「寄附当事者の求めに応じて、地方自治体が減税手続きを代行する」というものだ。
確定申告が面倒だとか言っていた人は、これで確定申告不要になっていいことだ、と思うことだろう。

ところが、その代行手続きのコストは単純に双方の地方自治体、つまり、私たちの住民税の中から拠出されることになる。

代行手続きのデータに関して、各地方自治体間で電子データのやりとりができれば、それほどコストはかからないだろうが、おそらく紙の書類のやりとりだから、その分の人件費や郵送代などが嵩むことになる。(参考:社会保障・税番号制度に係る地方税の業務について

個人のプライバシーをさらけ出すことを要求される日本の会社文化を象徴する年末調整、この会社による確定申告代行制度に慣らされているサラリーマンは、税金の申告は会社がやってくれるのが当たり前で自分がやるとなると「面倒」だと思っている人も多いだろうが、他人の代行には見えないコスト(余分な間接人件費や外注費)がかかっていることを認識した方がいいだろう。

ついでながら、年末調整は経費の無駄だから法改正してやめて欲しい、と訴える経営者が皆無なのはなぜか、というのも学ぶべきだ。
私にとって残念だと思うのは、これでサラリーマンが税金について学ぶチャンスがまた一つ消えるということだ。

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ふるさと納税簡素化へ改正案-確定申告不要に (2014.12.19 東京新聞)

出身地や応援したい自治体に寄付すると税金が減額される「ふるさと納税」制度の普及に向け、政府と自民党が取りまとめた税制改正案の全容が18日、判明した。

納税手続きを簡素化するため、税務署への確定申告を不要とし、寄付した自治体への申請だけで済む特例制度の創設が柱。
安倍政権が掲げる「地方創生」の一環。

サラリーマンも活用しやすくし、地域活性化につなげる狙いだ。
菅義偉官房長官が主導し、自民党税制調査会に働き掛けた。
30日に決定する2015年度与党税制改正大綱に盛り込まれる。
今回創設するのは「ふるさと納税ワンストップ特例制度」。

これまでは寄付先の自治体から受け取った受領証明書を添えた、確定申告が義務付けられ、手続きの煩雑さが問題視されていた。
新たな特例制度は、利用者が求めれば、寄付を受けた自治体が、利用者の居住自治体に対し、住民税の減税手続きを代行する。

減税は所得税と住民税でそれぞれ行われていたが、新制度は、所得税の減税分を住民税に一本化、自治体間の手続きを円滑化した。

減税対象となる寄付の上限額は所得や家族構成で異なるが、住民税の1割程度から二倍に広げる。
夫婦と子ども一人で年収400万円の世帯の場合、減税額は年2万円から4万円となる。

5自治体を超えてふるさと納税を行う場合は、確定申告が必要となる。
もともと確定申告が必要な自営業者らは、従来通りの手続きとする。
自治体が返礼として贈る特産品が過剰とならないよう、国が通知で自制を促す仕組みも盛り込んだ。

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ふるさと納税拡充 官房長官「控除額の上限倍に」(2014.7.5 日経新聞)

政府は生まれ故郷や応援したい地方自治体に寄付すると住民税などが控除される「ふるさと納税」の控除額の上限を引き上げ、制度を拡充する方針だ。

菅義偉官房長官が5日、視察先の兵庫県養父市で明らかにした。
記者団に「額を2倍にすることや手続きを簡単にすることを含めて取り組んでいきたい」と述べた。

安倍晋三首相がトップの「地方創生本部」新設に向け、近く準備室を発足させる考えも示した。
ふるさと納税は、現在の居住地以外の自治体に2千円を超す額を寄付すれば、居住地の個人住民税や所得税が控除される仕組み。
現行は住民税のおおよそ1割が上限だ。

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