100米ドルの外貨送金でもマネロン対策、日系金融機関を通じた海外送金の現実

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新生銀行横浜支店

私は、つい最近、親の銀行口座の手続きをするのに付き添って新生銀行を訪れた。
目的の一つは、米ドルの外貨預金を円に戻さずに、SMBC信託銀行(旧シティバンク)のマルチマネー口座に送金(国内外貨建て送金)をすることだった。

小口の外貨送金にも資金の出所の証明が必要か

ところが、そこでの煩雑な外貨送金手続きに、私は驚きを禁じえなかった。

2017年11月から新生総合口座パワーフレックスからの海外送金サービス(店頭窓口/新生パワーコール)をご利用の場合は、外貨送金に関しては、金額にかかわらず、資金の出所、送金先に不審な点がないかの確認をさせていただいております。

なお、このサービスは2019年9月30日までのご利用となります。10月1日以降は、新生海外送金サービス(Goレミット)のアプリをご利用いただくことになります。

私が驚いたのは、彼らが言う「金額にかかわらず」だ。
私は、2013年2月21日付で「マネロン防止法の強化で海外送金を拒否されることもあり得るのか」というコラムを書いていたので、こうした法規制は専門家並みに勉強したことがある。

つまり、現時点でも、マネー・ロンダリング防止法(犯罪収益移転防止法/犯罪による収益の移転防止に関する法律)第4条第2項と、法施行令第11条に定めるハイリスク取引(取引時確認等を行う義務のある取引)の定義は、200万円を超える財産の移転となっていることも確認していた。

それにもかかわらず、新生銀行のスタッフは、外貨預金の資金の出所をしつこく聞いてきた。
私は、新生銀行で円預金を米ドルに替えたのだから、確認しろと言って突っぱねた。
このとき私は、老親だけを銀行に来させなくて本当に良かったと思った。

彼らは、法規制でなく、銀行独自のルールで、金額にかかわらず、そうした確認をしていると言った。
これは前述の「新生総合口座パワーフレックスからの海外送金サービス(店頭窓口/新生パワーコール)」のところに書かれているが、具体的にどのような書類が必要なのかは銀行に聞かないとわからない。

ますます海外送金がしにくくなった邦銀

2014年に、私たち家族が新生銀行の口座を開いたのは、シティバンクの個人業務撤退後を見据えたものだった。
ところが、今の新生銀行には、かつてシティバンクの受け皿になろうとしたときの輝きはない。
正直言って、今の新生銀行に口座を持つなら、ゆうちょ銀行の国際送金を使った方がマシだろう。

例え、100米ドル(約11,000円)の送金でも、書類の確認と言う姿勢からは、ほかの邦銀の窓口でスタッフと喧嘩したという某海外投資家の言葉が蘇る。
その銀行での海外送金を拒否された彼は、円資金をそのままハンドキャリーで海外の金融機関へ持ち込んだと書いていた。

資金移動業者が海外送金の頼みの綱か

少額であれば、銀行を使う必要はないのだが、資金移動業者の場合は、100万円相当額以下の為替取引しか扱えないので、それを超える海外送金の場合は銀行を使わざるを得ないのだ。(資金決済に関する法律第2条第2項、法施行令第2条)

もっとも、2019年5月21日付の産経新聞の記事「資金移動業、『少・高額』新設 金融庁検討、キャッシュレス決済の推進後押し」にあるように、金融庁が検討している「高額資金移動業者(仮称)」の法制化ができれば、この問題は解決するような気もするが、どの程度まで海外への送金が可能になるかは、6月10日に開催された金融審議会「金融制度スタディ・グループ」(平成30事務年度第12回)に提出された資料にも掲載されていない。

今回のコラムでは、新生銀行の海外(外貨)送金のことについて触れたが、現行制度上では、ほかの邦銀も多かれ少なかれ、海外送金には同じような困難を伴うだろう。
ただ主要各行では、窓口での海外送金を取り止めたと報じられているので、実際にはどの程度のものになったのかわからない。(2019年2月28日 日経新聞-三菱UFJ、みずほ 窓口で現金の海外送金停止へ

もっとも、今年の4月から受け入れを始めた外国人労働者が母国へ送金をするときは、ウェスタンユニオントランスファーワイズのようなマルチリンガルの資金移動業者を使うのだから、私たちも同じようになるだろう。

日本のマネロン対策は効果があるのか

シティバンクの受け皿となったSMBC信託銀行だけは、今のところ従前の海外送金サービスを維持しているが、少なくとも、海外口座を含めて私が持っている金融機関の口座の中で、日本ほど紙の書類を求められるところはないだろう。

マネロン対策は日本だけの問題でなく、国際的な問題であるにもかかわらずだ。
それでも「日本はマネロン天国」との汚名を着てきたのは、日本の金融機関がやっていることがずれているのだろう。(2019年3月27日 産経新聞-日本は「マネロン天国」の汚名返上なるか 国際組織が今秋審査

この産経新聞の記事では「邦銀では外国人はカタカナ表記で口座を開設できるため、ブラックリストにアルファベット表記で載っていても検知されにくい。」ということが書かれていたが、それなら邦銀のシステムを抜本的に改修しなければ、膨大な書類を提出させても意味がないのではないか。

いずれにせよ、法律では取引時確認を免除されている小口(200万円相当額以下)の海外(外貨)送金依頼に対しても、証明書類を出させ、それに関して上司に伺いを立てるために、担当者が右往左往しているようでは、肝心なことを見逃すのも無理はないと思う。

日本という国は、いろいろな局面において、マンパワーを無駄遣いし、意味のないことをやっているように思うのは私だけなのだろうか。

最後に

今年の4月から日本政府は外国人の単純労働者の就労に門戸を開いた。
これは外国人に日本に出稼ぎに来てもらおうという政策だから、当然ながら、彼らが日本で稼いだお金は、母国の家族に送金することになる。

金融庁では「外国人の受入れ・共生に関する金融関連施策について」ということで、雇い主に日本で就労する外国人の預金口座開設をサポートするように勧めているようだが、当の金融機関は、外国送金のチャンネルを閉じる方向にあり、結果的には、母国への送金は、資金移動業者を使うことになるだろう。

日本人にとって外国への送金は非日常的なことなので、多少不便になる程度で済んでも、外国人にとって母国への送金は日常的なことだから、そこでストレスを与えることは、私が「日本は2019年版外国人が働きたい国ランキングでブービーに」で触れた「生活の始めやすさ(Ease of settling in)」の低迷の原因の一つとなって跳ね返ってくると思う。

おまけに、口座を開設した銀行のキャッシュカードのほとんどが、外国のATMで使えないものだと、何人の日本人(企業担当者)が認識しているだろうか。
まともな金融サービスもない地方都市へ、外国人労働者を招聘しようという政策は、私に言わせれば、呆れ果てるという以外に言葉が見つからない。

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