政治家も官僚も相変わらず何やってるんだ、と言いたくなるような醜態で、来る4月1日から増税される消費税の一部が海の藻屑と消える運命にある。
要は、法律の不備が原因で、役所内で住民税情報を共有できないために、現場の自治体職員が膨大な事務作業と問い合わせ電話に忙殺され、大量のゴミが全国で出かねないという話のようだ。
当然ながら、これらの事務コストはすべて税金で賄われることになっているのだが、法律を一本追加すれば済むものを、すべての対応を現場の自治体に丸投げした挙句、膨大な手間暇をかけて、低所得者対策に臨時福祉給付金(簡素な給付措置)を配る作業が始まろうとしているわけである。
しかも、この記事はウェブ上では一切報じられておらず、政治家と霞が関の失態が拡散するのを防止するために汲々とする記者クラブメディアの体質が垣間見えるとも言えよう。
ここで、現場の自治体職員が融通を利かせればいいのでは、と思う人も多いだろうが、さすがに法律違反(法的根拠なく税務情報を第三者に提供すること)が懲役に繋がりかねないので、いくら国民のためとはいえ、何の法的根拠もなしにそういったことはできないだろう。
ちなみに、記事の中に書かれている、税務担当職員以外でも被保険者の税務情報を閲覧できる規定というのが、例えば介護保険法第203条(資料提供)で、「市町村は、保険給付及び保険料に関して必要があると認めるときは、被保険者、第一号被保険者の配偶者若しくは第一号被保険者の属する世帯の世帯主その他その世帯に属する者の資産若しくは収入の状況又は被保険者に対する老齢等年金給付の支給状況につき、官公署若しくは年金保険者に対し必要な文書の閲覧若しくは資料の提供を求め、又は銀行、信託会社その他の機関若しくは被保険者の雇用主その他の関係人に報告を求めることができる。」とある。
こうしたものがないと、役所内とはいえ、税務情報という重大な個人情報を第三者に提供する根拠とはなり得ないのだ。
いずれにしろ「簡素な給付措置支給業務に関する全国説明会資料」というものが一部の自治体のウェブサイトに掲載されているが、これを見る限り、「簡素な給付」という名の「複雑な役所仕事」というのを大いに感じることができるだろう。
これでは、マイナンバー(社会保障・税番号)制度(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)が導入されても全く同じことの繰り返しになりそうだ。
消費増税の目的(お題目)は、社会福祉財源の充実と安定化のはずであったが、その前に弱者救済という名のばらまきと、それに伴う役所の事務コストで全部消えてしまいそうな勢いだ。
このようなことをするなら、低額の年金受給者への給付を加算するとか、住民税の非課税申告をした人の口座に現金を振り込む、などとした方がよほど合理的だろう。
生活保護の被保護者については、2014年(平成26年)4月に消費増税による負担増の影響分を織り込んで生活扶助基準の改定を行うことを想定しているため対象外としている、とあるのだから同じようにすればいいのだ。
それとも、この作業にあたって霞が関では担当部署が設置され、国や地方自治体のコールセンターなどに雇用が生まれるからいいとでも言うのだろうか。
消費増税時の現金給付 守秘義務で自治体困惑 課税情報共有できず (2014.1.23 読売新聞)
4月の消費増税に伴って支給される簡素な給付措置を巡り、事務にあたる市町村から悲鳴が上がっている。
対象となる住民税の非課税世帯がどれだけあるか、不明確なためだ。
国は全戸に通知分を配るなどの対応を求めているが、全国市長会は「膨大な手間がかかり、現場が混乱する」などと反発を強めている。非課税世帯に関する情報は、市町村の税務担当部局にあるが、総務省などによると、地方税法第22条は自治体の税務担当職員に守秘義務を課しており、罰則規定(2年以下の懲役又は100万円以下の罰金)もある。このため、簡素な給付措置の支給にあたる福祉担当職員が、情報を提供してもらえずにいるという。
介護保険サービスのように、市町村が保険料額を決めるにあたり税務担当職員以外でも被保険者の税務情報を閲覧できる規定を法律に盛り込んでいる制度もあるが、簡素な給付措置はこうした規定が整備されないまま支給が決まったため、混乱が生じているという。
森民夫全国市長会長(新潟県長岡市長)は22日、田村厚生労働相と会談し、立法措置で対応するよう要望した。
市長会内部で「このままでは支給できない」と異論が相次いだためだ。だが、森会長によると、田村厚労相は「法律を今からやるのはかなり難しい」と難色を示したという。
厚労省は地方側に、対応策として
- 制度の通知文を全戸配布する
- 市町村が一部の住民に住民税の申告を促す文書を送る
- 介護保険料の納付済額通知書に通知文を同封する
などの方法を提案している。
しかし、1では対象外の住民が多く含まれ、2や3では、非課税世帯すべてをカバーできない。
森会長は厚労省側に引き続き法整備を求める意向だ。消費増税に伴う低所得者対策を巡っては、2014年度与党税制改正大綱に、食料品などの生活必需品の消費税率を低くする「軽減税率」を「10%時に導入」すると明記された。
軽減税率の場合は、こうした混乱は起きないとみられる。*簡素な給付措置
消費税率の引き上げに伴い、低所得者に現金を給付する制度。
住民税を支払っていない「住民税非課税世帯」(約2400万人)が対象で、1人当たり1万円が1回限りで支給される。
年金受給者などには5000円を上乗せする。
給付総額は約3000億円。
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