2013年4月8日付の日経新聞は、「東大卒 広がる起業志向」という表題の記事を掲載していた。
その中で、2010年に東大が学部生に実施した学生生活実態調査で、文系と理系を合わせた就職希望先の1位は企業の研究職で18.2%、2位が大学などの教育・研究職で17.4%、3位が技術職と専門職(弁護士や医師など)でともに13.3%、キャリア官僚など公務員は6位で前回の2008年調査の14.2%から8.5%と大きく減ったと報じている。
また、こちらはキャリア官僚ではないが、2013年6月28日号の週刊朝日の記事で「大学入試 教育学部の志願者数 3年連続減!『先生』の深刻すぎる不人気 10年後の教育界に懸念が・・・」という記事もあり、就職先として公務員を選択する人が徐々に減り始めているようだ。
今までが民間志望者に比べて公務員の人気が高すぎたとも言えるが、国防や警察、教育といった国の根幹を成す部分で、それに従事しようという人が減り始めると国難を招く危険性がある。
ところで、東大法学部と言えば、官僚の最大の供給元、これに先立つこと5か月、ダイヤモンド・オンラインでは「なんと東大法学部が初の定員割れ 法曹志望、公務員志望減少が影響か」という記事を掲載していた。
ここが定員割れを起こすようだと、将来的には官僚のよりいっそうの質的低下と政治家の無能の顕在化が懸念される。
なぜなら政治家が満足に法案も作れない日本において、腐っても官僚がその下支えをしてきたわけである。
官僚の質的低下が顕著になれば、政治主導だと言い、官僚に頼らない政治を目指した民主党政権の醜態が、将来的にはどの政党が政権を取っても見られることになるだろう。
世間が公務員天国と言うのとは裏腹に、若者の間で公務員が不人気化している原因はいろいろあるだろうが、一つには2012年11月16日、ちょうど野田内閣が衆議院を解散した日に成立した国家公務員退職手当減額法(国家公務員の退職給付の給付水準の見直し等のための国家公務員退職手当法等の一部を改正する法律)があるだろう。
これについては、民間企業との兼ね合いで賛否両論あるだろうが、若者にとっては「(典型的な年功序列賃金制度の公務員において)あなた方の若いときの苦労は実りません。」という宣言だったからだ。
これは年功序列賃金の色濃い民間企業に勤める若手も境遇は同じことで、これが日本の活力を削ぐ原因の一つともなっている。
将来的に官民ともに退職金をなくすということであれば、年功序列賃金は完全撤廃が筋というものであろう。
それにも増して、現場の公務員にとっては増え続けるモンスター○○と呼ばれる確信的クレーマーの存在と、それを助長するような社会の風潮が大きな精神的負担となって圧し掛かっている。
さて、その退職手当減額と抱き合わせで法制化された45歳以上の国家公務員に対する早期退職募集制度がいよいよ実施されそうな感じである。(総務省通知・通達-平成25年5月24日付、総人恩総第403号)
実施されそうな感じであるというのは、募集が実際に開始されたわけではなく、制度が整っただけに過ぎないからだ。
ところで、民間企業ではとっくに行われている中高年世代に対する早期退職者の募集がいよいよ国家公務員も対象に行われることになるのだが、果たしてどのくらいの応募があるものなのか。
日本の労働慣行からすれば、早期退職に応募しても一部の例外を除いて中高年世代の再就職は苛酷なまでに厳しい。
結局のところ、城繁幸氏に言われるまでもなく、企業側が年功序列賃金制度(新卒至上主義)を止めない限り、この状況に変わりはない。
また、同日付の国家公務員退職手当法施行令の一部を改正する政令の概要によれば、定年前早期退職者に対する割増率の拡充として、定年前15年内(原則45歳以上)の一定の退職者について退職時の定年までの残年数1年当たり3%退職手当の基本額を割り増す、とあって、現行の定年前10年内(原則50歳以上)について1年当たり2%割増しに比べれば優遇されることになる。
現行の50歳以上の勧奨退職でさえ、天下りなどの旨味なしに、まともに応募する人はほとんどいないのではないかと言われているが、その状態で退職手当を1年当たり3%増しにする(45歳で辞めると45%増し)と言われても辞める人がそれほど増えるとは思えない。
国内最大の公務員からの転職・独立起業・キャリア形成のための総合情報サイトと銘打った「公務員プラス(旧役人廃業.com)」というサイトがあるが、ここに掲載されている人は若手が多いだろうし、全体から見れば圧倒的に少数派だろう。
この予測が外れ、早期退職募集に応募する人が増えれば、今度は民間企業で見られたように優秀な人材(公務員でも民間や海外で通用する人材)の離職を加速させることになるだろう。
民間企業で早期退職募集をすると、優秀な人から手を挙げるということは周知の事実で、これは公務員の世界でもあり得ることだ。
一方で、インターネット上では天下りに対する新たなお手盛りだとか言う人もいるようで、そういう面も否定できないが、それだったら菅内閣当時(2010年6月22日)に制定した退職管理基本方針のように狡猾に立ち回るだろう。(リストラおやじのあぶない生活!-選挙や相撲賭博問題にかくれてこそこそと!)
野田政権下で開かれた第181回臨時会(平成24年10月29日から11月16日)は、開かれるかどうかすら危ぶまれていたもので、今までの霞が関の常識に照らせば、退職手当減額法案のような官僚に不利になるものは、骨抜きにするか、うやむやにしてしまうところなのが、あえてまともに国会に提出したところにどういう意図があるのか私は考えていた。
この法案が国会提出された直後の2012年11月4日付のNEVADAブログの記事で「日本の信用度低下・格下げと再生」というのがあった。
ちなみに、このブログは悲観的なことばかり書くのでオオカミ少年ブログと私は呼んでいるが、この記事には「毎年50兆円もの赤字を出している日本の財政はもはや破綻しており、政治家が何もできない以上、財務官僚が再建させるしか道はないと判断しているのですが、それには外部からの力が必要になります。すなわち、(国債の)格下げです。財務省内ではすでにその準備は終わっており、あとはタイミングを図るだけになっているはずであり、格下げと同時に日本人の金融資産は全て消滅することになります。勿論、同時に国の借金も全て消えます。」とある。
いつものNEVADA節とも言えるが、私は妙に気になった。
その後の衆議院総選挙で自民党が圧勝し、第二次安倍内閣が発足、デフレ政策を国是としてきた財務省(参考:日の丸ファイナンス-巨大化の果てに)が、アベノミクスと呼ばれるインフレ政策に舵を切ることを容認したからだ。
この上で、何の他意もなく、早期退職募集に応募するキャリア官僚が増えることは、沈没船からネズミが逃げ出すのと同じことだ。
一方で私の友人の一人は、「12月の衆議院総選挙の前は、橋下大阪市長が率いる大阪(日本)維新の会の勢いが凄かった。彼らに政権のキャスティングボードを握られれば、もっと苛酷な退職手当の削減がされるので、霞が関が先手を打っただけだろう。」と言った。
この件に関しては私の推測が当たらないことを祈りたい。
そうでなければ「2015年日本危機説」はオオカミ少年の戯言ではなくなるからだ。
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