高橋幸春レポートに見るキルギス腎移植の真実

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ビシュケク市内散策

私たちが2021年11月から12月にかけて渡航した中央アジア(ウズベキスタン・キルギス)において実施された腎移植手術のことについて、読売新聞の社会部が現地取材を含めた克明な記事を掲載し続けた。

これらの記事は、2023年2月11日付の「NPO難病患者支援の会理事長逮捕で完全に頓挫した海外腎移植の目論見」で紹介してあるが、「移植ツーリズムの深い闇」などのレポートで有名なノンフィクションライターの高橋幸春氏が、私たちの渡航移植について、レポートを上げたのがわかったので、それを紹介しながら私の見解を述べてみたい。

Masaka, Bishkek

まずは、前編の「3000万円もかかる『海外での臓器移植』でついに逮捕者。『患者から金銭を要求されている』と容疑者は語った」だ。

ここでの主人公は、読売新聞や神奈川新聞、文春オンラインに実名告発している小沢克年さんなのだが、私が妙だなと思ったのは、

「(私:菊池仁達は)警察にマークされていると思います」

そんな電話があったのは、去年(2022年)の11月か12月のことだった。移植希望患者をベラルーシに送るために、現地で打ち合わせをしてから帰国したところ、成田空港で別室に呼ばれ、1時間以上、荷物検査を受けていたと明かした。

「これまでにあんなことはなかった」

NPO法人 難病患者支援の会の代表理事である菊池仁達氏は、2022年11月か12月にベラルーシに渡航しているとあるが、彼は移植希望者をベラルーシに送ることを予定しているのでなく、当時はスリランカを推奨していた。(2022年8月13日 読売新聞-「臓器売買疑惑」スリランカでも移植計画…NPO「急いでやろう、患者10人送る」

同じ年の夏までNPOの移植希望者であった私にも、菊池氏は「スリランカ、スリランカ」と言ってきたし、実際に渡航寸前までいったのだ。

私が知る限りにおいては、おそらくは、菊池氏がベラルーシの医療当局とトラブルになっていたのを解消しようとしていたのだが、それが成就したとは寡聞にして存じ上げない。

ビシュケクの透析病院

次の中編は「『金で誠意示して下さい』…死体からの臓器提供を半年待って、生命の危機に瀕した50代女性の怒り」だ。

主人公は、前編に引き続き、小沢さんと、関西在住の女性Mさんだ。

待機期間が半年にも及んだのは、死体(心停止、脳死ドナー)から摘出された臓器で移植させようとしたからだろう。臓器売買で移植をするなら、これほど長期にわたって待機する必要はない。

高橋幸春氏はこう分析しているが、私はたぶん違うと思った。

私も読売新聞のスクープで初めて知って驚いたのだが、「2022年8月7日 読売新聞-ウクライナ人のドナーに日本語、親族装い旅券偽造…移植した腎臓機能せず摘出」が原因だろう。

私たちがウズベキスタンのタシケントにいたとき、菊池氏は「倫理委員会が、倫理委員会が」と言っていた。
つまりは、ウズベキスタンで偽造パスポートを使ったスキームが承認されなかった・・・賄賂をばらまいても・・・というのが真実で、2021年11月25日、私たちは倫理委員会がないとされていたキルギスに渡ったのだ。

当時、このときのことを赤裸々に書くわけにはいかなかった私は、1か月遅れで「ビザランでウズベキスタンからキルギスへ脱出」と書いたのだ。

Imperator 2, Bishkek

最後は後編の「民家を改造したヤミ病院で死亡した例も……『海外での臓器移植』逮捕劇は、厚労省の無能ゆえか」だ。

主人公は主要メディアがどこも触れていないNさんだ。
彼は腎移植手術前に外地で非業の死を遂げたのだが、

「移植を受けるまで帰国しない」

という並々ならぬ決意は、Nさんの最期の言葉として私の記憶にあるものだ。

ここで、私が現地で付けていた裏日記(笑)を紹介しよう。
これは私が海外旅行先で1日の終わりに付けているもので、それをベースにウェブサイトの旅行記に仕上げるのだ。
もちろん、当時はそれをそのまま書くわけにはいかなかったのだが・・・

「2021年12月23日 Nさんの死」

ガーデン・ホテル・ビシュケク(Garden Hotel Bishkek)

この日は川合さんの実況中継(「日利1.5%トレーダー川合一啓の『株式トレード攻略』」の門下生を対象に行われる)がある日だった。(日本時間の9時はキルギス時間の6時)
それでも、あまり気乗りはせず、大真空(コード:6962)を100株だけ買建したが、うまくいかなかった。

朝食を終え、具合の悪いNさんと、部屋の近い私はPCR検査をした。
即時に結果が出て陰性となった。

検査を終えるとロビーでKさん(当時はNPOのコーディネーター、菊池氏の元部下)から、Mさん(関西在住の女性)が病院から担ぎ出されてホテルで寝てる旨の話をされた。

大丈夫なのか、Kさんからは手術しなくて良かったねと言われた。
どうやら緊急事態が生じて病院に居られなくなり、避難したようだが、大丈夫なのか。

珍しく朝の時間帯に掃除が入ったので、再度ロビーに退避すると、Nさんもやってきた。
具合が悪そうで、食欲がなく、何も食べてないと言っていた。
大丈夫なんですかと声掛けして、うーんと唸ったのが彼と会った最後になるとは夢にも思わなかった。

Vanilla Sky Coffee

昼近くなって、ランチへ行くため、10番のバスに乗った。
住宅街に入ってしばらくすると、進行方向右側にVanilla Sky Coffeeというお洒落なカフェが見えた。

近くにマッサージ屋もあったので、次の停留所で戻り、歩いてカフェに入った。
当初はハンバーガーでも食べようと思ったが、美味しそうなステーキがあったので、それを選ぶことにした。
選択は正解、激ウマだった。

ビシュケクの公共交通機関

マッサージ屋は営業終了みたいなことを言われ、残念な思いでバスに乗る。
バスを下りると、KさんからLINEメッセージが来て、(日本に一時帰国している)菊池氏からも電話が来た。
内容はNさんが亡くなったことだった。

ホテルに帰ると、私とNさんの泊まっているフロアは、見慣れたホテルスタッフと、警察で溢れかえっていた。
その中にKさんを見つけると、彼が部屋を訪ねたところ、返事がないので、ホテルスタッフを呼び、ドアを開けたところ、トイレで倒れていたそうだ。
慌てて救急車を呼んだのだが、Kさんの腕の中で事切れてしまったようだ。

警察の事情聴取が終わり、遺体が搬送されるのを見送った。
Kさんは、タシケントの空港にいるOさん(通訳)と懸命に連絡を取り、それに対応していた。
私も放心状態になり、自室に帰った後のことはほとんど覚えていなかった。

私がキルギスで命拾い(!?)したのは、通訳のOさんが12月20日から23日までキルギスに不在になるために、私が彼女がいない中で手術はしたくないと訴えたからだ。
それゆえ、間一髪のところで難を逃れたというのが事実だ。
いくら何でも観光英語レベルの語学力で、腎移植手術に臨むなど無謀以外の何物でもなかったからだ。

ここで、私が高橋レポートにほとんど登場していないことにお気づきだろうか。
実は私は彼の取材は今のところ受けていない。
近いうちにコンタクトがあるようなことを言われているが・・・果たして。

最後に、ここまでして渡航移植をする理由というものを挙げるならば、東京新橋透析クリニックのページにもあるが、

人工透析患者の生存率ですが、日本透析医学会のデータによると1年経過で88%、5年経過で60%、10年経過で35%、15年経過で22%という結果が出ています。

これから逃れるためには日本での移植を待つという選択肢はないからだ。

高橋幸春氏も最後にこう書いている。

彼ら(渡航移植あっせん業者)は菊池の逮捕を横目に、さらに巧妙に渡航移植を進めるだろう。ベトナムで移植を受けた患者(元KTSA職員)が、移植を望む患者をベトナムに送ろうと画策している。
渡航移植は途方もない「利益」を生む闇のビジネスなのだ。

菊池の逮捕は、「みせしめ逮捕」でしかない。今回の逮捕によって闇はさらに深くなり、深い水面下で渡航移植は進められるだろう。

移植学会は、渡航移植患者が来た場合、「警察に通報してもいいのなら、診察、治療にあたる」と患者に告げるようにしている。
移植後の治療が困難であるという情報を流布すれば、渡航移植が減るとでも考えているのだろう。

渡航移植を防ぐには、日本国内で移植が受けられるような態勢を整える以外に方法はない。

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