吉田繁治氏の「ゴールドと通貨の本質」を読んでみた

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ビジネス知識源セレクション-ゴールドと通貨の本質

年末から読み始めた吉田繁治氏の「ゴールドと通貨の本質 – ビジネス知識源セレクション」(1050円:税込み)をようやく読み終えた。

彼の有料メールマガジン『ビジネス知識源プレミアム』は、「まぐまぐ大賞2008」で総合1位になっただけあって、私の読んだ「ゴールドと通貨の本質(『ビジネス知識源プレミアム』2008年7月23日号、8月6日号、8月13日号、8月20日号、8月27日号を再構成したもの)」は非常に読み応えのあるものだった。

その中で興味深い記述がある。
「1974年に設立された金(gold)の先物取引所(COMEX=Commodity Exchange)は、米政府が金(gold)を下落させるためのものだった」というところだ。

当時の時代背景としては、1971年8月15日にアメリカが、ドルと金の交換を停止(ニクソンショック)し、ブレトンウッズ体制(Bretton Woods system)が終わりを告げ、1973年3月までに主要各国は変動為替相場に移行したときだ。
これにより、米ドルは下落し、市場のゴールドは上がり、貿易黒字国だったドイツマルクと円は高騰した。

吉田氏は、このときの金価格の高騰を、1トロイオンスでUS$75(約2倍)になったというより、米ドルの価値が半値以下になったと解釈する。

事実、ドル及びドルにリンクした世界の通貨の、実質価値(商品購買力)の下落を見て、OPEC (Organization of the Petroleum Exporting Countries)(石油輸出国機構)は、原油を1バーレルをUS$10(約4倍)に上げ、第一次石油ショックが西側諸国を襲った。
ソ連圏を除く、自由主義経済圏の原油はドル価格で取引されていたため、そのドルの価値が下落するから、原油が上がる。

こうした単純なことだったと吉田氏は言う。
ちなみに、彼は2000年代の資源価格高騰も、このときと同じようにドル安が原因だと言う。

このことは反米で知られるイランのアフマディネジャド(Ahmadinejad)大統領も、原油価格が史上最高値を付けた昨年7月15日、

The oil market is plentifully supplied and the rally to record high prices is “fake and imposed”, Iran’s president said on Tuesday, blaming a weak U.S. dollar which he suggested was being pushed lower on purpose.
(オイルは十分にあり、今の価格は完全に見せかけである)

と言い、これは役立たずな紙切れ(worthless piece of paper)と彼が呼ぶ、弱い米ドルのせいであると述べている。(Khaleej Times Online – Market full of oil, price trend fake)

ここで、金本位を停止した1970年代の米国政府は、世界に向かい「反ゴールド・キャンペーン」を行ったと吉田氏は言う。

このキャンペーンの趣旨は「ドルのほうが金より強く、政府が管理するペーパー・マネーがゴールドより価値がある」というもので、その一環として、金(gold)の先物取引所(COMEX=Commodity Exchange)が作られ、ここで米財務省が現物と先物を売ることによって、金価格が下落するように仕向けたという。

しかし、現実には米国の反ゴールドキャンペーンにもかかわらず、1980年(第二次オイルショック:イランの王政廃止の革命:原油価格は4倍に上昇)の、1トロイオンスUS$860(1グラムで当時の円で6495円=最高値)に向かい急騰した。

私の認識では、投資市場ができたり、金融商品が開発されたりするのは、ベースとなる商品価格を上げやすくするために、要はファンドが設定されれば組み入れ株式の価格が上がるように、するためとばかり思っていたが、こと金(gold)に関しては売りを行うために市場の整備が行われたとは意外であった。

しかし、米国が人為的な意図をもってしても、金(gold)の価格が思うようにならなかったというのは歴史が証明しているところでもある。
だからインサイダーに近い欧米の機関投資家であっても思わぬ損をすることがあるのだろう。

その後の20年余り、金(gold)の価格は低迷し、代わって上昇したのが米国株だった。
吉田氏は1990年代、米国が不換紙幣(fiat money=金と交換できない紙幣)を増刷したにもかかわらず、金(gold)の価格が低迷した理由をこう言っている。

  • スイスの銀行が、低迷する金を投資のポートフォリオからはずしたこと。
  • 世界中から米国株への投資が行われたこと。
  • 各国中央銀行は、米国の呼びかけに応じ、金を放出したこと。
  • 若い世代は、金はもう古いとして、株を買ったこと。
  • 1980年代に、金産出に技術革新が起こり、世界の宝飾需要を十分にまかなえるようになったこと。

また、ソ連の崩壊によって、東欧と中国を含む旧共産圏の安価な労働力が、欧米諸国へ流れ込んだために、これらの国々では景気拡大期でも物価上昇は抑えられ、アメリカではニューエコノミー(生産性の上昇によって、米国経済はインフレなき長期景気拡大が実現したとする考え方)なる経済理論が台頭し、従来型の景気循環はなくなったと言われた。

そのような意味不明なこじ付けの経済理論が出たとき、ナスダック(NASDAQ)のITバブルが弾け、911やエンロン事件を経て、米国株が下落の一途を辿ったのは記憶に新しいところだろう。

さらに吉田氏は言う。
米国が金ドルの交換を停止した1971年以降、世界の中央銀行は、政府信用を裏付けにしたペーパー・マネーの発行機関に転じたが、本当のところは、米国が、1トロイオンスがUS$35で交換されるゴールドの流失を恐れ、金ドル交換停止を発動した。

流出を恐れる理由は、金に価値があることを、FRBが知っているからで、金に価値がないなら、米国からの流出を恐れる必要はないはずである。

しかし、世界が、ペーパー・マネーのドルより金に価値があるとすれば、ドルが暴落し、金が上がり、これは、ペーパー・マネーやドル証券を海外に売る米国にとって困る。
従って金の価値を下落させるように仕向けなければならない、というのが国策であった。

この金に価値があることをFRBが知っているとの象徴的な議会証言が、前FRB議長であるアラン・グリーンスパン(Alan Greenspan)の1999年5月の下院銀行委員会(House Committee on Banking)(現在は下院金融委員会)の発言である。

彼は言う。

Gold still represents the ultimate form of payment in the world. Gold is always accepted and is perceived to be an element of stability in the currency and the ultimate value of a currency.

金は未だに世界中で究極の支払い手段とされている。金は常に受け取られるし、貨幣の根本的な価値と不変の要素を認められている。

また、1998年10月21日号のNewsweek Japanにはこんな記事も掲載されていた。

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金への投資はちょっと待て by リチャード・ヴェルナー(Richard A. Werner)

金融システムへの不安が広がるなか、再び金に注目が集まっている。
だが金を取り巻く市場の状況は以前と同じではない。
中央銀行の「商品」である紙幣の代わりになる金は、いわば競争相手だ。

しかも紙幣なら、供給量や価値、配分まで自分たちで直接コントロールできるが、金には彼らの支配は及ばない。
そうなると、中央銀行が競争相手である金の人気を下げるあらゆる手段を講じたとしても、なんの不思議もない。

その手段の1つは、金が安定した財産であるという人々の信頼を損なうことだが、これは金の価格を下落させれば可能になる。
そして、これこそが中央銀行の狙いなのだ。

いま金に投資するのは危険だ。
だが、金を投資の対象からはずすべきだというのには、もっと身近な理由もある。

世界的規模の金融崩壊というシナリオの前提には、日本経済の破滅があるが、そんなことはまず起きない。
日本銀行が通貨供給量を増やしているおかげで、日本経済は来年には回復するだろう。

円相場も上昇し、崩壊の危機は薄れつつある。
安定した資産を求めるなら、日本の不動産を購入したほうがいい。
株より安全な自分の土地の上にいれば、まくらを高くして眠れるだろうから。

著者はプロフィット・リサーチ・センター(Profit Research Center)のチーフエコノミスト

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それでは、どうやって金(gold)の価格を下落させたかというと、吉田氏は「金リース」という制度が大きな役割を担ったと言う。

この制度は、中央銀行が金利1%~2%という低利でゴールドを金融機関にリースするもので、欧米の金融機関は、中央銀行から借りた金に、1%から2%の金利を払い、この金を金鉱山にリース料3%~4%を上乗せし売って利ざやを稼ぐものだという。

金鉱山は、自分が産出できないときも金を売るため、この3%~4%の金利を払って金を買い、そして、後の生産でリースを返却する。
金融機関はこの「金キャリートレード」で安定した利ざや(濡れ手に粟)を得ることになる。

他方、市場には中央銀行から借りた金が溢れて流通したため、金価格は20年間も下げ続けたという。
そして、その政策を市場で実行したのが米政界と密接な関係にあったバリック・ゴールド社(Barrick Gold: ABX)で、金の先物売りを主導したという。

1999年当時も現在も年間の産金量は2,500トンだが、金リースと金証券を売買する先物市場によって、金市場での1日の売買高は、1日で1,000トンに増えた。
現物市場だけにしておくなら、1980年のように金は高騰したと吉田氏は推測している。

そして、この長期弱気相場の転換点が、1999年の各国中央銀行の金リース量を制限するワシントン合意(CBGA, Central Bank Gold Agreement)で、これにより、金の流通量が減り、1トロイオンスでUS$275に下落していた金はUS$330に上がったという。

さらに、吉田氏は2002年から金(gold)と原油が歩調を合わせるかのように急騰した原因を次のように述べている。

原油価格高騰の原因は世間一般に

  • 中国、インド、そして新興国の経済成長で、資源・ エネルギー・穀物の需要が増えている。
  • 中東の地政学的不安。
  • ファンドや年金基金が商品先物を投機買いしている。

しかし、世界のエネルギー需要は年率1.5%増と安定的で、世間一般で言われているほど急激に増えないと吉田氏は言う。

事実、International Energy Agency – Oil Market ReportのWorld Balances Chartsを見ても、ここ2年の原油価格急騰の要因が実需(demand)面では見られないという彼の論は正しいように思える。(吉田氏が引用しているBritish PetroleumのデータはStatistical Review of World EnergyのHistorical data (Excel)のOil Consumption – barrelsを年換算したもの)

それでは何が原因かと言えば、米国の商品市場での原油先物への投機であり、原油先物が投資のポートフォリオで金融商品になったからだと彼は言う。
結局のところ、上げた原因はドルの過剰流動性であり、つまり、実質経済に対するドルの通貨価値の下落があって、それがファンドの投機になった。

金の価格上昇も同じような理由だと吉田氏は言う。

  • 米国は財政赤字、経常収支の赤字を続ける。
  • 米国の純債務は、どんどん増える。(=ドル増刷)
  • ゴールドは、年間500トンの慢性的な供給不足である。
  • 不換紙幣の増刷でインフレが進む。
  • 中東問題は容易には解決されない。

増刷される米ドルと米ドル証券の実質価値の下落が、インフレを生み、金価格を上げる。

また、吉田氏は、1980年代以降の20年間で金を市場に供給し続けた中央銀行のストックが空洞化しているとすれば、それを買い集めた者が誰であれ、市場への供給を絞ることによって、金価格の高騰を狙うことができると論じている。

また、彼はロスチャイルド家が出資したバンク・リップス(Bank Lips AG)を創設したフェルディナント・リップス(Ferdinand Lips)が2001年に『Gold Wars(邦訳:いまなぜ金復活なのか』を書いた目的は、金を買う人を世界に増やすためであると述べており、こういう見方をすると、2005年1月21日に設定された金ETFであるIAU (iShares COMEX Gold Trust)もそれに一役買っていることになろうか。

この金ETFのことについては、池水雄一氏が2000年の方向転換と現在に至る強気ゴールド相場というコラムでも述べているので、参考にするといいだろう。

ちなみに、吉田氏は、金価格が一時的に下がることがあっても、それはファンドや金融機関が証券の損で翌週の資金繰りに困っていると認識しておけばいいと言う。
金は換金が容易だからだ。

最後に、吉田氏の「国益のための提言」を紹介して終わりにしたい。

「私は、救国のために、言いかえれば高齢化に向かう国民の虎の子の金融資産を、将来の福祉費用に活かすため、(3倍に高騰した今からでもいいから)100兆円分だけでも、順次、ゴールドを買えばいいと考えている。

しかし政府・政治家・官僚は、それは絶対できないと言う。

理由は、『米国が日本政府の金の増加保有を禁じている』からだと言う。実に情けないことだ。円が、100円~125円のスプレッド(幅)で、米ドルにリンクするという政府間密約があるように、ゴールドも禁じられていると見ていい。」

「政府と財務省は、今、思考停止状態である。しかしまだ方策はある。米ドル基軸に終止符を打つことだ。日本の方策は、620兆円の対外総債権(証券)を、順次、アラブやロシアに売ることだ。それで、米ドルの代わりにゴールドの証券を買えばいい。日本政府のゴールド保有は、米政府の8,134トン(時価で27兆円)の10分の1以下の765トン(時価で2.6兆円)と少なすぎる。こうした『戦略的なこと』を政策化していもいいはずだし、今の円高が、資源価格高騰で貧困になる日本を救うことになる。実際、2000年には、ユーロの成立とともに、ユーロ諸国はそれまで買っていた米国の証券や株を売ったのだ。ユーロが2000年以降、米ドルに対して行ったことと全く同じことを、今度は日本が行えばいい。」

この円高が日本を救うという下りは、私も昨年の10月26日に「円高、原油安は日本にとってグッドニュースではないのか」というコラムを書いた。

その点では私の意見は吉田氏とほぼ同じであると言えようか。
しかし、吉田氏の提言が政府内で生かされることはあるまい。

それほどまでに経済音痴ばかりが主要閣僚になっているような気がするし、まるで、不適材不適所という日本政府の有様は、日本が自立できないように外国情報機関が裏にいるかのような無様さだ。

ここまで書いてきて、正直に言って、原油や金(gold)を始めとする資源の分野は私にとって本を読み解くだけで精一杯であった。
年末年始休暇の暇つぶしと思って読み始めてみたものの何度も読み返さないと、何が書いてあるのか理解するのにすいぶんと時間がかかった。

しかし、それだけの甲斐はあったように思う。
海外投資家の一人として、この分野の理解なしに突き進むことはできないからだ。

2009年が始まったばかりで、世界市場はまたもやきな臭い動きをし始めたが、吉田繁治氏の「ゴールドと通貨の本質」を読み終えて、彼の有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』も、購読してみようかな、と感じた。

コメント

  1. 惰性の原 より:

    本になっていたのか。

    ビジネス知識源プレミアムのメルマガって本になっていたのですね。…

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