WHOが締約国に海外渡航制限の解除を勧告

この記事は約8分で読めます。

グローバル化する世界

世界保健機関(World Health Organization)は、2022年1月19日に開催された第10回国際保健規則緊急委員会(Tenth meeting of the International Health Regulations (2005) Emergency Committee)で、旅行制限はオミクロン株の感染拡大を抑制するうえで有効ではなく、逆に経済的、社会的な影響を悪化させる可能性があるとの見解を表明し、旅行制限の解除や緩和を締約国に求めた。

これを受けて、1月21日付のNewsweek Japanでは「『渡航禁止の解除を』WHO勧告を無視する日本とオミクロン株をまん延させたイギリスの違い」という記事が掲載され、1月27日付のトラベルボイスでは「世界保健機関(WHO)、『旅行制限は、感染拡大の抑制に効果なし』、国連世界観光機関が歓迎の声明」と報じられた。

WHO第10回国際保健規則緊急委員会の声明

シンガポール・チャンギ空港

WHOの勧告の原文は、新型コロナウイルス感染症の感染爆発に関する第10回国際保健規則緊急委員会の声明(Statement on the tenth meeting of the International Health Regulations (2005) Emergency Committee regarding the coronavirus disease (COVID-19) pandemic)に書かれていて、海外渡航関連のことは、6と7で記されている。

  1. Lift or ease international traffic bans as they do not provide added value and continue to contribute to the economic and social stress experienced by States Parties. The failure of travel restrictions introduced after the detection and reporting of Omicron variant to limit international spread of Omicron demonstrates the ineffectiveness of such measures over time. Travel measures (e.g. masking, testing, isolation/quarantine, and vaccination) should be based on risk assessments and avoid placing the financial burden on international travellers in accordance with Article 40 of the IHR.

    国際的な交通禁止は付加価値を提供せず、締約国が経験した経済的および社会的ストレスを助長し続けるため、解除または緩和します。
    オミクロンの国際的な広がりを限定するためのオミクロンの亜種の検出と報告の後に導入された渡航制限の失敗は、時間の経過とともにそのような措置の効果がないことを示しています。
    旅行対策(遮蔽、検査、隔離/検疫、ワクチン接種など)は、リスク評価に基づいて行う必要があり、国際保健規則(International Health Regulations)の第40条に従って海外旅行者に経済的負担をかけないようにする必要があります。

  2. Do NOT require proof of vaccination against COVID-19 for international travel as the only pathway or condition permitting international travel given limited global access and inequitable distribution of COVID-19 vaccines. State Parties should consider a risk-based approach to the facilitation of international travel by lifting or modifying measures, such as testing and/or quarantine requirements, when appropriate, in accordance with the WHO guidance. 

    COVID-19ワクチンを利用する機会が制限され、不公平に配布されている場合、海外旅行を許可する唯一の方針または条件として、海外旅行にCOVID-19に対するワクチン接種の証明を要求しないでください。
    締約国は、WHOのガイダンスに従って、必要に応じて、検査および/または検疫要件などの措置を解除または変更することにより、海外旅行を促進するためのリスクベースのアプローチを検討する必要があります。

世界保健機関(World Health Organization)が海外渡航制限の解除を締約国に勧告したからといって、海外旅行が今すぐ自由にできるようになるわけではないが、その第一歩となる可能性が生まれたことを歓迎したい。

日本の観光立国の夢は何処に

伊丹空港

WHO第10回国際保健規則緊急委員会の声明に先立つこと1ヵ月、2021年12月2日付の日経新聞は「日本の対応『理解困難』 WHO、外国人入国禁止で」という記事を配信した。

しかしながら、岸田文雄首相は新型コロナウイルスの感染が沈静化している間には何もせず、新年に入ってオミクロン株(新型コロナウイルスの亜種)が日本中にまん延すると、「外国人新規入国禁止、2月末まで継続と首相」とした。

外務省のウェブサイトにある「国際的な人の往来再開に向けた段階的措置について」にも、2021年11月30日から継続している外国人の新規入国は原則禁止の措置が、2022年2月28日まで継続されるとあり、これはさらに長引く可能性も十分にある。

私は1月13日付の「穢れし者たちへ~水際対策という名の成田空港検疫」で、日本人は無意識のうちにソトから来たものは穢れているとの論理を持っていると書いた。
そして、成田空港へ降り立ち、数時間に及ぶ非能率な検疫を通過したときに、観光立国への夢は完全に潰えたと感じた。
私が外国人なら二度と来るか!と怒鳴りたくなるくらいのレベルだったからだ。

2010年代、全国の地方都市、特に観光を目玉にしている地域ほど外国人観光客の依存度が高かったように思う。
外国人観光客がいなくなっても日本人がそれをカバーできるなら構わないが、おそらくそうはなっていない。

日本人観光客は、ゴールデンウイーク、お盆休み、年末年始といった時期に集中豪雨的に旅行するスタイルだから、受け入れ側にしてみれば安定した観光収入が見込めないのだ。
少なくとも、そういった事実を踏まえ、観光立国を標榜していたのなら、外国人観光客のシャットアウトは最小限にしないといけなかったのに、まるで疫病神のように遮断している。

ビジネス渡航の名で受け入れる外国人技能実習生は日本の暗部

レッドカードを出す女性

一方では、私が2018年5月15日付で「将来の反日の芽となりかねない技能実習生という名の外国人奴隷たち」と書いた外国人の特定技能資格者は、出入国在留管理庁の特定技能在留外国人数統計にあるように、ビジネス渡航などと銘打って、こっそりと受け入れているものの、受け入れ企業の中には、彼らを低賃金でこき使った挙句、内地の犯罪者予備軍に貶めいているところも多いという。

何も知らない日本人は彼らが犯罪を犯したら「何でこんなヤツ入れたんだ~」と吠えるが、低収益のブラック企業が率先して外国人技能実習生を受け入れているものの、あまりの待遇の悪さに、そこから逃げ出しているのが実情だ。

「お前ら、社畜で人生楽しいか?」のブログを書いているAtusi氏が言う。「外国人実習制度を使ってる職場は辞めるべきブラック企業の特徴だ!
日本人労働者だけでは足らなくて、外国人を使わなければ経済が回らないのなら、きちんと処遇すればいいのに、政府も多くの御用メディアも頬かむりして、実態を報じないようにしている。

私は、このツケは10数年後に日本が経済的に没落し、日本人がアジア諸国に出稼ぎに行かないといけなくなったとき、大きなしっぺ返しとして跳ね返ってくると思うのだが、ほとんどの人はそんなことを考えてもいないだろう。

そして、2021年7月2日付の東京新聞が「『搾取』の汚名負った外国人技能実習制度 米国務省の人身売買報告書が指摘」と報じているが、米国務省からは毎年のように指摘があるに違いない。(2021年人身取引報告書 英文:2021 Trafficking in Persons Report: Japan

それでも日本政府が一向に見直さないのは、もはや低賃金の外国人を使わないと低収益なブラック企業が回らないからだろう。
私に言わせれば、そんな会社は全部潰せばいいと思うのだが、そうできないところに日本の闇がある。

尾身会長の変節は海外旅行自由化への第一歩か

パソコンを見ながらスマホを操作する女性

2022年1月19日付のWHO第10回国際保健規則緊急委員会の声明(Statement on the tenth meeting of the International Health Regulations (2005) Emergency Committee regarding the coronavirus disease (COVID-19) pandemic)は、上述したように、オミクロンまん延防止対策のための渡航制限は失敗(The failure of travel restrictions~)と大きくダメ出しした。

1月23日付の時事通信にある「尾身氏『人流より人数』発言が波紋 政府、対応に苦慮-新型コロナ」というのは、WHO関西太平洋地域事務局名誉事務局長を務めた彼の経歴から考えても、このWHOの勧告を受けたものと思えるが、世間一般では、新型コロナウイルス感染症対策分科会長にある彼の発言に困惑しているという。

それはそうだろう。
まん延防止等重点措置を要請した知事たちは、日本語メディアが報じないため、WHOが人流抑制(渡航制限)を効果がないとダメ出ししたのを知らないのか、相変わらず不要不急の外出自粛や、県境を超えるななどと唱えているからだ。
まさに周回遅れが鮮明なのだが、ほとんどの日本の為政者は気がつかないのだろう。

政府の中枢にいる尾身氏が変節したのは、海外旅行自由化への一筋の光明かもしれない。
しかしながら、海外旅行へ自由に行くことができたコロナ禍前の状態に戻るには、2022年1月28日付で掲載されている「水際対策強化に係る新たな措置(21)及び(22)による待機について」が抜本的に変わるなど、超えるべきハードルがまだまだありそうな気がする。

そう、2022年1月28日付のNHK News WEBで「水際対策 入国後の待機期間短縮 10日間から7日間に」と報じられたものの、長期休暇の取りづらいサラリーマンなど現役世代にとっては、海外旅行は遠い道であることに変わりはない。
逆にリタイア世代は渡航先の吟味さえ間違えなければ、少しは行きやすくなるのではなかろうか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました