菅義偉政権が推進するデジタル庁構想に思うこと

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頭を抱えるビジネスマン

2020年9月16日に発足した菅義偉内閣、その目玉政策は、行政改革、規制改革とデジタル庁創設と言われている。

これらを担当するのは、河野太郎行政改革・規制改革担当大臣と、平井卓也デジタル改革担当大臣なのだが、私は河野大臣は将来の首相候補として大いに期待しているが、平井大臣は残念としか言いようがないスタートになっている。

昭和のおじさん(特に高齢の経営者OBや管理職OB)は、平井大臣の言動を残念になど露程も思わないだろうが、私に言わせれば、新時代を担う大臣としては資質に疑問符がつくレベルである。

デジタル庁は発足前からブラック職場か

驚く外国人男性

私が平井卓也デジタル改革担当相の言動に違和感を感じたのは、9月19日付の時事通信の記事「政府、デジタル庁創設へ作業本格化 月内にも準備室立ち上げ」だ。

政府は19日、日本社会のデジタル化の司令塔となる「デジタル庁」の創設に向けた実務者の作業を本格化させた。
菅義偉首相から素早い仕事を厳命されていることもあり、平井卓也デジタル改革担当相が音頭を取って週末返上の会議を開催
月内にも内閣官房に準備室を設置する方針を決めた。

東京都内で開かれた検討会議には、オンラインも含め内閣官房の職員ら約20人が出席した。
平井氏は冒頭、「(首相に)相当なスピードを要求されている。小さく産んで大きく育てるスタイルにしたい」と前倒しの準備を指示。
デジタル庁の所管範囲や課題について、約4時間にわたって意見を交わした。

会議後、平井氏は記者団に対し、月内にも40~50人規模の準備室を立ち上げる考えを表明。
デジタル庁について「来年にはスタートしたい」と改めて強調した。

平井大臣の就任は16日、いきなり、前日か前々日に「今度の4連休はないものと思ってくれ」などと言われたら、担当を言い渡された部下はどう思うだろうか。

これが、緊急事態や納期間際の追い込みの局面なら理解できる。
しかし、まだ何も始まってもいないのに、人のプライベートの時間を蹂躙する行為を平気で行えることに私は大きな嫌悪感を感じた。

彼の出身母体の一つ、電通は、私が2017年9月3日付で掲載した「電通女性社員過労自殺事件がもたらす日本の残酷な未来」にあるように、日本の異常な労働環境と過労死(karoshi)を世界中に知らしめた会社の一つだ。
私は彼の言動に、電通に脈々と巣食うイヤな匂いを感じざるを得なかった。

ところで、有給休暇など取れそうもない中央省庁の幹部官僚たち、その貴重な休みを問答無用で取り上げられたら、平井大臣に積極的に協力していこうと思うだろうか。

各省庁のIT責任者というのは、私のサラリーマン時代の経験から言わせてもらっても、仕事ができる人間なのだ。
公務員が終身雇用だから辞めるわけはないなどと、国民の多くが前時代的なことを思っていると霞が関は空洞化するだろう。

実際のところ、2019年10月11日付のビジネスインサイダーの記事「厚労省官僚が霞が関を去った理由。『崩壊寸前』の働き方に危機感。自身の休職もきっかけに」で書かれている現職官僚の心の叫びが、上司である大臣を始めとする政治家に届くことはないのかもしれない。

それに、2020年3月7日付の「お前ら、社畜で人生楽しいか?」の記事「休日でも会議へ強制参加させられる会社は辞めるべきブラック企業だ!」の論で言えば、デジタル庁は発足もしていないのに、すでにブラック職場の様相を呈していると言えるだろう。

平井大臣のIT専門用語の羅列はマウントの現れか

レッドカードを出す女性

私もちょうどテレビを見ていたのだが、9月19日放送のTBS「新・情報7DAYS ニュースキャスター」で、タレントのビートたけしが「平井デジタル改革相のIT用語に『カタカナが多すぎるよ。どういう意味なんだって』」とコメントしていた。

進行役の安住紳一郎アナ(47)がボードを用いて平井氏が使ったIT用語を説明。

「『DX』はデジタルトランスフォーメーション。デジタル技術で人々の暮らしを変革すること。『UI』はユーザーインターフェース。入力や操作性など利用者と製品やサービスとの接点のことですね」と解説した。

2枚目のボードで「『コネクテッド・ワンストップ』は民間サービスも含め全ての手続きを1カ所で完結すること。『ワンスオンリー』は一度提出した情報は再提出不要ということ。

『デジタルファースト』は個々の手続きが一貫してデジタルで完結すること」と伝えると、たけしは「ユーザーインターフェースっていうのを『UI』に略すのは、いくらなんでもまずいだろ」とボヤいた。

これを見た私は、典型的なマウンティング(自分のほうが相手より優位であることをアピールすること)ではないかと思った。

確かに、マスメディアの記者の勉強不足は認めよう。
ただ、それを通じて見ている視聴者がどう感じるのか、平井大臣は考えたことはないのか。
それとも電通時代からそういったメンタリティで仕事をしてきたのか。

私ができているかどうかは別にして(笑)、現代のウェブライティングの基本は、誰にでもわかりやすく、要は、中学生でもわかるように書けと言われる。
これは、私がブログ執筆を請け負ったクラウドワークスでも言われたことだ。

専門用語を使わないといけないときは、その説明を必ず入れる。
読み手に対して「いちいちググれ!」と言わんばかりの文章は、相手にストレスを与える。
金をもらっている、もらっていないの問題ではなく、読み手がストレスを感じないようにすることが重要なのだ。

あるとき、専門用語がわからないと質問した人に対して、今時のヤツはググりもしねえのかと憤っていた熟年投稿者がいたが、これは現代においては間違いだ。
そういった意味では、ググる時間もなかった平井大臣の会見は、完全に説明者失格である。
テレビの前の視聴者相手でこれでは、部下にはもっと酷くなるのが、火を見るよりも明らかだ。

つまり、2019年11月25日付の「お前ら、社畜で人生楽しいか?」の記事「仕事を教えるのに専門用語を多用する奴からは逃げるべきと断言する!」の論で言えば、霞が関の公務員や民間のIT技術者は、デジタル庁に行かされないように逃げろということになる。
これでは、デジタル庁にまともな人材は集まらない。

IT戦略は日本の高齢政治家にやらせるよりグーグル(外国人)を招け

ノートパソコンとタブレット

明治年間を通じて、日本政府は近代化のために、3,000人にも及ぶ外国人を雇ったという。
はっきり言って、今の日本もそうするべきだ。
もはやIT分野において、特に政府機関が自分たちだけで、21世紀の情報化時代に即したシステムを構築するのは完全に無理だと思う。

菅内閣がスタートしたばかりで、まだ何の落ち度もない大臣を罷免するわけにはいかないから、次の総選挙後に組閣される新政府において、仮に、デジタル庁が発足していたとしても、行政改革・規制改革担当部局と一体化させ、グーグルジャパンのタスクフォースでも招聘すべきだ。

あるいは、高度IT先進国のエストニアや、シンガポールから人を招けばいい。
ついでながら、日本のインバウンドの再興に即した外国語表記も全部入れ替えればいい。

21世紀において、英語人材も情報化人材も枯渇している日本は、もはや自前で国は維持できない。
少子化を放置し、素直だけが取り柄の下請け人材しか輩出して来なかったツケは、こうして補うしかない。

それに、2005年2月23日付のコラム「はた迷惑な『おじさん』の実態」で紹介した、清水ちなみさんと古屋よしさんというOLが書いた「おじさん改造講座」という本に書かれているバブル経済(1987年)当時の彼らの生態は、すべて実話なのだ。

当時はワープロ、時代が下ってパソコン、今、スマホ、コンピューターが使えない昭和のおじさんの情報機器を毛嫌いする文化は未だに続いているのだから、これを変えるのは無理だろう。

私のサラリーマン時代の経験から言って、ITに疎い上司に、仕事のデジタル化の構想を説明するのは、英語のできない日本人に、外国人が英語で話しかけているのと同じことで、上司の方は、部下の提案に対して、Thank you(盲判を押す)とNo(理解できないので拒否)以外の返事はできないので、ノンIT大臣が適切に云々とかと言っても、私に言わせれば、バカ言ってるんじゃないとなる。

昭和のおじさんは、オレに理解できるようにしないヤツ(部下)が悪いとなるが、英語の基礎も学んでいない人間に、英会話をどんなに丁寧に教えても無駄なのと同じだ。
従って、日本政府のIT戦略が全くなっていないのは、大臣を含めて、霞が関の幹部官僚がITに疎い(不勉強)以外の何物でもない。

究極の電子政府か昭和への先祖返りか

日本地図とビジネスマン

日本の役所がどんなシステムを考えようと、決して出てこないのが、申請行為をなくすことだ。

私が4か月間の入院生活で、身体が不自由だったとき、多くの高齢入院患者を見てきた。
一人暮らしの高齢者も多い中、ご家族様、ご家族様と言い続ける病院関係者の要求に応えることが不可能な人が、どのくらいいるのか想像したことがある。

実際のところ、10万円の特別定額給付金の申請期限が切れようとする中で、未だに申請していない人が云々という記事が流れる。(2020年8月17日 日テレNews24ー「10万円給付」期限迫る…未申請ナゼ?

一般の人は、奇特なことに、お金をもらいたくないのだろうなどと想像するが、私の経験からしても、決してそうではない。
一人暮らしの高齢者が病床にいたら、身体が動かせないから、自ら役所に申請などに行けないし、入院していたら、自宅に郵便物を取りに、往復してくれる人が誰もいないのだ。

菅政権が活用を進めようとするマイナンバーに対して、プライバシーが~とか吠えまくる人が多いが、バカ言っているんじゃない。

もはや、少子化と財政難で、事務を担当する公務員は減らさざるを得ないし、一人暮らしの高齢者が激増するのが見えている中、究極の選択肢は、公的事務処理のオール自動化だ。
近い将来、日本人の若手公務員は、国防と治安維持や防災対策だけで手一杯で、単純事務仕事などに割く余裕はない。

原則として、申請行為をなくし、一定条件に該当したら、すべて自動処理され、通知が郵送される。
本人や親族、法曹資格者や医療従事者などの正規代理人が、その情報をポータルサイトで閲覧、修正できるようにする。

はっきり言って、それに近いことができなければ、早ければ10数年後には、コンピューターに適応できない高齢者が、数か月前のマイナンバー申請時に見られたように、役所に数時間並ぶことが恒常化し、日本中が怒号と悲鳴の中で、阿鼻叫喚の世界が待つことになるだろう。

それが全部嫌なら、究極の政策として、老齢年金を廃止し、今までの年金積立金を利息を付けて返金し、その代わり、希望する60歳以上の高齢者は、すべて事務公務員として終身雇用し、コンピューターをすべてなくし、1980年代以前の昭和時代のように戻ることだ。

かつての消費者金融、武富士手作業部隊の公務員版を展開し、文字通り、終身雇用する。
年金をもらえるのは、障害者と要支援以上の判定が下って、働けなくなった人だけだ。

そうすれば、年金問題も、一定周期に繰り返される政府・自治体のコンピューターのOS問題も解決する。
公務員の人件費が増えるとはいえ、彼らが働くことによる税収と消費が増えるのだから、良しとなるだろう。

私が現職時代、パソコンのOS問題で揺れていた時期に、冗談でそう言ったら、出入りのSE(システムエンジニア)から「やめてくれ」とか言われたが、今もそう言われるだろうか。(笑)

最後に

私は菅政権の目玉政策が、デジタル政府だと聞いたとき、どんな内閣の布陣になるのだろうと思ったが、デジタル化を促進する政府にしては、呆れるほどの高齢者内閣だった。

上述したように、ITに疎い上司に、仕事のデジタル化の構想を説明するのは、外国語のできない日本人に、英語で話しかけているのと同じことなのだ。
せめて、平井大臣が、台湾のIT大臣(Taiwan’s Digital Minister)、オードリー・タン(唐鳳/Audrey Tang)氏のようであれば、救われるのだが、今のところ、そうなりそうな気配は全く感じられない。

果たして、いずれ発足するデジタル庁はきちんと機能して、国民の期待に応えられるのだろうか。
その前に、このコラムを河野大臣に送ってみようかな。(笑)

コメント

  1. 行政のデジタル推進じたいは悪いことじゃないすよね。
    確かに担当大臣は詳しいのかもしれないですが、どのようにやるという道付けをきちんとできる人材のほうがふさわしいですね。
    果たしてそっちの能力が彼にあるのか、わたしゃ、疑問に思っています。
    行革担当大臣ですが、これはもしかしたら左遷なのかも。
    ブルーインパルス、イージスアショアの撤回から始まるこのところの彼の動きは、自分をアピールするパフォーマンスっぽい感じがします。
    個人的には悪くないと思ってますが、現首相は以上の行動をあまりよく思ってないかもしれませんね。

    • コメントありがとうございます。
      平井大臣、前も大した実績なさそうですし、何かやりかけたというものも見当たりません。
      あと1年で省庁設立だけで終わったら意味ないんですが。

      河野大臣は左遷かもしれないですね。
      英語ができる人は、当然にハッキリ意思表示します。
      日本人上司はそれが嫌い。帰国子女が疎まれるのと同じ。
      いつまでたっても井の中の蛙で終わるんですよ。多くの戦後の日本人幹部はね。

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