国外財産調書制度は脱税防止に役立つのか

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保土ヶ谷税務署

2012年度(平成24年度)税制改正において、国外財産調書の提出制度が創設された。(国税庁パンフレット・手引き-法定調書関係

適用開始時期は、2013年(平成25年)12月31日現在に保有する国外財産の金額が5千万円を超えるものについて、2014年(平成26年)1月1日以後に提出すべき国外財産調書からとなる。

普通に考えれば、金融資産が億単位であっても、その名のとおり、国外に財産がなければ、関係ないことだと高を括っていることだろう。
ところが、2012年10月30日付のザイスポは「日本にあっても国外財産の摩訶不思議!スタートまであと1年『国外財産調書制度』は無駄と抜け道が山積の奇怪制度」という記事を掲載した。

記事によると、この制度は国内の証券会社などを通して買った外国株なども調書の記載対象となるために、金融資産が億単位であると、国外に財産がなくとも、国外財産調書制度の適用対象となる可能性が出てくる噴飯物の法令だと言う。

それで、税理士や証券会社などに相談に行く人が絶えないという記事もあったほどで、実際のところはどうなのか私なりに調べてみた。

この国外財産調書の記載対象となるものを規定する根拠法令は、「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令」という長ったらしい名前の政令である。

この改正後の政令の第10条第1項で、国外財産の所在地を相続税法第10条第1項、第2項の規定を適用して特定するとしてしまったために、国内の証券会社で買った外国株や外国債、外国籍ファンドでさえ、株式や債券などを発行している政府や法人が外国にあるため、すべて国外財産となってしまうのだ。

平たく言えば、今時の金融投資商品で国外財産にならないものは、日本株、外貨預金(相続税法第10条第1項第4号で、国内の金融機関への預け入れ資産はすべて国内財産となる)、そしてFXやCFDの証拠金ぐらいなものだろうか。

証券業界などから突き上げられた金融庁が平成25年度税制改正(租税特別措置)要望として、「国外財産とされる有価証券の範囲から国内金融機関において管理されるものを除外すること」といったものを提出したのは当然の成り行きだろう。

ちなみに、この法令は、1回当たりの国外送金が100万円を超える場合、あるいは年間の国外送金回数が千回以上になった場合は、国税当局に国外送金等調書が通知されることが規定されているものでもある。(法第4条第1項、第2項、令第8条第1項)

ところで、億単位の財産がないような一般庶民は、この制度は全く関係ないと思っていることだろう。
しかし、金融庁の税制改正要望にもかかわらず、財務省が欠陥政令を改正せずに、このまま制度がスタートしたらどうなるか。

証券会社や金融機関は、富裕層の顧客を繋ぎ止めるために、現行の特定口座年間取引報告書に付随させて国外財産目録のようなものを作成するくらいのサービスはするだろう。

外国株の取引口座を保有している人に関しては、全員に対してそのような類のサービスを行うかもしれない。
果たして、その費用は誰が払うのか。

おそらく、外国株の取引手数料や、外国籍ファンドの信託報酬(運用経費や事務経費)、あるいは外国証券口座管理料の値上げなどで対応することになるだろう。

そんなことになれば、アベノミクス(第二次安倍内閣の経済政策)で戻りつつある個人(Finacial Times on March 11, 2013 – Mrs Watanabe comes out of hiding 日本語訳:JB Press-アベノミクス効果でミセス・ワタナベが市場に回帰)の投資離れがかえって酷くなるかもしれない。

一方で、本来なら純粋に国外にある資産だけを把握したい国税当局にとっても、国内の財産目録など書かれても全く意味がないどころか、それを振り分けている手間とコストは無駄以外の何物でもない。

現在、国税庁が租税条約などに基づいて外国の税務当局との間で行われている情報交換件数は、国税庁から要請した分に限れば、平成23年度の1年間でわずか1,000件余りだ。

おそらく、外国の税務当局との情報交換は、高額の脱税が見込まれるケースに限ってやっているのだろうが、これに自己申告に基づく調書が加わったところでどれほど役に立つのだろうか。

限られた人員でやり繰りしている国税当局が余計な仕事を抱え込めば、それだけ脱税や滞納者の捕捉が疎かになり、かえって悪影響を及ぼしかねない。

2012年9月8日付の日経新聞の記事には「税務署はここを見る 国外財産と『金』に照準」とあるが、実際に制度が始まると、どうなるだろうか。
私が思うには、今のままでは国税当局でさえ喜ばない、要するに、友人のPharmさんがよく言っている「誰も幸せにしない日本システム」がまた一つ増えることになるだろう。

内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(平成24年3月31日法律第16号/未施行)
第三章 国外財産に係る調書の提出等
第5条(国外財産調書の提出)
居住者(所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第二条第一項第三号に規定する居住者をいい、同項第四号に規定する非永住者を除く。)は、その年の十二月三十一日においてその価額の合計額が五千万円を超える国外財産を有する場合には、財務省令で定めるところにより、その氏名及び住所又は居所並びに当該国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した調書(以下「国外財産調書」という。)を、その年の翌年の三月十五日までに、次の各号に掲げる者の区分に応じ、当該各号に定める場所の所轄税務署長に提出しなければならない。ただし、同日までの間に当該国外財産調書を提出しないで死亡し、又は同項第四十二号に規定する出国をしたときは、この限りでない。
その年分の所得税の納税義務がある者 その者の所得税の納税地
前号に掲げる者以外の者 その者の住所地(国内に住所がないときは、居所地)
前項の規定の適用がある場合における国外財産に係る所得税法第二百三十二条第一項に規定する明細書に記載すべき事項については、同項の規定にかかわらず、当該明細書への記載を要しないものとする
前項に定めるもののほか、国外財産の所在及び価額に関する事項その他第一項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
第五章 罰則
第10条
国外財産調書に偽りの記載をして税務署長に提出した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
正当な理由がなくて国外財産調書をその提出期限までに税務署長に提出しなかった者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。
内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令(平成24年3月31日政令第106号/未施行)
第三章 国外財産に係る調書の提出等
第10条(国外財産調書の提出に関し必要な事項)
法第五条第一項の国外財産の所在については、相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)第十条第一項及び第二項の規定の定めるところによる。
前項の規定による国外財産の所在の判定は、法第五条第一項に規定するその年の十二月三十一日(次項及び第四項において「その年の十二月三十一日」という。)における現況による。
法第五条第一項の国外財産の価額は、当該国外財産のその年の十二月三十一日における時価又は時価に準ずるものとして財務省令で定める価額による。
前項の規定による国外財産の価額が外国通貨で表示される場合における当該国外財産の価額の本邦通貨への換算は、その年の十二月三十一日における外国為替の売買相場により行うものとする。
相続又は包括遺贈により取得した国外財産について国外財産調書(法第五条第一項に規定する国外財産調書をいう。以下同じ。)を提出する場合において、当該相続又は包括遺贈により取得した国外財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によってまだ分割されていないときは、その分割されていない国外財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法(明治二十九年法律第八十九号)(第九百四条の二を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該国外財産を取得したものとしてその価額を計算するものとする。
前各項に定めるもののほか、国外財産の所在及び国外財産調書の書式その他国外財産調書の提出に係る手続に関し必要な事項は、財務省令で定める。
内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行規則(平成24年3月31日財務省令第31号/未施行)
第三章 国外財産に係る調書の提出等
第12条(国外財産調書の記載事項等)
国外財産調書(法第五条第一項に規定する国外財産調書をいう。第五項において同じ。)には、同条第一項本文の規定に該当する者の氏名及び住所又は居所のほか、別表第一に定めるところにより、当該者の有する国外財産の種類、数量、価額(令第十条第三項に規定する国外財産の価額をいう。同表において同じ。)及び所在(令第十条第一項並びに次項及び第三項の規定による国外財産の所在をいう。同表において同じ。)その他必要な事項を記載しなければならない。
法第五条第一項の国外財産の所在について令第十条第一項の規定により相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)第十条第一項の規定の定めるところによる場合は、同項第五号に規定する保険金には保険(共済を含む。)の契約に関する権利を、同項第八号に規定する株式には株式に関する権利(株式を無償又は有利な価額で取得することができる権利その他これに類する権利を含む。)を、それぞれ含むものとする。
法第五条第一項の国外財産の所在については、令第十条第一項及び前項に定めるもののほか、次の各号に規定する場所による。
預託金又は委託証拠金その他の保証金(相続税法第十条第一項第四号に掲げる財産を除く。以下この号において「預託金等」という。)については、当該預託金等の受入れをした営業所又は事務所の所在
有価証券(金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第一項第十六号に掲げる有価証券、同項第十七号に掲げる有価証券(同項第十六号に掲げる有価証券の性質を有するものに限る。)及び同項第十九号に掲げる有価証券をいい、同条第二項の規定によりこれらの有価証券とみなされる権利を含む。)については、当該有価証券の発行者(同条第五項に規定する発行者をいう。)の本店又は主たる事務所の所在
民法第六百六十七条第一項に規定する組合契約、匿名組合契約その他これらに類する契約に基づく出資については、これらの契約に基づいて事業を行う主たる事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在
信託に関する権利(相続税法第十条第一項第九号及び前三号に規定する財産を除く。別表第一において同じ。)については、当該信託の引受けをした営業所、事務所その他これらに準ずるものの所在
相続税法第十条第一項及び第二項並びに前項並びに前各号に規定する財産以外の財産については、当該財産を有する者の住所(住所を有しない者にあっては、居所)の所在
令第十条第三項に規定する時価に準ずるものとして財務省令で定める価額は、法第五条第一項に規定するその年の十二月三十一日における国外財産の見積価額(当該国外財産が、その年分の事業所得(所得税法第二十七条第一項に規定する事業所得をいう。以下この項及び別表第一において同じ。)の金額の計算の基礎となった所得税法第二条第一項第十六号に規定する棚卸資産である場合にあっては当該棚卸資産の評価額とし、同項第四十号に規定する青色申告書を提出する者の不動産所得(同法第二十六条第一項に規定する不動産所得をいう。同表において同じ。)、事業所得又は山林所得(同法第三十二条第一項に規定する山林所得をいう。同表において同じ。)に係る同法第二条第十九号に規定する減価償却資産である場合にあっては同日における当該減価償却資産の償却後の価額とする。)とする。
国外財産調書の書式は、別表第二による。
国税庁長官は、別表第二の書式について必要があるときは、所要の事項を付記すること又は一部の事項を削ることができる。

関連サイト

コメント

  1. 「香港の証券会社で日本株を買うと対象外になる」と読み取れます。

  2. カルロス より:

    札幌の不動産屋日記さん
    法律の解釈はその通りではないかと思います。
    変な感じですね。
    政令だから国会の会期に関係なく、財務大臣が決裁すれば(実質的には事務次官?)OKなはずなので、普通は修正できると思いますが、どうなりますかね。

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