2020年1月10日、私は聖マリアンナ医科大学病院から戸塚共立リハビリテーション病院に転院することになったのだが、このときは車椅子でなければ動けない状態にあったので、移送元の医師の指示で介護タクシー(のぼりと介護タクシー)を利用することになった。
その費用は12,800円、これは医療費控除の対象(基本的に、電車やバスなどの公共交通機関が利用できない場合を除き、タクシー代は控除の対象には含まれない。)になることがわかっている人はいると思うが、この金額は移送費として健康保険で全額還付されることをご存じだろうか。
少なくとも、私が関わった二つの病院の関係者は、ほとんど誰も知らなかった。
今回のコラムは、こうした制度の無知を改善すべく、多くの人に読んでもらうことを期待して書いたものである。
移送費の請求
移送費とは
全国健康保険協会(協会けんぽ)の説明によると、
病気やけがで移動が困難な患者が、医師の指示で一時的・緊急的必要があり、移送された場合は、移送費が現金給付として支給されます。
【支給要件】
移送費の支給は、次のいずれにも該当すると保険者が認めた場合に行われます。
- 移送の目的である療養が、保険診察として適切であること。
- 患者が、療養の原因である病気やけがにより移動が困難であること。
- 緊急・その他、やむを得ないこと。
端的に言えば、自力で歩行が困難な患者が、転院(病院を変わる)などの際に、医師の指示によって介護タクシーなどの移動手段を使ったときは、申請によって、その費用の全額が返ってくるという制度だ。
申請には、タクシーの領収書の添付が必要になるので、下車の際にもらっておこう。
私のケースはまさにこれに該当したので、移送費を申請して、かかった費用を還付してもらった。
現金給付と書いてあるが、実際には指定した銀行口座へ振り込まれる。
なお、移送を必要とする医師又は歯科医師の意見書(診断書)は、移送元の病院の医師が書く必要があり、その料金はかからないことになっている。
参考までに、保険医療機関及び保険医療養担当規則によれば、第6条(証明書等の交付)に以下のような規定がある。(法=健康保険法)
第六条 保険医療機関は、患者から保険給付を受けるために必要な保険医療機関又は保険医の証明書、意見書等の交付を求められたときは、無償で交付しなければならない。
ただし、法第八十七条第一項の規定による療養費(柔道整復を除く施術に係るものに限る。)、法第九十九条第一項の規定による傷病手当金、法第百一条の規定による出産育児一時金、法第百二条第一項の規定による出産手当金又は法第百十四条の規定による家族出産育児一時金に係る証明書又は意見書については、この限りでない。
なお、協会けんぽ東京支部に確認したところ、有料になるもの、例えば、傷病手当金の意見書交付料(1,000円)は、保険が効く(3割負担)ので、その分だけリーズナブルな価格(300円)で作成してもらえるとのことである。
移送費の請求先
全国健康保険協会(協会けんぽ)
健康保険被保険者証(健康保険証)に記載されている管轄の協会けんぽ支部へ郵送する。
なお、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が発せられている期間中は、協会けんぽ支部の窓口受付及び、各都道府県の年金事務所の窓口での申請書の受領は休止していることがある。
横浜市国民健康保険
各区役所の保険年金課保険係へ郵送するか、窓口へ直接持参する。
移送費のことを知らない人が多いわけ
表題にあるとおり、私の4か月間の入院生活で、今回の移送費を申請すれば、健康保険で補填されることを知っていた人は皆無だった。
医師や看護師が、その制度を知らなくても仕方がないと思うが、少なくとも、病院の事務やソーシャルワーカーすらあまり知らなかったことに私は驚いた。
私も最初はこの制度を知らなかったのだが、戸塚共立リハビリテーション病院に転院した後で、第1回目の傷病手当金を請求しようと思ったときに、何かほかに請求できるものがないか、協会けんぽのウェブサイトを見ていて、フトした拍子に発見したものだ。
そこで、なぜ彼らがこのことを知らないのか考えてみた。(違うかもしれないが)
- 入院加療の途中で転院させなければならない患者のうち、介護タクシーを使うようなケースが相対的に少ない。
- 患者や家族が、移送を必要とする医師又は歯科医師の意見書(診断書)を作成してもらう費用が高いと思い込んでいるため(実際は、保険医療機関及び保険医療養担当規則第6条により無料)、元が取れないとして、請求自体が少ない。
- 対象となる患者に高齢者が多いため、配偶者も含めて、IT弱者が多く、医療関係者ですらあまり知らない制度を彼らが知る由がない。
とりあえず、理由としては、このような感じだが、いずれにせよ、移送費の制度は、医療関係者にすらあまり知られていないと思った方がいいだろう。
私の移送費支給申請のタイムライン
参考までに、私が手続きした移送費支給申請に関して、タイムラインを掲載しよう。
戸塚共立リハビリテーション病院に入院中、かつ、歩行に支障があった状態で、ネックになったのは移送元(聖マリアンナ医科大学病院)からどのようにして「移送を必要とする医師又は歯科医師の意見書(診断書)」を取り寄せるかだった。
(このときは、退院後もしばらくは遠出は無理ではないかという見立てだった。)
2020年4月下旬の段階では、コロナ禍の元にあることで、郵送の取り扱いをすんなりとできたが、基本的に、病院から診断書を取り寄せるのは窓口交付(第三者請求は委任状持参)が原則になっているからだ。
従って、1月のときは、移送先(入院中)の医師の診断書を取り寄せたのだが、案の定、審査で撥ねられてしまったわけである。
ここで普通なら、診断書料金がダブルでかかる(元が取れない可能性が出る)わけだから、これで諦めるのだが、私はブロガーの意地(笑)でやり通したというわけだ。
月日 | 出来事 |
1月25日 | 戸塚共立リハビリテーション病院に転院した後で、移送費の制度があることがわかり、職場の上司がお見舞いに来る際に申請書を取り寄せ。 |
1月27日 | 「移送を必要とする医師又は歯科医師の意見書(診断書)」を、どちらの病院で書いてもらえばいいのかわからず、戸塚共立リハビリテーション病院の医師に依頼。 このときは入院中だったので、診断書が出来次第に引き取る手順になっていた。(診断書料金は保険医療機関及び保険医療養担当規則第6条により無料) |
3月12日 | 第2回目の傷病手当金支給申請書とともに、移送費支給申請書も勤務先に郵送。(移送費は勤務先を経由する必要はない。) |
4月6日 | 戸塚共立リハビリテーション病院を退院して自宅に戻る。 |
4月8日 | 指定口座に傷病手当金の入金あり。 |
4月11日 | 協会けんぽ東京支部から4月9日付文書で、移送費支給申請書は添付書類不備返戻。(診断書を聖マリアンナ医科大学病院で取るよう指示あり。) |
4月14日 | 聖マリアンナ医科大学病院にあて、郵送で「移送を必要とする医師又は歯科医師の意見書(診断書)」の作成を依頼。 |
4月22日 | 聖マリアンナ医科大学病院に依頼した医師の意見書が到着。(診断書料金は保険医療機関及び保険医療養担当規則第6条により無料) |
4月23日 | 協会けんぽ東京支部へ移送費支給申請書を返送。 |
5月8日 | 指定口座に移送費の入金あり。 |
私は、4月の退院直後の通院時には、介護タクシーを使わないといけないレベルだったのだが、それは協会けんぽの「健康保険移送費支給申請書」のページに、「通院時、一時的・緊急的とは認められない場合は、移送費の支給の対象とはなりません。」と明記されていたので、医療費控除の対象にしかならないようだ。
最後に
正直言って、ここまで苦労してやる必要があるのかと思うだろう。
長期入院している人は、傷病手当金や生命保険(損害保険)の入院給付金が10万円単位で入るので、移送費支給申請のように、数千円の給付金の書類には頓着しない人も多いと思う。
上述したように、この制度のことをほとんどの人が知らないのは、そういうことも影響しているのかと、私自身が手続きしていて思った。
しかしながら、健康保険の制度として存在する以上、少なくとも、医療関係者の方々には知っておいて欲しいと思う。
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