来る6月23日のイギリスのEU離脱(Brexit)の是非を問う国民投票(The UK’s EU referendum)の世論調査結果で、EU離脱が現実化するかもしれないという懸念から、先週の主要国の株式市場は大きく下落した。
実際のところ、イギリスの経済誌エコノミスト(The Economist)が掲載しているThe Economist’s “Brexit” poll-trackerでも6月16日時点では、EU離脱派(Leave)とEU残留派(Remain)が40%対39%とわずかに離脱派がリード、態度未定(Don’t Know)が14%もいるということで予断を許さない状況になっている。
なお、市場関係者が購読していると思われるフィナンシャル・タイムズ(Financial Times)のBrexit poll-trackerの最新調査(6月19日現在)でもEU離脱派(Leave)がわずかにリードしているとの結果が出ている。
ちなみに、エコノミスト(The Economist)の調査の方は、回答者の属性に応じて世論調査結果が変わるので、興味がある人はやってみるといいだろう。
例えば、男性(Male)、貧困層(Poor)、熟年者(Old)は、EU離脱派(Leave)が大きくリード、富裕層(Rich)と若年者(Young)はEU残留派(Remain)が大きくリード、女性(Famele)はEU残留派(Remain)が若干リードという結果になる。
一方で、ブックメーカーのオッズは残留派有利となっており(2016年6月15日 ブルームバーグ-なぜブックメーカーは英国のEU離脱ないと信じているのか)、これらの情勢を交えて、イギリスのThe Weekという週刊誌は6月17日付でEU referendum polls and odds: Businesses fear Brexit hit(EU離脱の国民投票、世論調査とブックメーカーのオッズ:離脱に怯える英財界)というコラムを掲載している。
さて、昨日参加したアメジスト香港特別セミナー「明日の世界マーケットはこう動く」では、酒匂隆雄氏と川口一晃氏の対談による「為替&株価、私ならこう投資する!」というコーナーがあり、 時節柄、英国国民投票(The UK’s EU referendum)のことにも触れられていたが、酒匂氏の結論は、「40年間為替の世界にいた私から言わせてもらえれば、個人投資家がギャンブルするのはおやめなさい。結果がどちらになっても為替は大きく動くだろうからリスクが大きすぎる。私は現時点でノーポジションだ。」とのことだった。
えええ、と心の中で思う人もいるだろうが、酒匂氏は「国民投票の結果が出てから動いても個人投資家なら十分、ギャンブル(EU離脱のイギリス国民投票の結果)で儲け損ねたかもしれないと悔やんではいけない。」とも言っている。
確かに私もそう思う。
しかしながら、6月17日付のロイターは「ミセスワタナベがポンド逆張り、英離脱ならドル/円下落加速も」という表題で、
「東京金融取引所のFX『くりっく365』の個人投資家のポンド/円のポジションは、6月16日時点で売り建て18,234枚に対し、買い建ては約15倍の275,209枚に達する。ブレグジット(英国のEU離脱)懸念の高まりを背景に、ポンド/円は年初から17%下落し、約3年ぶりの安値水準だ。それにもかかわらず買い建てるのは、ミセスワタナベが得意とする逆張り戦略とみられている。
『残留するに違いないと、ヤマを張る投資家がいる』(FX会社)という。英金利の相対的な高さに着目し、スワップポイント(通貨間の金利差)を期待して買いが膨らみやすいとの事情もある。ただ、『ポンドが歴史的安値圏にあるというだけの理由で買っている個人投資家が、かなり多い印象だ』(別のFX会社)との指摘も多い。」
と報じている。
私もかつてはFXに手を出したことがあるので、ミセスワタナベと呼ばれる日本の個人投資家の気持ちはわかる。
日本の投資家の場合、ローリスク商品に金利が付かなくなって20年近くたつので、定期的にお金が入ってくる安心感を持ちたいというものが心のどこかにある人は多い。
従って、「スワップポイント(通貨間の金利差)を期待して買いが膨らみやすいとの事情もある」のもよく理解できるし、私もそういう戦略を取ろうとしたこともある。
ところが、今年の日本株や為替のトレンドは、円高株安だ。
1月から6月までの流れを見ていると、ロングポジションを取ったときのロスカットは早めに、ショートポジションを取ったときのロスカットは自分のリスク許容量のギリギリまで大丈夫という感じだ。
実際、私の日本株トレードの成績が振るわなかった月を検証すると、いずれもロングポジションのロスカットが遅過ぎ、ショートポジションのロスカットが早過ぎたことによるものだとわかった。
極論すれば、ロングポジションは裏目に出たら即日損切り(翌日の反発は期待しない)で、ショートポジションの場合はロスカットを設定しなくても良かったくらいのレベルだ。
もちろん、今後はどうなるかわからないが、安倍首相が伊勢志摩サミットで「リーマン前と似てる」(2016年5月28日 毎日新聞-伊勢志摩サミット「リーマン前」に批判相次ぐ)と発言したのを覚えているだろうか。
このときの世界の論調はそこまで危機的な経済状況ではないというものだったが、日本だけは危機的な状況であると、霞が関の一部は思っていたのだろう。(2016年5月31日 リストラおやじの危ない生活!-世界経済がリーマンショックに似ていると消費税延期だが、景気悪いのは日本だけ)
実際のところ、脆弱な日本市場を狙い撃ちする向きもあるし(2016年6月17日 日刊ゲンダイ-空売り比率が最高に “狙われた東京市場”暴落待ったなし)、為替も円が逃避通貨という認識がされている以上、ドル円相場の100円割れも見えてきている。
いくら何でもこのラインは割れないだろうというところを割るのが暴落相場の特徴とも言えるからだ。
安倍首相の言う「リーマン前に似ている」というものが日本市場に当てはまるならば、それこそセリング・クライマックス(selling climax)が来るまでは底打ちはないというのが正しい見方だろう。
仮に、イギリスのEU離脱の是非を問う国民投票(The UK’s EU referendum)で離脱が決定すれば、すでに市場は織り込み済みとはいえ、欧州の景気の不透明感が漂い続けて、株式市場は下落を続ける可能性が大きくなる。
また、大統領選を前に何とか小康状態を保っている米国市場も、「クリントン氏、トランプ氏のどちらがホワイトハウスの住人になったとしても、米大統領と米株式市場の過去のサイクルは、新大統領の就任1年目となる2017年が米国株にとってひどい年になり得るということを示唆している。(2016年6月13日 WSJ-米国株、大統領選での上昇は期待できず)」と書かれた記事にもあるように、11月の大統領選後は米国市場が下落に転じる可能性があるので、そうなれば来年こそ世界市場の危機になる。
逆に、EU残留が決定し、世界中が当面の危機を脱したと安堵すれば、一時的に株式市場はショートカバーも入ることによって猛烈に反騰し、為替も円安方向に大きく動くだろうが、日本市場にとっては、セリング・クライマックス(selling climax)も遠のくことになる。
酒匂隆雄氏を始めとする為替のプロたちは、こうしたイベントの前には個人投資家はポジションを持たない(関わらない)のが最善であると言うが、それでも関わりたい(勝負したい)と貴方がおっしゃるならショートポジションがベターかと思う。
今年のトレンドは円高株安、ロングポジションの含み損は解消不能だが、ショートポジションの含み損は2週間程度で解消可能なのが今年の上半期の流れだからだ。
川口一晃氏は今回のセミナーでこうも言った。「今までの例で言えば、1月相場が下がった年は4月が危ない。4月もダメなら6月、8月と危なく、10月が最も危ない。」
ちなみに、私はこの期間は北海道旅行に出かけることもあり、ポジションはすべて解消するか、少額のショートポジションだけ残していくつもりである。
コメント