複雑怪奇な少額投資非課税(ニーサ/NISA)口座

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相談する女性

去る10月23日、大和証券本社で少額投資非課税制度(愛称ニーサ/NISA)に関するセミナー(ダイワのNISA・イブニングセミナー)があったので行ってみた。

この少額投資非課税制度(愛称ニーサ/NISA)とは、今年の12月31日で失効する証券投資課税の軽減税率(租税特別措置法-平成20年改正法附則-第43条)に代わるものとして、来年1月1日から個人投資家を対象に、最長10年間の非課税の投資枠(非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置)を設けるものだ。

この非課税措置を受けるためには、日本の金融行政の賜物らしい(!?)複雑怪奇な制約がたくさんあるようなので、金融機関のセールストークに惑わされないようにしたい。

まず、2014年(平成26年)1月1日以降、株式譲渡所得や配当所得に関して非課税措置の適用を受けるためには、現在取引している金融機関(証券会社や銀行など)に投資証券口座があっても、別にNISA口座と呼ばれる口座を開かなければならない。

また、NISA口座は、下記の各勘定設定期間中に1つの金融機関でしか開設できず、しかも途中で金融機関を変更できないので注意が必要だ。
従って、1人の個人が複数の金融機関に対してNISA口座の申込みしていないかどうかを確認するための、管轄税務署の作業が1カ月ほどかかるらしいので、来年の1月に間に合わせるためにはNISA口座の申込を11月中旬くらいまでにはした方がいい。

区分 勘定設定期間 基準日
(イ) 2014年(平成26年)1月1日から2017年(平成29年)12月31日 2013年(平成25年)1月1日
(ロ) 2018年(平成30年)1月1日から2021年(平成33年)12月31日 2017年(平成29年)1月1日
(ハ) 2022年(平成34年)1月1日から2023年(平成35年)12月31日 2021年(平成33年)1月1日

ちなみに、NISA口座の申し込みには、各勘定設定期間に対応する基準日の居住地の住民票の添付が必要なので、その手間がかかることも念頭に入れた方がいいだろう。

特に、基準日以降に住民票を移した人は、除住民票が必要になるので、基準日に居住していた自治体へ定額小為替を添えて郵送で請求することになろうか。

ここまでやると財務省の役人の嫌がらせかと言いたくなるのだが、各金融機関はNISA口座獲得競争に凌ぎを削っているので、大和証券のように、住民票の取得代行サービスを提供しているところもあり、他の証券会社などでもそういうものがあるか確認するといいだろう。

また、基準日現在で住民票が日本にない海外居住者は、それに対応する勘定設定期間中はNISA口座を利用することができない。
次に、セミナーの講演では、NISA口座(非課税口座)で投資するには以下のことに注意すべきと説明された。

(その1)

NISA口座では、毎年最大100万円まで非課税投資が可能である。
この非課税投資枠には買付手数料は含まれず、あくまで投資元本の買付価格のみで計算され、その金融商品の売却によって生じる譲渡所得に対して課税されることはなく、配当金などにも課税はされない。

従って、買付価格が100万円の株が250万円になり、譲渡所得が150万円になったとしても課税はされないが、逆に80万円に値下がりした株を売って20万円の損失が出たとしても、それを翌年度に繰り越したり、ほかの口座の譲渡所得などと通算することはできない。

また、2013年12月31日以前から保有している金融商品について、それをNISA口座に移管することはできない。
軽減税率が適用されるうち(2013年12月まで)に持ち株を売って、2014年1月にNISA口座で買い直すということを多くの個人投資家がやると、塵(チリ)も積もれば山となる、ではないが、12月相場の波乱要因になるかもしれない。

(その2)

非課税枠は最大5年間有効で、2014年中にNISA口座で買い付けた金融商品は2018年までに売却すれば非課税となる。
従って、2018年から2023年までは最大500万円(5年分)の非課税枠が利用可能となる。

また、配当性向の高い金融商品を保有している場合、最大5年間にわたって配当所得が非課税になるので有利である。
但し、配当金について、NISA口座での受取を指定していないもの、要するに従来の方式である配当金領収書を直接ゆうちょ銀行などの窓口へ持ち込んで現金を受け取る場合は非課税とならない。

(その3)

NISA口座は、各勘定設定期間中に1つの金融機関でしか開設できず、しかも途中で金融機関を変更できない。
但し、異なる勘定設定期間においては別の金融機関にNISA口座を開設できるので、2018年と2022年だけは2つの金融機関でNISA口座を保有できることになる。

(その4)

5年間の非課税期間が終わった場合、最大100万円までは翌年の非課税枠へ移管が可能だが、100万円を超える値上がり分は、課税口座(特定口座あるいは一般口座)へ移管するか、さもなければ、売却することになる。
また、NISA口座で買った金融商品が、非課税期間終了によって課税口座(特定口座・一般口座)に移管された場合、税制上の取得価格は実際の取得日でなく、移管日の価格で決定されることに注意しなければならない。

(その5)

NISA口座で投資した金融商品を売却した場合でも、その商品の買付価格に相応する非課税枠を再利用することができない。
また、ある年分について非課税枠を一部しか利用しなかったとしても、翌年にその剰余分を繰り越すことはできない。

(その6)

NISA口座で投資できる金融商品は、課税口座(特定口座あるいは一般口座)で投資できるものと一致するとは限らず、特に上場株式においては、NISA口座では信用取引ができないことと、NISA口座で投資している上場株式等は、課税口座で信用取引する場合の委託保証金率には反映しないことに注意しないといけない。

最後に、最も気をつけないといけないのが税金のことだ。
具体例をあげて説明するので、特にNISA口座で毎月分配型の株式投資信託を買い付けようという人は気をつけた方がいいだろう。

2014年(平成26年)3月、60歳で定年退職したAさんは、長年の取引銀行であるX銀行から勧められるままにNISA口座を開くことになった。

Aさんは会社勤めをしている間、投資とは無縁な生活を送ってきたが、昭和28年(1953年)5月生まれなので、特別支給の厚生年金が61歳からしか出ない(日本年金機構-特別支給の老齢厚生年金の受給開始年齢の引上げについて)こともあって、もらった退職金が日々減り続けることに恐怖と不安を感じていた。

そこで、X銀行の営業マンの言う、年金のように定期的に分配金がもらえ、しかも非課税であるというセールストークに踊らされて、毎月分配型のK投資信託を100万円分(基準価額10,000円で100口)買うことにした。

100万円分の投資元本では分配金も小遣い程度にしかならなかったが、Aさんは精神的な安定を求めたいがために、清水の舞台から飛び降りるつもりで投資デビューをしたのだった。

Aさんが買った毎月分配型のK投資信託は、X銀行の営業マンの言うように毎月分配金は出たが、本体のパフォーマンスは悪く、基準価額は10,000円から下がり続けていた。

ところが、数年たち投資のことも少しはわかるようになったAさんは、K投資信託のパフォーマンスもさることながら、X銀行の商品ラインナップが少ないことにも不満を持った。

そこで、Aさんは、2018年になれば別の金融機関にNISA口座を開けることを知り、Y証券にNISA口座を開いた。

もっとも、K投資信託については、5年間売り時を見極められずに、ついに非課税期間最終年である2018年を迎えてしまった。
Aさんは、その後Y証券をメインに取引を始めたが、X銀行で買ったK投資信託をどうしようかと思っていた。

2018年に非課税期間が終わったK投資信託は、2019年1月4日付で課税口座(Aさんの場合は特定口座とする)に自動的に移管され、そのときの基準価額は7,000円となっていた。

2019年以降もX銀行でNISA口座を保有していれば、その非課税枠に移管が可能であったが、AさんはY証券にNISA口座を開設したため移管が不可能となった。
しばらくして、Aさんは長男夫婦と同居するために引っ越しをすることになり、オンラインでの取引が不自由なX銀行の口座を閉鎖することにした。

同時にK投資信託も清算(売却)しなければならないハメになったが、そのとき基準価額は8,000円だった。
分配金も8年間もらったし、損切りしてもいいかと覚悟を決めたAさんだったが、X銀行から送られてきた取引報告書の源泉税の欄を見て激怒した。

「10,000円で買ったものが8,000円になって損しているのに税金がかかるとは何だ!私は取引報告書を全部取っておくほど几帳面な男なんだ!計算に間違いはない!」とX銀行と、税務署、市役所の税務課にまで怒鳴りこんだ。

何でこんなことになるのか。
それは、NISA口座の制度に問題があるからだ。
要は、NISA口座で買った金融商品が非課税期間終了によって、課税口座(特定口座・一般口座)に移管された場合、税務上の取得価格は実際の取得日でなく、移管日の価格で決定されることにある。

従って、Aさんの買ったK投資信託の税務上の取得価格は10,000円でなく、7,000円、売却時の価格が8,000円だから利益が出たとみなされ、課税されることになるのだ。

これとは逆に、NISA口座から課税口座(特定口座・一般口座)に移管された時点の価格より実際の売却時の価格の方が下回っていれば、実質的に儲かっていても課税はされない。

つまり、Aさんが買ったK投資信託のケースで言えば、移管時の価格が12,000円、売却時の価格が11,000円だとすれば、実際は1,000円プラスでも税制上は1,000円マイナスということになる。

このことは、NISAの制度が終わる2024年(平成36年)にはすべての人の問題になり得る。
果たしてこのことを顧客に説明している金融機関の営業マンがどの程度いるだろうか。
それと財務省や金融庁の役人は、一般の投資家がこんなことを理解できると本気で思っているのだろうか。

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