政治家と幹部公務員の自己保身、記者クラブメディアの無能に翻弄された現場の悲劇

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頭を抱えるビジネスマン

先月、衆議院の解散の直前(2012年11月16日)に成立した国家公務員退職手当減額法(国家公務員の退職給付の給付水準の見直し等のための国家公務員退職手当法等の一部を改正する法律)の余波で、駆け込み退職を決断せざるを得なくなった公務員が、メディアやその記事を読んだブロガーたちの批判を浴びていた。

ブロガーやSNSの投稿者の多くは、駆け込み退職をしようとしている(した)公務員をメディアと一緒になって非難していたが、私はこれらを見て、極めて日本的な問題が噴出しているな、と呆れ返った。

極論すれば、部下の中途退職リスクも考慮できなかった政治家や幹部公務員たちが、国民の生活のリスクヘッジができると思うか、ということだ。

この法律の概要というのが総務省の「新規制定・改正法令・告示 法律」(法案の段階では「国会提出法案」の第181回国会(臨時会)提出法案)に掲載されているのだが、この支給水準引下げの内容を見ると、「1.官民均衡を図るために法律上設けられた調整率を、次のとおり段階的に引き下げる。」とあって

期間 調整率
現行「(2012年(平成24年)12月31日まで」 104/100
2013年(平成25年)1月1日から2013年(平成25年)9月30日まで 98/100
2013年(平成25年)10月1日から2014年(平成26年)6月30日まで 92/100
2014年(平成26年)7月1日以降 87/100

となっている。

普通に考えれば、年度途中のぶん投げ退職を促進するような法律である。

そもそも国家公務員退職手当減額法案が国会に提出されたのは2012年11月2日となっているが、実際のところは、その年の夏には閣議決定もされていた。

この法案を私が最初に見たとき、国家公務員の仕事は、年度末でない中途半端な時期に幹部やベテラン職員が辞めても問題ないのだろうか、と思ったものだ。

仮に国家公務員がそうだとしても、私が知る限りにおいて、年度単位で仕事を回している地方自治体にこれを丸呑みさせたら、現場はどうなるのだろうかと懸念していた。

そして、それは今年になって現実のものとなった。
いくら国会議員が多忙だとはいえ、A4版で3ページ程の法案の概要にすら誰も目を通していなかったのか。

それで審議をしたと言って法案を可決しているとは怖ろしいことだ。
そもそも法案を決裁する人事当局の役人は揃いも揃って思慮の浅いバカしかいなかったのか。

ニュースを報じるメディアも「2014年7月までに3段階で引き下げる予定で・・・」となっている段階で、年度末でないことに疑問すら感じなかったのか。

私が耳にしたところによると、今年の1月から退職金引下げとなった自治体で駆け込み退職騒動が生じていないところは、そもそも年度末以外で辞めると退職手当の支給率が定年(勧奨)退職扱いにならず、大幅に下がる仕組みになっているからだという。

そんなこともロクに調べずに、与太記事(社説)を書いている大手メディアの記者はいったい何なのかと言いたい。
私が思うに1月26日付の岩手日報の記事が正論と言えるだろう。

今回の騒動は、公務員という最後まで残された終身雇用の聖域で、余程のことがなければ中途退職などあり得ないとタカを括っていた政治家と人事当局の幹部公務員は、その当てが外れて泡を食い、責任逃れのために現場にすべてを押し付けたという図式だろう。

本来なら、今回の駆け込み退職騒動の最大の責任は彼らにあるのだが、大手の日系メディアは記者クラブに安住しているうちに、批判精神をなくし、どこに事件の発端があるのかも調べることをせずに、当局のブリーフィングをそのまま垂れ流しているだけだ。

これが外国の企業なら途中でスタッフが入れ替わることが当然視されているので、そういうリスクをヘッジすることも行われているだろうが、日本の終身雇用制度(新卒至上主義)を採る企業や役所では、そのような考えはほとんど皆無なのだろう。

私は今回のような理不尽な現場バッシングが続いて、優秀な若者が公務員という職業を選択しなくなれば、日本の大きな損失になると思う。

2012年10月18日付のChikirinの日記で、「国が貧しくなるということ」というものが書かれているが、これらの一部は現場の公務員の必要数が不足しても生じるリスクなのだ。

城繁幸氏はその著書で終身雇用制度(新卒至上主義)は、今の時代において諸悪の根源であり、即刻やめればいいと常々書いている。

私に言わせれば、経団連傘下の大企業が新卒至上主義の撤廃に消極的であるのは論外なのだが、そんなことを続けていれば、ますます悪化する若年者の人口減のリスクを社会全体が被ることになるだろう。

しかし、日本企業や公務員に終身雇用がなくなって困る人はたくさんいる。

第一に、公務員を安全な生贄と考えている人たち、第二は、ブラック企業あるいはその体質を持った企業(多くの日本企業)の経営者、最後がロージョブスキルの中高年サラリーマン(私も含めてか?)である。

極論すれば、今の学生たちはこれでも日本で働くことを選択するのか、ということなのだが、これについてはまた書くことにしようか。

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退職手当の減額騒動 思慮不足ではないのか (2013.1.26 岩手日報)

全国の一部自治体で、地方公務員の退職手当が2012年度内に引き下げられるのを前に、職員や教員、警察官らの「駆け込み退職」とみられる動きが問題化している。

本県も、2月招集の県議会に、退職手当を段階的に引き下げる条例改正案を提出する方針。
ただし、他地区の状況などを勘案した上、混乱回避へ施行を年度明けとする可能性もあるという。

問題が顕在化した自治体からは「使命感の欠如」など、早期退職を非難する声も聞こえる。
公務員制度改革は待ったなしだが、今回の件では損得勘定を言い募り、情緒に訴えるのが最善とは思えない。

問題は退職者が集中する年度末まで1、2カ月を残して減額条例を施行する当局の思慮の浅さに起因する。

地方自治体が引き下げを急ぐのは、退職手当と年金を合わせた国家公務員の退職給付が民間より高い状態を是正するため、2014年7月まで3段階で約15%減らす改正法が1月に施行されたためだ。地方公務員の退職手当は国家公務員に準じる-と地方公務員法は規定している。

減額分は次年度の自治体予算に組み込まれる。
混乱が顕在化している地域では、恐らく必要な配慮を欠くまま、当局の「損得勘定」を優先させたのではないか。

公務に関わる混乱は、市民生活に直接的に影響する。
特に教員の中途退職が子どもの心に残す印象を考えれば、条例施行のタイミングには財政当局のそろばん勘定だけでなく、その副作用にも十分な目配りが必要だ。

「駆け込み」と言うなら、そもそも国家公務員の退職手当を減らすための改正が「駆け込み」と言えるだろう。
その成立は、直後に衆院解散を控えた11月16日のことだ。

政局のドタバタが頂点に達する中、当時の与党主導で衆参両院とも1時間程度の委員会審議を経て可決、成立させた。
これを受け、国は早々1月1日施行としたのは、退職手当の減額分と年度末までの給与分のプラスとマイナスを勘案、早期退職に予防線を張ったからに違いない。

年度末を前にした退職が使命感を欠く「駆け込み退職」だとすれば、その発端である国家公務員の退職手当減額を決めた当時の国会こそ、解散騒動にかまけて使命感を欠いていたと言える。

人事院は2011年秋の調査を基に、いわゆる退職金の官民格差は今年3月時点で400万円超としている。
しかし、国会の短い審議の中では「その額で十分か」といった意見もあった。

公務員を見る目が厳しいのは本県も同様。
県や労組など関係機関は、県民への迷惑回避を第一義に足並みをそろえてもらいたい。

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教員の駆け込み退職調査 下村文科相「許されぬ」と不快感 (2013.1.24 産経新聞)

定年退職予定の教員が、条例改正による退職手当引き下げ前に「駆け込み退職」するケースが相次いでいる問題を受け、文部科学省が各地の状況の調査に乗り出したことが24日、分かった。

下村博文文科相は同日の記者会見で「責任ある立場の先生は、最後まで誇りを持って仕事を全うしてもらいたい。
許されないことだ」と述べ、不快感を表明した。

文科省によると、調査は3月末までに条例改正を実施予定の自治体の教育委員会を対象に、早期退職した教職員の数などを聞き取る。

条例改正は国家公務員の退職手当減額に伴うもの。埼玉県教委では学級担任を含む100人以上が、条例施行直前の1月末での退職を申し出ていることが判明。
1月1日から手当を引き下げた佐賀県教委では25人が昨年末に退職した。

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警察官も教師も”金の切れ目が・・・”退職金減額前「駆け込み辞職願」乱発 (2013.1.23 産経新聞)

退職手当が減額されるのを前に、埼玉県の教員が100人以上も“駆け込み退職”する見込みになっていることが明らかになった問題で、ほかにも佐賀県や徳島県で、今年1月からの引き下げを前に、計43人の教員が退職していることが分かった。

さらに愛知県警でも、退職金が3月1日から引き下げられるのを前に、すでに100人以上が辞職願を提出していることが分かった。

教員や警察官の駆け込み退職が続けば現場への影響も少なくないとみられ、文部科学省は全国の都道府県に対し、退職手当減額の有無や実施時期を報告するよう求めた。

■兵庫県警3割超す90人・・・徳島では教頭も

自治体職員の退職手当の引き下げは、国家公務員の退職手当を減額する法改正に伴って、全国で条例改正が進められている。
愛知県警では、約300人が3月末に定年を迎えるが、すでに100人以上が辞職願を提出。

県警関係者によると、署長級も含め、2月中の退職者は最終的に200人前後となる見通しという。
愛知県職員全体でみると、条例施行前の2月中に退職することで、退職金が施行後より平均150万円多くなるという。

愛知県警は、駆け込み退職者の穴埋め策として、幹部や駐在所勤務の警官など空席にできない役職について、本来3月下旬の定期異動を前倒しして補充する案が有力となっている。
兵庫県警でも、定年退職者約280人のうち3割以上にあたる約90人が2月末で退職する予定。

3月中に予定される定期異動で乗り切る方針という。
職員の退職手当を引き下げる改正条例を今年1月1日に施行した佐賀県では、施行前の昨年12月末に教員36人が退職。
同様に1月1日付で施行した徳島県でも教員7人が退職していた。
徳島県の教員の中には中学校の教頭も含まれていた。

佐賀県教委は、教員のなかに学級担任もいたため退職者を今年度末まで臨時的に任用することで、支障が出ないよう対処しているという。
また徳島県教委は、7人のうち教科担任だった5人について臨時教員を採用、「学校現場での支障は出ていない」としている。
兵庫県や京都市も3月から退職手当が引き下げられるが、現在のところ問題は浮上していないという。

職員の退職手当を約15%引き下げる方針を打ち出し、職員組合と協議中の大阪府は「今年度中の早期退職者が大量に出る可能性はある」(府企画厚生課)と懸念を示している。

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退職手当減額法が成立 国家公務員、年600億円 (2012.11.16 産経新聞)

国家公務員の退職手当を約15%減らす改正法が16日、参院本会議で賛成多数により可決、成立した。2013年1月から段階的に減額し、完全実施の2015年度以降は年600億円の削減を見込む。

政府は地方公務員にも同じ対応を求めており、全自治体が実施すれば地方分で年3400億円の削減になると試算している。
人事院調査によると、退職手当と年金を合わせた退職給付が平均2950万円と民間企業の平均より403万円高く、退職手当を減らして是正を図る。

2014年7月までに3段階で引き下げる予定で、2012年度の人件費の削減額は130億円。
総務省は、自治体に対し、条例を改正して地方公務員も国と同様に減額するよう要請している。

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