フィナンシャルタイムズが伝える日本の国債発行に対する懸念

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英字新聞

去る14日、私は「日本の財政危機は今年度(2012年度)中にやってくるのか」というコラムを書いた。
今の政治情勢を見ているとそれが近いうちに現実化するような気さえしてくる。

そのような中で、昨日、ようやく臨時国会が開かれたが、野田佳彦首相の所信表明演説は衆議院のみで行われるという前代未聞の事態となった。

市場関係者は、特例公債法案の行方に強い危機感を持っているようだが、当の国会議員たちは衆議院の解散後にいかに当選確率の高い新党へ潜り込むかということで頭がいっぱいのように見える。

このままいけば、何の法案も成立しないまま年末の総選挙に突入し、来年の初めに政府が資金ショートを起こす可能性すらある。
いっそのこと、そうなってしまえば、来る審判の日の予行演習になっていいではないかという意見もチラホラ聞える。

一方で、今は欧州危機への懸念の方が国際ニュースバリューがあるために、ちょっとしたことで為替は円高に振れる。
ところが、資金逃避先とされている日本の政治が全く機能しないことが世界的に注目を浴びれば、一気にそれは逆流しかねない。

今年になって野党である自民党は参議院での多数を利用して、少しでも気に入らない民主党内閣の閣僚を辞任させるために、問責決議を乱用し過ぎているように見える。

いくら問責決議に法的拘束力はないと言えども、問責決議が可決されれば、当人が辞任するまでは国会審議に応じない、法案も通さないとしているのだから、実質的には不信任決議と同じだ。

このことは衆参で多数派が異なる、いわゆるねじれ国会になっている限り続く政治的セレモニーとなる。
仮に、今度の総選挙で日本維新の会が比較第一党、あるいはイニシアティブを握る立場になってもそれは変わらないように見える。

ただでさえ金利に魅力がない日本国債が、価格の安定感も失うようなことがあれば、それを引き金として日本の財政危機が世界的な注目を浴びるようになるだろう。

「政府が物事をうまく回し続ける方法は、誰も立ち止まってこの状況について考えないようにすることだ。(The way the state keeps the show on the road is by making sure no one stops to think about it.)」

これが真理ならば、誰かが立ち止まって考え始めた途端に日本の国債は暴落することになる。
市井の本などには、日本の国債はほとんどが国内で消化されているから安定度は抜群である、との主張がされていることも多い。

しかし、それが空虚な期待に過ぎないことは、今回の債券ディーラーの慌てぶりからも窺える。
今や企業の資金需要の低下で融資が減少し、その分、国債の保有で収益を得ている日系金融機関にとって、ババを引きかねない状況になれば、我先に国債の投売りに走ることは容易に想像できるからだ。

「東京で広がる不安は、世界最大の債券マシンがガタピシいう音に関心を引き付けることによって、政府が外国人投資家を追い払ってしまう恐れだ。(The fear in Tokyo is that, by drawing attention to the clankings and the whirrings of the world’s biggest debt machine, the government risks scaring them away.)」

果たして追い払われるのは外国人投資家だけで済むのだろうか。

Cracks in Japanese bonds merry-go-round (Financial Times By Ben McLannahan October 25, 2012)
日本国債の回転木馬に現れた亀裂 (2012.10.29 Japan Business Press)

Japan’s government debt is pretty terrifying, if you stop to think about it. Gross borrowings and guarantees in excess of one quadrillion (thousand trillion) yen amount to about Yen 8m ($100,000) for every man, woman and child.

ふと立ち止まって考えると、日本の政府債務はかなり恐ろしいものだ。
1000兆円を超える政府の債務と保証債務の残高は、国民1人当たり約800万円にもなる。

The sum, which amounts to 235 per cent of GDP, also keeps growing. For each of the past four fiscal years, the Ministry of Finance has collected more money by selling bonds than through taxes. It will probably do so again next year. The way the state keeps the show on the road is by making sure no one stops to think about it. Every auction of every bond happens exactly when the MOF says it will happen, up to a year in advance, in the quantities and maturities advertised. Once every couple of months, the biggest 25 bond dealers, obliged to bid at debt sales, are invited into the MOF to discuss how the process can be polished.

しかも、国内総生産(GDP)比235%に相当する残高は増え続けている。
過去4年間、財務省は毎年、税収よりも多くの金額を国債発行で集めてきた。
恐らく来年度もそうするだろう。
政府が物事をうまく回し続ける方法は、誰も立ち止まってこの状況について考えないようにすることだ。
すべての国債入札は毎回、財務省が実施されると言った時に必ず行われる。
2~3カ月に1度、国債の発行で入札を義務付けられている有力債券ディーラー25社が財務省に招かれ、どうすれば発行プロセスを円滑に進められるか話し合う。

But this time the dealers have invited themselves and that could be very worrying for the government.

だが今回は、ディーラー側が自分の方から押しかけてきた。
これは政府にとって非常に憂慮すべきことかもしれない。

No one seriously expects the political stand-off over the deficit-financing bill – which would allow the government to raise about 40 per cent of its Yen 92tn budget for the year to March 2013 – to result in anything other than a compromise. Prime minister Yoshihiko Noda will honour his late-summer promise to call an election, and opposition parties will wave the bill through before the end of the extraordinary parliamentary session in November.

赤字国債法案-2012年度(2013年3月までの会計年度)予算92兆円の約40%の資金を政府が調達することを認めるもの-を巡る政治的な行き詰まりが妥協以外のもので終わるとは誰も思っていない。
野田佳彦首相は総選挙を行うという今夏の約束を守るだろうし、野党は11月に臨時国会が閉会するまでに赤字国債発行法案を通過させるだろう。

When it comes down to it, no one wants to be seen to be threatening the state’s ability to pay pensions. “Politicians aren’t that stupid,” says one rates trader.

結局のところ、誰も国の年金支払い能力を脅かしていると見られることは望んでいない。
「政治家はそれほど馬鹿ではない」とある債券トレーダーは言う。

But the spotlight on Japan’s finances is hot and uncomfortable. Even if they do not really believe it will happen, dealers in Tokyo are being forced to work through scenarios in which debt sales are put on hold until the new ordinary Diet session in January.

だが、日本の財政に当てられたスポットライトは熱くて不快なものだ。
東京のディーラーは、それが本当に起きると思っていないとしても、来年1月に次の通常国会が開かれるまで国債発行が停止されるというシナリオと向き合わざるを得なくなっている。

One outcome might be that bond prices soar as the big Japanese banks, insurers and pension funds which are the mainstay of the market chase a suddenly-limited pool of assets. Alternatively, prices plunge, prompted by fears that huge issuance after the bill’s eventual passage will result in failed auctions.

1つの結果は、市場の頼みの綱である日本の大手銀行、生命保険会社、年金基金が、急激に限られたものになる資産のプールを追いかけることによって、国債価格が急騰することかもしれない。
逆に、赤字国債発行法案が最終的に成立した後の大量発行で入札が失敗に終わるのではないかという不安に駆られて、国債価格が暴落することかもしれない。

Either way, it would hurt. And it might not be long before the realisation dawns that spending freezes will inflict further damage on Japan’s fragile economy – perhaps three times as severe as the impact of last year’s earthquake and tsunami, according to Nomura estimates. That, in itself, could trigger a sell-off.

どちらにしても、打撃は避けられない。だが、支出の凍結が日本の不安定な経済にさらなるダメージを与える-野村証券の試算では、場合によっては昨年の地震と津波の影響の3倍も厳しい打撃になる恐れがある-との理解が広がる日はそう遠くないかもしれない。
このような事態になれば、それ自体が相場急落の引き金になる恐れがある。

That is to say nothing of the role of foreign investors. For most of the past couple of decades, they have played a walk-on part in Japan’s bond market. Now, thanks largely to flows seeking havens from the eurozone crisis, they hold almost a tenth of it.

外国人投資家の役割については言うまでもない。
過去数十年間の大半の期間、外国人投資家は、日本の債券市場で通行人の役を演じてきた。
今は、もっぱらユーロ圏危機からの安全な避難先を求めて資金が流れ込んでいるおかげで、外国人が日本国債のほぼ10分の1を保有している。

Although much of that cash is simply sheltering in short-term bills, awaiting some kind of resolution in Europe, a lot of it has been spilling into longer-term bonds too, which are prized for their low volatility, relative to German or US equivalents. A big withdrawal of that foreign money – whether prompted by falling prices, or just the fear of falling prices – could cause friction.

その資金の多くは、ただ短期国債に逃げ込んで、欧州で何らかの解決が見られるのを待っているだけだが、ボラティリティーが低いために珍重されている長期国債に流れ込んでいる資金もかなりある。
価格下落に促されるにせよ、ただ価格下落への不安に促されるにせよ、そうした外国人投資家の資金が大量に引き揚げられれば、摩擦を起こす可能性がある。

Nobuyuki Hirano, president of Bank of Tokyo-Mitsubishi, put it nicely at an International Monetary Fund event this month in Tokyo. Foreigners are not buying Japanese bonds because they think they are a good investment, he said, but because of “expectations of a stable economy and, probably, a stable society in the future”.

三菱東京UFJ銀行の平野信行頭取は、今月東京で行われた国際通貨基金(IMF)のイベントでうまいことを言った。外国人が日本国債を買っているのは、日本国債が良い投資先だと思っているからではなく、「将来の安定した経済と恐らく安定した社会への期待」からだ、と述べたのだ。

The fear in Tokyo is that, by drawing attention to the clankings and the whirrings of the world’s biggest debt machine, the government risks scaring them away.

東京で広がる不安は、世界最大の債券マシンがガタピシいう音に関心を引き付けることによって、政府が外国人投資家を追い払ってしまう恐れだ。

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