巷の本で日本の司法が悪しき判例主義に陥っていると言われることは多い。
その判例主義の伝統を守るべく、最高裁が稼動させたものが「量刑検索システム」だ。
最高裁は、「類似の事件で量刑に極端な差が出ないよう、裁判員が過去の事例を参考にできるためのシステム」だというが、それが果たして単なる参考資料の検索だけにとどまるのだろうか。
ところで、裁判員制度は、地方裁判所で行われる刑事裁判について導入され、対象事件は、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第2条の規定に従い、死刑又は無期の懲役・禁錮の判決が下される可能性のある罪と、裁判所法第26条第2項第2号に掲げる事件のうち、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪となる。
具体的には、殺人罪、強盗致死傷罪、現住建造物等放火罪、身代金目的誘拐罪、危険運転致死罪などがあげられているようだ。
はっきり言ってこういう重罪被疑者を前にどれだけの人が正常な感情を持ちえるのだろうか。
まして、どう考えても死刑だろう、なんてケースはあまりないだろう。
そうなると人の一生を左右するプレッシャーは半端なものではない。
それに、2007年8月24日の「もし裁判員に選ばれたら」でも書いたように、日本で擬似陪審制を導入する場合の最大の問題は、多くの人が自分の意見を公の場で主張することが苦手で、また一つのテーマについて議論をして結論を出すという下地に乏しいこともあげられよう。
それを補完するための道具がこの「量刑検索システム」ということも言えそうだが、この基準±αという安易な判決が続くようなら何のために人間が裁くのだという根本問題になりかねない。
まして、人間が裁いている今でさえ、日本の司法はコンピューター裁判、などと揶揄されるものが、「量刑検索システム」を参考にしなさい、みたいな形で裁判員に暗黙の強制をするようなら、ますます悪しき判例主義が蔓延ることになるだろう。
暗黙の強制という書き方が決して誇張でないのは、門田隆将氏の「裁判官が日本を滅ぼす」に書かれている事例を読むといい。
5月24日号の週間ダイヤモンドの特集「裁判がオカシイ!」の中には、こういう下りもある。
裁判が抱えている問題の一つは、裁判官のコミュニケーション能力の向上であり、自分が偉いと勘違いしている人も多い。裁判員の意見を尊重し、議論を上手に進行する調整能力も求められる。
裁判員の制度を導入したことについては、裁判官が世間知らずだから新しい風を入れるべき、それがこの制度なのだ、とも言われている。
しかし、世間知らずなのは本人の資質も問題のみならず、年間3ケタにのぼる残業を強いられていることにも原因があるだろう。
自宅と職場の往復で終わる生活を送っていれば、民間サラリーマンだって「会社人間」と呼ばれる恐ろしいばかりの世間知らずになるのだ。
これらの根本的な問題を解決をしなければ、そのうち「逆切れ裁判官が裁判員を怒鳴る」なんてコラムが週刊誌を賑わすことにもなるだろう。
量刑のバラツキ防止、裁判員制度へ「検索システム」稼働 (2008.5.23 読売新聞)
来年5月に始まる裁判員制度に向け、最高裁は先月から、裁判員裁判の対象事件の判決をデータベース化し、キーワードを入力するだけで類似事件の刑の重さが検索できる「量刑検索システム」の運用を始めた。
裁判員裁判では、有罪・無罪だけでなく、量刑の判断にも国民の意見が反映される。
最高裁は、類似の事件で量刑に極端な差が出ないよう、裁判員が過去の事例を参考にできるためのシステムを開発した。全国の地裁・支部にデータベースの端末を設置。
裁判員裁判の対象になる事件の判決を言い渡した裁判官が、
- 事案の概要
- 凶器の種類
- 被害の程度
- 共犯者の有無
- 反省の度合い
- 被害者の処罰感情
など、十数項目の情報を入力していく。
既に約100件が集まり、来年5月までには3000件を超えるデータが蓄積されるという。この端末に複数の条件を入力すると、類似事件の量刑一覧が検索できる。
例えば、路上で起きた強盗致傷事件の場合、「路上」と「強盗致傷」の二つのキーワードを入力すると、刃物で2週間のケガを負わせ60万円を奪った事件は懲役10年、工具で襲ったが現金は奪えず、被害者との示談が成立している事件では懲役6年など、類似事件の一覧表が示され、どんな事情が量刑に影響を与えているかが一目で比較できる。また、各事件の量刑分布が棒グラフでも示される。
裁判員裁判では、裁判官がこれらの一覧表やグラフを印刷し、裁判員に示すことになるほか、検察官や弁護士も利用できるようにするという。
コメント
どのようになっていくんでしょうね。
1つに意見をまとめると言われても、何人もの知らない人同士が集まってまとめろと言われたら声の大きい人の言うとおりになっていくような気もしますね。
[E:catface]
>何人もの知らない人同士が集まってまとめろと言われたら声の大きい人の言うとおりになっていくような気もしますね。
日本の場合、そうなる傾向は顕著だと思います。
それがどのように判決を左右するのか懸念してます。
日本が法治国家である以上、刑罰の重さは最初からはっきりと法整備しておくべきです。
その上で、社会に与える影響を考慮の上罪の軽重を決定すべきです。
そう考えると日本の刑法の整備状況はまだまだ未整備と言うしかない。
あと、新しい裁判員制度?とかいうのは、裁判員になる人間の法の勉強から始めなければならない。
私は商学部に通いながら、法学部の授業も積極的に出て、法の基礎だけはしっかり勉強しました。その経験を踏まえていえば、法が整備されるに至った背景を知らねば法を語る事はできないという事です。
ちょっと話がそれましたが、いつか言いたかったもので・・・。
ジョニーさん、こちらではお久しぶり
>社会に与える影響を考慮の上罪の軽重を決定すべきです。
そういう意見も多く出始めたですね。
ただ社会への影響=世論という感じでしょうか。
>法が整備されるに至った背景を知らねば法を語る事はできないという事です。
正論だと思います。
ただ、そこまで掘り下げられることができる人がどれくらいいるか疑問です(笑)