消費税がフリーターを増やした

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落ち込む男性

フリーライターで元国税調査官の大村大次郎氏の著書「国税調査官が教えるなぜ金持ちが増えたのか?-税が格差社会を作った」の中に「消費税がフリーターを増やした」という一節があった。


要は、企業にとって正社員を雇うことは消費税の負担増になるので、昨今の不況下ということも相俟って非正規雇用の増加に拍車をかけているとのことだった。

収入が低い世帯ほど負担が重くなる消費税の逆進性の問題については、至るところで見聞きすることなのであるが、このことを知っている人はどの程度いるのだろうか。

実は私もこのことは彼の著書を見て初めて知ったことなのだが、もしかすると、国税当局者、経営側(財務・経理部門)や公認会計士、税理士以外の人はほとんど知らないのではないだろうか。

ここでいう消費税がなぜ非正規雇用者を増やすことになるのか、ということについては消費税法第2条第1項第12号(課税仕入れの意義)の例外規定に原因があるようだ。

この規定は法人が商品やサービスの対価として支払った金額のうち消費税分に該当するものは、原則として仕入税額控除の対象となるというものだが、所得税法第28条第1項に規定する給与等を対価とする役務の提供(消費税法基本通達11-1-2:雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく給与等を対価とする労務を提供のほか、過去の労務の提供を給付原因とする退職金、年金等も含む)は除く、と明記されている。

単純に言えば、社員の給与と退職金は消費税法上では経費にならないということだ。

ところが、企業が正社員を雇う代わりに派遣会社から人を受け入れれば、経理上は派遣会社に対する労働者派遣料(外注費)ということになり、消費税の仕入税額控除の対象となる。(消費税法基本通達5-5-11

つまり、企業は正社員を直接雇っても派遣社員を受け入れても同じぐらいの経費がかかるとしたら、消費税分を仕入税額に計上できる方を選ぶだろう。
当然ながら、正社員を雇った場合には、企業が支払うことになっている健康保険料や厚生年金保険料といった法定福利費(労使折半)の負担増のリスクがあるため、これがますます社員の非正規化に拍車をかけているのは言うまでもない。

経団連は消費税率を2ケタにすることを公然と主張しているし、政府は夏の参議院選挙が終わった後には増税論議に着手するだろう。

もし、与野党の国会議員が口先だけでなく「格差是正」を本気で掲げるなら、まずは企業が正社員を雇うことによって生じるデメリットを是正するか、非正規雇用者の待遇を企業が改善できるようにしなくてはならない。

今さら消費税を廃止することが非現実的なことであるならば、少なくとも人件費を消費税法上の課税仕入れとみなす規定を入れ、社会保険料の料率を下げることが必要だろう。

おそらく、企業が非正規雇用者の待遇改善に二の足を踏むのはこの二つが原因と思われるからだ。
ただ、それによって短期的には国の収入が減るので、政府は財政の悪化を持ち出して難色を示すだろう。

しかし、公租公課の負担能力が十分とは言えない非正規雇用の人たちに税金や国民健康保険の請求書を送りつけても滞納になるだけで、事務コストがかさんでかえって財政が悪化することがわからないのだろうか。

それで増税したり健康保険料を値上げすれば、ますます滞納が増えるばかりだ。
それよりも、彼らがそれらを負担できるようにすることが長い目で見れば得策だとは考えないのだろうか。

本来なら野党や労働組合がそういうことは主張すべきなのだが、彼らは非正規雇用者の待遇改善にはあまり興味がないらしい。
おそらく安倍政権が失態を演じ続けても野党が国民の支持を取れないのはそういう姿勢に原因があるのだろう。

一方の大企業の経営者でさえ目先のことしか考えずに社員の非正規化を推し進めるが、そのツケが回りまわって自分たちの身に降りかかることがわかっていないのだろうか。
それとも自分たちだけは海外逃亡を図るからいいというのだろうか。

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■消費税がフリーターを増やした

消費税の導入というのも、フリーターの増加に大きな影響を与えている。
消費税というのは間接税である。実際に消費税を負担するのは消費者で、企業は消費者から預かった税金を納付するだけ、という建前になっている。

しかし、この建前は錯覚でもある。
企業にとっては、自分が持っている金の中から消費税を払わなければならないわけである。
それが預かり金であろうとなんであろうと、企業の負担になっていることには変わりはない。

「社会全体で5パーセント物価を上げましょう、企業はそれで5パーセント利益が増えるはずだから、それを税金として払いなさい」
それが消費税なのである。
そして消費税というのは、実は人件費にかかる税金なのである。

消費税というのは、「課税売上-課税仕入」という式で算出される。客から預かった消費税から、仕入れなどのときに支払った消費税を差し引いた残りが、納付する消費税ということになるのだ。

この課税売上-課税仕入という式をもっと具体的に表せば、「(売上-経費+人件費)×5%」という図式が成り立つ。
なぜ人件費がプラスされるのかというと、人件費には消費税はかからないという建前なので、課税仕入の中に人件費を入れることができないのだ。

売上-経費というのは利益のことだから、消費税を算出する式は「〈利益+人件費)×5%」ということになる。
つまり、消費税というのは、企業にとっては利益と人件費にかかってくる税金ということになる。

法人税や住民税は利益にかかってくるものだが、消費税はさらに人件費にもかかってくるのだ。
たとえば、売上が1億円、経費が7000万円の企業があったとする。
経費のうち人件費が3000万円だった。

この企業は、利益は次のとおりだ。
売上1億円-経費7000万円=利益3000万円
法人税や住民税は、この利益3000万円に税率をかけたものとなる。

しかし消費税の計算は次のとおりになる。
(利益3000万円+人件費3000万円)×消費税率5%
つまりこうしてみれば消費税は、人件費にかかってくる税金ということがいえる。

ということは、企業が消費税を減らそうと思えば、当然、人件費を減らす努力をする。
人を雇って人件費を払うより、アウトソーシングなどを利用したほうが消費税は安くなる。

ここでも「人を雇うと税金が高くなる」という仕組みになっているのだ。
そのため企業は正規で人を雇うのを控え、アウトソーシング会社などを利用しだした。

アウトソーシング会社は、アルバイトや派遣社員など、いつでも首にできる形で人材を用意する。
この構図が、フリーターを増加させている一因でもあるのだ。
実際、フリーターが急増したのは消費税が導入されて以降のことなのだ。

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コメント

  1. kubokawa より:

    あまり言われていないことだけど、確かにそのとおりだと思う。

  2. カルロス より:

    経営側に位置するkubokawaさんもそう思いますか。
    そうだとやはりそういう傾向はあるのでしょうね。

  3. どうなる消費税?

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