いったい、いざなぎ超えと公式には言っている今の時期に利上げしないでいつするのだ?
去る18日に日銀がわずか0.25%の利上げを見送って(日経新聞-日銀、利上げ見送り・決定会合、6対3の多数で)からさらに円安が進んだ。
この日の金融政策決定会合では、9人の政策委員のうち、利上げに賛成したのは、須田美矢子・元学習院大学教授、野田忠男・元みずほフィナンシャルグループ副社長、水野温氏・元クレディスイスファーストボストン証券調査本部長の3名、対して現状維持を求めたのは、福井総裁、財務省出身の武藤敏郎副総裁、内閣府出身の岩田一政副総裁、西村清彦・元東大教授、春英彦・元東京電力副社長、福間年勝・元三井物産副社長の6名であった。
日本のメディアでは、対米ドルレートのことを中心に経済ニュースが流れるので、それほどでもないと思っている人も多いだろうが、ほかの主要通貨に対してはここ2年ばかり続落している。
特にユーロは1998年10月4日に付けた162.9円(当時はエキュ/XEU)、英ポンドも同年8月11日に付けた240.5円を9年ぶりに更新しようかという勢いである。
9年前は米ドルも8月11日に147.3円を付けて、このまま行くと円は200円まで売られるという説が真しやかに流れていたものである。
このときも外資やヘッジファンドは円キャリートレード(金利の低い通貨で借り入れ調達した資金を、外国為替市場で金利の高いほかの通貨に交換し、その高金利で運用して金利差収入を狙う取引)をしていたのに加え、前年の相次ぐ日系金融機関の破綻で日本売りが激しさを増したために、円安基調が続いていた。
私はこの当時、初めて外貨投資なるものをしてようやく1年が経とうとしていた頃、もちろん大した勉強もしていなく、1997年11月24日に山一證券が破綻したのを機におっとり刀で始めた口であった。
始めてから半年余り順調に為替の含み益を生んでいた外貨投資が一変したのは、1998年10月初旬のことだった。
同年8月に起こったロシアの財政危機に端を発してヘッジファンドが大損したロシア市場の穴埋めに外貨売り(円の買い戻し)をしたことから10月7日からわずか3日間で円ドルレートは15円も円高に振れ、英ポンドは23円、ユーロ(当時はエキュ/XEU)は17円の円高だった。
ド素人だった私は狼狽するだけでなす術もなく含み損が増えていくのを見つめているだけだった。
そう、なす術がなかったのは当時の外貨投資が、中途解約のできない3ヶ月物の外貨定期預金で、9月に更新したばかりだったこともある。
今回の円安基調は日銀がその独立性を放棄したような決定により、しばらくは続くと思われる。
おそらく日銀が今回の利上げを見送ったことで、今後そうすることは政府からサラリーマンに至るまで低金利の借金を抱えている現状ではほぼあり得ないと私は思う。
それに自民党の大応援団たる金融機関は今でさえ大量の国債を抱え込み、利上げなどすれば、債券価格が下落して彼らの資産は一気に劣化する。
そうなれば、団塊世代の大量退職が見込まれる政府、地方自治体の退職手当債も捌けなくなる。
こう書けば、なぜ政府が事あるごとに銀行の肩を持っているのか、おわかりになるだろう。
ところで、今の円安基調はいつ変わるだろうか。
これだけは1998年10月の例にもある通り、日本の経済状況とは全く関係ないところでも起こりえるからだ。
今の円安基調が一昔前と同じ円キャリートレードによることが主因であるならば、いつかは猛烈な円高がやってくるかもしれない。
もし、歴史が繰り返すということが真ならば、その時期はBRICs市場の暴落、特に北京オリンピック前までという噂が絶えない中国バブルの崩壊の時という可能性は十分にあり得る。
もし、この変調すら起こらなかった場合、日本円の為替レート表示が欧米各国の両替所から消える日も来るだろう。
なぜならば、メリルリンチ証券のエコノミスト、イェスパー・コール氏の発言の裏を読めば「日本はすでに先進国ではない」と言っているからだ。
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BoJ decision casts doubt on its autonomy (日銀の決定はその独自性に疑問を投げかける)
By Michiyo Nakamoto and David Turner in Tokyo (January 18 2007 Financial Times)The Bank of Japan on Thursday held rates unchanged at 0.25 per cent in a decision that could call into question the strength of its independence from politicians.
日銀は政治家からの独立性に疑問を呼び起こすかのような0.25%の金利据え置きを決定した。
Citing mixed signals over the economy, the BoJ board voted six to three against a rate rise even though, until Tuesday, it had been widely expected to increase rates by a quarter of a point to 0.5 per cent.
火曜日(16日)までは金利が0.5%に上がることが広範囲にわたって予想されていたにもかかわらず、日銀の金融政策決定会合では景気に関する硬軟入り混じった兆候を引き合いに出して、6対3で利上げに反対(against)の投票がされた。
The decision sent the yen to a four-year low of 121.30 against the dollar in New York, as traders took advantage of at least another month of wide interest-rate differentials between Japan and the rest of the world. The Japanese currency fell 0.7 per cent to 157.10 against the euro and hit an eight-year low against sterling.
その決定によってニューヨーク市場においては、円がここ4年の間で1ドル=121.3円の最安値を付けるに至った。トレーダーたちが、少なくとも別の月には日本と諸外国の金利差を利用した(キャリートレードを行なった)からだ。また、対ユーロも0.7%下落して1ユーロ=157.1円を、イギリスポンドにおいてはここ8年間で最安値を付けた。
The split vote suggests the bank may be preparing to raise rates next month, by which time output data are expected to show that the economy performed well in the fourth quarter.
投票が賛否に分かれたことは、第4四半期の経済指標(2月中旬に発表される平成18年10~12月期の国内総生産(GDP)速報など)が良好であることが予想される経済データによって2月にも利上げを準備していることを示唆している。
Dissenters from the majority opinion might also have been lodging a protest against what is widely viewed as the government’s heavy-handed campaign against a rate rise.
多数意見に反対した人たちは、政府の高圧的な利上げ反対運動と見なされるものに対して抗議もしたかもしれない。
Glenn Maguire, Asia chief economist at Societe Generale, said: “The Bank of Japan simply could not have got off to a worse start in 2007,” said Glenn Maguire, Asia chief economist at Societe Generale. “Not only are the markets whiplashed from rapidly changing expectations [but] the bank ended this meeting with the impression that it has bowed to government pressure.”
ソシエテ・ジェネラルのアジア担当チーフエコノミスト、グレン・マグワイア氏は、「日銀は単純に2007年の出だしでよりいっそうつまづくことがなかっただけだ。市場が予想の素早い変化により悪影響を及ぼされたばかりでなく、日銀が政府の圧力に負けたという印象を持った会議を終わらせたのだ。」と述べた。
Jesper Koll, an economist at Merrill Lynch, said there should be an official inquiry into the leaking and counter-leaking of the bank’s intentions during what was supposed to be a blackout period. “This is supposed to be an advanced country,” he said.
メリルリンチ証券のエコノミスト、イェスパー・コール氏は「ブラックアウト(中央銀行政策決定会合のメンバーが政策決定会合の前後の一定時期に金融政策について発言することを禁じる)期間とされていた間、日銀政策委員の賛否の意見の漏洩に対する公的な調査があるべきだ。これは先進国では本来するべきことである。」と述べた。
Until Tuesday, in speeches and background remarks, the bank appeared to have been softening up the market for a rate rise. That elicited a strong response from the government, which says the BoJ should support the its growth policy by keeping monetary policy loose.
火曜日(16日)まで、公的なスピーチ及び背景となっている意見の中で、日銀は利上げのために市場の抵抗を軟化させ続けてきたように見えた。それは日銀に対して金融緩和政策を維持し、経済成長政策を後押しすべきという政府の強い反応を引き起こした。
On previous occasions the bank, which won its independence only in the late 1990s, has resisted such pressure. However, this week, it appeared to back down.
1990年代後半に(1998年4月の日銀法改正により)独立性を勝ち得た日銀は前回のときはそのような圧力を食い止めた。しかし、今週、独立性は後退したように見えた。
Toshihiko Fukui, central bank governor, denied that the BoJ had caved in to political pressure.
“As always, today’s decision is based on our careful assessment of the economy and prices,” he told a press conference said after the two-day board meeting ended. “There is no room for factors other than economic and price conditions to wield clout over monetary policy.”日銀総裁の福井俊彦氏は、日銀が政治の圧力に屈服したことを否定した。
2日間の金融政策決定会合の後で記者会見に臨んだ福井総裁は「いつものように本日の決定は経済物価情勢を丹念に査定したことに基づくものであり、経済物価情勢以外に金融政策を決定する要因はない。」と述べた。Instead, the BoJ cited doubts over the strength of the economy, saying it had “deviated slightly downward from the outlook presented in the Outlook Report in October.” In the absence of a clear monetary policy framework, the Outlook Report is seen as the best guide to policy intentions.
その代わりに日銀は「10月の経済物価情勢の展望レポートに示された見解からは若干下方へ向かっている。」と発言して経済の強さに疑念を示した。透明感のある金融政策の枠組みがない限り、展望レポートは政策を作るにあたって最もよい手引書として理解されている。
The government has argued strongly against a rate rise, saying that the economy has not decisively escaped from deflation. The core consumer price index, excluding fresh food, rose just 0.2 per cent in November. Excluding energy, prices are still falling.
政府は「経済は決してデフレから脱却していない」と発言して、利上げに対して強く反対し続けている。生鮮食料品を除いた11月の消費者物価指数は(前年同月に比べ)に0.2%上昇したが、これはエネルギーを除いたものであり、物価は依然として下落している。
The bank conceded that private consumption had been weaker than expected and, in a reference to lower energy costs, said that domestic prices “are expected to be somewhat weak or stay flat in the immediate future, due to the drop in international commodity prices.”
日銀は個人消費が予想よりも脆弱であると認めた。また、エネルギーコストがより下がったことに関して、国内の物価は国際商品価格の下落により、少々弱含みになるか、近い将来は横ばいのまま推移すると予想している。
The Nikkei 225 closed 0.6 per cent higher at 17,370.93, and the Mothers index of smaller growth stocks rose 4 per cent, as access to easy money was maintained continued for at least another month. The bond market was already looking ahead to next month’s that meeting; the yield on the 10-year bond rose 2 basis points to 1.71 per cent, after a 5.5 basis point fall the previous day.
金融緩和が少なくとも別の月まで維持されたことにより、本日の日経225種平均株価の終値は17,370円93銭と前日比0.6%上昇し、小型成長株で構成される東証マザース指数は前日比で4%上昇した。債券市場はすでに来月の会合を見越しており、10年国債の金利は2ベーシスポイント(1ベーシスポイントは1%の100分の1、つまり0.01%のこと)上がって1.71%となった後に前日比5.5ベーシスポイント下げて終わった。
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コメント
日本は既に先進国ではない、ですか。
これから日本国民はどうすればいいんでしょうね。
この先、10年といかいうスパンですが、日本が先進国ではなくなるという人は外国のエコノミストなどにはいるようです。
今は長い成長の遺産を食い潰しているような気がします。
まあ、格差社会とも言われますが、そのあたりが段々途上国化しているとも言えますか。
ただ、金さえあれば幸せかと言えば、そうではないですね。
要は自分が後悔しない人生を送れればとは思います。
カルロスさん、こんにちは。
そもそも、これだけ長い期間金融緩和と低金利を持続してもらいながら、デフレを脱却できないのは政治に問題があるといわざるを得ません。そこを無視して、日銀を恫喝するのは筋が通らないように思います。しかし、おっしゃるように、もはや誰も利上げを望まないのかもしれません。
はじめまして。サトウと申します。
私は日本という国単位ではなく、企業や個人単位で考えるようにしています。もはや国以上に企業や個人のほうがフットワーク軽いですからね(笑)。中国ならば国よりも省や市のほうが早いですからね。これからも購読させていただきます。
PALCOM様、サトウヒデノリ様、こんばんは
メインサイトの方では告知してあったのですが、ちょっと旅行へ行っていたのでレス遅れ申し訳ないです。
>これだけ長い期間金融緩和と低金利を持続してもらいながら、デフレを脱却できないのは政治に問題があるといわざるを得ません。
このおかげで年金の運用は行き詰まり、この低金利で借金することが当然のようになってしまったのは国家100年の大計を揺るがしますね。
もう正常な金利に戻るときには猛烈なインフレに巻き込まれてから後ということになるような気がします。
サトウ様、弊サイトへお越しいただきありがとうございます。
拙い経済理論ですが、今後ともよろしくお願いします。
日本の金利引上げ問題ですが、1月の日銀の2回目の引き上げ見送りは、政府・自民党の圧力で見送ったわけでは無いのでは?
現在の日本経済が金利引上げに見合う水準に無いので見送ったのでしょう。
日本がデフレから脱却したのかどうか、については多くの異なる意見があります。
物価上昇率がマイナスからプラスに転換しましたが、まだ0.5%以内の脆弱なものです。
個人的には、物価上昇率が2%程度に達するまでは金利引上げは見送るべきという意見です。
金利引上げが遅れるとバブルが発生するという意見もありますが、日本人は過去のバブルの記憶が強くて、懸念するようにはならないでしょう。
都心商業地のミニバブル程度でしょう。
バブルが発生しているのは、国内ではなく、キャリートレードで資金投入が相次ぐBRICS諸国かも知れません。
円安を懸念する声もありますが、日本人に大きな悪影響は無いのでは?
円安で企業収益が潤い、それが労働者の給料に反映され、個人消費が回復し、日本経済がデフレから完全に脱却するまでは、金利引上げを見送ることは経済学の基本のような気がします。
IPOHさん、初めまして
>円安を懸念する声もありますが、日本人に大きな悪影響は無いのでは?円安で企業収益が潤い、それが労働者の給料に反映され、個人消費が回復し、日本経済がデフレから完全に脱却するまでは、金利引上げを見送ることは経済学の基本のような気がします。
それも一つの意見だと思います。
ただ、円安が日本人に大きな悪影響がないかというとそうではないような気がします。
ご存知の通り、原油はドル決済で行なわれており、円安と原油高が相乗効果を生めば、国民生活はますます悪化します。
ただでさえ、食料やエネルギーに自給率は低く、唯一、米や魚などの食料品でさえ、原油高があれば生産者は採算が取れないところもあるといいます。
まして衣料も最近は中国製、中国元高に原油高で輸送コスト、調達コストがかかれば、将来的に低価格が維持できるか。
21世紀初頭において100円ショップやユニクロが栄えたのは円高によるものもあると私は思っています。
私の考えと同じようなことを三原淳雄氏も言っておられます。
一応ご参考までに
http://www.mihara-atsuo.com/keyword/back/20070131.html
言葉足らずで誤解を与えてしまい、恐縮です。
円安が国民生活に大きな悪影響を与えない、というのは、「適度な円安」ということであって、現在の120円台は許容範囲なのでは、という意味です。
円安が将来200円ともなれば大きな影響がありますが、
現行水準であれば、目くじら立てる水準ではないのでは?
【ワシントン=藤井一明】ポールソン米財務長官は2月6日、下院の歳入委員会で証言し、日本経済について「成長しているが、なおデフレを抱えている」と先行きに慎重な見方を示した。円相場に関しては「経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)に基づいて、競争のある市場で取引されている」と指摘。最近の円安傾向は弱さが残る日本経済の実態を反映しているとの認識を改めて表明した。
ポールソン長官は「円が安値にあるのは確かだ」と認め、日本車の対米輸出の増大に神経をとがらせる議員の質問に「懸念の声は理解する」と応じた。一方で「自由で競争のある市場を支えるのが私の仕事」と語り、中国政府の管理下にある人民元相場とは違い、円とドル市場の自由度が高い点を強調した。
ユーロ高に悩む欧州各国ですが、
権威ある英国FT紙も、日本の景気は脆弱なことから、利上げすべきではない、という見解のようです。
【ロンドン=野沢正憲】2月7日付の英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は「日本は円買いすべきだ」との社説を掲載した。今週末の7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議を前に、欧州で円安への懸念が広がりつつある。
FT紙は「為替相場への介入は悪いこと」としながらも、対ドルやユーロで円安が進み、欧州企業などが輸出競争力の低下にさらされていると強調。一方、将来、円が無秩序に急騰するリスクもあると指摘した。
景気後退懸念があるため、日銀は利上げに踏み切るべきではないが、「死んだカネ」となっている8750億ドルの外貨準備高を減らして円買いを進めるべきだとも主張。ただ円買いは一時的な手法で、中期的には内需拡大により金利上昇に結びつけるべきだとしている。 (12:22)
IPOHさん、こんばんは
確かに日本の経済指標は脆弱で利上げに耐えられないというのは一つの見方ですね。
ただ、いざなぎ超え(私はこれについては政府の意図的な作為を感じますが)の状況で利上げができないのであれば、反動不況が来たときに取れる金融政策の幅はほとんどなくなることになりますね。
ちなみに今日発売のNewsweek Japan 2007.2.14号の中にも「デフレの亡霊は去らず」という記事がありました。
いつ去るんでしょうかね(笑)