去る7日(11月の第一火曜日)に行なわれたアメリカの中間選挙(Midterm Elections)で民主党(Democrat)が、1994年以来12年ぶりに上下両院で多数派となることが確定したと報じられた。
この選挙における共和党(Republican)敗北の原因として、ブッシュ政権のイラク政策に対する不満、そして共和党議員による度重なるスキャンダルが挙げられている。
要するに、ブッシュ・ドクトリンを支えてきたイラク戦争自体が意義を失うような事実が次々と発覚するに及んで、911以降、ブッシュ政権を支持してきた米国民が彼らに鉄槌を下したのが今回の結果というわけだ。
一方の共和党陣営は、好調な経済をバックに選挙を戦おうとしたようだが、10月8日の「景気拡大局面が続くって本当か?」で紹介したブルームバーグの記事「好景気の下で豊かさ実感できない米国民」にあるように、米国民の貧富の差はブッシュ政権下でも拡大し、景気回復の恩恵は低所得者層にまで及んでいないため、逆に、民主党が「ブッシュ政権の減税は富裕層優遇」と攻め立て、「1997年から凍結されている最低賃金の引き上げ」を貧困層対策の最優先課題に掲げたことが、有権者にアピールしたと言われている。
ちなみに、アメリカの貧富の格差は、先のクリントン政権時代に彼の意図する方向とは逆にIT革命によって拡大の一途を辿ったのだが、どうやらそれは民主党の失点にはならなかったようだ。
また、日米に限らず、先進国共通の現象として、経済の二極化が進んでいるようだが、日本ではアメリカとは逆に格差の拡大を促進した与党(小泉政権)を低所得のサラリーマンが支持したというのは政治的には珍しいと言えようか。
ところで、ブッシュ政権のイラク政策だが、去る2003年4月6日の「どこにでもいるラムズフェルド」でも紹介したように、ラムズフェルド前国防長官(former US Defence Secretary, Donald Rumsfeld)は、兵員を減らして、精密誘導兵器に重点的に予算を配分するという軍改革を行なったが、どうやらその「少数精鋭、高度な連携を持つ、ハイテク軍隊」というのは机上の空論に終り、結果的には無用な死傷者を増やすことになった。
こういうことばかりをやっているせいか、半年ほど前には退役将校が彼の傲慢(ごうまん)さを非難し、公然と辞任要求を出した(将官たちがラムズフェルド辞任を要求)とも報じられた。
要するに、愚かな上司のせいで仲間が犬死させられるのは耐えられない、ということだったのだろう。
それが、現役の将兵の家族や友人を持つ人の共和党批判票にも繋がったことは想像に難くない。
これは、彼の辞任が決まった後の、英BBCのウェブサイトの読者投稿欄(Have Your Say)の”What should Bush do in his remaining two years?”のスレッドの中で100人以上の賛同を得た意見投稿の一つだ。
What should Bush do in his remaining two years? (by Richard Akron, Ohio)
The military hates him (Rumsfeld). The intelligence services hate him. Congress hates him, and most citizens hate him even more than they hate Congress.
Why? Because he is a bad defense secretary. A very, very bad defense secretary. This is far too little, far too late. The damage he has done to America’s military and reputation cannot be fixed.
So long, Rummy. Hope you’re proud of yourself…and by the way, I’m a conservative!
軍隊は彼(ラムズフェルド)を嫌っている。諜報機関(CIA)も、連邦議会もだ。多くの国民は議会を嫌うよりもさらに彼を嫌っている。
なぜか?彼はひどい国防長官だからだ。とても、とてもひどいヤツだ。
これ(辞任)は実に取るに足らないことであり、しかも遅すぎた。
彼が米軍とアメリカの名声に対して与えたダメージを回復することはできない。
バイバイ、ラミー。
自分自身を誇りに思ってくれ・・・
それはそうとして、オレは保守的な人間なんだよ。
ブッシュ大統領は中間選挙での敗北を機に、イラク政策の責任者であるラムズフェルド氏を辞任させ、後任にはロバート・ゲイツ元中央情報局(CIA)長官(former CIA Director, Robert Gates)を任命することによって、少しでも政権のダメージを和らげようとしている。
ところが、イラク戦争の是非はともかく、国際社会から見ればアメリカは極めて独善的で世界の平和をかき乱しているように映る。
このオハイオ州のリチャード氏が書いているように、アメリカが国際社会から再び敬意を持って迎えられる日は当分来ないかもしれない。
このような情勢下で中間選挙は民主党の地すべり的勝利に終わった。
イラクにおける米軍の失態も、ラムズフェルド前国防長官の傲慢さも、不十分ながらも米国のメディアが機能しているからこそ報じられたことだ。
また、JanJanに書かれた「いまこそイラクから撤退するときだ」の記事の中にある、軍内部告発者保護法(Military Whistle-Blower Protection Act)は、報復人事を恐れることなしに連邦議会へ内部告発をできるようになっているようだ。
このような権力を牽制できる装置が働いていることは、外からボロクソに言われていても、まだ民主主義国家として救いがあるということだ。
これらのことは、メディアが権力を恐れて口を噤み、せっかくできた内部告発制度は実質的に空文化し、イラクに残された航空自衛隊の消息がどうなっているのかさえまともに報じられない日本とは大違いだ。
果たして、日本の野党がまともな政策を掲げ、自民党にとって代われる政党になるのはいつのことか。
国民やメディアが民主主義国の担い手であることを認識するのはいつのことか。
それともこのままロシアみたいな半独裁国家として朽ち果てるのであろうか。
ラムズフェルド米国防長官が辞任 大統領が発表 (2006.11.9 CNN Japan)
ワシントン(CNN) ブッシュ米大統領は8日午後(日本時間9日未明)、ホワイトハウスで記者会見し、ラムズフェルド国防長官(74)の辞任を発表した。大統領は「国防総省に新しいリーダシップをもたらす適切な時期だ」と説明し、後任にはロバート・ゲイツ元中央情報局(CIA)長官を指名した。
7日に投開票された中間選挙の出口調査では、有権者の57パーセントがイラク戦争に不満を示すなど、イラク政策をめぐってラムズフェルド国防長官に対する批判が高まっていた。
ブッシュ大統領は会見で「昨日の投票で、米国人の多くが(イラク国内の)進歩の欠如に不満を示した」との認識を示し、ラムズフェルド長官と進退について対話を重ねていたことを明らかにした。
ゲイツ氏は1991年から1993年にかけてCIA長官をつとめ、現在はテキサス州のテキサスA&M大学の学長。
ラムズフェルド国防長官は、ブッシュ政権1期目の2001年1月20日に就任。同氏はフォード政権時の1975年から1977年にかけても国防長官をつとめた。ブッシュ大統領は「(ラムズフェルド氏は)変化の時代において素晴らしいリーダーだった。それでも、この戦争の大切な時期に、新しい視点をもたらす重要性について認識していた」と述べて、同長官の決断を評価した。
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