昨日のTBSテレビの「ブロードキャスター」という番組で表題の特集をやっていた。
見終わって感じたことは「懲りない銀行に国語と算数ができない国民は騙され続ける」ということだった。
バブル当時、返すあてのない企業に貸した金が不良債権となり、賃金構造の変化によって住宅金融公庫で借りた「ゆとり返済」で行き詰まった債務者が溢れたことがニュースになったことを彼らはもう忘れたらしい。
今、住宅金融公庫の廃止を睨んで各金融機関は「固定金利3年型-当初3年間金利1%」というものを積極的にアピールし、相当数が捌けているとのことだ。
これは言い換えれば「不確実なゆとり返済型」ローンで、底辺まで下がりきった金利は今後は上がるしかない、という経済原則に照らせば、これに飛びつくのは極めて危険だと言えるものだ。
また、銀行がこの商品を積極的に薦めているのは「銀行にとって利益になる」からであり、消費者にとっては「必ずしも利益にならない」ということを理解していない人が非常に多い。
事実、テレビでは荻原博子さんが「3年後に金利の見直しがあり、そのときに年利3%になる可能性もある」と言い、月額の返済額は家計を相当圧迫するレベルで増えるとシミュレートしていた。
これは昨年からの長期金利上昇を見据えた冷静なシミュレートであると私は感じた。
そして、そのとき、モデル家庭として紹介されていた人のセリフが私をさらに暗澹たる気持ちにさせた。
実話でないとしても私は「テレビ番組制作者」がこういう人が多いだろうと予測を立てて作ったものと思われるからだ。
究極のセリフは「これから金利が上がらないことを祈り続けるしかないんですよね。」とうつむきながら話した女性だ。
彼女は1%で借りた住宅ローンの返済が目一杯の状況らしく、あとは「祈るしかない」と言う。
つまり、彼女のセリフが現実になるには、
- 日本の企業の株価は今後上昇が期待できない状況になる、つまり再度不況になる。
- 日本の財政赤字はこれ以上増えない、かつ返済シミュレーションが現実化し、国債の格付けが上がって価格は長期に安定したものとなる。
- 夫の会社は不況にもかかわらず定年になるまで持ちこたえ、夫もリストラされない。
この経済学的に矛盾したすべての条件を満たすことを真剣に祈って実現すると思うのか?
私は彼女の願望が「宝くじの1等が当たることを祈り続ける」より数万倍も確率が低く、おそろしく現実離れしたものにしか感じなかった。
住宅ローンを持つ家族の一部は、今の財務省幹部と同じ気持ちを永久にいだき続けるのだろうか?
ところで、私は住宅ローンに関して今までも相当に辛らつな評価をしているが、これには理由がある。
それは私の前職時代が福利厚生担当の部署だったため、社員から住宅ローン利子補給制度の話があったときに多少勉強をしたことが基礎となっているからだ。
時はバブル絶頂期、右肩上がりの賃金と不動産価格、終身雇用神話も当然に健在だった頃の話だ。
そのときに賃金の上昇がなく、退職金も貰えない(私が当時いた会社はシステム開発の担当エンジニアが絶句するほどの退職金というか、一時金しか出ない会社だった)と仮定した住宅ローン返済の上限は、元金3,000万円-年利3%固定-30年返済(ボーナス併用-60歳時完済)というのが私がはじき出した「健康的で文化的な生活を続けられる理論値」だったからだ。
当然、それは当時の検討部会のメンバーにも話したし、私の上司は「30年利子補給を得なければならない、ということは「転職の自由」はなくなるということだよ」と真顔で話してくれたことを覚えている。
だから私が在職していた頃は社員全体が若かったこともあるだろうが、その制度を利用した人はほとんどいなかったように思う。
今ならこういう計算はExcelを使ったり、金融サイトのオンライン・シミュレーションを使えば簡単にできるが、当時は書店の経済・金融本のコーナーの片隅に置いてあった「定本・金利計算マニュアル―利回り感覚錬磨のための72章(角川総一著・1986年3月19日初版、2003年6月25日改訂新版)」という本を買い、電卓ではじき出したものだ。
何でこんなことをしたかって?
当時の銀行の融資担当者に「金利計算の仕方を教えてくれ」と言ったら、「コンピューターで計算するからそういった理論はわからない」と言われたからだ。
私はこのときに「金の計算を人任せにはできないこと」を学んだのだ。
そして、昨年、私はこの理論を知り合いに話したときのことを今でも思い出す。
彼らの回答は一様に「何を言ってるんだカルロス!そんな好条件で住宅ローンを借りている奴なんかいないよ」というものだった。
私がバブル時代にはじきだしたサラリーマンの借金の上限を上回って借りていれば次の言葉も容易に出てこよう。
「投資なんかカルロスだからできるんだ。私にはする金も時間もない」と・・・
最後にテレビに出ていた35歳の夫の言葉が耳に残る。
「私ももう35歳だし、35年ローンを組むとしたらギリギリなんですよ。」
インタビュアーは「何のギリギリなのか」は質問しなかった。
おそらく70歳完済という条件を満たす意味なのだろうが、彼ら夫婦は、今でもハローワークでは自分の父親世代の人たちが景気回復、株価上昇など、どこの世界かという憔悴しきった表情で並んでることを気にしてないように感じた。
私だったら彼に聞いただろう。
「70歳完済?60歳過ぎたらどうやって資金繰りするのですか?年金ですか?退職金ですか?子どもを当てにするのですか?年利1%で借りてギリギリだと10年以内には自己破産するかもしれないですよ。たぶん貴方はゼネコンやダイエーと違って銀行から債権放棄はしてもらえないですよ。」
そう、3,000万円も借りるのに呆れるほど計算も何もせず、銀行のシミュレート頼り(人任せ)で借金をしている人は非常に多いのではないかと思い始めたのは最近のことだ。
彼らは言う。
「金利が安くて(マンションの)買い時だと思った。」
「固定より変動の方が金利が安いし、全期間固定にしろって言われたって、それじゃ返せないよ」
「数字には夫婦ともおおざっぱなんですよ。」
「僕の周りでもそういう人多いし、カルロスもそのうちわかるよ」
私は確信した。
住宅ローンのことで苦しんでいる人は終身雇用神話が残っていた1990年代以前、特にバブル崩壊後の「買い時セールス」に踊らされた人たちの問題だとばかり思っていたのだが、そうではないということがよく理解できた。
悲劇のゴングは私の周りですでに鳴り始めている。
もう私は彼らに直接アドバイスはしない。
お互いに気まずくなるし、そうなることが私の本意ではないからだ。
それに私は彼らの人生に責任を持てるわけでも金を貸せるわけでもないからだ。
そう、もし私がファイナンシャル・プランナーになったとしてもこのときの教訓は重要な経験となるだろう。
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