飲食・サービス業を目の敵にすれば医療崩壊は防げるのか

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ゲウチャイ タイレストラン(Keawjai Thai Restaurant)

コロナ禍が世界中にまん延して1年余り、2021年5月4日付のCNN Japanが「EU、域外からの観光客受け入れ再開を計画 ワクチン接種が条件」(原文:CNN on May 3, EU plans summer opening for vaccinated tourists)と報じている一方で、日本では、5月21日付の時事通信が「変異株拡大、延長不可避か 緊急事態、決め手なく-ワクチン加速に全力」と掲載している。

日本の新型コロナウイルスのまん延防止対策は、バカの一つ覚えのように、憲法第29条にさえ抵触している可能性の高い、飲食・サービス業に対する満足な補償なき実質的な営業自粛の強要と、国民に対するレジャー目的(不要不急)の外出自粛要請の二本立てだ。

日本は、統計上、諸外国より陽性者数と死亡者数は少なく、逆に病床数は多いというのに、なぜ、連日のように医療崩壊の危機が叫ばれているのか、飲食・サービス業(レジャー)を目の敵にし、国民に我慢を強いれば、コロナ禍は収束するのだろうか。

コロナ禍における医療崩壊の原因は医師と看護師のマンパワー不足

落ち込む男性

各メディアでは、毎日のように、都道府県知事や日本医師会の中川俊男会長が代わる代わる「医療崩壊を食い止めるために、政府は緊急事態宣言を、人流の抑制を、レジャー目的(不要不急の目的)で県境を超えるな」と訴え続けている。

飲食店に向けては、ついに、酒を終日出すなまで要請しているが、果たして、国民に会食やレジャーを我慢させれば、コロナの感染者数が激減し、彼らの言う医療崩壊が防げるのだろうか。

コロナ禍で拍車がかかる低賃金長時間労働の病院勤務医

聖マリアンナ医科大学病院

全国保険医団体連合会の2020年6月5日付の記事「コロナで医師不足鮮明に 抜本増に政策転換を」は、次のように伝えている。

主要先進国などで構成する経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち、日本の医師数はデータのある30カ国中26位と最低に近い。
医師総数で日本は32万人だが、OECD30カ国の平均水準から見て11~12万人も少ない。

先進諸国で最低レベルに近い医師数で世界トップの高齢化社会の医療を担うため、超長時間労働にならざるを得ない。
過労死ラインを超えて働く病院勤務医が4割に達する中、今回のコロナ対応で長時間労働にさらに拍車がかかり、医療崩壊が取りざたされる状況に至っている。

そして、日本経済研究センターの2021年2月3日付の記事は、馬場園明九州大学教授の話として「新型コロナ感染症、病床ひっ迫の本質的理由」を掲載し、次のように書いている。

日本の病床がひっ迫するのは、新型コロナ患者を受け入れない医療機関が多いことが主原因とは言えない。

日本はもともと1病床あたりの医師数、看護師数が少ないうえに、24時間体制でスタッフが必要な人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)を装着する新型コロナ患者を受け入れることにより、医療機関の人手が足りなくなっていることが、より大きな理由である。

さらに、2021年4月20日付の東洋経済は「スクープ!東京女子医大で医師100人超が退職」と報じ、

あまり知られていないが、私立の医大病院に勤める医師給与は、一般病院に勤務する医師よりもかなり低い。
病院によって資格手当などが加算されているので、あくまで参考値だが、東京女子医大の給与が低いことに変わりはない。

これを補っていたのが、週1回の外部病院でのアルバイトであり、それを、今年の2月に、経営陣が、働き方改革の美名の元に、医師たちの報酬を上げることなく、アルバイトを一方的に規制したことで、医師の一斉退職に繋がったとある。

これは特殊な例かもしれないが、コロナ対応というリスクある仕事に向き合っている医師に対し、一方的に待遇を下げればどうなるか一目瞭然である。

私に言わせれば、そのようなこともわからない経営陣なのか、できない経営環境なのか、いずれにせよ、こういったことが次々に起きれば、国民が我慢を重ねて、例え、コロナの感染者数が多少減っても、医療は実質的に崩壊するとは思わないか。

2021年3月2日付のデイリー新潮で、元厚生労働省医系技官で、『新型コロナ、本当のところどれだけ問題なのか』の著者である木村盛世さんは、「厚労省と日本医師会の怠慢で『医療崩壊』は起きた…厚労省OBが指摘する本当の問題点」と述べている。

10年以上前から予見されていた看護師の不足

戸塚共立リハビリテーション病院

2020年12月16日付の日経新聞が「看護師不足が顕著に コロナ重症対応、高い技術必要」と報じるように、各病院ではコロナ患者を担当する看護師の不足が言われている。

これに対し、12月24日付のGlobal Health Consultingは、「多くの病院で『新型コロナに対応する看護職確保』に苦慮、2割近くの看護職員は離職等を検討-日看協」の中で、

看護職員の新型コロナウイルス感染症対応に関する実態調査の結果を受けて、日本看護協会の福井トシ子会長は、

  • 働き続けられる労働環境の整備(給与の確保、業務負担軽減など)
  • 看護人材の確保(76万人にのぼる潜在看護職員のスキル等を把握し、雇用側が確認できる仕組みの整備など)
  • 看護職員の応援派遣の拡充
  • 専門性の高い看護師の活用推進
  • 国民の看護職員への理解
-などを提言しています。

と報じている。

今朝、食事をしながらテレビを付けたら、NHKで「日曜討論」をやっていた。
表題は「緊急事態宣言1か月 政府の対応は 感染収束は」ということで、政府閣僚と専門家が公開討論をしていたのだが、NPO法人あなたのいばしょの理事長を務める大空幸星さんが、加藤勝信内閣官房長官に、看護師たちの待遇改善について提言をしていたが、加藤官房長官は、厚生労働大臣も務めた経歴があるにもかかわらず、彼の質問に答えるどころか、その話題に触れることさえしなかった。

日本の病院における、看護師のマンパワー不足は、コロナ禍で誰の目にも明らかになったが、実のところ、10年以上前から予見されていたことだった。

私が2015年4月11日付の「マクロ経済も老後の生活も悲惨にする日本の労働環境」でも触れた、経済連携協定(EPA/Economic Partnership Agreement)に基づき来日したインドネシア人やフィリピン人の看護師や介護福祉士たちは、将来の日本の医療、介護現場の救世主になるかもしれないと期待されていた。

ところが、それは現時点では見果てぬ夢の彼方へと消えた。
コロナ禍の影響ではない。
日本には遊びに行きたい。でも、働きたいとは思いません。」と言い残して帰国した人が少なくなかったからだ。

なぜかという一例を再掲しよう。

あるインドネシア人看護師が「日本人は時間を守りません。遅刻に対しては大変厳しいのに、仕事の終了の時間は守ったことがありません。」(『POSSE』vol.16-安里和晃インタビュー「EPAは介護・看護現場を変えたか」より)と述べたというが、これに対してインターネット上では「それなら日本に来るな。それでは日本の社会に馴染めない。」などという反応があったという。

外国人が、高度な日本語の医療用語の読み書きすらできるようになっても、報酬は大して変わらないにもかかわらず、際限なき過酷な長時間労働、場合によっては、無賃労働(サービス残業)を強いられる。

日本のサラリーマンは、労働契約が誠実に履行されないことが当たり前になって、不感症になっているのかもしれないが、離職中の看護師を活用すべきと言っても、ストレスフルなコロナ対応病棟で働くことが、自分や家族の生活にデメリットしかもたらさないのであれば、彼女たちは二の足を踏むだろう。

「お前ら、社畜で人生楽しいか?」というブログを書いているAtusiさんが、2021年4月30日付で「日本はブラック企業を潰す気は全くなし!政府に頼るのは愚行だ!」と書いているが、これが日本における医療崩壊の主たる原因である。

それに加え、「仕事のキツさと給料は比例しない!むしろ楽なところほど高い件!」(2019年1月12日)であれば、いくら離職看護師の復帰を鼓舞しても、コロナ禍においては、応じる者が少ないのは当然である。

投資家目線で言わせてもらえれば、リスクとリターンが釣り合っていないものに、関わりたいと思う人は稀有なのだ。

医療崩壊の危機なのにオリンピックのためには看護師を無償労働させるのか

レッドカードを出す女性

今年のゴールデンウイーク、国民に「我慢の〇〇」とか言い、学生や子供たちのイベントをことごとく中止させている最中に、日本看護協会の福井トシ子会長の訴え(働き続けられる労働環境の整備(給与の確保、業務負担軽減など))をあざ笑うような記事が掲載された。

2021年5月4日付の女性自身に掲載された「医療従事者を“ただ働き”で募集…五輪組織委に大ブーイング」だ。

菅義偉首相(72)は4月30日に、「看護協会の中で現在、休んでいる方もたくさんいると聞いている。可能だと考えている」と要請を容認していた。

これが事実なら、首相はバカじゃないのか。
日本看護協会からは、きちんと報酬をもらえる環境整備をいう訴えがあったにもかかわらず、首相の回答がこれか!

究極の手段としては、自衛隊の看護師を動員するのだろうが、彼らは全国の医療崩壊の危機にあって、救世主のような役割を負っているのではないのか。

これで緊急事態だの、医療崩壊の危機だの言われても、まともな思考回路を持った国民の耳には届かないだろう。

会食とレジャー目的の外出を抑制すれば感染者は減るのか

横浜駅

政府の閣僚や都道府県知事たちは、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令されるごとに、「我慢の〇〇」とか、「会食やレジャーを控えろ」と言うが、諸外国に比べてはるかに悪い医療現場スタッフの待遇を顧みることもなく、また、経済界も通勤ラッシュを本気で改善しようという気はないようだ。

私も再就職して1カ月以上経ったが、最もリスキーなのは、業績が悪化した会社などで、おざなりな感染防止対策しか打てず、マスクを過信する多くの職場と、彼らが大挙して乗っている通勤電車と断言したい。(2020年2月18日 共同通信-「体調不良でも出社」が83%

仮に、そこで感染したのではないかと感じても、口に出して公言しないのは、職場に迷惑がかかるという歪なサラリーマンの感情から来るもので、従って、それのほとんどは感染経路不明で処理されているだろう。

あるいは、サラリーマンの一家で、感染が家庭内にまで広がったとき、当のサラリーマンが自宅と職場の往復以外に、プライベートタイムで何かしていたことが明確になれば、寄ってたかって、それが理由だと決めつけられることもあるに違いない。

Yahoo!ニュース みんなの意見

一方で、コロナ禍前から、他人のプライベートタイムを軽視するどころか、敵意でもあるのかという日本の社会風土にピッタリはまったのが、会食とレジャー目的(不要不急)の外出を抑制することだった。

まるで、ブラック企業の経営者が「うちの社員の代わりなどいくらでもいる」と言っているのと同じように、都道府県知事たちは、飲食店を始めとするレジャー産業に対し「いくら潰れようが代わりはいくらでもある」と言わんばかりの政策を継続している。

この結果、2021年5月20日付のダイヤモンドオンラインの記事「コロナ感染だけではない!日本のGDP落ち込みが他国と比べても悲惨な理由」にあるような悲劇を招くことになっている。

これに対し、グローバルダイニングの長谷川耕造社長は反旗を翻し、「『東京都は緊急事態ではない』 グローバルダイニング、東京都の休業命令に従わないと発表」(2021年5月18日 ITmedia)し、さらには、小池百合子東京都知事を相手取って訴訟も起こしているが、ほかの飲食チェーン店などが、これに乗って、集団訴訟にまでしようという流れにはなっていない。

その理由の一つは、三権分立が形骸化している日本における行政訴訟は、原告の勝ち目が薄いことと、Yahoo!ニュース みんなの意見に出ている「緊急事態宣言を全国に拡大すべきか」ということに8割近くの投票者が賛成していることで、世論を味方に付けられないのではと恐れているからだろう。

2020年12月11日付のダイヤモンドオンラインで報じられた「渋谷ホームレス女性殺害事件に思う、『他人』を排除したがる私たちの病理」を覚えているだろうか。

11月21日早朝、渋谷区で野宿をしていた60代の女性が、46歳の男性に撲殺された。
一連の報道によると、女性は登録型派遣労働者として、スーパーなどで試食販売の仕事に従事していたが、2月以後はコロナ禍の影響で仕事と収入を失っていた。

飲食店などサービス業で働く非正規雇用の人にとっては、他人事は思えない出来事だろう。
コロナ禍が収まらない中で、世論は緊急事態宣言だ、ロックダウンだと沸騰し続け、彼らが解雇された後の再就職への道は果てしなく遠く、行政の金銭的支援からも漏れることがある。

2021年3月19日付の時事通信は「急増する女性自殺者:データが物語る『非正規雇用の雇い止め』との残酷な関係」と報じている。

一般生活を送っている女性たちが経済的理由から生活苦に陥り、自殺を選んでいるとすれば悲惨な話だ。
国や政治はこうした被害者が出ないように、一般女性たちの境遇にも目配りをするべきだ。

という一節で締めくくられているが、残念ながら、今の為政者たちに、彼女たちの命の叫びは届かない。

長くなるから書かないが、国連人権委員会(United Nations Human Rights Committee)から現代の奴隷制と批判を浴びてきた外国人技能実習生、2021年2月24日付の東京新聞の記事「入国緩和で来日外国人の7割『技能実習生・留学生』 ビジネス往来なのに…」によると、コロナ禍がまん延した2020年中でも入国させ続けたようだが、解雇されたり、勤務先から逃亡した後で、彼らが新型コロナウイルスに感染したらどうなるのだろうか。

私には、一部の支援者以外、誰も彼らのことは気にしていないように見えるどころか、2021年5月23日付で日経新聞に掲載された「茨城の保健所、『外国人と食事しないで』と不適切文書」という記事を読む限り、会食を悪者にするどころか、日本の行政当局が彼らを人として扱う気がないことが良くわかる。

コロナ禍が収束したとき、私が2018年5月15日付で掲載した「将来の反日の芽となりかねない技能実習生という名の外国人奴隷たち」というものが現実のものにならないことを案じている。

急な発熱でも一般のクリニックでは診てもらえない残酷な現実

新型コロナウイルスPCR検査

私が、昨年の12月上旬と、今年の2月上旬に、38度を超える急な発熱で苦しんだ時、私は最寄りの内科に電話をかけ、診てくれるか聞いてみた。
結果は、無情にも「今は発熱患者は診られないし、もちろん、PCR検査もできないし、薬も処方できない。」と言われ、何のための病院かと心の中で憤った。

そう、コロナ禍が収まらないうちは、神奈川県民の場合なら、「新型コロナ対策パーソナルサポート(行政)」というLINE公式アカウントを通して、神奈川県発熱等診療予約センターで受診できるところを紹介してもらう必要がある。

そして、一般のクリニックが発熱患者を診てくれないことは、今や常識の範疇にまでになったが、それがメディアで取り上げれることはほとんどない。

昨年の12月、私は、38度を超える高熱にうなされながら、気力を振り絞り、LINEを操作し、診療予約センターで、病院の紹介を受けたのだが、そもそもスマホをいじれる体力も気力も失われた人はどうなるだろうかと思った。

従って、2月のときは、最初から電話にしたのだが、待っていた結果は、遠方なのにもかかわらず、自宅から徒歩か自転車、自家用車など公共交通機関を使わないで来れる人以外はお断りとしている病院だった。

怒りが沸騰した私は、診療予約センターに再度電話し、きちんとしたところを紹介しろと抗議し、前に行ったところがあるけど、そこに直接電話していいのか確認すると、事もなげに、そこへ行ってくださいと案内された。

結果は、幸いにも、いずれのときも新型コロナウイルスには感染していないとのことだったが、私はフト思った。

LINEアカウントはあるものの、発熱外来を受け入れるクリニックとのやり取りを、ほとんど人海戦術で対応している行政機関は、感染者が一定程度を超えるとパンクするだろう。
そんなとき、診療予約センターに電話をかけ続ける余力のなくなった人はどうなるのだろうか。

一方で、多くの個人病院が発熱患者を拒否していることを一概に責めることはできない。
彼らは、ドクター1人、看護師数人、窓口はドクターの家族というところも珍しくない。
万が一、彼らの中からコロナ感染者が出た場合、ドクター一家の生活は破綻の危機に陥り、しかも、そのカバーがされることはほとんど期待できないからだ。

そして、私は2月9日付で掲載した「パナドール(Panadol)を解熱剤の常備薬に」を読み返しながら思った。

もし、軽症度の発熱患者が、抗インフルエンザ薬などを飲んで平熱に戻ったら、クリニックでPCR検査をしてもらおうという人は、どのくらいいるだろうか。
逆に、一人暮らしの人が、重症度が増して、行政機関への助けを求めることもできなくなったときは・・・

最後に

頭を抱えるビジネスマン

ここまで、私は政府や自治体の新型コロナウイルス対策について書いてきたが、今回ほど怒りが込みあげてきたことはない。
呆れるというレベルをすでに超越している。

サービス業関係者の中には、何で俺たちだけが生活破綻の危機に追いやられなければならないのか、疑問に思う人もいるだろう。

これに対して私は一つの答えを持っている。
それは、コロナ禍における政府の数々の失政と無策を糊塗するために、飲食業が生贄にされ、血祭りに上げられているに過ぎない。

最後になるが、ダークネスの著者である鈴木傾城氏が、5月18日付のコラムで「菅首相『3人のブレーン』が日本を壊す。竹中平蔵・三浦瑠麗・アトキンソンの売国計画」と書いている。

菅政権は「成長戦略会議」の主要メンバーの愚策の提言によって、いつでも国民を裏切る可能性があることに留意しておく必要がある。

鈴木氏が言及している成長戦略会議というのは、内閣官房直属のものだが、どちらかというと自民党寄りの彼が、ここまで書くなら余程酷いのだろう。
ちなみに、メンバー構成は、2020年(令和2年)10月16日付の菅義偉首相決裁の通知文書「成長戦略会議の開催について」に記されているので、ご覧になるといいだろう。

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