私は、2010年代になって、インターネット上の様々なサービス、特に、金融機関のアカウント管理が本格的にペーパーレスに移行してから考えていることがある。
それは「私に万が一のことがあったときは、資産のありかが誰にもわからなくなるかもしれない」ということだった。
このことを明確に意識したのは、2006年10月23日付で「海外口座の相続手続きについて」というコラムを書いたときだが、実際に、そうなりかけたのが、2020年5月8日に掲載した「柿の木から落ちて骨折、手術、そして入院!」だった。
資産やインターネットサービスのアクセス方法を記録
私が2006年に海外口座の相続に関するコラムを執筆したときは、金融機関の取引報告書(statement)も紙ベースのものが主流で、ペーパーレス化はまだ端緒についたばかりだった。
それゆえに
すべての書類の送付をオンライン扱いにしないこと。
これは便利だし、紙ベースにすると金がかかる場合もあるが、万が一のときに定期的に送付されてくる郵便物がないということは、海外に資産があることを家族の誰も知らない場合、せっかくの資産は銀行・証券会社や当該国の政府に寄付することになってしまうだろう。
などと書いていたのだ。
ところが、時代は、紙ベースの書類を駆逐しようとしている。
そこで、このときは
資産の存在、及び口座情報へのアクセス方法をマニュアル化し、その存在を信頼できる家族へ伝える。
と書いたのだが、その書類をどこで保管するのか、自宅の引き出しか?貸金庫か?という課題が残っていた。
Googleアカウント無効化管理ツールの設定
このツールは、本来は自分の死後(とみなされる期間を経過後)に、自動的にグーグルのアカウントを消滅させるためのものだが、信頼できるユーザー(家族など)にデータを公開することもできる。
このデータ共有機能を使って、自分の資産(遺言)のありかや、アクセス方法について、遺族に教えることができるのだ。
まず、Googleアカウントのトップページを開き、「データとカスタマイズ」をクリックする。
ここで、複数のGoogleアカウントをお持ちの方は
- 右上に表示されるプロフィール画像またはイニシャルを選択する。
- メニューで、使用するアカウントを選択する。
という順で、アカウントの切り替えを行ってから作業を開始する。
開いたページを下にスクロールし、「データのダウンロード、削除、プランの作成」から「アカウントのプランの作成」をクリックする。
アカウント無効化管理ツールのページが開くので、ここから設定を開始する。
ご利用の Googleアカウントを使用できなくなった場合のデータの取り扱いの設定
アカウントが長期間使用されていないと判断するまでの期間と、その期間が過ぎた後にデータをどう取り扱うかを指定してください。
信頼できるユーザーにデータを公開するか、Google側でデータを削除するよう設定できます。
Googleアカウントが長期間使用されていないと判断するまでの期間の指定
「長期間使用されていないと判断されてから〇か月後」の右横にあるペンのアイコンをクリックすると、「待機期間を設定」のダイアログボックスが出るので、任意の期間を設定する。
この選択肢に関しては、遺族の相続手続きが目的の一つであることを考えれば、最短の3か月が好ましいと思われる。
なお、紐付けは日常、頻繁に使用しているG-mailアカウント(G-mailアカウントは複数作成できるため)にしておくことが望ましい。
「処理を行う前に、SMSとメールを使用して複数回ご連絡します。」とあるので、適切なメールアドレスと、携帯電話番号を登録しておけば、本当の意味で、長期間アクセスがなくなっての無効化処理が行われるリスクは減るだろう。
しかしながら、この方法のデメリットの一つとして、遺族が通常の相続手続き(単純承認)をするのでなく、相続の放棄や限定承認を行う場合(民法第915条)は、相続の開始を知ったときから起算して3か月(熟慮期間)という縛りがある。
【民法第915条(相続の承認又は放棄をすべき期間)】
- 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
- 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
ただ、弁護士ドットコムの記事に「【相続放棄】熟慮期間の延長や期間超過後の相続放棄は認められるか」があり、相続放棄などの申述を検討している場合に、財産調査に時間がかかりそうであれば、家庭裁判所に熟慮期間を伸長してもらうことができるので、ペーパーレス時代の相続においては、まずは熟慮期間延長という手段を第一に考えた方がいいかもしれない。
通知する相手と公開するデータの選択
ここで「ユーザーを追加」として、メールアドレスを入れると、「共有するデータの選択」で通知相手に公開したいものを選択できる。
例えば、「Googleフォト」と「ドライブ(オンラインストレージ)」にチェックを入れると、そのカテゴリーには通知相手がアクセスできるようになる。
ここで注意したいのは、パソコンからのメールを拒否しがちな携帯電話のアドレスを入れることはやめておいた方がいい。
しかも携帯のキャリアを変更するとメールアドレスも消滅するからだ。
その場合は、むしろ携帯電話番号宛に通知した方がいいかもしれない。
また、短いメッセージを残すこともできるので、〇〇のファイルを開けば良いなどというヒントを入れておくといいだろう。
プランの確認
これがプランの確認画面、待機期間で設定した期間(ここでは3か月)が経過すると、このアカウントが使われていないことが、入力したメールアドレスの相手方に通知される。
ちなみに、一番下にある「はい、使用していない自分のGoogleアカウントを削除します」のチェックを入れると、「Googleアカウントを使わなくなった」と、グーグルが認識してから3か月後にGoogleアカウントが削除される。
つまり、本人が最後にGoogleアカウントを利用してから3か月+3か月=6か月で、Googleアカウントが自動的に消滅する。
遺族は通知を受けてから3か月間でデータの保存など、必要なことをしないといけないのだが、3か月などあっという間に過ぎるものだ。
時間的な余裕を与えるためにも、ここはチェックしないでおくことも必要かと思う。
最後に
ここ数年、日本では大災害でお亡くなりになる方が増えている。
そうでなくとも、今年は新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界中で亡くなる方が多くいる。
今の時代、銀行や証券会社など金融機関の取引報告書など、様々なサービスのペーパーレス化は避けられない。
口座保有者本人が死亡したり、要介護状態になったり、重度障害になったりした場合、家族が本人の取引先金融機関がわかっても、IDやパスワードがわからないと、本人の保有資産へのアクセスもままならない時代に突入した。
海外口座など、場合によっては取引先金融機関でさえわからないときもある。
自分に万が一のことがあったときのために、クラウドサービスなどインターネット上のセキュリティがどうしても信頼できないというなら仕方がないが、そうでないなら、オンラインストレージは最大限利用した方がいいと思う。
インターネットサービスはハッキングが怖いのは確かだが、アナログな保管方法が絶対に安全とは限らないからだ。
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