2020年1月10日、私は1か月間入院していた聖マリアンナ医科大学病院から本格的なリハビリをすべく戸塚共立リハビリテーション病院に転院することになった。
そこで、2019年12月10日以降に休職となったことによって、12月分の給与の大半が貰えなくなった(返上させられた)私は、これと合わせて、2020年1月10日分までの健康保険の傷病手当金を請求することにした。
傷病手当金(sickness and Injury benefits)の請求
傷病手当金とは
全国健康保険協会(協会けんぽ)の説明によると、
傷病手当金は、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度です。
被保険者が病気やけがのために働くことができず、会社を休んだ日が連続して3日間あったうえで、4日目以降、休んだ日に対して支給されます。
ただし、休んだ期間について事業主から傷病手当金の額より多い報酬額の支給を受けた場合には、傷病手当金は支給されません。傷病手当金の1日当たりの支給金額は、支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3となります。
つまり、傷病手当金は、無給休職になった日から起算して4日目から支給され、その1日当たりの金額は、過去12か月間の健康保険・厚生年金保険の標準報酬月額に基づいて計算されるというわけだ。
この傷病手当金の請求は、医事課のスタッフ曰く、毎月請求する人と、退院してから一括して請求する人がいるとのことだ。
参考までに、保険医療機関及び保険医療養担当規則によれば、第6条(証明書等の交付)に以下のような規定がある。(法=健康保険法)
第六条 保険医療機関は、患者から保険給付を受けるために必要な保険医療機関又は保険医の証明書、意見書等の交付を求められたときは、無償で交付しなければならない。
ただし、法第八十七条第一項の規定による療養費(柔道整復を除く施術に係るものに限る。)、法第九十九条第一項の規定による傷病手当金、法第百一条の規定による出産育児一時金、法第百二条第一項の規定による出産手当金又は法第百十四条の規定による家族出産育児一時金に係る証明書又は意見書については、この限りでない。
なお、協会けんぽ東京支部に確認したところ、有料になるもの、例えば、傷病手当金の意見書交付料(1,000円)は、保険が効く(3割負担)ので、その分だけリーズナブルな価格(300円)で作成してもらえるとのことである。
【参考:厚生労働省-外国人向け多言語説明資料 一覧】
【参考:全国健康保険協会岐阜支部-英語説明】
条件次第で退職後にも受給できる傷病手当金
健康保険法第104条に定める継続給付とは、傷病手当金に関するよくある質問「Q6:傷病手当金を受給していましたが、会社を退職することになりました。退職後の期間についても傷病手当金を申請できますか?」の項目のことで、下記の要件を満たせば、退職した後でも傷病手当金を受給できる。
ちなみに、傷病手当金を受給できるのは、同一の傷病について、支給を開始した日から最長1年6ヵ月間なので、離職前の期間の残りが最大ということになる。
(資格喪失後の継続給付)
なお、退職日に出勤したときは、継続給付を受ける条件を満たさないために資格喪失後(退職日の翌日)以降の傷病手当金はお支払いできません。
- 被保険者の資格喪失をした日の前日(退職日)までに継続して1年以上の被保険者期間 (健康保険任意継続の被保険者期間を除く)があること。
- 資格喪失時に傷病手当金を受けているか、または受ける条件を満たしていること。
健康保険法第104条
(傷病手当金又は出産手当金の継続給付)被保険者の資格を喪失した日(任意継続被保険者の資格を喪失した者にあっては、その資格を取得した日)の前日まで引き続き一年以上被保険者(任意継続被保険者又は共済組合の組合員である被保険者を除く。)であった者(第百六条において「一年以上被保険者であった者」という。)であって、その資格を喪失した際に傷病手当金又は出産手当金の支給を受けているものは、被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して同一の保険者からその給付を受けることができる。
国民健康保険加入者でも新型コロナウイルス感染症なら傷病手当金が受給できる可能性あり
基本的に、傷病手当金の制度は、社会保険に加入している事業主とサラリーマンが対象のため、国民健康保険の加入者は、誰かに雇われていても、この制度の適用外だった。
しかしながら、2020年3月10日付で厚生労働省は各都道府県あてに「新型コロナウイルス感染症に感染した被用者に対する傷病手当金の支給等について」という事務連絡を発出した。「参考:厚生労働省-自治体・医療機関向けの情報一覧(新型コロナウイルス感染症)」
これによって、私の居住地である横浜市は、「国民健康保険加入者対象の傷病手当金の支給(新型コロナウイルス感染症関連)」という制度を制定したので、他の地域に居住している人も、ウェブサイトを確認するか、国民健康保険担当課に問い合わせるといいだろう。
傷病手当金の請求先
全国健康保険協会(協会けんぽ)
在職中、あるいは在職中に係る期間について、退職後に請求する場合は、事業主経由で、健康保険被保険者証(健康保険証)に記載されている管轄の協会けんぽ支部へ郵送する。
在職中に係る期間について、退職後に請求する場合とは、例えば2020年3月まで在職していたとして、3月以前の分を、2020年4月以降に請求することである。
退職後の継続給付の場合は、すでに離職しているので、事業主の証明は不要で、そのまま医師の診断書だけ付けて送ればいい。
なお、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が出されている期間中は、協会けんぽ支部の窓口受付及び、各都道府県の年金事務所の窓口での申請書の受領は休止していることがある。
- 傷病手当金
- 健康保険傷病手当金支給申請書
- 健康保険負傷原因届(複数回申請する場合でも初回のみ添付すれば良い)
横浜市国民健康保険
各区役所の保険年金課保険係の窓口へ直接持参する。
新型コロナウイルス感染症による休職者にもかかわらず、郵送で手続きはできないのだろうか。
傷病手当金は非課税所得
傷病手当金の1日当たりの支給金額は、支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3となります。
この30日×2/3(20日分)という計算によって、傷病手当金の支給額は、一般的に月給の2/3と言われている。
それでは、傷病手当金を支給された人は、この金額から所得税が天引きされたり、これを含めて翌年の確定申告をしないといけないのだろうか。
Q. 次の手当金は、所得税の課税対象となりますか。
- 病気療養中に、健康保険組合から支給を受けた「傷病手当金」
- 育児休業中に、地方公務員等共済組合から支給を受けた「育児休業手当金」
A. お尋ねの「傷病手当金」、「育児休業手当金」については、いずれも非課税所得であり、所得税は課されません。
健康保険法第62条
(租税その他の公課の禁止)租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として、課することができない。
ただ、所得税や住民税が課税されないとはいえ、休職する前に給与から天引きされていた社会保険料は別途支払う必要がある。
また、住民税は翌年課税なので、現に傷病手当金を受給している年は、一般的に前年の所得に応じた住民税の支払いが必要となる。
傷病手当金はどの程度の日数で振り込まれるのか
これは、勤務先事業所の処理日数が間に入るので、明確な答えというものがない。
ただ、はっきりしているのは、初回の請求はかなり時間がかかったように思う。
これは協会けんぽにおける審査が慎重だったことも原因の一つかと考えられる。
従って、公租公課や公共料金、クレジットカードの支払いを予定している場合は、傷病手当金の入金を当てにできないということだ。
サラリーマンにとって、今までは給料が当てにできたものが、無給休職になって、急に収入が不定期になるというのは、精神的には結構な痛手だ。
一応、私の傷病手当金の請求から入金までどのくらいの日数を要したか掲載したので、参考になれば幸いである。
なお、勤務先等送付日で回収とあるのは、上司の方がお見舞いに来ていただいたときに渡したもので、それゆえに間隔が空いてしまったということもある。
請求対象期間 | 診断書作成日 | 勤務先等送付日 | 入金日 |
2019.12.10-2020.1.10 | 2020.1.14 | 2020.1.25回収 | 2020.3.31 |
2020.1.10-2020.2.29 | 2020.3.11 | 2020.3.12郵送 | 2020.4.8 |
2020.3.1-2020.4.6 | 2020.4.8 | 2020.4.14郵送 | 2020.5.1 |
2020.4.6-2020.4.30 | 2020.4.30 | 2020.5.14郵送 | (審査中) |
中小法人の事業主は傷病手当金の受給がきるか
今のご時世だと、どこで新型コロナウイルス感染症にかかるかわからない。
都道府県知事の休業要請が解除され、営業を再開するにあたっても油断はできないだろう。
それでは、サラリーマン(被用者)が対象と言われる傷病手当金、事業主も健康保険に加入していることで、いざというときは傷病手当金を貰えるのだろうか。
答えはイエスだ。
健康保険法第99条には事業主を除外する規定がないため、健康保険の被保険者であれば誰でも傷病手当金を受給できる。
但し、事業主は自ら報酬を決定できる立場にあるため、健康保険法第108条(傷病手当金又は出産手当金と報酬等との調整)第1項に抵触した場合は、傷病手当金は不支給又は差額支給となる。
健康保険法第99条
(傷病手当金)
- 被保険者(任意継続被保険者を除く。第百二条第一項において同じ。)が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する。
- (略)
- (略)
- 傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から起算して一年六月を超えないものとする。
健康保険法第108条
(傷病手当金又は出産手当金と報酬等との調整)
- 疾病にかかり、又は負傷した場合において報酬の全部又は一部を受けることができる者に対しては、これを受けることができる期間は、傷病手当金を支給しない。ただし、その受けることができる報酬の額が、第九十九条第二項の規定により算定される額より少ないとき(第百三条第一項又は第三項若しくは第四項に該当するときを除く。)は、その差額を支給する。
私は、2010年3月13日付のコラムで「法人成りは社会保険制度上でも得なのか?」ということを書いたが、これで一つメリットを見出すことができたようだ。
実際には、傷病手当金を受給する事態にはなって欲しくないけどね。
最後に
傷病手当金の請求は、原則として勤務先事業所の証明が必要なので、私のケースのように勤務先の上司がお見舞いに来てくれたり、戸塚共立リハビリテーション病院のように、院内に患者用の郵便差出口があれば、スムーズにいくと思う。
しかしながら、5月12日付のコラム「医療費100万円の衝撃、もし限度額適用認定証なかりせば」でも書いたように、家族や友人の協力があまり期待できない患者もいるだろう。
特殊なケースであるが、今のようにコロナ禍の元で、人の移動が規制されてしまえば、家族や友人に頼る請求事務はたちまち滞る。
退院後に一括請求すればいいというのは、入院が1か月超で終わった場合の話だ。
私が表題で書いたように、「傷病手当金は休職サラリーマンの命綱」なのだ。
それが家族の協力が得られなければ、たちまち滞ることに対して、電子申請を含めて、厚生労働省は何か対策を考える気はないのだろうか。
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