来る2019年10月1日から消費税率が8%から10%に上がる。
それと同時に、一定の飲食料品と新聞に関しては8%の軽減税率が適用される。
消費増税によって疲弊し続ける日本経済
平成時代を通じた30年間の経済失政が続く日本で消費税を上げ続ければ、一時的に国庫の税収は増えたとしても、長期的な目で見れば,日本経済はますます疲弊するだろう。
消費税法ができた1990年代初頭はいざ知らず、今では、生活保護を受ける高齢者が激増しているのを始め、シングルマザーの家庭も含めて、日本では貧困層が増えているのだから当たり前のことだ。
事実、2019年4月6日付の産経新聞は「消費増税で景気減速回避できるか 過去2回は成長率下押し 10%へ政策総動員」の中で、こう指摘している。
過去2回の増税のタイミングに成長が鈍化したのは、当時の実質国内総生産(GDP)成長率をみると明らかだ。
税率を5%に引き上げた平成9年(1997年)度は前年度比0%で、平成10年(1998年)度は0.9%減となった。8%に引き上げた平成26年(2014年)度も実質GDP成長率は0.4%減と平成21年(2009年)度以来、5年ぶりのマイナスに転じている。
さらに、9月20日付のフルインベストの記事「日本経済は消費税という大量破壊兵器によって、完全に焼け野原になっていく」という記事で、鈴木傾城氏は、「消費税を上げるたびに日本経済が衰弱しているのを見ても分かる通り、『消費増税は日本経済の大量破壊兵器』になり得る。」と言っているのは的を得た意見だと思う。
キャッシュレスと軽減税率対応に音を上げる中小事業者たち
私は、2019年9月13日付のNHK News Webの記事「消費増税前に価格転嫁難しく小規模店は廃業検討も」の中で、飲食店や商店の経営者の方曰く、「軽減税率に対応するレジの購入や複雑な手続きが大きな負担になっている」というのが気になった。
消費税率引き上げ後の需要平準化対策として、政府は2019年10月1日から9ヶ月間に限って、キャッシュレス・ポイント還元事業として中小事業者向けの支援策を実施しているが、彼らにとっては、それを理解して利用するハードルが高いのだろう。
しかしながら、インターネット上では、9月20日付のライフハッカー日本版の記事「キャッシュレスで得する損する!10月からのポイント還元はこう変わる」など、様々なポイント獲得のための、お役立ちブログが百花絢爛の様相を見せているし、政府も「キャッシュレス・ポイント還元事業の対象店舗検索のための地図アプリ」を提供しているので、そういったキャッシュレス決済に対応できない事業者は、いずれ淘汰される運命にあると思う。
それが良いのか、悪いのかは別として、現時点では、あまりにもカードやアプリの種類が多すぎて、一部のポイントマニア以外は理解できないほどなので、現金一筋でやってきた中小の事業者にとっては、キャッシュレス対応ができないことを理由に、廃業を視野に入れたとしても仕方のないことだ。
実際のところ、2018年7月30日付の読売新聞では「キャッシュレスなのに!客もバイトもイライラ会計」という記事が掲載されていた。
若手のアルバイトでさえ戸惑う作業を、高齢の商店主がやるとは思えない。
前出の記事の中で「都内の商店街などの中小店は辞退する店が多いといいます。」とあったことが、廃業の引き金となり、駅前通りの斜陽化に繋がらなければいいと思うのだが、これは私の思い過ごしだろうか。
軽減税率対応で実質値下げを断行するサイゼリヤ
一方で、2019年9月20日付の流通ニュースは「サイゼリヤ/税込価格据え置き『店内飲食・持ち帰り』価格統一」と報じている。
消費税率引上げに伴い、全てのメニュー(ボトルワインなどを除く)を現行の税込価格を据え置き、実質2%値下げする。
軽減税率制度は、メニューブックに「TAKEOUT」マークがついている商品が対象となるが、お客が混乱しないよう「店内飲食」と「持ち帰り」を同じ税込価格で提供する。
予想された通りだ。
お客が混乱するというのを、事業者側視点で言い換えれば、カスタマーハラスメントの防止、要は、提示する価格が違うことで起こり得る苦情や、持ち帰りできない商品を持ち帰らせろと叫ぶようなクレーマーを減らすためだ。
おそらく、持ち帰りよりも店内での食事がメインのレストランでさえ、こうなのだから、持ち帰りが多いファーストフード店などは、レジを打った後で、揉めるケースがもっと増えるだろう。
外国の付加価値税(VAT)などの軽減税率がどうなっているのかはっきりとは知らないが、私の海外旅行経験では、スーパーなどで売っている基礎食料品や日用品が、軽減税率の適用になっていることはよくあるが、持ち帰りか店内での食事かで揉めるケースは聞いたことがない。
日本政府のやることは、どうして物事を複雑にしてわかりづらくするのか、わざとやって、国民を疲弊させているのかと言いたくなるくらいだ。
人手不足と低賃金でますます疲弊する飲食サービス業従事者
過日、私がオフ会に誘われて都内某所にあるサイゼリヤに行ったときのことだ。
このレストランチェーンは、2012年10月7日付の産経新聞の記事で「サイゼリヤがイタリアの店より上? そんなバカな…食べて納得、コスパに感服」と絶賛されたイタリアンの店で、私も何回か行ったことがある。
リーズナブルで美味しいという評判に違わず、確かにいい店だと思った。
ところが、先日行ったときに、私はこのレストランチェーンに大きな暗雲が立ち込めているような衝撃を受けた。
店員に全く笑顔がないのだ。
無愛想というわけではない。
一人だけがそうなら個人の資質の問題かもしれないが、ほぼ全員がそうだったのだ。
4年前ほど前にキャリコネニュースなどで話題になった、ワンオペで疲れ果てた牛丼チェーン「すき屋」の店員の姿に、この日のサイゼリヤのイメージが大きくダブったのだ。
それもそのはず、2019年6月21日(金曜日)にサイゼリヤ神戸国際会館前店で、まさに「 サイゼリヤでランチ時間帯のワンオペが発生 客数は多くないが行列に」という事態があったことが報じられていたのだ。
それをどう思ったのか、サイゼリヤ経営陣の下した消費増税対策は、商品価格の実質的な値下げ、それをどこで吸収するのかと言えば、おそらくは従業員コストの切り詰めだろう。
それを日本では企業努力と呼んで賞賛される傾向があるが、果たしてどうなることだろうか。
私たちが行ったときが週末で、たまたま昼時のお客さんが混んでいて疲れていただけならいいが、そうでないなら、消費税の軽減税率は、単に飲食サービス業従事者のマンパワーをすり減らすだけの結果になるだろう。
最後に
今回のサイゼリヤの英断は、消費者にとっては朗報なので、ブロガーの多くは「神対応」と賞賛している。
確かに、消費増税の中で、その増税分(2%)を消費価格に転嫁せずに、企業努力で何とかしようという姿勢に好感を覚えた人も多いだろう。
ただ、今までの例で言えば、このような企業努力をあざ笑うように、消費増税は、ほぼ確実に日本企業の収益を圧迫し、それによって、せっかく上がり始めた労働者の賃金も頭打ちになるかもしれない。
それは、飲食サービス業も例外ではなく、それが故に、これらの事業者の人手不足は当分の間、解消することはないだろう。
これらの業界に人手が集まらない問題の根底にある、低賃金長時間(場合によっては無賃金)労働というものが解消されていないからだ。
私が訪れたサイゼリヤの従業員の笑顔がなかったことが、一時的で特異な例ならいいだろう。
私には、彼らの表情が「こんな店、潰れてしまえ」と言っているように思えたからだ。
私は、消費増税のみならず、軽減税率制度に係るコストが、日本で最も脆弱な産業の一つである飲食サービス業を直撃しないように祈りたい。
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