配当所得に関して個人事業主や国民健康保険加入の個人投資家に朗報

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日経ヴェリタス(2017年2月12日~18日号)の「『人生これから』 配当金の節税策 今回から」で紹介されていた平成29年度(2017年度)税制改正の大綱-個人所得課税-6 その他-地方税-個人住民税-(9)にある「上場株式等に係る配当所得等について、市町村が納税義務者の意思等を勘案し、所得税と異なる課税方式により個人住民税を課することができることを明確化する。」というのが、配当所得の節税策として俄かに脚光を浴び始めている。日経ヴェリタスの記事で、今回の確定申告期(2017年2月16日から3月15日)でも適用できるとあるのは、法改正を伴うものではなく、来年度に向けて現行法(地方税法第317条の3第1項但書)の運用の周知徹底を図るという内容だからだ。

ただ、日本株の配当金に対する源泉所得税は、確定申告書と住民税の申告書を別々に出してまで節税する必要はないという人がほとんどだろう。

ところが、私が持っているダイワ米国リート・ファンド(毎月分配型)(現時点では2016年11月のフィデリティ・USリート・ファンド」(為替ヘッジなし)の分配金率引き下げの余波はなく、純資産総額の減少もそれほどないようだ。)のように普通分配金が出ている投資信託だと、配当課税方法を所得税と住民税と違うものにすることにより、大きな節税になる可能性があるので、検討してみる価値はあるだろう。

ここで、私が表題に「個人事業主や国民健康保険加入の個人投資家に朗報」としたのには理由がある。

大和総研の2017年1月25日付のレポート「上場株式等の住民税の課税方式の実質見直し」に書かれているように、「所得税と住民税で異なる課税方式を選択することが納税者のメリットとなるケースは主に2つある。1つは、上場株式等の配当所得について所得税は総合課税、住民税は申告不要制度(または申告分離課税)を選択することで住民税の税負担を抑えられるケースが挙げられる。もう1つは、所得税は申告分離課税で損益通算や繰越控除を利用する一方、住民税は申告不要制度を選択し国民健康保険料等の増加を抑えられるケースが挙げられる。」とあるのが最もわかりやすいだろうか。

仮に、自分にかかる所得税率が10%になる場合に、配当金の源泉所得税の還付を受けようとして、所得税の確定申告をすると、それがそのまま住民税の合計所得金額や、国民健康保険料(税)の算定基礎額に加算されて、ぬか喜びになりかねないリスクがある。

ところが、住民税の方を申告不要制度を適用すると申告すれば、そういったリスクがなくなるというわけだ。

一方、専業主婦に関しては少し微妙なところだ。

被用者保険(社会保険)の被扶養者認定は住民税であることが多いように思えるが、所得税の被扶養者判定は、国税庁のタックスアンサー「上場株式等の配当所得等に係る申告分離課税制度」にあるように、総合課税を選択すると、配当所得が合計所得金額に算入されてしまい、配偶者の被扶養者を外れる可能性もある。
要は、パート収入103万円超(タックスアンサー「パート収入はいくらまで所得税がかからないか」)、130万円未満(全国健康保険協会-被扶養者とは?)の人たちと同じジレンマを抱えるケースもあるわけだ。

こうした場合は、還付される所得税と、扶養を外されるデメリットを比べて判断するしかないだろうが、一般的には確定申告(還付申告)しない方がベターだと言えるだろう。

ところで、一般的に所得税の確定申告をすると、住民税の申告は不要なので(地方税法第317条の3第1項本文)、居住地の自治体に申告書を提出しようとした場合、本件の解釈の明確化について確認と念押しする必要があるわけだ。

私が市役所に勤める友人に確認したところ、「どちらの申告書が先に出されたかは受付印で確認できるが、住民税の申告書に『今後、所得税の確定申告をするが、配当所得に関しては申告分離あるいは申告不要制度の適用をします。』と明記する方が望ましい」と言っていた。

また、確定申告書の住民税・事業税に関する事項の記載例には、「所得税等の確定申告をした場合は、道府県民税配当割額及び株式等譲渡所得割額を記入します。」と書かれているが、「道府県民税配当割額」は記載しないが、正しい書き方になるだろうか。

いずれにせよ、今回、この方法を使うのであれば、住民税の納税通知書が届いたときに再確認する必要があるのは言うまでもない。

ちなみに、大阪市の「株式等の配当所得等および譲渡所得等の申告・課税方法」には以下のように明記されている。

「所得税等の確定申告書において上場株式等の配当所得等を、総合課税または申告分離課税として申告された場合は、個人市・府民税も同様にその課税方法が適用されます。ただし、納税通知書が送達される日までに、確定申告書とは別に、市民税・府民税申告書をご提出いただくことにより、所得税等と異なる課税方法(申告不要制度、総合課税、申告分離課税)を選択することができます。(例:所得税等は総合課税、個人市・府民税は申告不要制度)

日本の場合は、地方税法の適用が自治体によって異なることはないので、居住地の自治体への説明に窮した場合は、これを参考に見せるといいだろう。

これを見る限り、日経ヴェリタスや大和総研の記事とは異なり、確定申告書をすでに出してしまった人でも、来年度の住民税の納税通知書が送られてくるまでは、居住地の自治体に住民税の申告書を出すことができるということになるだろうか。

しかしながら、地方税法第317条の3第1項但書には、「ただし、同日(確定申告書提出)前に当該申告書(住民税の申告書)が提出された場合は、この限りでない。」と書かれているので、大阪市の解釈が正しいかどうかは議論の余地があるかもしれない。

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「人生これから」 配当金の節税策 今回から
日経ヴェリタス 2017年2月12日~18日号

2017年度の税制大綱には、とある節税策がそっと盛り込まれている。上場株式などの配当所得への課税については、3つの方法がある。

一般的には配当金が支払われるときに、一律20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税の合計)が源泉徴収されている。
そのまま確定申告せずに済ませる「確定申告不要制度」。そして、あとの2つは確定申告が必要な方法で、配当所得を他の所得と分けて確定申告する「申告分離課税」と、他の所得と合算して申告する「総合課税」だ。
この3つから1つを納税者が選ぶ。

従来、所得の多い人、具体的には課税所得が695万円を超える人なら、最高でも税率が20.315%に収まる申告不要制度がお得と言われた。
だが、所得税と住民税と異なる課税方式にできると、2017年度の税制改正大綱に明記されたおかげで、合法的な節税策が生まれた。

簡単に言えば、所得税を総合課税、住民税を申告不要制度にすると、課税所得が695万円超から900万円以下という区分にあたる人の正味の税率が、18.273%になる。
従来、申告不要制度で20.315%の税率が最もお得だった層の人の税率が下がるということらしい。

要は、所得税と住民税で課税方法を変えたらお得になる人が結構いるということになり、総合課税がお得だった695万円以下の人も同じ理屈になるようだ。
サラリーマンの場合、年間の給与から給与所得控除と、各種の所得控除を差し引いたものが課税所得だ。

従って、この層は年収でいうと、おおよそ1300万から1400万程度。
この年収以下の人はみんな申告不要制度よりも、所得税は総合課税を、住民税は申告不要制度を選ぶ方が正味の税率が低くなる。
それまで最も有利だった方法を、所得税は総合課税を、住民税は申告不要の方法に変えると、税率で約2%お得になる。

つまり、10万円の配当金に対して約2000円、100万円なら約2万円、500万円の場合は約10万円だ。
その際、申告書を2種類作成する必要がある。
これを面倒だとひるむ人はいると思うが、その労力や手間と節税額を勘案して、どうするか考えてもいいだろう。

国内上場株式の配当所得に課税される税率
課税所得金額 所得税・住民税とも
申告不要①
所得税・住民税とも
総合課税②
所得税は総合課税で
住民税は申告不要③
最も税率の
低い課税方式
195万円以下 20.315% 7.2% 5.0%
195万円超330万円以下 7.2% 5.0%
330万円超695万円以下 17.41% 15.21%
695万円超900万円以下 20.473% 18.273%
900万円超1000万円以下 30.683% 28.483%
1000万円超1800万円以下 37.188% 33.588%
1800万円超4000万円以下 44.355% 40.735%
4000万円超 49.44% 45.84%

「ヴェリーが答えます」 上場株式の配当所得、今回からできる節税とは?「所得税と住民税で異なる課税方式に」
日経ヴェリタス 2017年2月19日~25日号

2月12日付の連載ドラマ「人生これから」で、2017年度の税制改正大綱で明確になった節税策を紹介したところ、読者から大きな反響があった。

上場株式の配当所得への課税に関して、所得税は他の所得と合算して申告する総合課税を選ぶ一方、住民税は「申告不要」にすれば、課税所得が900万円以下の人なら、それまで最も有利だちた方法よりも税率で約2%お得になる、というものだ。

この節税策は現行の地方税法でも可能であるが、今回の税制改正大綱でその解釈が改めて明確になった。
法改正を伴っているわけではないため、2016年分の所得に対する確定申告、つまり今回分から適用できる。

注意すべきは、税務署に所得税の確定申告書を提出する前に、住民税の申告書を市区町村の税務申告窓口に提出する必要がある点だ。
もっとも、地方税法の解釈が明確化されたことをまだ把握していない市区町村の税務申告窓口も多いようだ。

もし、市区町村の税務申告窓口の担当者と話しても受け付けられない場合は「その窓口に対し、都道府県の市町村課に問い合わせて解釈の明確化を確認してほしいと要望してみる」(地方税法を所管する総務省の自治総務局市町村税課)とよいかもしれない。

配当所得の多い人にとっては魅力的な節税策かもしれないが、周知徹底されるまでたはまだ時間がかかるだろう。
今回の解釈の明確化は個人住民税が対象であり、所得税の確定申告を受け付ける税務署は無関係なので税務署に問い合わせても関知していない可能性は高い。

<地方税法> 第3章 市町村の普通税-第1節 市町村民税-第3款 申告義務

第317条の3
1.第294条第1項第1号の者が前年分の所得税につき所得税法第2条第1項第37号の確定申告書(以下本条において「確定申告書」という。)を提出した場合(政令で定める場合を除く。)には、本節の規定の適用については、当該確定申告書が提出された日に前条第1項から第4項までの規定による申告書が提出されたものとみなす。ただし、同日前に当該申告書が提出された場合は、この限りでない。
2.前項本文の場合には、当該確定申告書に記載された事項(総務省令で定める事項を除く。)のうち前条第1項各号又は第3項に規定する事項に相当するもの及び次項の規定により附記された事項は、同条第1項から第4項までの規定による申告書に記載されたものとみなす。
3.第1項本文の場合には、確定申告書を提出する者は、当該確定申告書に、総務省令で定めるところにより、市町村民税の賦課徴収につき必要な事項を附記しなければならない。

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(注)これに関しては、2018年2月17日付「家族の所得税確定申告書、今年は住民税申告書とダブルで提出」で具体的な事例を掲載しました。

コメント

  1. はる より:

    こんにちは。米国債の件ありがとうございました。
    お礼だけでは何なので、カルロスさんが登場していたブログがありましたので、紹介します。
    もうご存知かもしれませんが・・・。
    http://money-learn.seesaa.net/article/429492658.html

  2. カルロス より:

    はるさん、こんばんは
    なるほど。
    いろいろ勉強になりますね。
    海外投資の税金に関しては黎明期より確固たるものが少なく、いろいろ確認しながらやってきたのですが、リンク先の方の情報が正しいということになりますかね。
    とりあえず、私の情報の方が古いので、注記という形で補足しました。
    情報ありがとうございます。
    ただ、彼のリンクは旧サイト(2017年2月末で閉鎖)の方になりますので、修正したのはこちらだけです。
    https://carlos-travelweb.com/essay-j/foreign_stock_dividend.html
    話が変わりますが、仮想通貨への投資がかつての海外投資なみに税金をどうしたらいいかの状況にありますね。
    昨年売って譲渡益を確保した人はどうするのかな~という気がします。

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