不死鳥の日本人ビジネスマンは再び世界で輝く

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喜ぶ女性

2009年7月8日号のニューズウイーク日本版は「世界が尊敬する日本人100人」という特集記事を掲載していた。

この雑誌では数年に1回、こうした「世界が認める日本人」といった記事を載せることがあり、非常に頼もしく思えたものだ。

ここに登場する人たちは、個人で才能を発揮して世界で認められている所謂職人肌の人が多かったように思う。

そして、今月6日付のFinancial Times紙は、アジア編集長デビッド・ピリング(David Pilling)氏の「日本を去る企業トップのパレードは、日本の経済界が世界から引きこもりつつあるかのような印象を与えた。日本の引きこもり具合を表す言葉として東京にいるとよく聞こえてくる表現が、「内向き」だ。しかし日本の経済界を見渡せば、「内向き」という印象にはささやかな欠点がひとつあるのが分かる。真実とは正反対だという。外国人重役たちは日本を離れているかもしれないが、日本人重役たちはこぞって海外へ出ているからだ。」から始まる「Sayonara decline! Japan is globetrotting again(衰退よ、さようなら!日本はまた世界を駆け巡る)」という記事を配信した。

かつて日本人ビジネスマンは日本の製品を売るために世界中を駆け巡った。
それが20世紀後半の世界第二位の経済大国の礎を築いたのは間違いない。

ところが、バブル経済が崩壊し、1990年代以降の失われた20年もの間、日本企業のほとんどは、まさに「内向き」思考で、ほとんど役に立たない政府を相手に景気対策してくれの合唱に明け暮れていたように思う。

しかし、今、再び日本人ビジネスマンは世界を相手に闘おうとしている。
時期的に言えば、海外志向が加速したのは東日本大震災の後だろう。

当時、日系メディアでは、日本企業が日本を捨てて出て行くといったネガティブなイメージばかりで書かれていたように思うが、リーマンショック後の円高基調と、大震災による電力危機が、海外に活路を見出すしかない、と腹を括らせたのも事実だろう。

まさに「座して死を待つよりは戦って死すべし」の心境だろうか。
内に引き篭もって「クレクレ!(何とか)シテシテ!」と言っている人が溢れているような記事で埋め尽くされている日系メディアの記事を読むとそんな感じを受けないが、日本人のポテンシャルはまだまだ高いのだ。

私の友人であるワールドインベスターズの石田和靖氏は言う。
「世界には日本人と仕事をしたいと言っている人がたくさんいるんだ!」と・・・

デビッド・ピリング(David Pilling)氏は、「多くの日本企業がどんどん海外に進出して行くこの事実は、日本経済界がまだまだ元気だという印であって、一部で言われるがような果てしない衰退の印ではない。(The fact Japan’s companies are venturing forth in increasing numbers is a sign of continued vigour in corporate Japan – not, as some would have it, of interminable decline.)」と締めくくっている。

約2年前、楽天とファーストリテイリング(ユニクロ)が社内の公用語を英語化するといって世間の耳目を集めた。
「日本企業を脱し世界企業へ」といった楽天のような国際事業戦略を取る企業はこれからも加速度的に増えるだろう。

そんな時代に、英語なんて勉強したくありません、海外なんて行きたくありません、と言っていたらまともな就職先はないだろう。

多くの就活学生が、英語(外国語)ができないために、国内の狭き門に殺到して苦労している原因の一つに、国民に対してまともな英語教育を施さず、論理的思考を育まなかった文部科学省(政府)と、国際ビジネスマンを育てよと政府に要求した北欧諸国の企業とは違って、それを座して見ていたカビ臭い財界首脳、それらを全く批判しない日系メディアにあるのだが、それを今更嘆いても始まらない。

世界で輝く不死鳥のような日本人になるために、あるいは自分の子どもたちをそうするために、自分でできる限りのことをやろうではないか。

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Sayonara decline! Japan is globetrotting again (June 6, 2012 Financial Times)
衰退よ、さようなら!日本はまた世界を駆け巡る (2012.6.12 goo ニュース)

Michael Woodford of Olympus. Sir Howard Stringer of Sony. Craig Naylor of Nippon Sheet Glass. The cavalcade of foreign executives to leave the helm of Japanese companies in recent months is long. Shorter is the list of those who remain. Easily the most famous of whom is Carlos Ghosn, the Brazilian-born French businessman who still heads Nissan after coming to Japan a decade ago. No wonder people have started calling him Ghosn Alone.

オリンパスのマイケル・ウッドフォード、ソニーのサー・ハワード・ストリンガー、日本板硝子のクレイグ・ネイラー。ここ数カ月の間に日本企業のトップを去った外国人CEOの行列はかなり長い。残る外国人トップのリストはそれに比べると短い。

おそらく一番有名なのは、ブラジル出身のフランス人ビジネスマン、カルロス・ゴーン日産社長だ。約10年前に来日して以来、今なお日産自動車を率いている。

最近では「ゴーン・アローン」と呼ばれているのも無理もない(訳注・映画「ホーム・アローン」にひっかけている。「ゴーンだけ」「ゴーンは独り」などの意味)。

The parade of departures – Mr Woodford’s after helpfully exposing a $1bn fraud – has given the impression that corporate Japan is retreating from the world. A word one hears a lot in Tokyo these days is uchi-muki (inward- looking) to describe the phenomenon of a country drawing in on itself.

日本を去る企業トップのパレードは、日本の経済界が世界から引きこもりつつあるかのような印象を与えた(ウッドフォード氏は10億ドル規模のスキャンダルを暴露してくれた後に、去っていった)。日本の引きこもり具合を表す言葉として東京にいるとよく聞こえてくる表現が、「内向き」だ。

But look at corporate Japan and this impression has one slight flaw: it is the exact reversal of the truth. Foreign executives may be leaving Japan but Japanese ones are flocking abroad. They may not be making the splashy deals that grab headlines. Yet Japanese companies are second only to those of the US in making foreign acquisitions. In the first five months of 2012 alone, according to Dealogic, Japanese companies spent $35.4bn on foreign targets. That puts them on track to equal last year’s record of $83.7bn. This year, Japanese companies have accounted for 11 per cent of all cross-border deals by value, against 9 per cent for 2011 and just 2-3 per cent for most years in the past decade.

しかし日本の経済界を見渡せば、「内向き」という印象にはささやかな欠点がひとつあるのが分かる。真実とは正反対だという。外国人重役たちは日本を離れているかもしれないが、日本人重役たちはこぞって海外へ出ているからだ。

海外で向かう日本人重役たちは大きな見出しになる派手な取引をまとめたりしないかもしれないが、海外での買収案件の件数で、日本企業はアメリカに次ぐ世界2位なのだ。

調査会社ディーロジックによると、2012年の1~5月だけで、日本の企業は海外企業に対して354億ドルを使っている。このペースでいけば今年も、昨年1年間の837億ドルに匹敵するだろう。

今年行われたクロスボーダー取引の全評価額の11%に日本企業が関連している。2011年は9%で、過去10年間は年わずか2~3%というのが専らだったのだが。

Japanese companies, in other words, are substantially ramping up their international push. Last year they spent $25bn more than Chinese companies. True, no one really noticed. That is because Japanese purchases, shocking in the late 1980s, have become routine. Who could forget, for instance, this year’s $1bn grab by Glory, Japan’s top cash-handling machine manufacturer, for Talaris Topco, its UK rival? (If truth be told, the deal never made the pages of the Financial Times.) Or Asahi Kasei’s bold $2.2bn acquisition of Zoll Medical? Even deals that did make ripples, such as Marubeni’s $5.6bn bid for Gavilon, a US grain trader, have hardly set the world alight.

つまり日本企業は、海外進出をかなり強化しているということだ。日本企業が昨年1年で海外に投じた資金は、中国企業よりも250億ドル多かった。確かに、これをまともに気に掛けた人はほとんどいない。

なぜかというと、1980年代にあれほど大騒ぎされた日本企業による海外資産買収は、今では当たり前のものになっているからだ。たとえば今年、日本の通貨処理機大手グローリーがイギリスの競合他社タラリス・トプコを10億ドルで獲得した、

あの買収劇を誰が忘れられようか(実を言えば弊紙『フィナンシャル・タイムズ』もこの取引を報道していない)。あるいは旭化成が22億ドルで米医療器具メーカー、ゾール・メディカルを獲得する大胆な取引はどうだ。

丸紅が56億ドルで米穀物商社大手ガビロンを買収した案件は、多少の話題にはなったが、世界中が大騒ぎしたというわけではない。

Yet these are precisely the deals Japanese companies should be making. Of course, the merits of these particular acquisitions have yet to be tested. Glory was punished by the markets for what some considered a risky foray. But these are far from the vanity acquisitions of the Rockefeller Center or Pebble Beach for which Japanese companies were once famous.

しかし日本企業は今まさに、こういう取引を進めるべきなのだ。もちろん一連の買収が日本企業にどういうメリットをもたらすかは、これから試されることになる。

グローリーによるタラリス・トプコ買収は危険な賭だという意見もあり、市場は否定的に反応した。それでもこれは、日本企業がロックフェラーセンターとかペブルビーチを見栄のために買収していたのとは訳が違う。日本企業による海外買収といえばそういうものと有名だったが、今では様相はまったく変わっている。

It is not just acquisitions. Japanese companies, spurred on to look overseas by a flat domestic market and fears of energy shortages, are quietly shifting production abroad. By 2014, according to Jesper Koll, director of equity research at JPMorgan, more than three-quarters of Japanese cars will be produced overseas. In 2005, it was just half.

話は買収に留まらない。停滞の続く国内市場やエネルギー不足の懸念から、日本企業は静かに、生産拠点を国外に移転させている。JPモルガン証券のイェスパー・コール株式調査部長は、2014年までに日本車の4分の3以上は海外で製造されるだろうと言う。2005年にはまだ半分に過ぎなかった。

It is hardly surprising that Japanese companies should be looking abroad. Emerging markets, in particular, offer faster growth while the strong yen, now at roughly 79 yen to the dollar, makes acquisitions seem cheap. In January, Yukio Edano, trade and industry minister, told the FT that Japanese businesses “should use the strong yen assertively to invest and buy things”. They have taken him at his word.

日本企業が海外に目を向けているのは、まったく驚くに値しない。とりわけ新興市場の成長率は日本より高いし、現在1ドル=約79円で推移している円高のおかげで、買収コストは安く感じられる。

枝野幸男経済産業相は今年1月、『フィナンシャル・タイムズ』に対して、日本企業は円高を積極的に利用して投資したり、ものを買った方がいいと話した。そして日本企業は、枝野氏の言うとおりに行動している。

Mr Edano also pointed out that Japan, with its nuclear plants closing one by one, was short on resources. “So we need to use this opportunity to firmly secure rights to energy and commodities.” Again, Japanese companies are responding. Four of the top 10 deals made this year have been in oil and gas, with purchases in Australia, Canada, the US and UK.

枝野氏はさらに、原子炉がひとつひとつ停止していく日本は、資源に乏しい国だと指摘している。だからこその機会を使って、エネルギーや商品に対する権利をしっかり確保しなくてはならないと。この要請にもまた、日本企業は反応している。今年成立した買収上位10件のうち4件は石油・ガス関連で、オーストラリア、カナダ、アメリカ、イギリスの企業を買収している。

Foreign acquisitions are a logical step for Japanese companies. Still, they should be careful. They have a tendency to overpay. Since 2000, they have forked out an average premium of 28 per cent above the previous day’s closing price, 5 percentage points above the global norm. They are also a little too honourable. Daiichi Sankyo stuck to its offer for Ranbaxy even when the Indian drugmaker’s share price wilted. Daiichi ended up taking a 360bn yen hit when it was found that Ranbaxy had serious regulatory problems in the US.

日本企業にとって海外企業買収は論理的な動きだ。その一方で、慎重さも大事だ。日本の会社は、払いすぎる傾向があるからだ。日本企業は2000年以来、前日終値に対して平均28%のプレミアムを払ってきた。これは世界的な標準より5%高い。日本企業はその上、いささか誠実すぎるのだ。

インド製薬会社ランバクシーが株価を大きく下げても、第一三共は提示価格を下げようとしなかった。加えて、ランバクシーが米国で深刻な規制上の問題を抱えていると明らかになると、第一三共は3600億円の評価損を計上する羽目になった。

Nor have Japanese companies always been good at integrating their foreign acquisitions or at extracting synergies. They have at times lacked the nous to do well in emerging markets, producing goods that are too pricey for poorer consumers.

それに日本企業は、買収した外国企業の統合やシナジー(相乗効果)を引き出すのが、必ずしも得意ではない。あまり裕福でない消費者には値段が高すぎる商品を作るなど、新興市場で成功するための知恵に欠けることもあった。

Still, one should not exaggerate the pitfalls nor worry excessively about what is sometimes called “hollowing out”. As Japan ages and its economy matures, it is right and proper that its companies look abroad for growth.

それでも、落とし穴を強調しすぎたり、時に「空洞化」と呼ばれる現象について過剰に心配したりするのは良くない。日本が高齢化し、経済が成熟するに伴い、日本企業が成長を求めて海外に目を向けるのは正しく、適切なことだ。

Some will doubtless fail. But the fact they are venturing forth in increasing numbers is a sign of continued vigour in corporate Japan – not, as some would have it, of interminable decline.

もちろん、失敗する企業も出てくるだろう。だが、多くの日本企業がどんどん海外に進出して行くこの事実は、日本経済界がまだまだ元気だという印であって、一部で言われるがような果てしない衰退の印ではない。

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