海外への資産逃避(capital flight)は加速するのか

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2015年12月1日 HSBC香港本店

先月25日、海外投資を楽しむ会が1998年4月から発刊し続けた懐かしの「ゴミ投資家」シリーズ本の復刻版がPDF版の書籍として発売されることになった。

この会は、1998年4月1日付で、日本版金融ビッグバンという名の外為法改正が行われたことを契機に、日系大手証券から「ゴミ」という隠語で呼ばれていた個人投資家が、国内の金融機関に依存じない海外での資産運用を学ぶことを目的に発足したものだった。

私もこの会を通して学んだ知識をもとに、2002年1月にTD Ameritrade(当時のDatek Online)、続いて2003年12月にHSBC香港に口座を開くことになった。(海外の金融機関に口座を開設する

一方で、奇しくも同じ日、主要メディアで日本の貿易赤字が31年ぶりに赤字に転落したことが報じられ、日本の将来にますます暗雲が立ち込めている。

その1週間後の2月2日には、朝日新聞で三菱東京UFJ銀行が日本国債急落を見据えた損失防止策の準備を始めたことが、週刊新潮では「旅行ついでにオフショア生保なら元本保証で年利4.75%」という表題で、海外への資産逃避をいっそう勧めるような記事が掲載されていた。

このような海外投資に関するネタは、過去にもマネー誌を中心にいくつかあるので、特に目新しいものではないが、昨年11月16日付の日経新聞のコラム、おおさか法務事務所代表の川原田慶太(かわらだ・けいた)氏の「アジアで銀行口座を開設しよう-資産作りは海外で」が載っていたことは私も少し驚いた。

どちらかというとこの手のネタは日経新聞本体でなく、日経マネーのものだっただけに、いよいよ本丸にも掲載され出しのか、と思ったのだ。

この流れの中で、政府は平成24年度税制改正大綱に「国外財産調書制度」の創設を盛り込み、徴税漏れ防止策を施し始めた。

その内容は、日本国内の居住者で12月31日時点で海外に5000万円以上の資産を持つ人は、翌年の3月15日までに所轄税務署に「国外財産調書」を提出しなければならないというもので、報告をしなかった場合、または虚偽の報告をした場合、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が課されるとの罰則規定もある。

このことは、すでに富裕層の資産の相当部分が海外に流出していることを裏付けるようなものとも言えるが、これによってキャピタルフライト(資産逃避)が抑止できる可能性はあまりなさそうだ。

しかしながら、政府が昨年11月3日に税務行政執行共助条約(Convension on Mutual Administrative Assistance in Tax Matters)に署名したことで、これが発効すれば、一罰百戒的な脱税や違法行為の摘発は行われやすくなることだろう。

ところで、週刊新潮の記事にある元本保証型オフショア養老保険に関しては、笹子善充氏が自身のブログ「香港マイタン日記」で書かれているので、そちらをご覧いただくとして、「日本に支店を設けない外国保険業者が日本人と契約することを禁じる条文」とは何かというと、保険業法第186条(日本に支店等を設けない外国保険業者等)で、彼らと契約するときは事前に内閣総理大臣の許可を受けなければならないとあるからだ。

さらに細かく、保険業法施行令第19条(日本に支店等を設けない外国保険業者の締結できる保険契約)、保険業法施行規則第116条(日本に支店等を設けない外国保険業者の締結できる保険契約)を見ても、日本在住の個人が無条件で合法的に海外の生命保険会社と契約できるのは「海外旅行傷害保険」だけということになる。

ただ、金融庁の回答にある「個別の案件ごとに判断が必要になってくるでしょう」というのは、オフショア生保の加入契約の許可申請を却下するためには、申し込みしようとする個人から書類を出させ(保険業法施行規則第117条)、その可否を60日以内に判断するように努める(保険業法施行規則第246条第15号)という規定からくるものだ。

それに、これらの金融商品は、生命保険といっても実体は投資信託(mutual fund)であることが多く、日本の生命保険とは性格が異なる。

投資信託ならば、金融商品取引法施行令第17条の3により、日本に拠点を持たない外国の金融機関から投資信託を購入することは合法になるため、個別の案件ごとに判断することになると言うのだろう。

また、実際問題として、金融庁が厳格な法運用をして、たくさんの契約予定者から一斉に許可申請など出されたら業務がパンクするということもある。
従って、個人が海外へ行って契約するものまでいちいち審査できないというのが実態であろう。

いずれにせよ、1995年9月8日に公定歩合(現在の基準割引率および基準貸付利率)が0.5%になって以降、公的債務が加速度的に膨らみ続けた結果、国債の暴落(金利は上昇)局面が来るまで、つまり平時に、この利率が1%を超えることはあり得ない状況となった。(2004年2月26日-27日 朝日新聞「日の丸ファインス-巨大化の果てに」

それゆえ年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が「基本ポートフォリオの考え方」として発表している名目予想運用利回りの3.2%を達成することは、運用資金の3分の2を安定資産(国内債券)で運用せざるを得ないことからすると、夢物語以外の何物でもなく、少子高齢化の顕在化と相俟って老後の資産形成は自分自身で(自分年金)という流れとなるのは必然と言えた。

その中で、財政破綻リスクが顕在化している日本を避け、海外で資産運用しようというのも当然の流れであり、もはやこれを堰き止める力は日本の金融政策上残されていないのである。

最後に、香港で投資した場合の積立ファンドなどの検証をしたければ、弊サイトの「資金係数表(Excel)」をダウンロードし、年金終価係数を使って計算するといいだろう。

計算式は日本における源泉税率を考慮してあるので、エクセル表の「シートの保護の解除」をしてから香港のゼロ%にすると、ファンドの運用途中の源泉税がないことがいかに自分の資産運用にプラスになるか実感することができる。

もちろん、積立式の場合、為替が円安方向になれば、それだけ円換算した月々の負担も重くなるというリスクがあるので、今の超円高を生かすなら一括払いにするか、積立を途中で減額又は中止できるか確認することが必要だろう。

当然ながら、数年以内の国債(円)暴落に備えての海外投資と銘打っておきながら、積立をするという愚かな選択をすべきでないことは言うまでもないことだ。

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旅行ついでにオフショア生保なら元本保証で年利4.75% (2012.2.9号/2012.2.2発売 週刊新潮)

もうじきまともな”年金暮らし”なんて出来ない時代がやって来る。老後のために少しでも蓄え、資金を運用しておきたいが、いかんせんどこも超低金利。だが、海外には高利回りかつ元本保証の養老保険があることをご存知か。

年金制度は破綻寸前である。
すでに政府は支給年齢の引き上げを検討しているし、40歳より若い世代は払っている厚生年金を将来満額もらえることはないという。

不景気で企業年金も次々と解散し、サラリーマンも安泰ではないのだ。
これで将来、財政破綻が起きようものなら、待っているのはホームレス同然の暮らしである。

ライフプランナーが言う。
「老後の生活を支えるため、今から公的年金のほかに養老保険や個人年金に入っておくぺきです。しかし、国内の生保が売り出しているのはせいぜい利回りが1%。これでは、定期預金と変わりません。しかし、海外に目を向ければ、高利回りで運用している養老保険がある。”オフショア生保”と呼ばれるものです」

このオフショア生保、いわゆる外資系生保とは少し違う。日本に支社や子会社を置いていないため、加入したければ自分から海外に出かけて手続きしなくてはならないのだ。

香港在住の投資コンサルタント・笹子善充氏が言う。
「いま、香港で人気なのが元本保証の養老保険です。外資なので米ドルか香港ドル建てですが、月々3万円程度から始められ、5~25年の満期が設定されている。利回りの良いものだと年利4.75%で複利運用してくれます」

ちなみに、45歳のサラリーマンが年利4.75%で毎月3方円をオフショア生保で積立てると、公的年金の支給開始年齢の65歳では約1214万円が償還される計算になる。
運用益だけで500万円近くに達するのだ。

「加入の手続きも最近は簡単になりました。パスポートに加えて免許証や公共料金の明細など住所が証明できるものを持って、香港市内の保険会社や代理店に出向けばいい。日本語に対応できる保険代理店も20社ほどありますよ。いったん手続きしてしまえば、あとは日本にいてクレジットカードで支払うだけです」(笹子氏)

金融当局の「壁」

ちなみに、こうした養老保険を提供しているオフショア生保は、ベルギーの『アジアス』、イギリスの『スタンダードライフ』、イギリスに近いマン島にある『ハンサード』といった会社。
耳慣れない会社だが、いずれも大手生保ばかりでアジアスなどはソルベンシー・マージン比率(保険会社の健全性を示す指標)で日本生命を上回っている。

もちろん、為替リスクや高い手数料を取る代理店もあってリスクが全くないわけではない。
だが、こうしたオフショア生保が日本で知られてこなかったのは金融当局の規制があるからだ。

経済ジャーナリストの岩崎博充氏が言う。
「保険業法には、日本に支店を設けない外国保険業者が日本人と契約することを禁じる条文があります。要するに金融庁(旧大蔵省)が国内の保険業者を保護しようとして、法律を制定したのでしょう」

そこで、金融庁に開いてみると、「個別の案件ごとに判断が必要になってくるでしょう」という返事。
ちなみに、オフショア生保に加入して摘発されたケースは1件もない。

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数年後の国債急落を想定 三菱UFJ銀が危機シナリオ (2012.2.2 朝日新聞)

日本国債所有比率銀行最大手の三菱東京UFJ銀行が日本国債の価格急落に備えた「危機管理計画」を初めて作ったことがわかった。
数年後に価格が急落(金利が急騰)して金利が数%にはね上がり、損を少なくするために短期間に数兆円の国債を売らざるを得なくなることもある、としている。

国債の有力な買い手がいよいよ「急落シナリオ」を想定し始めた。
日本政府の借金総額は約1千兆円あり、このうち国債を発行して投資家から借りているのは約750兆円(昨年9月末時点、日本銀行調べ)。

国債の9割超は国内で買われ、4割を銀行が持っている。とくに三菱東京UFJはゆうちょ銀行を除いて最大の約42兆円を持ち、国債を売買する債券市場への影響力が大きい。

計画は昨年末にまとまった。日本の経済成長率や経常収支、為替など30指標をチェックし、国債急落につながる変化があれば損失を軽くするために売却などの対応をとる。

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【31年ぶり貿易赤字】経常赤字転落なら国債消化に不安 欧州の二の舞いリスク (2012.1.25 産経新聞)

主要国でも最悪の「借金大国」である日本が経常収支の赤字国に転落すれば、国債に対する信認が揺らぎ、欧州債務危機の二の舞いとなる恐れがある。

海外からの稼ぎが企業や家計に蓄えられ、その資金で大量の国債を買い支えるという構図が崩れかねないためだ。
日本の国と地方の借金の総額は国内総生産(GDP)の2.1倍に達し、ギリシャ(1.6倍)やイタリア(1.2倍)も上回る。

ただ、日本国内の個人や企業が持つお金で国債の9割以上が消化されており、欧州の重債務国のように国債価格が暴落して金利が急騰する事態にはなっていない。

こうしたお金は、日本の企業などが海外との取引で稼いで得た経常収支の黒字が原資だ。
経常収支が赤字に陥れば、国内の富が海外に流出して買い支えられなくなり、ギリシャのように国債の消化を海外のお金に頼らざるを得なくなる。

市場も神経をとがらせている。
大和証券キャピタル・マーケッツの尾野功一シニアストラテジストは「貿易赤字が恒常的になり、経常赤字が避けられなくなれば、日本国債が売られる材料になる」と指摘する。

実際、市場は財政と経常収支の「双子の赤字」を抱える欧州の国を狙い撃ちし、国債を売り浴びせている。
ギリシャでは長期金利が30%に、イタリアも危険水域の7%に達した。

日本も金利が上昇すれば、国債の利払い費が膨らみ、財政はさらに悪化する。
財政再建を進める上でも、経常黒字の確保が不可欠だ。

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日本の輸出大国時代の終わり (2012.1.24 Wall Street Journal Japan)

【東京】世界で最大規模の輸出国家のひとつが勢いを失っている。
数十年にわたり、日本は製造業の力と輸出に主眼を置いた貿易政策によって、世界中の市場に自動車や家電、セミコンダクターなどの雨を降らせてきた。

だが、その時代も終わった。
日本政府は25日、1980年以来初めてとなる貿易赤字(通年ベース)を発表すると予想されている。
仮に円高が続き、世界経済も弱いままであれば、日本は向こう数年間、貿易赤字を抱えることになるとエコノミストらは警告している。

この驚くべき変化は、工場を破損させ、サプライチェーンを寸断し、この国の原子力発電所の多くを待機状態にした、昨年3月の地震と津波によって一部もたらされた。

しかし、輸出大国日本が年金生活者の国へとゆっくり変化していくなかで、企業の競争力低下のような、長年にわたり水面下で進行してきた傾向を、地震はただ速めただけのようだ。

生産部門を海外へ移す日本企業は増え続けている。
森精機製作所の森雅彦社長は「転換期ですね」と言う。
同社は今年、1948年の創業以来、海外初となる工場を米カリフォルニア州デイビスに開く。
5年以内に同社が製造する機械の40%程度を海外で生産したい意向だ。

かつて日本は世界中の国を自分たちの勢いに従わせていたが、今、この島国は自身のコントロールが及ばない強い国際圧力によって大きく影響を受けている。

中国やブラジルといった新興国の急激な成長が、カメラや携帯電話、また自動車などの製造に必要な石油・ガスからレアアースなど輸入品すべての価格を吊り上げてきた。

森氏によると、レアアースの価格高騰が森精機で必要なモーターに使われている磁石のコストを2倍にしたという。
日本の国内製造業の沈滞は貿易統計に反映されている。

2011年1月から11月までの貿易赤字は2兆3000億円となった。
2010年は通年で6兆6000億円の黒字だった。
アナリストらは11月までの赤字を相殺するほど大きな黒字が12月の統計に計上されるのは不可能だとしている。

「大きなトレンドとしてこのままでは貿易赤字になっていく傾向にあることを否定はしない」と、枝野幸男経産相はウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで述べた。

日銀出身でクレディ・スイス証券のチーフ・エコノミストを務める白川浩道氏は、日本が昨年同様、今年も貿易赤字を記録すると予想している。
同氏によると、円が対ドルで歴史的な高値水準を維持し、エネルギー価格が高く、外需が比較的弱い限り、黒字に戻る可能性はほとんどないという。

こうしたなか、日銀は24日、2011年度の実質国内総生産(GDP)伸び率の予想を従来の前年度比プラス0.3%からマイナス0.4%に下方修正した。
日銀は、海外経済の減速や円高が引き続き景気の重しになっているとしている。
これは日本にとって不吉な展開だ。

仮に貿易赤字が続けば、日本は安定した債権国から純債務国に転じる可能性がある。
日本は、経済規模に対する比率で比べると、すでにイタリアよりも大きな債務負担を抱えており、将来、債務問題が一段と深刻化しかねない。

円は現在、天空をつくような高水準にあるが、日本が貿易赤字を続ければ、やがて円も下落する。
弱い円は日本の製造業を下支えするものの、輸入への依存度を高めつつある経済に打撃を与えることになる。

第二次大戦後の数十年間、日本は輸出主導の成長路線を維持し、この国のリーダーたちが「日本の奇跡」と呼ぶ驚くべき富の創造を達成した。

1981年には日本車が米国市場を席巻し、米国政府は日本の自動車メーカーに対し、「自発的に」輸出を制限するよう圧力をかけ始めた。
その直後、米国は日本が世界市場で半導体をダンピング(不当廉売)していると非難した。

日本の輸出攻勢を抑え込むための国際な取り組みの一環として、米国と欧州主要国および日本は1985年にプラザ合意を結んだ。
これは、合意がなされたニューヨーク市内のプラザホテルから名づけられたものだが、主要通貨に対する円の価値を高め、世界市場で日本製品の価格競争力を抑えようとするものだった。

この合意を受けて、1985年に1ドル239円だった円は、88年には1ドル128円にまで上昇した。
しかし、巨大な日本の貿易黒字を縮小させるという期待された効果を得ることはできなかった。

日本の金融当局が経済への影響を軽減しようと、安い資金を市場にあふれさせたためだ。
結果、資産バブルが日本経済と金融市場に大きなひずみを生じさせ、その崩壊が20年に及ぶスタグネーションの土台を作った。

米国は中国の人民元に対して同様の圧力をかけているが、中国側は、プラザ合意のトラウマが、米国の圧力に応じることを躊躇させる大きな理由であると指摘している。

ここ数年、日本の製造業は中国や韓国といったライバルたちに後れをとっている。
これらの国の製品は、日本製品と同様の品質だが、より低コストで作られている。

デロイト・トウシュ・トーマツと米国競争力委員会によって2010年に実施された、世界の製造企業トップらを対象にした調査では、向こう数年間、日本は高齢化と国内生産のコスト高により、製造業の競争力において、引き続き新興国や米国の後塵を拝することになると予想されている。

海外での競争激化は、トヨタ自動車やソニーといった日本の巨大メーカーが海外で生産する商品の価格に下げ圧力をかける一方、円高が利益の補てんをさらに困難にしている。

日本の原子力発電を事実上ストップさせることになった福島第1原子力発電所の事故も、エネルギーコストを押し上げている。
福島原発を運営する東京電力は先週、大口契約の法人を対象に平均17%、電気料金を引き上げると発表した。

世論が停止中の原発の再稼働に反対するなか、高コストの石油への依存度が高まっていることを理由に挙げている。電気料金の値上げは1980年以来のことだ。
ほかの電力会社も原発再稼働は難しいとみている。

日本政府は、1年前には日本の電力供給の約30%をまかなっていた原子力発電所が、電力需要の多い夏にすべて停止すると警告し、強制的な供給管理か計画停電の実施を示唆している。
製造業者はこれに備えて、準備をしている最中だ。

たとえば森精機は西日本の工場で節電対策を準備中だ。
災害は、長年の間に起ってきた日本経済の変化を速めただけにすぎないと指摘する向きもある。

「これは成熟化の過程」だと日本貿易振興機構の石毛博行理事長は述べた。石毛理事長は1951年に輸出を振興するために同機構は設立されたが、やがて日本への投資を奨励し、また海外への移管を希望する中小企業のカウンセリング業務を担うように変化していったという。

日本は依然として、自動車から内視鏡まで世界市場の大きなシェアを握る安定した企業を持つ豊かな国だ。
日本の輸出を縮小させている要因のいくつかは一時的なものである。

たとえば欧米経済の低迷による需要減や、ドルやユーロに対する歴史的な円高などだ。
円が弱くなれば、日本の製造業にとって有利に働くだろう。

また、財務省によると、外貨準備と米国債のような対外投資を合わせると、日本は251兆円の対外純資産を持つ。
これは世界最大規模だ。

「トレンドとして貿易収支が赤字になるのは確実。でも、経常収支が黒字を保っていれば問題ない。経済が成熟してくるにつれてそうなるのは(貿易赤字になるのは)当然」と、元財務省官僚の榊原英資氏は述べた。

経常収支はその国の貯蓄と投資の差を表し、財・サービスの取引や投資収益などの収支を示す。
経常収支が赤字であれば、国内の投資が外資によって賄われているということだ。

人口が高齢化し、長期にわたる景気の低迷が、好景気のときに倹約家の日本人が貯めてきた多額の現金を減らしつつあるなかで、日本の貿易収支に構造的な弱体化が起こってきた。

これは将来、日本が遅かれ早かれ、約1000兆円の債務返済に問題を抱えることになるとの不安をかきたてる。
森精機では、いくつかの不可抗力が輸出を押し下げ、輸入を増やしているという。

トヨタ本社近くに工場を構える同社は、自動車から航空機まであらゆる製品の製造に必要な旋盤やフライス盤などを作っている。
同社は日本製の部品を使い、依然として製品の98%を日本で生産している。

昨年の地震と津波で東北地方の工場が被災したため、いくつかの部品が手に入りにくくなり、国内の供給に頼っていたビジネスが裏目に出てしまった。

さらに悪いことには、森精機は約15億ドルある売り上げの65%を海外で得ているが、円高で大きな打撃を受けた。
森社長は、1ドル80円を超える円高なら(現在のレートは約77円)、米国向け製品は米国で製造したほうが安上がりだという。
昨年、森社長はカリフォルニア州に工場を建てることを決めた。
最終的には、製品の約20%を米国で、ほかの20%を欧州で製造したいという。

東京大田区は個人経営の工場で有名だが、ダイヤ精機の諏訪貴子社長も海外に工場を建てることを検討しているという。
従業員約30人の同社は、自動車メーカーが使用する精密計器を製作している。

諏訪社長によると、日本の大手自動車メーカーは今、工場を海外へ移管しており、新しい工場に備えるための精密計器の注文が増えているという。
だが、この注文が一巡すれば、需要がなくなるのではないかと諏訪社長は心配している。

同社長は現在、大田区の中小企業がタイに設けた工業団地へ、同社の製造過程の一部を移管するメリットを検討している。
タイであれば、費用対効果の高くない低利益の自動車部品やツールを大量生産できるという。

加えて、今後も円高が進み、国内生産環境が一段と悪化すれば、このような工場は海外での前哨基地としての役割を果たすことができると、諏訪社長はいう。

「もしかしたら円高にすごく振れて、それがずっと長引くかもしれない。デフレと円高にずっと苦しむ可能性がある。そういう場合には日本だけでやっていくのは不可能」だと、諏訪社長は述べた。

英文記事:End of Era for Japan’s Exports

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