2010年(平成22年)6月までに改正貸金業法が完全実施されることになっている。
これらの概要については、日本貸金業協会の改正貸金業法に書かれているが、「総量規制の導入」「上限金利の引き下げ」の二つは一見すると借り手の保護につながるように見えるが、別の観点から見ると、そうは言い切れないことがわかる。
改正法の概要を読むと、一つの会社からの借入残高が50万円を超えるか、複数の会社からの借り入れ残高が100万円を超えることになる場合は、年収を証明する書類を提示しなければならず、年収の3分の1を超える借り入れはできなくなると書かれている。
つまり、今の時点でレッドゾーン入りしている債務者は改正法施行後はサラ金から返済を強く迫られることになるだろう。
今まででさえ、借り手が中小のサラ金の門をくぐるときには、すでにレッドゾーン入りしているわけだから、今後は法律を守っている限り、中小のサラ金は融資ができないということになる。
また、平成19年版の「消費者金融白書」にもあるように、上限金利の引き下げで、リスクプレミアムのなくなったサラ金の経営は悪化し、大手のサラ金はともかく、中小の合法金融がバタバタと廃業することになると予想されている。
そもそも金利は債権回収の困難な度合い(リスク)を表しているとも言えるのだから、債権回収という仕事が日陰者扱いされ、法的なバックアップもほとんどない状況の日本では、暴利の禁止とともに債権回収をやりやすくすることも抱き合わせで行うことが必要だ。
そうでなければ、合法業者が消えたあとにはヤミしか残らなくなる。
ここではサラ金のことを取り上げているので関係ないや、という人も多いだろうが、奨学金などの公的融資の焦げ付きが多いのも、離婚裁判や慰謝料の請求裁判後の債権回収が順調にいかないことが多いのも根は同じなのだ。
ところで「ワルの金儲け銭ゲバ術」という本によれば、レッドゾーン債務者を相手に、最近儲けているのが「カード換金屋」だそうだ。
これは、換金屋に来た客に最寄りの旅行代理店に行かせて、クレジットカードで新幹線の回数券などの換金性の高いものを買わせ、それを8掛けで買い取るといった形で、実質的に融資を行うものだ。
その買い取った金券は正規の金券ショップに売却して利益を得るという仕組みだ。
ちなみに、クレジットカードでのショッピングは貸金業法が適用されないので、レッドゾーン債務者でもOKということらしい。
よく考えると彼らがどうやってクレジットカードの審査に通るのか不思議ではあるがね。
もっとも、これが使える使えないにかかわらずレッドゾーン債務者は泥沼の一途を辿るわけだが、そういった意味では貸金業法の改正も彼らにはほとんど役には立たないだろう。
ただレッドゾーンの男がすべてを真っ白にするなら偽装養子縁組か妻氏での婚姻、こういうのも多いのだろうな。
「5社に1社が撤退検討」19年版消費者金融白書 (2007.11.2 産経新聞)
日本消費者金融協会(JCFA、木下盛好会長=アコム社長)が2日まとめた平成19年版の「消費者金融白書」で、5社に1社が消費者金融からの撤退を検討していることが分かった。
回答があった47社のうち「会社を売却して撤退」と「債権を回収してから撤退」と答えた企業数の合計は19.2%に上り、18年調査の5.6%から大幅に上昇した。出資法の上限金利引き下げで、消費者金融会社の厳しい経営環境が改めて浮き彫りになった。
白書によると、上限金利引き下げの決定に伴い利息返還請求に基づく19年3月期の支払額は、1402億円と前期に比べて941億円増加した。経営を圧迫する要因として、95.8%が「利息返還請求の増加」を挙げ、「貸し付け総量規制の導入」(83.3%)、「貸し付け上限金利の引き下げ」(79.2%)が続いた。
同日会見した木下会長は、「経営状況が悪化していることが如実に表れている。
ここ1、2年で会員数も大幅に減っている」と語り、業界の取り巻く環境が急速に悪化していることに懸念を示した。
そして、小口金融に対する政府の無策が「ヤミ金融対策の強化」という理念とは裏腹に彼らを増長させることになっていることは、当の金融業者も認めている。
夏原武氏の書いた「ザ・闇金融道」の最後に某金融業者の話としてこう書かれている。
わたしらが一番恐れていたのは、不景気だから、銀行あたりに命じて、個人融資の低利を徹底させるとか、信組や信金に個人枠を行政命令でやらせるといったことでね。
そんなのやられたら金融屋はアウトだからね。ところが銀行にドカンとつぎ込みはするものの、個人には回さないというやり方でしょう。万々歳ですよ。
金融屋としては、いまの状況ができるだけ長く続いてくれることを祈ってますよ。小泉さんにはできるだけ長く政治をやっていてほしい。いや、ほめ殺しなんかじゃないですよ、心底そう思ってるんだから。
ヤミ金業者が手放しで喜んだ政府の金融無策、それは次の総選挙で民主党が政権を取っても変えることは難しいだろう。
私が思うに、銀行が保有している住宅ローン債権の焦げ付きの増大が不安視される中で、個人向けの低利融資などという新たなリスクを負うとはとうてい考えられないからだ。
そして、近い将来、日本版サブプライムローン問題が炸裂したとき、果たして政府は溢れかえる破産者を前に有効な施策を取ることができるのだろうか。
不況のおかげでますます暴走する恐怖ビジネス
去年(2001年)の四月ね。わたしら乾杯したんですよ。小泉政権誕生ですよ。いや、別に自民党の支持者でもないし、小泉ファンでもないですよ、関係ないもの。
そうじゃなくて、あの『痛みを伴う改革』ってやつに喜んだわけ。痛みってなんですか。要するに不況でしょう。経済が上向きません、と政府がはっきり言ったんでしょ。ということはリストラも転職も減給も続くわけです。
ほんの一年前に政府はなんていいました。覚えてます?
税金負けてやるから家を買えといったんですよ。そう、住宅ローンの大奨励を行ったんですよ。ところが一年で『痛み』ですからね。住宅ローン抱え込んだ人はどうなります。
もしリストラされたら、給料が下がったら、ボーナスがカットされたら。支払いが滞りますよね。でも、せっかくの家を手放したくない。そうなれば、それを補給するために借金するでしょ。
ということはわれわれが儲かるということです。
風が吹けば桶屋が儲かる、なんてのよりずっとわかりやすいでしょ。実際、東京じゃあ小泉政権誕生で、登録業者は増えてるし、全国的に見ても高利が増加してるじゃないですか。これが現実というもんですよ。
わたしらが一番恐れていたのは、不景気だから、銀行あたりに命じて、個人融資の低利を徹底させるとか、信組や信金に個人枠を行政命令でやらせるといったことでね。
そんなのやられたら金融屋はアウトだからね。ところが銀行にドカンとつぎ込みはするものの、個人には回さないというやり方でしょう。万々歳ですよ。
金融屋としては、いまの状況ができるだけ長く続いてくれることを祈ってますよ。
小泉さんにはできるだけ長く政治をやっていてほしい。いや、ほめ殺しなんかじゃないですよ、心底そう思ってるんだから。金融がね一番困るのは、世の中が安定してるときですよ。ふつうに働いていけばだんだんと給料も上がっていく、なんてのが一番困るんです。
つまりね、急場の金でしょ、われわれが扱ってるのは。だから、急場を作ってくれるような経済状況が一番なんですよ。それがいま実現されてるんですから。
不良債権処理だってそうじゃないですか。
われわれが不良債権を手に入れた場合、泣くのは誰ですか。銀行だけでしょ。そして、適正な価格で再び市場へと流れ出していく。こういうのこそ不良債権処理と呼ぶのにふさわしいと思うんですがね。
国民の税金を大量に投与しても減るどころが増えてる不良債権なんて、いかさまでしょう。紅茶きのこじゃないんだから。ちょっと古いか。これからね、ますます急場の金がいる人、増えるでしょうね。
そういう意味ではいいんだけど、回収できないケースも増えてくるわけですよ、当然ね。だから業界内でも淘汰が起きるわけで、それもまたプラスなんです。
業者数がいまちょっと多過ぎますからね。もう少し減ったほうが効率が良くなる。ちょうどあれですよ、サラ金地獄の後に出資法や利息制限法が改正されて、中堅ぐらいのサラ金がバタバタつぶれたでしょ。同じですよね。
でも、そのおかげでっていうの変だけど、サラ金業界は少しはまともになったわけでね、狂ったように貸し付ける競走もしなくてすむようになった。だからその分、企業としての体をなすようになったわけじゃないですか。それがもっと広く起きると思ってるんですよ。現場にいるとね、政府の言ってることなんて的外れにしか感じませんね。
やれ株価がどうした市場がどうしたなんて言ってるけど、最末端の金融業者の動向なんて歯牙にもかけないでしょう。でもね、そこでこそ本当の経済が動いているわけだし、その状況が好転しない限り経済全体の状況も好転したとはいえないんですよ。
ま、難しいことはよくわからないけどね、いまの状況が続く限り、金融業者はわが世の春を楽しむことになる。わたしはそう思うね。
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