今年の夏休みはお預け?

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落ち込む男性

例年の今頃は夏休みをどこで過ごそうか考え始める季節でもある。
ところが、今年は様相が一変している。

今年になって株式市場は明るい材料が出始めたものの、昨年の秋以降の金融恐慌が尾を引いて雇用情勢は依然として不透明、おまけにボーナスが出るかもわからない企業が続出ときては財布の紐は固くなる一方だ。

おまけに、豚インフルエンザの世界的蔓延(pandemic)で、べからず国家の五人組の監視に怯える自粛産業株式会社のお触書が出たところは、今年の夏は引きこもり体験学習の季節の到来である。

さて、海外ではどうなのかというと、日本とは別世界のような話が未だにあるようだ。
どこまで実態を反映しているのかわからないが、少なくともビジネスマンの休暇のことが話題になるとき、日本はどうあってもネガティブなデータが目も前に横たわる。

それでも私がかねてから言っているように不況だの何だのと言いながら、季節にかかわらず、国際線のフライトを満席にしている日本人がいることは、メディアの論調が休暇が取りにくいサラリーマンだけをことさらクローズアップしているだけなのか。

いずれにしろ、米エクスペディアの調査(2009 Vacation Deprivation Survey Facts and Vacation Ideas)、調査対象国がアメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、オーストリア、オーストラリア、ニュージーランドに日本、まるで日本をダシにして白人たちが優越感に浸っているようにも取れる。

しかし、調査の表題と内容は日本のビジネス風土とは180度違う言葉が使われていることに気づくだろうか。
そう、deprivationとは喪失という意味、つまりバカンスに費やすことのできる休暇を何日失ったかの調査というわけだ。

日本なら何日取れたか、という言葉を使うだろう。
コンテンツも同じで、leave ** vacation days(使い残したバカンス休暇)という言い方をしている。

そして、肝心のデータは細かく言及するまでもないが、バカンス天国に君臨しているフランスは平均休暇付与日数が38日、使い切れなかった残日数がわずかに平均で2日、一方の米国は平均付与日数が13日、残日数の平均は3日、わが日本は平均付与日数が15日に対して残日数の平均が7日である。

何でこうまで違いが出るのだろうか。
日本が失われた10年と言われた時代以降、企業はリストラにリストラを重ねた結果、従業員の絶対数が減っている。
だから休暇どころではない、と言いたい人は多いだろう。

しかしながら、日本のサラリーマンはバブル経済期でも、過労死とサービス残業、休暇も取らない会社奴隷という不名誉な言葉を背負っていたのだから、その理屈は通らない。

今と時代背景が違うと言ってしまえばそれまでだが、「会社をとるか、自分をとるか」の著者である伊沢次男氏の言う、会社中心に生きる「社生族」、会社組織に身を置きながらも自分のために生きる「自生族」、どちらのメンタリティを持っているかで人生が全く違ってくるのだ。

おそらく日本でこの手の調査をやるとトップ5に必ず入る理由、同僚に気兼ねする、というのが休暇を取れない最大の障害だろう。
そういった意味で私は断言するが、日本人がギブアンドテイク(私も休むが貴方も休め)の発想を持たない限り、ギスギス、イライラ感が漂う社会の改善はできないだろう。

要するに、多くのサラリーマンが自分が休んだら同僚が死ぬ思いをするのではないかと休暇の取得を自粛するからだ。
それに、日本のビジネスマネージメントは、部下の誰かが(病気や休暇で)欠ける可能性はいつでもある、という視点でのリスク管理が決定的にない。

すべてが万事うまくいくという前提で物事を考え、それが何かの拍子でうまくいかなくなったときは、その原因を作った人間を責める。
前出の伊沢氏曰く、「日本のサラリーマンが長期休暇を取れないのは上司が無能だからである」というのは真理でもある。

また、日本のサラリーマンが休暇を取れない状況にあることは地方の観光産業の衰退にもつながっている。
なぜなら、土日だけ集中豪雨的に観光客がやってきたとしても、ほかの平日がガラガラという状況では、地方の観光産業が正規従業員を雇う受け皿になりにくくなるからだ。

要はほとんどの従業員が週末のアルバイトだけやってくれればいいという状況に陥るのは火を見るよりも明らかだ。
その傾向は、麻生内閣の愚策の一つ、1000円高速(今年から2年間、土日祝日だけETC搭載車の高速道路料金を一律1000円にする政策)でますます顕著になるだろう。

そして3大経済圏(東京、名古屋、大阪)から1泊で行けない地域は閑古鳥が鳴くことになる。
しかるに地方の経済界が意味のないと思われる新幹線、高速道路の建設を悲願だと叫ぶ理由の一つがここにある。

ところで、「今年の夏休みはどこへ行くの?(Where do you plan to go this year for your summer vacation?)」
メキシコで配られていた豚インフルエンザ予防策の一つに、Allow plenty of air and sunshine in homes, offices, and all other enclosed places.(家の中、オフィス、その他の密閉空間にたくさんの空気と太陽の光を入れよう)というのがある。

日本でのインフルエンザの急速な流行が、まさに多数の密閉空間(enclosed places)で生じたものならば、マスクをして部屋に引きこもっているのは逆効果ではなかろうか。
要は窓を開け放て、ということだ。

日本ではオフィス環境やジメジメした気候がネックなだけに難しいとは思うが、それならせめて休暇くらい取って自分から自然の中に行こうではないか。
それとも自粛産業株式会社のお触書では旅行自体も自粛かな?

雇用不安で今年の夏休みはお預け? 2週間を4日に短縮も (2009.5.18 CNN Japan)

(CNN) 米マイアミ・ヘラルド紙のコラムニスト、シンディ・グッドマンさんは女友達数人と食事をしながら何気なく「今年の夏休みはどこへ行くの?」と尋ねた。

全員から返ってきた答えは意外にも「どこへも行かない」だった。
「まだ仕事がある人は、仕事量に圧倒されて自分は働きすぎだと感じている。
休暇を取るのは不安だが、同時に今一番必要なのは休暇を取ることでもある」とグッドマンさんは言う。

不況の影響は口座残高だけでなく、休暇にも及んでいるようだ。
米国では例年なら夏に長期休暇を取るのが普通だが、今年は休暇を取ったらそのまま出社しなくていいと言われそうだとの不安が広がっているという。

「2週間休みを取ったからといってまさか解雇されることはないと思うが、自分がいなくても何とかなりそうだと思われやしないかと考えているのかもしれない」とグッドマンさん。

米国人はただでさえ、欧州などに比べて有給消化率が低い傾向がある。
インターネット旅行代理店の米エクスペディアが今年実施した調査によると、有給休暇をすべて消化できていないと答えたのは米国人の34%を占め、フランスの22%、ドイツの24%を上回った。

なお、有給消化率が最も低い日本ではこの数字は92%に上った。
有意義な休暇の取り方についての著書があるクリスティーン・ホールバウムさんは、「休暇を取れば復帰後の生産性も上がり、会社のためにもなる。そう言って上司を説得すべき」と指摘する。

それでも長期休暇を取りたいと言い出しにくければ、週末や祝日をはさんで4日間の休暇を取るといいとグッドマンさんは勧める。

自分自身も例年なら2週間の休暇を取るが、今年は7月4日の米独立記念日に合わせて4日間の休みにとどめる予定だという。
「みんなと同じ不安を私も感じている。休暇は取りたいが、仕事の時間をあまり減らしたくない。毎週新聞に掲載される自分のコラムはキープしたいから」とグッドマンさんは話している。

英文記事:Layoff worries keep many from taking vacations, experts say (May 14, 2009 CNN)

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