崩れ逝くスイスの安全保障

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ユングフラウヨッホ(Jungfraujoch)

第二次世界大戦においてスイスがナチスドイツに占領されなかったのは、決して中立国(1815年のウィーン会議(Congress of Vienna)で承認)であるという理由だけではない。

かつてはベルギーやオランダも中立を宣言していたが、そんなものは二度の欧州大戦においてドイツ軍がせせら笑って破り捨ててきたからだ。


それではスイスがなぜ戦火に巻き込まれることがなかったのか。
特に条約などクソ食らえのヒトラーがスイスに攻め込んで行かなかったのは、ひとえに汚い金をスイスが扱っていたからだと言われている。

つまり、ヒトラーと言えども、スイス攻撃を命令したとたんに同じ穴の狢によって生命の危険にさらされたと思われるからだ。

ところが昨今の金融危機に端を発したOECD加盟国の圧力によって、銀行の守秘義務をタテに顧客の税務情報の交換を拒絶してきたスイスなどがその情報開示を要求されるようになってきた。

今後はこれらの国々でも脱税やマネーロンダリングなどの犯罪性があるものについては情報を出さざるを得なくなるだろう。

ましてこれだけ金の動きがグローバルになっているのであれば、いずれは国際刑事警察機構(INTERPOL=International Criminal Police Organization)のようなものができる可能性もある。

もっとも、そういう機関ができたとしても完全に金の動きがガラス張りになるはずもないが、一部の人が理由づけするような海外口座を持てば税務当局に情報を捕捉されない、というなどということはなくなっていくに違いない。

匿名銀行口座(anonymous bank account)と言えばスイスがあまりにも有名だが、そのほかにもこういった番号口座(number account)の制度を持つ国がいくつかあるようだ。

前述したように、これらの口座の存在がスイスの安全保障を担っていたと言われているが、その制度が崩れ逝くのは時代の流れとはいえ皮肉なものである。
第二次世界大戦後、欧州では大規模な戦争は起こっていないし、起こさないような協調体制ができている。

従ってOECDの要請がすぐさまスイス、あるいはスイスと同様の銀行口座制度を持つ欧州各国の安全保障を脅かすことにはならないがためにタックスヘイブン関連の交渉は成立したとも言える。
そう考えるとこれも欧州の平和のおかげとも言えるだろうか。

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タックスヘイブンのブラックリスト、OECDが公表へ (2009.4.3 産経新聞)

【ロンドン=木村正人】金融サミットで採択された首脳宣言で、脱税の温床になっているタックスヘイブン(租税回避地)の最新版”ブラックリスト”の公表が決まった。北朝鮮の資金洗浄にも使われたマカオや香港を擁する中国の反対で交渉は当初難航したが、欧米の主要国は脱税摘発を進めるにはリストの公表は不可欠として押し切った。

ブラウン英首相は2日、会合後の記者会見で「タックスヘイブンの息の根を止めることでG20は合意した」と述べ、同日中にリストを公表すると表明した。

今回のサミットでは経済協力開発機構(OECD)が作成した最新版リストをもとに、タックスヘイブンを

  • 税務情報の交換に協力的でない
  • OECDルールに従う用意がある

など3段階に分類。非協力的な国や地域には制裁を科すことで合意した。

リスト(Progress Report on the Jurisdictions Surveyed)についてはG20が発表する形は取らず、OECDが公表する。
リスト公表を強く求めたのはサルコジ仏大統領だ。

ラガルド仏経済・財政・雇用相は英BBC放送に対し、タックスヘイブンなどの金融規制に進展がなければ同大統領は金融サミットを退席すると述べていた。

複数の交渉筋によると、OECDのトレビニョ事務総長が最新版リストをひそかに議長国・英国に提示。
サルコジ大統領は同リストの公表を要求していた。

OECDは、銀行の守秘義務をタテに顧客の税務情報の交換を拒絶してきたスイスなどについて、「銀行情報のアクセスに大幅な規制を課す国」という新分類を設け、リストに掲載することを検討。

独仏もこれを後押ししており、首脳宣言の最終草案にも「2日にリストを公表する」と、いったん明記された。しかし、OECD未加盟の中国の反対で交渉は難航した。

中国の経済成長に伴い金融業が拡大した特別行政区のマカオや香港は、マカオの銀行バンコ・デルタ・アジアに北朝鮮の金正日総書記の関連資産が預けられていたことから、資金洗浄の温床になっていると国際的な批判を浴びた。

中国は今年2月以降、マカオや香港についてOECDルールに基づき税務情報の交換に応じる姿勢に転じたため、金融サミットでも「マカオと香港はタックスヘイブンではない」と強硬に主張していた。

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