食事も買えない?ニューヨーク市の下級公務員

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落ち込む男性

私が「8,000 city workers rely on food stamps(8,000人もの市職員がフードスタンプに依存している)」というNew York Daily Newsの記事を知ったのは「暗いニュースリンク」というブログで、「米証券業界の好景気とゴールドマン・サックス」というものと「一方ウォールストリート以外のアメリカでは・・・」という2つの記事を対比して読んだときだった。

私は役人天国(!?)と言われる日本は言うに及ばず、少なくとも先進国の公務員が公的扶助を受けているというのはいくら何でもあり得ないことだと思っていた。

確かに経済危機に陥った国や発展途上国では公務員の給与の遅配があったり、おそろしく給与水準が低かったりして、副業や、場合によっては汚職(収賄)をしないと食っていけないということは現実問題としてある。

また、日本の国や自治体も近い将来財政破綻すれば、日本の公務員もこれに近い待遇になる可能性は非常に高いが、この記事の舞台は現在のニューヨークである。

昨今の財政事情から言って公務員の給与が満足に払えないという状況ではないはずだ。
そこで、何が背景にあるのか私なりに考察してみた。

8,000 city workers rely on food stamps (8,000人もの市職員がフードスタンプに依存している)
By Michael Saul, Daily News City Hall Bureau Chief (December 1, 2006 New York Daily News)

Roughly 8,000 New York City employees – or 3% of the municipal workforce – earn such an abysmally low salary that they are forced to get food stamps to feed themselves and their families, the Daily News has learned.

And approximately 340 city workers are on welfare, according to the Bloomberg administration. Councilman Bill de Blasio, chairman of the Council’s Welfare Committee, said he finds the revelation troubling.

“The goal of the public sector should always be to pay people enough to feed their family and guarantee that that’s a living wage,” said de Blasio (D-Brooklyn). And if the city workforce mirrors the general population, he said, there could be thousands of others eligible for food stamps.

ニューヨーク・デイリー・ニュース社は、およそ8,000人ものニューヨーク市職員(これは職員全体の3%に該当する)が、自らの家族を養うためにフードスタンプ(低所得者向け食糧供給制度)を受給せざるを得なくなるほどの低賃金で働かされていることを知った。

ニューヨーク市当局によれば、だいたい340人の市職員は生活保護を受けているという。
市議会の厚生委員会委員長を務めるビル・デ・ブラシオ市議会議員は、驚くべき問題点がわかったと言う。

ブルックリンのブラシオ市議会議員は、「公共部門は常に彼らの生活費を保証し、家族を養えるだけの賃金を払うべきである。そして、もし市職員の生活が一般の住民を映し出す鏡であるならば、フードスタンプの受給資格者はものすごい数になり得る」と述べた。

The city’s top welfare official, Human Resources Administration Commissioner Verna Eggleston, stunned the Council last week when she revealed many of her staffers go to food kitchens in-between pay periods.

When questioned by The News, Mayor Bloomberg said there’s little he can do to help low-paid ployees.
“Well, if you want to sponsor higher taxes, we’ll have more money,” he said.
“There will be always some jobs that are entry level that don’t pay enough.”

市の厚生部門のトップであるヴェルナ・エグルストン人的資源庁長官は、先週、多数の部下が給与を受け取るまでの中間でフードスタンプをもらいに行っているとして、市議会を唖然とさせた。

ニューヨーク・デイリー・ニュース社がそれを問題にしたとき、ブルームバーグ市長は「私が低賃金の職員に対してできることは少ししかない。そうだね~、もしあなた方がもっと高い税金を払ってもいいというなら、市財政はもっと豊かになるだろう。それに賃金を十分にもらえない初任者レベルの仕事というのは常に存在するのだ。」と述べた。

At the Human Resources Administration, the agency dedicated to helping the poor, the lowest starting annual wage is $22,099, plus benefits. About 10 employees earn that, and roughly 198 earn less than $26,000.

“Since New York City has simultaneously achieved record low numbers of people on the welfare rolls and record low unemployment, it’s no surprise that some individuals still eligible for food stamps have moved themselves from public assistance to jobs in city agencies,” said Stu Loeser, Bloomberg’s press secretary.

人的資源庁は貧困層を助けるための部署であるが、最も低い年収でUS$22,099(約260万円)プラス諸手当、だいたい10人くらいがこれに該当し、198人は年収US$26,000(約310万円)以下である。

「ニューヨーク市は過去最低の生活保護受給者数と失業率を同時に達成したが、これは少しも驚くに値しない。なぜならフードスタンプの受給資格者が公的扶助を受ける立場から市の仕事をするようになっただけだからだ」と、ブルームバーグ市長の広報担当秘書官であるスチュー・レーザー氏は言う。

Eligibility for the federal food stamp program depends on a range of criteria, such as family size, resources, expenses and other income. The feds have actually praised the city for increasing access to food stamps.

合衆国政府のフードスタンプ制度の受給資格は、家族数、資産、支出及びその他の収入といったような判定基準によって決定されるが、実のところ政府はフードスタンプの利用者が増える自治体を称賛し続けている。

Still, de Blasio said the city should be ashamed workers are paid so poorly.
“We should hold a standard in public life, that we like to see in private sector as well, of paying people a wage that their family can live on and eat on,” he said.

ブラシオ市議会議員はさらに言う。
「ニューヨーク市は職員がそれほど貧しいことを恥ずかしく思うべきだ。私たちは民間部門を知りたいと思うと同時に、公務員が彼らの家族の生計を維持し、食べていけるだけの賃金が払われるような水準を維持すべきである」

1999年4月21日のNewsweek Japanに「地方自治体が破産するとき」というのが載っていた。

「ニューヨーク市はデフォルト(債務不履行)の危機に直面している。」と当時の市長、エイブラハム・ビーム(Abraham Beame)が言ったのは1975年春のこと。

そこには日本と違って政府の後ろ盾はないため、ニューヨーク市の財政を担っていた金持ちと企業、市債の主要な買い手である機関投資家が市を見限れば破産を意味することが書かれていた。

翻って今日、不死鳥のように立ち直ったニューヨーク市は今やデフォルトの危機どころか、2006会計年度において、すでに45億ドルの財政黒字を達成し、そのうち12億ドルの積立を差し引いた33億ドルの純益を計上するに至っている。(New York City Budget Surplus on Pace for New Record)

それにもかかわらず、市長のマイケル・ブルームバーグ(Michael Bloomberg)は、”There’s little he can do to help low-paid employees. If you want to sponsor higher taxes, we’ll have more money. There will be always some jobs that are entry level that don’t pay enough.(私が低賃金の職員に対してできることは少ししかない。もしあなた方がもっと高い税金を払ってもいいというなら、市財政はもっと豊かになるだろう。それに賃金を十分にもらえない初任者レベルの仕事というのは常に存在するのだ。)”と言っている。

アメリカでは民間部門の下級労働者がカツカツの生活(ワーキングプア)なのだから下級公務員もそうであっても不思議ではない、日本もそうあるべきだ、と言う人はいるだろう。

しかし、よく考えてみよう。
ニューヨーク市の下級公務員の一部はフードスタンプ(低所得者向け食糧供給制度)を受給し、人によっては生活保護まで受けている。

その出所は双方とも税金なのだから、それならば、最初からきちんと賃金をあげればいいではないか、というのがブラシオ市議会議員の主張だ。
この記事を読んだ私もそう思った。

自分たちが食うや食わずの生活環境に置かれていて満足な公共サービスを提供できるのか(もしかするとその懸念は当たっているかもしれないが)、また、下級公務員にフードスタンプを支給するコストがかかるのは余計な税金の無駄ではないかとも考えた。
しかし、もっとよく考えてみると答えが出る。

日本の国債や地方債はほとんど国内で消化されているし、地方債の後ろ盾には原則として政府保証が付いているから、サイフがどちらでも最終的には日本人がリスクを負担することになる。

ところが、私が誤訳かと思って何度も辞書を引いた箇所がある。
“The feds have actually praised the city for increasing access to food stamps.(実のところ政府はフードスタンプの利用者が増える自治体を称賛し続けている。)”

何で国家財政が悪化する原因を作る自治体を連邦政府(The fed)が称賛(praise)し続けるのか?
私はわけがわからなくなった。

ところが米国債は世界中の投資家が買ってくれることに気づいた。
それを組入れているファンド(投資信託)も多い。
そして、アメリカは市(地方自治体)の財政は独立採算だし、おそらくニューヨーク市債まで外国人投資家は(直接)買わないだろう。

そうすると納得できる。
要するに、ニューヨーク市債はほとんどアメリカ人のリスクで引き受けることになるが、連邦(国)債は世界中、特に主要購入国である日本政府(国民)に、リスクを分散できる。

ニューヨーク市の財政問題は国内問題で終わる可能性が高いが、アメリカの財政破綻が現実化すれば、それを避けるために、米国債の買い手が協力してくれるからだ。

そう、「総下流時代」の著者、藤井厳喜氏が言う、「アメリカなくして日本なしでなく、日本なくしてアメリカなし」というのはこの記事からも言えることなのだ。

日本政府が何十兆円もの米国債を買って、イラク戦争の戦費を負担し、アメリカ人の低所得者をも(間接的に)助ける一方で、自国民は放置されているどころか、もっと税金を払えというのは怒りを通り越して呆れるしかない。

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