読売新聞によると、「国家公務員中途採用者選考試験(再チャレンジ試験)」の申込者数が、採用予定152人に対し2万5000人を超える大人気となったそうだ。
受験者のターゲットに30代のフリーターを据えたとはいえ、これほどの人気になった裏側には民間企業、特に大企業が彼らをほとんど正規雇用しないという冷酷な現実があるのだろう。
1990年代、若手社員の採用を抑え、その分を非正規雇用を増やすことによって、バブル崩壊後の不況期を乗り切った企業は、その犠牲となった彼らにあまりに冷たいのではないだろうか。
ところで、業績が上向きになってきた企業が彼らを積極的に雇わない理由として、2005年10月4日号の週間SPAで、リクルートワークス研究所所長の大久保幸夫氏は、「景気の回復で人手が足りない企業が増えたが、誰でも彼でも採用するわけではない。企業にとって使えない人を採用することはゼロどころかかえってマイナス。会社の雰囲気を悪化させたり、損害をこうむらせたりするからだ。」と言っている。
また、「そもそも企業の人事は、1年以上のフリーター経験をキャリアのブランクとして見る。”雑用仕事に身を捧げ、成長が止まっている人”と考えられるからだ。20代という一番成長できる時期の多くをフリーターとして過ごしてしまった人などなおさらだ。」とも言う。
SPAの記事によれば、結果的に、フリーターは、社会人として当たり前のビジネスマナーや基本的なスキルがなく、大きな仕事の経験がないので責任感もないなど、どうしても「ないないづくし」の人材に見られるから正社員登用への道が狭き門となっているのだという。
もし、そうならば、「再チャレンジ」公務員試験に合格して採用された彼らを、金(税金)を払って雇う気分はどうなのかと聞きたい。
役所の場合は、正規職員でさえ使えないのが多いのだから元フリーターの方がマシとでも言えるのか。
確かに、私の経験で言っても「社会人として当たり前のビジネスマナーや基本的なスキルがなさそうなフリーター」は多い。
ただ、民間企業の中には彼らを書類選考の段階で門前払いしているところも多いのだ。
その結果が、この「国家公務員中途採用者選考試験(再チャレンジ試験)」の倍率だ。
小泉郵政選挙の直後に掲載された日刊ゲンダイの記事「官僚から東大法卒が消える日」は、今後の日本を示唆しているとも言える。(関連ブログ-官僚神話の崩壊に見るモチベーション理論 by 城繁幸)
私は必ずしも官僚を目指す東大法学部の学生が人間的にも優れているとは思わないが、少なくとも頭はいいだろう。
官僚を目指さなくなった東大生のみならず、近年では、財政破綻した夕張市役所や、不祥事が続き民営化が決まった社会保険庁、そして郵政公社からも続々と沈没船からネズミが逃げるような公務員の退職ラッシュが続いているという。
これを見て、チンタラ公務員が民営化された(激務になった)途端に辞め始めている、とか言う人がいるが、おそらく実態は違うだろう。
50代で退職後の生活設計が成り立つ人か、まだ市場価値の残る20代から辞めているのだ。
かつて民間企業で早期退職を募れば優秀な人間から辞めると言われたが、それが役所の世界でも起き始めているのだ。
まして今後、公務員の職歴などフリーター経験以下の扱いしかされないと思った若者が、先行きの暗い公務員になろうと思わないのは至極当然のことだ。
今回の試験で政府当局者は「これだけの倍率なら有能な人材を確保できる」という予測をしているが、もし、そうならなかったとき、今後、役所の前線窓口では、市民の怒号が今以上に増えることだろう。
なぜならば、「社会人として当たり前のビジネスマナーや基本的なスキルがない」職員がより増えることになるからだ。
彼らを教育しろって・・・
それが無理だと、大阪の人材コンサルティング会社のワイキューブは言っている。
大阪市内を走るタクシーに置いてあったこの会社のキャッチコピーは、「育たない人材は、どれだけ時間をかけたところで育ちません。その人材が”できる”かどうかは、採用段階で100%決まっているのです。」と・・・
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「再チャレンジ」公務員試験、152人枠に2万5千人応募 (2007.7.22 読売新聞)
政府が今年度から始めた「国家公務員中途採用者選考試験(再チャレンジ試験)」の申込者数が、採用予定152人に対し2万5000人を超える大人気となった。
再チャレンジ試験は、大学や高校卒業者の就職内定率が低迷した1990年代以降のいわゆる「就職氷河期」に、自分の意に反してフリーターになった人たちに新たな挑戦の機会を与える狙いで、受験資格を4月1日現在で29歳~39歳の人に限った。
難易度は高卒者を念頭においた国家公務員Ⅲ種試験と同程度で、行政事務、税務、刑務官、皇宮護衛官、入国警備官などの職種で採用を予定している。
9月に学科試験を行い、合格者をそれぞれの府省が面接した上で、11月に採用者を決定する。7月上旬に申し込みを締め切った時点で、約2万5000人の応募があり、競争率は160倍を超える難関となった。人事院では、「もともと公務員希望だった人、今の職業に満足していない人など様々な動機が考えられる」と分析している。
今年度のⅢ種試験の申込者数は約1万7000人と昨年度比約2割減となるなど、若者の「公務員離れ」が懸念されている中、政府内には「これだけの倍率なら有能な人材を確保できる」(政府筋)と、公務員の人材確保策の観点から再チャレンジ試験に期待する声も出ている。
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官僚から東大法卒が消える日 (2005.9.2 日刊ゲンダイ)
■霞が関メルトダウン
霞が関の中央省庁は、選挙が終わるまで開店休業状態が続く。そんななか、各省庁の幹部が集まると決まって話題になるのが、来年度新規採用者のうち農水省が「東大法卒ゼロ」になるという情報である。
農水省といえば、霞が関では財務省と並ぶ東大法卒の牙城。
本省の局長以上8人のうち事務次官、有力局長、官房長など6人が東大法卒だ(7月現在)。同省は、かねて東大法卒生からの人気が高く、国家公務員Ⅰ種試験トップ合格者とか、「田んぼを見たことがない」というガリ勉タイプなどがこぞって入省したものだ。
それがゼロというのだから、農水省関係者が「歴史的事件」と驚くのも無理はない。もっとも、これは農水省だけの話じゃない。
宮沢内閣の頃、「事務系キャリアから東大法卒の割合を5割以下にせよ」と、官房長官だった加藤紘一が厳命したのがウソのようだ。
「ここ数年、どの省庁でも東大法卒の割合は3割前後にまで低下しています。この流れは年々加速しています」(関係者)最大の理由は、学生の間でも「官僚神話」が完全に崩壊したこと。
10年ほど前、Ⅰ種試験の面接会場で東大法学部の受験者10人ほどの話を聞いたとき、彼らは志望理由を「カッコいい」「尊敬されるから」「試験が難しい」などと言っていた。ところが最近は、「官僚=ダサイ」のイメージが定着してしまったようだ。
代わりに司法(弁護士、検事、裁判官)が人気になり、優秀な人材は外資系、ベンチャー企業に流れていく。さて、当の官僚たちはどう思っているのか。
局長クラス数人に尋ねたところ、農水省の「東大法卒ゼロ」に驚きながらも、おしなべて「当然」と答えた。
さらに全員が「いま私が学生なら、官僚を志望しないでしょうね」と言うのである。テクノクラート集団などと呼ばれ、東大法卒が支配してきた霞が関は急速に変貌(へんぼう)している。
「並の組織」になる霞が関がこれからの日本社会において、どのような役割を果たしていくのか。
それを決めるのは「政治」である。
官僚たちが霞が関改革を最大争点にみているのは間違いない。【生田忠秀】************************************
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千円札は拾うな
私は採用担当をしていますが、盆休み前の需要薄のこの時季に、果たして人材はどこにい