最近、新聞や金融機関のサイトを賑わしているものに、架空請求、キャッシュカードやクレジットカードのスキミング(Skimming)、フィッシングメール(Phishing Mail)などがあるが、これらから身を守るための絶対的に有効な手立てはない。
まず、スキミング(磁気データに記憶された暗証番号などをスキーマーと呼ばれる機械で読み取られカードのクローンを偽造される)の被害であるが、クレジットカードの場合は会社にもよるが、60日もしくは90日間の盗難保険適用期間内に、不正に使用されたと申し出て認められれば保険が適用され補填されるが、キャッシュカードの場合はそういうことがない。
これについては年会費が必要なカード会社はおそらく問題ないが、無料のカードは約款に盗難保険条項があるかどうか確認した方がいいだろう。
「只より高いものはない」とならないためにも・・・
問題はキャッシュカードだ。
私は時折週刊誌や夕刊紙で掲載されていた記事を読んだ程度であったが、つい最近、柳田邦男氏の「キャッシュカードがあぶない」という本が出るにあたって詳しく見てみることにした。
要は、日本の金融機関はキャッシュカードが盗難にあったり、データをスキミングされたりした場合、本人が気づかぬ間に現金をほとんど引き出されてしまい、その防御の手立てがほとんどなく、補償もないというのが私たちの認識であった(2004.10.10「24時間ATMに潜むリスク」)が、海外の金融機関はそうではないと柳田氏は書いている。
事実、私が持っているHSBC Hong KongでもATMからの1日当たりの引き出し限度額(Daily Transaction Limits for Non-registered Accounts)はHK$50,000(約67万円)に上限が設定されていて、その範囲内で自分が引き出し限度額を設定(店頭、電話又はインターネットで)できるようになっている。
最初に口座を開いたときにスタッフの質問の意味がわからなかったのだが、今思えばこういうことだったのだ。
また、国内の金融機関としては、シティバンクがキャッシュカードからの引き出し限度額の設定サービスを昨日から開始したと日経新聞で報じられていた。
日本のATM、海外のATMからの1日当たりの引き出し上限額を店頭や電話、インターネットで設定するというもので、その効力が3営業日後からしか発生しないというのは不満であるが、キャッシュカードの偽造が社会問題化している折、他の国内金融機関でも始めてもらいたいサービスだと思う。
おそらく今までは多額の現金を普通預金口座に入れておくなんてことはなかったのだろうが、雀の涙ほどの利息しかつかない定期預金口座が2002年4月以降は全額保護でなく、ペイオフ(refund cap)の対象となったことで、多額の現金が政府による保護の対象となる普通預金口座(2005年4月以降はペイオフの対象となり、代わりに無利息の決済用普通預金口座が全額保護の対象となる)にあることが悲劇の元なのだが、日本の金融機関の対策がいかに遅れているかを如実に物語っているのではないだろうか。
このような悲劇を最小限に防ぐにはどうすればいいか?
- 私が2003年5月29日や2004年4月4日の「今日の一言」で書いたようにペイオフというものに過大な期待をしない。
今後の状況下で次々に金融機関が破綻した場合、たとえ金は返ってきてもそれが自分が使いたいときに返ってくる保証は全くないことを肝に銘ずる。
また資産がないからといって口座の分散を面倒くさがらない。
その上で
- メインバンクはATMの引き出し限度額を設定できる銀行とする。
- どうしてもペイオフにこだわりたいということで、普通預金口座(2005年4月以降は決済用普通預金口座)に多額の現金を入れたいなら、普段ほとんど使わない口座とし、そこのキャッシュカードや通帳、印鑑は貸し金庫にでも入れて、どうしても下ろしたいときは店頭に足を運ぶ。
この場合、自分に万が一のことを考え、信頼できる家族には口座の存在を明らかにしておくこと。
できれば未だに営業マンが足を運んでくれる信用金庫などの地域密着型の金融機関に口座を開くといいかもしれない。 - オンライン証券会社に口座を開き、そこのMRF(預かり金口座)に普通預金口座の金を送る。
これなら煩わしい営業マンに惑わされることもなく、インターネットで送金できる口座は登録済の自分名義の口座だけなので、パスワードなどを盗まれてもすぐには被害に繋がらない。
もちろん送金先の銀行とパスワードは違うものにしておくこと。
証券会社のMRFは法的には元本保証もなく、破綻した場合の保護もないが、リスクは最低レベルで一般に銀行の普通預金と同じに考えても問題ない。
そして金が必要になった場合、送金の指示をした翌営業日には銀行口座に金が入っているし、手数料も基本的にはかからないはずだ。
もちろん、こんなことは「リスク」という言葉に戦々恐々とする「日本政府の善意を信じるペイオフ信者」に言っても仕方がないのだが、カード犯罪の被害を最小限に抑える有効な手段の1つだ。
この方法は「オレオレ詐欺」や「振り込め詐欺」対策にも有効だ。
なぜならいずれの詐欺にも共通しているのは、狙いをつけたカモに即時に銀行へ走らせATMから多額の現金を詐欺師の口座に振り込ませることにある。
上記を実行すれば、「そんな大金(と言っても20万円程でもそうなる)は今すぐ用意できない。」という口上が可能になり、詐欺に遭う確率はずっと減る。
シティバンクは幸か不幸かATMからの送金リミットの変更に3営業日かかるし、オンライン証券会社も即時には送金オーダーは実行されない。
キャッシュカードが手元になければ、窓口の銀行員が抑止力になる可能性も高い。
次に架空請求だが、これは今まで「無視」が一般的な対策だったし、国民生活センターなどもそういう指示をしてきた。
しかし、これを逆用する手段が出てきた。
以下の記事にあるような簡易裁判所に架空の債権行使の申し立てをして、相手が無視した場合に、虚偽の請求が有効化するという手段に訴えてくるものだ。
友人のReimei氏がいつぞや「お上までが詐欺師の味方をするのか」と怒りのコラムを掲示板に書いていたことがあったが、これについて私は刑法第172条の虚偽告訴罪で告訴すればいいのでは、と思ったのだが、条文を読むとどうも該当しそうもない。
要は、「人に刑事または懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をしたもの・・・」なのでダメのようだ。
そうなると、こういう輩を懲らしめる方法が法的にはないということになりはしないか?
不当なことをする輩に対して防御だけというのは何とも情けないことだ。
仮に、彼らに架空請求で精神的苦痛を生じたといって民事訴訟を起こしたところで何の意味もないだろう。
おそらく彼らの会社自体がペーパーカンパニーだし、代表者や役員はホームレスや、ヤミ金やサラ金に追われる奴がアルバイトで雇われているだけで、本当に悪い奴は上等の酒と葉巻を手に笑い転げているろう。
ただ、そういう奴は他でもオークション詐欺とかやってる可能性があるので、地道にデータベースを作って追い詰めればいいのかもしれないが、気の遠くなる作業であることに間違いない。(2004.10.16「今日の一言」-IT社会で一番便利になったのは詐欺師か?)
最後にフィッシングメール(Phishing Mail)だが、これは基本的事項として、メールで貼り付けられているリンク先から直接個人情報を入力させるものは、すべて詐欺と思って構わないということに尽きるだろう。
要は、オンライン取引の場合はトップページからアクセスして、セキュアーサイトに入るという警告のダイアログボックスが開き、そこから先に進んで初めて口座番号やパスワードを入力することになっているのだから、正規のメールなら、いきなりURLの表示があるのではなく、トップページへ誘導し、そこからの指示(direction)が示されているはずだ。
よくある指示に「パスワードを随時変更せよ」とあるが、自分がよく使うパスワードを複数組み合わせてそれを順々に使うという地道なことが被害に遭わない最も単純な方法かもしれない。
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簡裁悪用の架空請求、放置すると“本物”の督促に
(2004.12.21 読売新聞)簡易裁判所の支払督促制度を悪用した架空請求に関する相談が、各地の消費生活センターに寄せられている。請求に対する異議を申し立てずに放置していると“架空”の請求が“本物”の請求になる恐れがあり、法務省や国民生活センターは注意を呼びかけている。
11月下旬、長崎県内に住む30歳代の男性会社員のもとに、地元の簡易裁判所から支払督促が送られてきた。同封の「当事者目録」には、東京都内の有料出会い系サイトの業者名、「請求の趣旨」には、半年分の利用料金15万円を支払うように記載されていた。
男性は、この業者に心当たりがなかったため5日間放置していたが、不安を感じて、消費生活センターへ相談。簡裁から送られた正式な支払督促と分かり、異議を申し立てたところ、業者は請求を取り下げた。
国民生活センターは「これまで『身に覚えのない架空請求は無視するように』と注意してきたが、この手口では通用しない」と警告する。
支払督促は、債権者の申し立てに基づいて行われる。迅速に争いを解決するために書式が整っていればそのまま認められる。
2003年には全国で約53万件の申し立てがあった。債務者は、支払督促を受けた翌日から2週間以内に異議を申し立てないと、最終的に差し押さえなどの強制執行を受ける可能性がある。
支払督促の手続きを経た架空請求を放置しておくと、法的に有効な請求になってしまうわけだ。
国民生活センターによると、支払督促を悪用した架空請求は今年8月ごろから目立ち始め、11月末までに7件確認された。ほかにも、東京都、三重、熊本、長崎県などで計10件以上の相談が寄せられた。
日本司法書士会連合会で消費者問題対策推進委員を務める古橋清二さんは「業者は消費者に金を払わせるためのだましの手口として、この制度を悪用している。債務者が異議を申し立てて訴訟になれば、架空請求の業者が法廷で争うことは想定しづらい」とみる。
法務省は消費者の混乱を防ぐため20日、支払督促など裁判手続きを悪用した架空請求について、ホームページで対処法などを取り上げた。
国民生活センターでは、支払督促を偽造したり、「少額訴訟」や「裁判所」の言葉を使ったりする架空請求もあることから、「裁判所からの書類については放置せず、消費生活センターに相談して」と呼びかけている。
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