2015年6月17日付で金融庁から「預金口座開設の勧誘に関する注意喚起について」という警告がなされている。
言うまでもなく、海外の金融機関と見まがうに投資先に出資させる案件の紹介に対するものだ。
今年になってから、笹子善充氏の香港マイタン日記で掲載された「怪しい海外投資 フィリピン銀行定期預金年率11.50%!?(2015年3月22日)」に続いて、「BRICsプラス11投資情報」を運営する私の友人の”しむしむさん”がモンゴルの銀行への高金利米ドル定期預金に関連して「米ドル預金金利18%という銀行について調べて分かった怪しい点(2015年6月27日)」という記事を掲載している。
いずれも新興国を舞台とした高金利米ドル定期預金がセールスポイントなのだが、日本に居ながらにして日本語の書類で口座開設ができるという点が怪しさ満点である。
但し、こういったところが怪しいと思うのは私たちに海外投資経験があるからで、そういった経験の浅い人は「海外投資も楽になったものだ」としか思わないかもしれない。
私は、こういった海外投資の詐欺まがい業者が出てきた背景が容易に想像がつく。
発端は、私や”しむしむさん”を含め、越境会のメンバーで行った2013年11月のアゼルバイジャン・カスピ海経済視察ツアーの際に、現地の銀行に口座開設をした友人がいて、そのときの様子を「アゼルバイジャン国際銀行-20.6%の定期預金を組んでみる(2013年11月)」というコラムで紹介したときだ。
その後、テレビ東京の経済番組「日経スペシャル 未来世紀ジパング-沸騰現場の経済学-(2014年10月13日放映)」でもアゼルバイジャンの高金利米ドル定期預金が紹介され、日本に居ながらにして口座開設ができると謳う詐欺まがい業者が跳梁跋扈し始めたからだ。
このため、私も及ばずながら「日本初のアゼルバイジャンに関するビジネス書が登場!(2014年10月28日)」という記事の中で警告を発したほどだった。
つまり、20%の高金利米ドル預金が現実に存在するため、詐欺師にとっては、これを基に釣り餌がいくらでもできるというわけだ。
それに、こういうご時世だと、詐欺ではないにしろ、自分でやったこともない投資案件を、さもやったことのあるように勧誘する人もいるので、そういった点にも注意が必要だろう。
ここで、金融庁の文書にある「銀行でない業者が日本に拠点のない外国の銀行の預金口座開設の勧誘・取次ぎを行うことは禁止されています。」とあるのを見て、海外投資ができなくなったと勘違いする人が出るだろうが、元より法令上は、日本に登録のない海外の金融機関が日本在住者に勧誘行為を行ってはいけないことになっているのだ。
それではなぜ日本在住者の海外投資が法的に可能かというと、金融商品取引法第58条の2(外国証券業者が行うことのできる業務)、同施行令第17条の3(国内にある者を相手方として有価証券関連業に係る行為を行うことができる場合)の規定により、海外の金融機関が金融商品取引法第28条第8項各号の行為(有価証券関連業)に際して勧誘することなしに、海外において日本在住者に対して金融商品の売買をする場合は合法となっているからだ。
要するに、日本在住者でも自分自身でインターネットや海外渡航先で見つけた金融機関などに口座を開いて投資をするのは一向に構わないのだ。
ところで、海外の金融機関が日本語のウェブサイトを作った場合は、勧誘に当たるのかというのが極めてグレーゾーンなのだが、海外の金融機関やFX会社の一部が日本在住者向けのサービスを停止しているのは、こうした事情のほかにも、税務行政執行共助条約による相互協力体制が充実してきたゆえに、日本の金融当局あるいは現地国政府と無用なトラブルを起こしたくないということもあるのだろうか。
最近では、2015年4月30日のコラム「出国税の導入も決定、海外赴任やロングステイ予定の個人投資家はどうすべきか」で紹介した海通國際證券(Haitong International Securities)は日本語サイトが閉鎖され、日本在住者の口座に関しては、7月14日以降は新規の買い注文不可という、実質的な口座閉鎖同様の憂き目に遭っているという情報もあり、健全な海外投資先がなくなっていくのは非常に残念なことである。
私としては、こうした流れがほかの海外金融機関に及ばないことを祈るだけである。
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