豚インフルエンザ(swine flu)による死亡者にまつわる謎

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メキシコのオアハカ空港(Oaxaca Airport)

私がアメリカ・メキシコ旅行へ出発した4月25日、日本ではメキシコで豚インフルエンザ(swine flu)が猛威を振るっていると記事が配信された。

その後、日本では豚インフルエンザの記事が毎日トップニュースを飾るようになったと聞かされ、実際にメキシコシティではマスク姿の人も数多く見られた。
そして、運良く無事に帰国してみると、旅行中に連絡を取っていた職場からは数日の自宅待機要請が正式に出た。

これによって、もし、万が一、自分の体調に異変が生じたときに適切に対応できるように、私が旅行中に見ることができなかった豚インフルエンザ関連の記事をじっくりと見る機会を得ることができた。

するとCNNの記事の中にAmong the swine flu mysteries: Why only deaths in Mexico?(豚インフルエンザにまつわる謎-なぜ死亡者はメキシコだけなのか)というのがあった。

海外投資のSNSである、World Investorsの中で医療関係者の女性が、「知人の医師曰く、メキシコ人以外で死亡者が出ていないのは不思議だ」と書いていたのを目にしたこともこの記事に対する私の関心を呼んだ。

それと同時に、ただ不安を増幅させてビクビクするより正しい知識を得ておきたいということが最重要であったからだ。

この記事が配信された後で、アメリカ人女性が1人死亡したというニュースがあったが、不謹慎ながらメキシコ国内のそれに比べれば微々たる数字である。
メキシコへ旅行するアメリカ人の数からすれば、それはまさに不思議の範疇に属する。

しかしながら思う。
元メキシコ保健相のフリオ・フレンク(Julio Frenk)氏が言うように、豚インフルエンザによる死亡者の多くが、貧困からくる栄養不良と粗悪な居住環境によって抵抗力が弱まった人たちであるとすれば、メディアのいう”deadly(死に至る危険のある)”という言葉は大げさ過ぎる感がある。

豚インフルエンザの対処方法を掲載したメキシコのリーフレット

なぜなら、日本でも一般のインフルエンザで死亡する人は年間で相当にいることだし、途上国では不謹慎ながら数名の伝染病罹患や死亡などニュースにさえならないレベルである。

この記事が配信された後に米国で初の死亡者が出たということであったが、妊産婦であるという特殊要因があった。
私が旅行中、成田空港の検疫体制が厳しくて入国が大変ではないか、ということをさんざん聞かされた。

私はむしろメキシコからアメリカへ入国するときの方が足止めを食うのではないかと思っていたほどなのだが、フェニックスの入国審査で聞かれたことは「日本では何(の仕事)をやっているのか?」だけだった。

出入国カードに、アメリカへ来る前はメキシコということを書いたにもかかわらず、どこの都市に滞在したのかとも、何日いたのかさえ聞かれなかった。

そんなことでいいのかとさえ思ったが、アメリカはメキシコの空港で行われている簡易メディカルチェックを信じているのか、いちいち入国者を足止めしていられないのかわからないが、スルーで通過できてしまった。

そして、「豚インフルエンザにまつわる謎-なぜ死亡者はメキシコだけなのか」という答えは未だに出ていないようだ。

フリオ・フレンク(Julio Frenk)説が正しいのであれば、高齢者にも死亡者が出ていなければおかしいし、サイトカインストーム(感染症への防御反応として産生されるサイトカインという物質が過剰なレベルになって気道閉塞や多臓器不全を引き起こすもの)によって頑健な若者が亡くなっているのだとすれば、メキシコだけで死亡者が多発する理由がわからない。

それに、私がいた都市で一般市民がマスクを付けていたのはメキシコシティだけで、オアハカは主にレストランやバーの従業員だけ、カンクンはほとんど誰もいないというレベルだった。

皮肉なことに、メキシコシティの次にマスク姿の一般市民が目立ったのはロサンゼルスの日本行きのフライトのチェックインカウンターだ。

交通機関のなかった19世紀ならいざ知らず、長距離バスや飛行機で国内各都市を移動できてしまう現在において、疫病の発生がメキシコシティ周辺に留まっているというのも不思議な話だ。

私が思うにフレンク氏の談話にヒントがあるように思える。
「抗ウイルス薬は徴候の始まりの1時間以内に飲む必要があるが、メキシコの人たちは、仮にそうなったとしても、すぐさま治療をしようとはしないであろう。(Antiviral medications need to be taken within hours of the onset of symptoms, but people in Mexico may not have sought treatment immediately, if at all.)」

途上国はどこでも都市部共通の問題があるが、それは言うまでもなく貧者のスラムである。
メキシコシティで死亡者が大量発生した理由は一つ、彼らが手遅れになってから病院に行った。
単純に言えば、そういうことではなかろうかと思う。

4月29日からメキシコ全土の遺跡で観光客の立入りが禁止になった。
私はこのニュースを聞いて、次は交通機関(飛行機やバス)も止まるのか、出国できるのか不安になったものだ。

なぜならメキシコの遺跡は博物館などと違って外にあるものだし、地下にもぐるわけでもない。
ここの立入りを禁止する理由は、そこへ行くバスなどで感染者が増えることを懸念しているのではないかと思ったからだ。

しかし、そうはならなかった。
遺跡の立入り禁止は、WHO (World Health Organization)が警戒レベルを引き上げたために仕方なしに対処したのか、ただ単に、外国人観光客を国外へ追い払う(scare away)ためにやったとしか思えないほどだった。

何しろ、メキシコ政府の言うインフルエンザ対策の一つは「多くの空気と太陽を部屋に」だ。
遺跡で観光することは自分自身を多くの空気と太陽に晒すことになるので、いいことではなかろうか、と単純に思うがいかがだろうか。

今、日本では豚インフルエンザの感染防止に躍起になって取り組んでいる感がある。
しかしながら、当の北米諸国が政府の表向きの姿勢とは裏腹に、メキシコシティを除けば、当事者意識がほとんどないように思える。

一般のメディアはそうしたことを伝えないので、メキシコのカンクンの光景や、アメリカのフェニックスの入国審査風景など想像がつかないであろう。
国民性といってしまえばそれまでなのだが、何とも不思議な光景である。

Among the swine flu mysteries: Why only deaths in Mexico? (豚インフルエンザにまつわる謎-なぜ死亡者はメキシコだけなのか)(April 29, 2009 CNN)

(CNN) – It’s a confounding question on the lips of disease detectives: Why have the only deaths from the swine flu outbreak happened in Mexico?

なぜ、豚インフルエンザの発生による死者はメキシコだけで起きているのか?という質問は疾病調査官たちをまごつかせている。

Investigators also want to know why the disease has killed young adults, who should have the greatest resistance.

調査当局者たちもなぜ大きな抵抗力のあるべき若い大人が病気で死んでいるのか知りたがっている。

“They’re good questions that we’re asking, too,” said Von Roebuck, spokesman for the U.S. Centers for Disease Control and Prevention. “We’re still young in this investigation and we’re still trying to understand exposure in this country as well as exposure in Mexico.”

「それは私たちも聞きたいと思っているいい質問だ」と、米疾病対策予防センター(U.S. Centers for Disease Control and Prevention)の広報担当官であるフォン・ローバック氏は言う。「私たちはこの調査を始めてまだ日がたっていないし、メキシコにおける細菌汚染はもちろん、わが国の汚染をも理解しようとしているところだ。」

Mexico has reported 152 fatalities in flu-like cases in recent days, seven of which have been confirmed as swine flu. Another 19 patients have been confirmed as having swine flu but surviving. About 2,000 people have been hospitalized with symptoms.

メキシコ政府は、ここ数日でインフルエンザに似た症状で152名が死亡したと報告し、そのうち7名は豚インフルエンザであると確認された。あと19名は豚インフルエンザにかかっていることが確認されているが生存していると報告された。およそ2000名の人たちがインフルエンザの徴候があるとして入院している。

By contrast, the United States has had 64 confirmed cases, five hospitalizations and no deaths.

対照的に米国では確認された64名の患者のうち、5名が入院しているが、死亡者は出ていない。

“The difference in seriousness between the known U.S. cases and the Mexican cases is the question that everyone wants to answer,” said Maryn McKenna, author of “Beating Back the Devil,” a 2004 book on the history of the CDC, and the forthcoming “Superbug,” about drug-resistant staph.

「判明した米国の患者とメキシコの患者の重大な違いは、誰もが答えたい質問である」と、2004年に発刊された米疾病対策予防センターの歴史を書いたBeating Back the Devilと、耐性菌について書いた近刊予定のSuperbugの著者であるマリーン・マッケンナ氏は言う。

There are no hard answers, but a consensus is emerging: The disease in Mexico has likely been around longer and infected more people than investigators can confirm.

確かな答えはないが、合意はできつつある。メキシコの疾病がおそらく調査官が確認できるものよりも長く続いていて、それで多くの人たちが感染したらしいということだ。

“Do we really know all of the cases that existed in Mexico or is this just the tip of the iceberg?” asked Louis Sullivan, a physician and former head of Health and Human Services under President George H.W. Bush.

「私たちは本当に、メキシコの中に存在したケースの全てを知っているのか、あるいは、これは氷山のまさに一角なのか?」と、父ブッシュ政権下で保健福祉長官を務めた医師のルイス・サリヴァン氏は言う。

McKenna said it’s possible “there is much more flu in Mexico than we know because it hasn’t been counted. That would mean that there are mild cases there as well, but that you have to get to a certain number of cases before, statistically, you start to see the very serious ones, and the U.S. hasn’t had that many cases yet.”

マッケンナ氏は、ありうる可能性として、「数え切れないがために私たちが知っているよりもはるかに多くのインフルエンザがメキシコにはある。それは、軽症の場合であり、その上、以前に確認できた数でしかない。統計学的にあなた方は非常に深刻な症例を見始めているが、米国には未だに多くの症例があるわけではない。」と言う。

It’s a view shared on the streets of Mexico City, the hardest-hit area.

それは、一番被害を受けた地域であるメキシコシティの街頭における共有意見である。

“My intuition is that as the medical community starts looking around and at what has happened they may find that swine flu was there and they just didn’t catch it,” said Ana Maria Salazar, a radio talk show host and political blogger who lives in Mexico City. “Nobody was looking for this. We were all looking for this in Asia.”

「私の勘では医学界が目を配り始めた時に、彼らが豚インフルエンザがそこにあるのを見つけたかもしれないが、捕らえることはできなかったということが起こった」と、在メキシコシティのラジオトークショーの司会者で政治ブロガーでもあるアナ・マリア・サラザール氏は言う。「誰もこれを探していなかった。私たち皆でこれをアジアで探していた。」

The new virus has genes from North American swine influenza, avian influenza, human influenza and a form of swine influenza normally found in Asia and Europe, said Nancy Cox, chief of the CDC’s Influenza Division.

新しいウイルスは、北米豚インフルエンザ、鳥インフルエンザ、人インフルエンザ、そしてアジアと欧州で普通に見つかる豚インフルエンザ型の遺伝子を持っていると、米疾病対策予防センターのインフルエンザ予防局長のナンシー・コックス氏は言う。

Influenza is basically an extreme upper respiratory infection, and, by itself, is rarely fatal. But it can lead to deadly complications, such as pneumonia. About 36,000 Americans die from flu complications every year.

インフルエンザは基本的に強烈な上部呼吸器感染(URI)であるが、それだけで致命傷になることはめったにない。しかし、それが肺炎のように命取りになる合併症を引き起こすことはあり得る。米国では毎年およそ36,000人がインフルエンザの合併症で亡くなっている。

Swine flu is caused by a virus similar to the type of flu virus that, in various forms, infects people every year, but is a strain typically found only in pigs — or in people who have direct contact with pigs.

豚インフルエンザは、いろいろな形で、毎年人々を感染させるインフルエンザウイルスのタイプに類似したウイルスに起因するが、豚のみ、または豚と直接接触をする人々において典型的に見つかる病原菌である 。

A couple of factors could be causing the greater death toll in Mexico, said Howard Markel, a physician and director of the Center for the History of Medicine at the University of Michigan.

ニ、三の要因はメキシコでより大きな犠牲を引き起こしていることがありえたと、ミシガン大学医学部・医学史研究センター長で医師のハワード・マーケル氏は言う。

“They may have had cases for several months now and probably have a greater number of people who have the disease, probably tens of thousands,” he said. “There may indeed be more cases in the United States. The snapshot we’re seeing in the United States may be an incomplete snapshot.”

マーケル氏は、「それらはここ数ヶ月間におそらく何万人という病気を持った多くの人々を患者にするかもしれない。実は米国にはもっと多くの患者がいるかもしれないし、私たちが米国で見ているものは、不十分なものかもしれない。」と言う。

Also, he said, the people who have died in Mexico could have had what he called “another co-factor,” such as taking medicine or having pre-existing infections that would make them more vulnerable. It’s also possible, he said, that those who died had an underlying genetic predisposition or condition.

マーケル氏はまた、メキシコで亡くなった人たちが、薬を飲んでいたり、抵抗力を弱くするような既往の感染症があったりといった、別の複数の要因を持っていたことがあり得たとも言う。それに加え、亡くなった人々は、潜在的に遺伝的な傾向あるいはそうした健康状態があった可能性があると言う。

Sullivan also pointed to possible “complicating factors,” such as malnutrition, poor housing or crowded conditions.

サリヴァン氏もまた、栄養失調や粗末な住宅、都市部の雑踏といったような「複雑にする要素」を可能性として指摘した。

Markel noted that “flu was classically called a crowding disease in the 19th century.”

マーケル氏は、「インフルエンザは19世紀には群集疾患と古典的に呼ばれていた」と指摘した。

Disease investigators also are concerned by the fact that the outbreak has killed people in the prime of their lives, when they should have peak resistance.

疾病調査官たちは、壮年期の人々の抵抗力がピークであるべきとき、その彼らが病気によって亡くなってしまう事実を懸念している。

“It is certainly a red flag,” Markel said.

「それは確実に赤旗だ」とマーケル氏は言う。

Health authorities have pointed out that this swine flu strain has never been seen. That may have a lot to do with the deaths, Markel said.

保健衛生当局はこの豚インフルエンザの病原菌がこれまで見られなかったと指摘した。マーケル氏は、たくさんの死者を処置することになるかもしれないと述べた。

“It’s a fairly novel strain,” he said, “and the deaths could be from healthy people who have a healthy, robust immune system that overreacts.”

「それは全く見たこともない病原菌である。そして、過剰反応するほどの頑丈な免疫力のある健康体を持った人々から亡くなっていくかもしれない。」とマーケル氏は言う。

That could result in a “cytokine storm” in which the body secretes too many chemicals as it tries to kill offending microorganisms.

体が問題のある微生物を殺そうとしたときに過剰な免疫物質を分泌する「サイトカインストーム(感染症への防御反応として産生されるサイトカインという物質が過剰なレベルになって気道閉塞や多臓器不全を引き起こすもの)」となることもあり得る。

The hyper-response can lead to accumulation of fluid in the lungs and a condition called “acute respiratory distress syndrome.”

この異常に敏感な反応は、、「急性呼吸障害症候群」と呼ばれている状態と肺水腫を引き起こしかねない。

Julio Frenk, former health minister of Mexico and now dean of the Harvard School of Public Health, holds an opposing view: The disease could be killing people who are not healthy because of their living conditions.

元メキシコ保健相で、現在のハーバード公衆衛生大学院の学長のフリオ・フレンク氏は反対の意見を持っている。病気で亡くなった人たちは、彼らの粗末な居住環境ゆえに健康体ではないことがあり得る。

“There could also be some elements in the host,” he said. “These are poor people. Maybe their immune response is not as efficient. So we’re going to have to just keep trying to understand why this difference and whether that continues as the epidemic unfolds.”

フレンク氏は言う。「いくつかの要素が病原菌の宿主となり得る。彼らは貧しい。たぶん彼らの免疫力は効果的なものではないだろう。私たちは疫病が広がるときにそれが続くかどうかと、その違いはなぜかということについて理解するようにし続けなければならない。」

He also noted that antiviral medications need to be taken within hours of the onset of symptoms, but people in Mexico may not have sought treatment immediately, if at all.

フレンク氏はまた、抗ウイルス薬は徴候の始まりの1時間以内に飲む必要があるが、メキシコの人たちは、仮にそうなったとしても、すぐさま治療をしようとはしないであろう、と指摘した。

As the outbreak continues to unfold, so will the investigation.

病気が発生が広がり続けるにつれて調査をするだろう。

“We’re making every effort to truly understand this virus,” said CDC’s Roebuck. “But some of the reasons for what’s happening we may never figure out.”

米疾病対策予防センターのローバック氏は言う。「私たちはこのウイルスを真に理解するためにあらゆる努力をしている。しかし、起こっていることの原因のいくつかは、決して解明することができないだろう。」

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