中国市場を巡って証券アナリストが経済紙や雑誌に掲載する記事の内容のほとんどは、いつ急騰相場の調整が来るかの一点と言っても構わない。
ところが、中国政府があまりに過熱する市場の熱気を冷やそうと抑制策を取るたびに、株価はほんの一時的に下落するが、中国株のアナリストが理由を詮索しているうちに、「そんなことは我々(中国人)に関係ない」とばかりに急騰し、わずか1週間前の記事ですら陳腐化させてしまっている。
もしかすると、今年は8年前の1999年に起きたITバブル相場と同じ様相を全世界的に(残念ながら日本市場を除いて)演じているような気もする。
そういった意味では新たな投資に慎重になり過ぎている私はとんだピエロなのかもしれない。
8年前に何も考えずにIT関連株に投資した人と同じように、今年は何も考えずに中国株に投資すればものすごい好成績を上げられるかもしれないからだ。
ところが、6日付のFinancial Timesの記事「Beijing’s cooling process begins(中国政府の景気過熱抑制策の始まり)」は、少々気になる部分があった。
それは上海市場での出来高がピークアウトしつつあるということだ。
株式投資の定石からいけば、出来高の減少は、先行き株価下落が予想されるので、売りの準備をすべし、ということだから、今までの記事に比べれば多少は注視した方がいいように思われる。
有料会員向けに中国株通信を発行しているグローバルリンクアドバイザーズは、7月4日のレポートで今月の見通しとして、「チャート的には調整局面が示唆されつつある状況といえる。上海A株のチャートを見てみると4500ポイントを頂点としたダブルトップ(長期的な下落傾向への変化)を描きつつある状況で、一目均衡表では遅行線が売転換となり、株価は雲の中に入っている。目安として現在4093ポイントの指数が3850ポイントを割ると雲も売転換となり、一目均衡表でも長期調整入りが示唆されたことになる。」と書いているが、それは短期的なもので、一時的な急落はあるものの、長期的には上昇トレンドに変更はないだろう、とも述べている。
結果的には「急落に注意しながら保有継続」というスタンスというわけだが、今から買いに入るのは急落したときのショックに耐えられる精神力があるかどうかで決めた方がいいように思う。
中国人の個人投資家の多くが証券会社に長蛇の列をなし、自分の預金を引き出すばかりでなく、借金までして株を買っているという現状は明らかに異常だ。
彼らは買値よりも株価が下がれば明らかにパニック売りに走るだろう。
ただ、これらの懸念の中にも安心できる材料が一つある。
このFinancial Timesの記事が出たその日には中国株はあざ笑うかのような急騰を見せたからだ。
私も含めてまたもや「狼少年」かと思ったことだろう。
それに中国では多くの上場企業が国有で、政府自身が大株主という事情があり、個人投資家の多くは政府の株価下支えに信頼を寄せているという。
そこで儲けた資金を元に規制緩和された海外市場、つまりは香港H株へ投資する。
海外のアナリストが何を言おうが、馬耳東風の中国人たちによって明日も中国や香港市場は爆上げするというわけだ。
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Beijing’s cooling process begins(中国政府の景気過熱抑制策の始まり)
(Financial Times By Geoff Dyer in Shanghai, July 6 2007)Chinese stocks fell 5.25 per cent on Thursday as investors continued to fret about the large volume of new share and bond issues that the mainland markets will have to absorb over the next few months.
Mainland share prices have now fallen 12 per cent in the last two weeks at a time when trading volumes have also dropped to levels well below those seen in May.
The share price decline and more modest trading are a further indication that the authorities have managed to take the steam out of the stock market without causing a dramatic correction.中国株は木曜日(7月5日)に前日比で5.25%下落した。本土市場がここ数ヶ月の間に吸収しなければならない大量の新株と起債に関して投資家たちが懸念したからだ。
本土市場の株価は、出来高が5月に見られたものよりもはるかに下回った水準に落ちたとき、過去2週間内で一時12%下落した。
株価の下落と出来高の縮小は、中国政府当局が劇的な軌道修正をすることなしに、過熱する株式市場の抑制を図れることをさらに暗示している。In the first few months of this year, mainland China witnessed an unprecedented fervour for investing in the stock market. Long queues were seen outside brokerage houses in the main cities, as a new generation of investors rushed to put some of their savings into equities.
But in May, although about 300,000 new share trading accounts were being opened each day in China, the average figure over the last two weeks has been just over 100,000. Daily trading volumes for the Shanghai composite index, which includes most of the main listed companies, have fallen from a peak of Rmb257.2bn ($33.8bn) in early May to an average of Rmb82bn so far this week.今年の最初の数ヶ月間、中国はかつてない株式投資熱を経験した。主要都市の証券会社の外側には貯金を下ろして株を買おうと殺到する人たちの長蛇の列が見られた。
しかし5月に中国ではおよそ30万もの新規証券投資口座が日ごとに開かれていたにもかかわらず、最後の2週間の平均値は10万を超えるくらいであった。
大部分の主要上場企業が含まれる上海総合指数の日々の出来高はピークを付けた5月上旬の2572億元(338億ドル)から今週は現時点までで平均820億元に下落した。Facing a potential bubble in the market, the first reaction of the authorities was to use tax policy to try and damp speculation. In late May, the government tripled the tax on share trading to 0.3 per cent per trade.
The response from investors was near panic. The market fell 15 per cent in four days as investors worried about further tax increases aimed at squeezing them out of the market.
Fearing a collapse in confidence among the new share-buyers, the government appeared to backtrack and state newspapers published prominent editorials about the promising long-term future of the market.潜在的なバブルに直面している市場に対し、政府当局の最初の対応は、税制を使うことにより投機熱を冷ますことだった。
5月下旬、政府は証券取引印紙税率(証券交易印花税)をこれまでの3倍の0.3%に引き上げた。
投資家の反応はパニックに近かった。更なる増税を心配した投資家が市場から資金を引き上げにかかったことにより、株価は4日間で15%下落した。
最近になって株を買った人たちの間の内心のバブル崩壊の懸念に対し、政府は反対の政策を取っているように見えた。さらに、政府の新聞は市場の長期的な将来が有望であるとの顕著な論説を発表した。The authorities’ second strategy has been more subtle and apparently more effective. In recent weeks, a series of state-owned companies have come forward with plans to launch large, new share offers in the Shanghai market. Shenhua Energy, a leading coal miner, plans to raise up to $6.3bn through an initial public offering, while PetroChina is looking to do a $6bn listing. China Construction Bank and China Mobile could also come to the market this year.
政府当局の二度目の策略はさらに巧妙で明らかに効果的である。ここ数週間、一連の国有企業は上海市場で大規模の新規株式の売り出しに着手する計画を進んで提供した。
国内最大の炭鉱を持つ中国神華能源(シェンファエナジー/China Shenhua Energy: 1088.HK)は、新規株式公開(IPO=initial public offering)を通じて63億ドルを調達する計画、一方の中国石油天然気(ペトロチャイナ/PetroChina: 0857.HK)は60億ドルの上場に期待を寄せる。
中国建設銀行(China Construction Bank: 0939.HK)と中国移動(チャイナモバイル/China Mobile: 0941.HK)も年内に上場予定だ。“It looks as if in July and August, we will see a sharp acceleration of IPOs in the mainland market, which is one reason for the drop in prices in the market,” said Lu Xinwen, strategic analyst of Merchants Securities in Shenzhen.
Such is the long list of companies waiting to sell shares in Shanghai that consultants PwC predicted this week that new listings on the mainland markets would exceed $52bn this year, double the prediction at the start of the year. Liquidity is also likely to be drawn out of the mainland capital markets in other directions. Over the last month, the government has relaxed some of the restrictions on taking capital overseas that will make it easier for domestic mutual funds and brokerages to invest abroad.「それはあたかも7月と8月に、株価が下落する一つの理由となる本土市場での新規株式公開(IPO=initial public offering)の急な前倒しがされるかのように見える」と深センにある中国招商證券(China Merchants Securities)の戦略アナリストは述べた。
このように上海市場で売り出しを待つ企業は多いが、投資顧問であるプライス・ウォーターハウス・クーパース(PwC=Price Waterhouse Coopers)は今週、年内に本土市場の新規上場企業の総額は、年初に予測されていた2倍の52億ドルを突破するかもしれないと予測した。
これらの流動資産はまた別の方向性によって本土の資本市場から引く可能性も高い。
先月中、政府は国内の投資信託及び証券業者が海外投資をしやすくするために、いくつかの制限を緩和した。As part of the process of setting up a new investment company to diversify the country’s vast foreign exchange reserves, the government said last week that it would issue up to $200bn in bonds to finance the purchase of foreign exchange. That money will be raised in the inter-bank market.
The bond issues were one of the main factors behind Thursday’s sell-off.国の巨額の外貨準備高の多様化を図るために、新しい投資会社を設立するプロセスの一環として、政府は先週、外貨購入の資金を調達するため特別国債を最高2000億ドルまで発行するつもりであり、その資金は銀行間短期資金市場(inter-bank market)で調達される予定だと述べた。
その債券の発行は木曜日(7月5日)の急落の主要因の1つであった。“Among investors, the concerns about liquidity in the market have been enhanced by the news of the treasury bills and the likely flows of overseas investment,” said Zhang Yidong, analyst at Industrial Securities in Shanghai.
Yet, in a market in which new retail investors play such a large role, analysts say the authorities cannot afford to be too relaxed about the present situation.
“When a market like this enters a phase of adjustment, we can also see some irrational panic,” said Mr Zhang. “We cannot rule out the possibility that it will fall further in the coming days.”「投資家の間では、市場における流動性の懸念は、特別国債のニュース、そして海外投資に関して起こり得る流れによって増幅された」と上海にある興業證券(Industrial Securities)のアナリストは述べた。
けれども、新たな一般投資家がこのような大きな役割を果たす市場においてアナリストたちは政府当局は現状について規制をこれ以上緩める余裕はないと言う。
また前出のアナリストは、「市場がこのような調整局面に入ったとき、私たちは不合理なパニックを目撃する可能性もある。また、数日中に株価が一段安になる可能性があり得ないとは言えない。」と述べた。****************************************
コメント
こんにちは、カルロスさん。お邪魔しています。結局の所は、バブルではなく、10数年前に中国政府がいきなり人民元切下げを行って中国の経済発展を行って、しかも成功して世界的に押しも押されぬ大国に成長してしまった。その事実に対する水準是正か?ともなんとなく思えるのですが。なぜだか根拠はないのですがそう簡単に中国バブルは破裂せんのじゃないかと。
久さん、こんばんは
こんなところまではるばると(爆)
>なぜだか根拠はないのですがそう簡単に中国バブルは破裂せんのじゃないかと。
今日のニューヨークのADRの上げを見てもそんな気がしますね。
私がJF Chinaを買ったのは昨年5月、何だか知らんうちに利確で売ってしまいましたが、それだけは後悔ですね(笑)
PERが40倍を超えてきたマーケットは、まず売っておくのがベターでしょう。
中国株は特殊なマーケットなので、政府のさじ加減で、相場を維持することも可能ですが、個人投資家が大半のマーケットなので、一旦相場が反転すれば、パニック売りになるでしょう。
人民元を故意に低め誘導し輸出を振興、08年の北京五輪、10年の上海万博をターゲットにしたハコモノ投資も一巡し、現在の相場はオーバーシュートのレベルに入っている段階でしょう。
Yarisさん、初めまして
私も貴殿のスタンスや考え方はよく理解できます。
従って、今買いに入ると言ってもド短期勝負のワラントであり、常に逃げ出せる状況に置いてあります。
ただ、理屈で考えられない中国株の動きというのは事実で、反落が恐慌にまでいけば、ITバブル崩壊後のナスダックと同じ道を歩む可能性もありますね。