マクドナルド社員の憂鬱

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落ち込む男性

マクドナルド(2702)が2005年12月期の連結決算で大幅な当期減益になったようだ。
ニュースリリースを見る限り、売上は上がっているが、利益が上がらなかったといことらしい。

私は単純にマクドナルドといえば、アメリカの企業、米国産牛肉のイメージから消費者に敬遠されて、売上が減ったのかと思って、ウェブサイトを見ると、「マクドナルドハンバーガーのビーフパティはオーストラリア産・ニュージーランド産牛肉を使用している」とのこと。

要するに製造原価(コスト)が上がるのに、それに反して販売単価(商品価格)を下げれば、どうなるかわかりそうなものだが、経営陣は社員をこき使えば何とかなると思ったのが、裏目に出たということのようだ。

一方、ファーストフード(ジャンクフード(junk food)とも言うが)のもう一方の雄である吉野家(9861)が、何で未だに米国産牛肉輸入再開を心待ちにしているかというと、米国産牛肉でないと並盛280円という価格では販売できないからだ。(昨年の2月11日には300円で臨時販売した

このことからもファーストフードチェーンが持っている財務体質の脆弱さが窺えるような気がする。
消費最前線の企業が製造原価(コスト)の上昇分を販売単価(商品価格)に転嫁できないときに何をするかというかの選択肢は大きくわけて2つ。

リーズナブルな商品を目玉にして客を呼び寄せ、他の高額商品を売る戦略を取るか、従業員を安く使うかいずれかだ。
様々な価格帯(特に富裕層向け)の商品を売るビジネスなら前者の戦略が取れるが、低価格商品をセールストークにしているビジネスは後者以外の選択肢はほとんどない。

究極のところ、低賃金+長時間労働+違法労働(超過勤務に対する賃金未払い)というので凌いでいるの実情であろう。
アメリカのウォルマート・ストアーズ(Walmart Stores Inc./WMT)は(退職者を含む)社員との間で違法労働の件が訴訟になっているが、日本では後難を恐れて表立ってそういう動きをする人はほとんどいない。

時々表面化するのは労働基準監督署への密告をきっかけにした調査が入ったときだけだ。
それは後難のリスクに比べて、従業員側が勝訴してもメリットがあまりないからとも言われているからだ。

その中でマクドナルドの店長の高野氏が起こした裁判がどうなるかによって他の外食産業の社員の待遇にも影響を及ぼすであろう。
また、2005年10月24日号の日経ビジネスの特集「社員が壊れる-最高益に巣食う 現代版『モダン・タイムス』」では、マクドナルドの店長の高野氏の例をあげ、「現場が過酷な労働に喘いでいるのは、マクドナルドだけに限らない。効率化を追い求めてきた大規模チェーンの多くが同様の問題に直面している。」と書いている。

コストの面から言えば、たとえ米国産牛肉の輸入が政治的思惑の中で再開されたとしても、本国のマクドナルドの副社長すら懸念を表明し、また国内の消費者の目が厳しくなる中で、それを使うことができないことは十分に予想できる。(米国産牛肉輸入問題関連の記事

こうした中で従業員のまともな労働環境と企業の業績好転を両立させることは容易ではない。
つまり、格安ハンバーガーチェーン店は、安価であることが最大の売りなのであり、それ以上でもそれ以下でもないからだ。

要するに、米国産牛肉の禁輸で原材料(牛肉)のコストが上がり、原油高で輸送コストも上がる中、やれることは「人件費削減ぐらいしかない」のだ。
それが何を意味するかは、私が言わなくてもおわかりであろう。

マクドナルドに限らず、安価を売りにする企業の社員が抱える問題の根は同じということが言えるのだ。

だから慶応大学教授の金子勝氏はこう言うのだ。「フリーターの若者を責めるのは間違っている。日本の労働環境はあまりに異常である(記事)」と・・・

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マクドナルド、大幅減益 未払い賃金と客単価低下が影響 (2006.2.10 朝日新聞)

日本マクドナルドホールディングスは10日に発表した2005年12月期連結決算で大幅な当期減益になった。
2003年8月から2年間に従業員に未払いだった超過勤務手当の負担が37億円にのぼったほか、昨春から「100円メニュー」を導入したことで客単価が下がったことが響いた。

同期の売上高は前年度比5.7%増の3256億5500万円、当期利益は同98.3%減の6000万円だった。
原田泳幸会長兼社長は「値頃感を打ち出す戦略は成功している。ただ、(売り上げを伸ばせる)核となる商品がもっと早く出てくればよかった。
今後はスピードをもっと上げていく」と述べ、低価格と高価格のメニューの「両面戦略」を継続する方針を示した。

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「昼休み抜きは違法」米ウォルマートに200億円賠償命令 (2005.12.24 産経新聞)

AP通信によると、米カリフォルニア州アラメダ郡地裁の陪審は22日、米小売り最大手ウォルマート・ストアーズが従業員に昼休みを与えなかったのは州法違反として、退職者を含む計約11万6000人に対する総額2億7000万ドル(約244億円)の損害賠償を命じる評決を下した。うち1億5000万ドルは懲罰的損害賠償。(Wal-Mart workers finally get a break)

同社は同日、上訴する方針を明らかにした。
同州では、1日に6時間以上働いた従業員には30分の昼食休憩を与えることを義務付けている。
賠償の対象となるのは2001-05年に同州内の店舗などで勤務していた全従業員。
元従業員数人が2001年、損害賠償を求め提訴していた。

会社側は昼食時間を取れなかった従業員にはその分の手当を支払ったり、法律が認める範囲で無休憩とすることで合意していたケースもあるなどと反論していた。
性差別や低賃金など従業員の待遇をめぐり、同社に対する批判は広がっており、訴訟も増加している。

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残業代求めマック提訴 現役の直営店店長 (2005.12.22 共同通信)
日本マクドナルドの埼玉県内の直営店店長高野広志さん(44)が2年間の未払い残業代785万円と慰謝料300万円など計1100万円の支払いを同社に求める訴訟を22日、東京地裁に起こした。

日本マクドナルドコミュニケーション部は「まだ訴状を見ていないので、コメントは差し控えたい」としている。
訴状などによると、日本マクドナルドは、高野店長が残業代支払い義務が生じない「管理監督者」と主張しているが、実態はアルバイトの採用権限がある程度で、業績目標や人件費コストに縛られ、経営者と一体といえるような権限がないほか、勤務シフトにも入るため出勤時間の自由もなく、管理監督者には当たらない、としている。

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ハンバーガー店”管理職店長”1日15時間労働で「死を思う」 (2005.10.24 日経ビジネス)

「死ぬ時はきっと事故死だろうな」
眠気で意識がもうろうとする中、ハンドルを握っていた男はふと思った。
時刻は深夜1時。連日の残業の疲れが極限に達していた。
高野広志さん、44歳。埼玉県北部の幹線道路沿いにあるマクドナルドの店長だ。

日本マクドナルドに入社して18年。
今の店に赴任するまでに3店の店長を務めてきた。
その高野さんのつい数ヶ月前までの生活は、常軌を逸するものだった。
かつて、徹底した効率経営で「デフレの優等生」と称された日本マクドナルド。
だが、チェーンシステムを支える現場は、”金属疲労”を起こしつつあった。

■睡眠時間は2~3時間

最も忙しかった頃の高野さんの1日を振り返ってみよう。
起床は朝4時10分。顔を洗い、身支度を整えると、車に飛び乗り、店に向かう。
4時半過ぎに家を出て、店に着くまで約1時間半。

6時30分頃からアルバイト1人と準備を始め、7時に店を開ける。
そして、朝食メニューを求める客を次々にさばく。
10時。「時間帯責任者」と呼ばれるベテランのアルバイトが出勤すると、車の中で仮眠。

時間帯責任者が来ない日は、弁当を食べながら、店の裏で待機する。
1時間の休憩が終わると、書き入れ時の昼。車から起き出し、店に戻ってアルバイトに指示を出す。

ピークの時間帯のアルバイトは、普通なら5人は必要。
だが、高野さんの店では、ここでも時間帯責任者が欠けることが多く、店長自身も接客に出なければ、注文をこなし切れない。
店頭での指示、接客は、そのまま夕方6時まで続く。

その後、2度目の休憩を挟んで、閉店時間の夜11時まで店に立つ。
シャッターを閉めてから、アルバイトが掃除をする横で、その日の売り上げを確認。

仕事から解放されるのは日付が変わる頃で、1日2~3時間の睡眠を確保するのがやっとだった。
こうした悲惨な生活は、前の店にいた昨年7月頃から約1年続いた。

月100時間を超える時間外労働で疲れがたまり、ぎっくり腰になって、店から病院に運ばれたこともある。
今年5月には、手にしびれを感じるようになり、病院に行くと、「軽い脳梗塞」と診断された。

高野さんの仕事は、なぜここまで過酷になったのか。
問題の根っこにあるのは、個店の業績管理制度だ。
店長が忙しすぎるのであれば、アルバイトを新たに採用し、人手を増やせばいい。

しかし、高野さんの場合は、そんな単純な方法で、問題を解決するわけにはいかなかった。
足かせとなったのは、本部との間で取り決める売り上げ、利益の目標だ。
日本マクドナルドでは毎年、店長とエリアマネージャーの話し合いで、店ごとの業績目標を決める。
そして、いったん決めた目標は、「よほどの理由がない限り下げられない」(高野さん)。

そうした仕組みの中で、高野さんは人を増やしたくても増やせないという状況に追い込まれた。

■経費削減策は人減らしのみ

まず売り上げの面では、BSE(牛海綿状脳症)の発生などでチェーン全体に逆風が吹きつけ、高野さんが現在店長を務める店では、近くに牛丼店ができるという競合問題も持ち上がった。
店の経営環境が厳しく、売り上げ目標は達成できない。

ならばせめて、利益だけでも…。
高野さんは自らの査定のことも考え、コストカットに乗り出したが、現実的にできることはアルバイトの人件費削減ぐらいしかなかったという。

アルバイトを減らせば、当然、店長の仕事はきつくなる。
そんな中で、高野さんには、人手とは別の面からも厳しい試練が襲ってきた。
日本マクドナルドは、ここ数年、6~8週間おきに複数の新商品を投入してきた。
2000年からの約5年間で発売した新商品、期間限定メニューは合計100近くに上る。

本部がこうした策を講じるのは、顧客にとっての店の価値を上げるためだが、現場には少なからず混乱が生じる。
増えた食材の発注作業が煩雑になり、調理や注文の取り方など、店長がその都度、従業員を指導しなければならない案件が増えた。

日本マクドナルドは2001年に株式上場した。
現場の負荷が増大した背景として、大株主である米マクドナルドからのプレッシャーを挙げる向きもある。
高野さん自身、「他の店長の中には、もっとうまく仕事をこなしている人もいる」と言うものの、業績目標に縛られる中で、長時間労働は避けられないものとなっていった。

疲労が限界に達しつつあった今年5月、高野さんの店をはじめとする日本マクドナルドの店舗数店に労働基準監督署の査察が入った。
その後、日本マクドナルドには労基署から改善要求文書が送られたと見られる。
しかし、それでも「労働環境は一向に改善されなかった」(高野さん)。

そこで、高野さんは独立系労働組合、東京管理職ユニオンを通じて、環境改善と残業代の支払いを求める交渉を始めた。
高野さんは多い時には1日15時間以上働いていたが、残業代を一切もらっていなかった。
この残業代の件に関して、日本マクドナルドは「店長は一般社員ではなく、管理監督者。支給対象にはならない」と主張し続けている。

交渉が9月に決裂したため、高野さんは11月にも争いを法廷に持ち込むことを決めた。
日本マクドナルドは基本的に、高野さんの問題は特殊なケースであり、組織全体に当てはまるものではないとしている。
原田泳幸・会長兼CEO(最高経営責任者)は店の労務管理について、「今後は現場の状況を本部が、より正確に把握できるようにする。だが、成果を上げられない人までフォローするつもりはない」と言う。

会社との交渉を続ける過程で、高野さんの店には新たに社員1人が配属され、労働時間は以前に比べると、大幅に短くなった。
だが、「改善策が全店に講じられたわけではないので、将来への不安は消えない」(高野さん)。

現場が過酷な労働に喘いでいるのは、マクドナルドだけに限らない。
効率化を追い求めてきた大規模チェーンの多くが同様の問題に直面している。

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日本マクドナルド 未払い賃金支払いへ (2005.8.2 読売新聞)

日本マクドナルドホールディングス(HD)は1日、アルバイトの賃金や社員の残業手当の計算方法が不適切だったとして、2年前までさかのぼり未払いの賃金を支払うと発表した。
同社ではこれまで、勤務時間を30分単位で管理していたため、30分未満の勤務時間は切り捨てていた。

今年5月下旬、兵庫県内の店舗を立ち入り調査した神戸西労働基準監督署が労働基準法に違反すると指摘し、問題が発覚した。
マクドナルドHDでは、1日付で、1分単位で勤務時間を計算するとともに、過去2年分について、アルバイトや従業員の申請に基づいて差額を支払う。
同社は社員が約4600人、直営店のアルバイトが約9万1000人いる。

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