新生イラクへ行った男たち

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イラクディナール紙幣

大前研一氏が「マネー力 資産運用力を磨くのはいまがチャンス!」という本の中で「40年間定期的にロシアを見続けてきた私ですら、ここ数年の劇的な変化は、正直想像できなかった。ましてや日本にいて日本人向けのメディアからしか情報を得ていなければ、思い描いていたイメージとあまりに差がありすぎて、言葉を失うのも無理はない。だから、自分の足で歩き、自分の目で現実を確かめることが大切なのだ。」と書いている。


今月の10日夜、東京都港区の麻布区民センターで行われたイラク帰国報告会&ディナール投資セミナーで、石田氏とライズインターナショナルの谷口氏が語っていたことはまさにこのことだった。

日本人が思い描くイラクは、フセイン政権打倒後の自爆テロや殺戮が繰り返されているといったイメージしかない。

私ももちろんそうだ。
現に、外務省の安全情報も基本的には「渡航の延期をお勧めします。」ということになっており、ビジネス渡航すらすべきではない、とのニュアンスが強く感じられる。

しかし、彼らは口を揃えて言う。
「自分たちが行った北部のクルディスタン地域(Kurdistan Area)は安全だったし、イスラム圏なのに女性が肌を見せて歩いていたり、大っぴらに外で酒を飲んでいたりとオープンな雰囲気だった。街にはバスすら走ってないだろうからバス会社をやれば儲かるのではないかと冗談を言っていたら、バスなんか至るところに走っていた。スーパーの品揃えは豊富だし、営業時間も遅くまでやっていた。ドイツ人や中国人、韓国人はビジネスでどんどん進出している。イラク人たちはとても親日的でたくさんの日本人にビジネスで来てもらいたいと思っているが、現実にはほとんどいない。日本人はほかの国の人に比べてアドバンテージがあるのに、チャンスを逃しているようで非常に残念だ。」

ただ、在日イラク大使館の情報では、現在日本人ビジネスマンがイラクへ行くには、査証取得に原則としてイラク政府機関からの招聘状(official invitation from Iraqi authorities)が必要で、その条件が変わらない限り、日本のベンチャー企業が進出するにはハードルが高そうだ。

日本がイラクとビジネス上の接点ができないことは今後の石油戦略上も影響を与える可能性もある。
対米従属を是とする日本の外交が大きな壁になることは承知の上で、私は田中宇氏の「国際情勢 メディアが出さないほんとうの話」という本の中で書かれている一節を紹介したい。

「WTI価格で売買されている石油量は、世界の取引全量からみればごくわずかだ」というベネズエラのチャベス大統領の言っていることが本当なら、今後も我々はバカ正直な属米政府の元で高い石油を買わされ続けることになるだろう。

もしかすると、今のイラクに恩を売ることは、国際戦略上、裏口から石油を買えるルートづくりにもなる可能性があるにもかかわらず、外交上それを放棄しているようにも見えるからだ。
日本政府は、せめて対イラク戦争で米国に協力させられた元を取ろうとか思わないのだろうか。

国際石油市場は二重価格制?(国際情勢 メディアが出さないほんとうの話 by 田中宇)

WTIの「国際石油価格」は1バレル100ドル以上だが、世界の毎日の石油売買のうち、どの程度の割合がこの高値で取引されているかは不明だ。

アラブの産油国は昔から、イスラム諸国や非同盟の発展途上国に対し、安値で石油を売る傾向があった。
OPECは1960年に設立されたときから、発展途上国に安く石油を売ることが目的の一つだった。

現在でも、たとえば先日米上院で問題にされたことは、サウジアラビアがイランに1バレル20ドルという国際価格の5分の1で原油を売っていることだった。
国際政治の「一般常識」としては、スンニ派で親米のサウジと、シーア派で反米のイランとは犬猿の仲で、サウジがイランに超安値で石油を売ることなど考えられない。

しかし現実には、各王子が石油利権を分け与えられているサウジ王室の中には、反米的な王子もおり(王室内で親米と反米を演じる役割分掛をしている)、彼らは石油を安値で各地の反米イスラム勢力に売っており、イランはその一つらしい。

中南米では、ベネズエラのチャベス大統領が、周辺諸国に安値で石油を売り、反米の方に傾ける戦略を採っている。
中東のヨルダンは建国以来、パレスチナ人が反イスラエル化するのを防ぐための米英の傀儡国であるが、フセイン政権が倒されるまで、隣の反米産油国イラクから、石油をほとんど無償(野菜との物々交換)で受け取り続けていた。

イラクが混乱した今では、代わりにサウジから石油を安値(もしくは無償)で得ていると思われる。
国際社会では、産油国から非産油国への政治的な石油の安値供給が各地で行われている。

欧米系の国々や日本、韓国など、米国中心の覇権体制にぶら下がっている先進諸国は、法外に高いWTI価格で石油を買わざるを得ないが、そのほかの非米・反米の傾向がある国々では、政治的に設定されたもっと安い価格で石油を買える。

特に米軍イラク侵攻後は、ロシアのプーチン政権やイランのアフマディネジャード政権、ベネズエラのチャベス政権などが共同し、政治的な石油安値販売の戦略を強化し、サウジや中国も巻き込んで、世界的な非米同盟を構築し、米国の覇権体制を壊すことを狙っている。

つまり世界の石油業界は、世界の多極化に賛成する国は1バレル20ドル程度の「非米価格」で、米英中心主義にぶら下がり続ける国は1バレル100ドルのWTI価格で石油を売る二重価格制になっている。
おそらくWTIがいくら上がっても、非米価格には関係ない。

原油の採掘原価は、多くの場合1バレル10ドル以下なので、20ドルで売れば利益は十分だ。
世界の石油取引のうち、どのくらいの量が非米価格で、どのくらいがWTIで売られているかはわからない。
非米価格での石油取引は国家間の相対取引で、統計に全く出てこない。

だが、すでに述べたように、世界の石油生産の大半を非米・反米諸国の国有石油会社が持っているのだから、少なくとも世界の石油取引の半分ぐらいは非米価格で売られている可能性がある。
以前ベネズエラのチャベス大統領は「WTI価格で売買されている石油量は、世界の取引全量からみればごくわずかだ」と発言していた。

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