夕張市破綻は日本破産の序曲か

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三菱大夕張鉄道保存地

財政再建団体となる北海道夕張市の住民説明会で、市側の提案に対し、市民たちは「話にならない。みんな帰ろう」と、次々に会場を立ち去ったという。
気持ちはわからないでもない。

何せ、小泉インチキ構造改革の総仕上げで今年度から実施された年金生活者の住民税と、それにスライドする国民健康保険料、介護保険料のトリプル負担増は、夕張市民ならずとも彼らのサイフを直撃していたのだ。

そして、私の予想では2010年代にはこういう光景が至るところで見られ、下手をすれば、いわゆるババを引いた首長と職員が市民のリンチに遭うことになるだろう。

さて、ここで冷静に考えて欲しいのは、財政破綻の原因を作ったのは、そのババを引いた首長や職員だけなのだろうかということだ。

彼らに全く責任がないというわけではない。
しかし、バブル経済期から数えて約20年間、その間の歴代の首長、議員、幹部公務員、そして彼らとつるんで税金を食い物にした業者や闇の世界の住人の方がはるかに大きな責任があると言ってもいい。

そして、その悪の連鎖を断ち切ろうともせず、漫然と与党に投票し、あるいは棄権を続けた選挙民もだ。
それは夕張市のみならず、国や他の自治体にも言えることなのだ。

いざとなれば、マスコミや一般市民は、現職だけを吊るし上げ、溜飲を下げたような気になるだろうが、そんなことをしても何の解決策も教訓も見出せないであろう。

かつて、悪の連鎖に立ち向かった民主党衆議院議員の石井紘基氏や、小さなところでは産廃業者に厳格なことで知られた栃木県鹿沼市環境対策部参事(部長級)、小佐々守氏はいずれも殺されている。

また、産廃処分場建設に反対し、瀕死(ひんし)の重傷を負った岐阜県御嵩町長、柳川喜郎氏の例もあり、全国紙の記事にならないようなところで変死している人もいると聞く。

「仕事をする公務員」が殺される世の中では誰がその役目を買って出るだろうか。

昨日のテレビであるコメンテイターが「なぜ夕張市は市民に負担を強いる前に国や北海道へ支援をお願いしないのか?」と言っていた。
トンチンカンなセリフもたいがいにしろと言いたい。

第一、北海道は2003年の段階で、三菱東京UFJ(当時の東京三菱)銀行や三井住友銀行が道債の引受銀行から手を引いたほどの財政状況なのだ。(2004年2月26日付朝日新聞「日の丸ファイナンス-巨大化の果てに」

とても夕張市の支援どころではないだろうし、さらに北海道の政財界の勘違い甚だしいのは、このような中でさえ、北海道新幹線の建設を続行しているということだ。

1999年4月21日号のNewsweek Japanには「地方自治体が破産するとき」という記事が掲載されていた。

その中の「ニューヨークの経験に学べ」に、「市当局と労組と財界は互いに協力することの大切さを学んだ。わがままなことで知られるニューヨーク市民も協力した。自分の町をののしってきたニューヨーカーたちも、共有するものの大きさを思い知らされたのだ。」という一節がある。

かつて財政再建団体に転落した福岡県赤池町(現・福智町)でも同様のことが言われた。

しかし、当時と今とでは根本的に違うことが2つある。
一つは夕張市の少子高齢化が究極のレベルに達しており、勤労者(納税者)世帯が町を見捨てる可能性が高いこと。

もう一つは国全体から再起へのエネルギーが喪失していることだ。
なぜなら、バブル崩壊後の日本は、ほとんどすべてにおいて、「逃げるが勝ち」という風潮があるからだ。

これは、誰かがババを引いてスケープゴート(scapegoat)となるまで続く。
たとえ、誰かが勇気を持って現実に立ち向かったとしても、それが全くと言っていいほど評価されないのが日本の社会システムだからだ。

事実、自ら率先して事実を明らかにした者と、バレて仕方なく釈明した者とどれほどの差があるのだろうか。
下手をすれば前者の方がひどい仕打ちを受けることさえある。

牛肉産地偽装事件における西宮冷蔵の水谷洋一社長と、耐震強度偽装事件におけるイーホームズの藤田東吾社長のケースはこのことを雄弁に物語る。

「逃げるが勝ち」という風潮はこの先も続くのか。
この夕張市に始まった地方自治体の破綻が、日本破産の序曲とならないことを祈りたい。

しかし、そのために残された時間は限りなく少ないように思える。
2001年12月31日付のFinancial Times “Risky tango in Tokyo”は、「その恐ろしい冗談は、経済界の間で交わされている。(経済破綻した)アルゼンチンと日本の間の差は何か。5年。(A grim joke is doing the rounds in financial circles. What is the difference between Argentina and Japan? Five years.)」と書き出している。

その5年はもうすぐ経つ。
アルゼンチンは国が破綻した。経済規模の大きさで優位にある日本は一地方自治体の破綻で済んだ。
果たして国際経済界で交わされた冗談が現実となる日は来るのだろうか。

夕張、嘆きの山・・・市で事実上の解雇通告も (2006.11.20 読売新聞)

図書館、プール、市営球場は廃止。共同浴場や公衆便所も閉鎖。なのに最高で年16万円の負担増。360億円の借金を抱えて破たんし、財政再建団体となる北海道夕張市の今後の市民生活が見えてきた。

市民1万3000人のうち65歳以上が40%に上る高齢化率全国一の旧炭鉱町。
20年後の返済完了を目指し、全国最低のサービスでしのいで行くことになる。

「年寄りは生活できない」。18日の住民説明会は、不満の声に包まれた。
市から示された、来年度からの金銭的な負担増は、市民税や下水道使用料引き上げなど9項目。

市民税や固定資産税などは全国最高水準だ。そのほか、図書館など公共施設の廃止、商工会議所や老人クラブへの補助金の廃止なども示された。

さらに市が設置している共同浴場6か所のうち2か所と、公衆便所7か所すべてを閉鎖する。
この提示に市民は「話にならない。みんな帰ろう」と、次々に会場を立ち去った。

一律200円で乗車できたバスの「敬老パス」や市立養護老人ホームは廃止。パスなしで市立総合病院を往復すると、最高で1860円に跳ね上がる。

老人ホームがなくなれば、最高で96歳を含む47人の入居者は住む家を失う。
もとより、年金生活者は市の借金返済の主役にはなれないが、夕張市は少子化も全国トップ。将来を担う15歳未満の年少人口割合は7.9%と全国最低だ。

市の再建策では現在、計11の小中学校は4年で各1校に統廃合。スクールバスを走らせるが、30分以上かかる地域もある。市独自で決めていた格安の保育料は、国の基準に合わせて年12万円以上アップ。幼児のいる4人家族は、市の試算で年16万6000円の負担増に。「さらに少子化が進むのでは」との声も聞かれる。

“放漫経営”を担ってきた市職員も責任を取る。同規模の都市の2倍、約300人の職員は、退職金を段階的に4分の1にまで減らす「事実上の解雇通告」(市幹部)で、実質2年で半減させる。給与は3割カットで全国最低水準に。市長ら特別職の給与は6割カット。

豪雪地の夕張市はもう雪の季節。早朝の除雪出動基準も10センチから15センチに引き上げられた。ある市民は「なるようにしかならない。まずはこの冬を乗り切らないと」とため息をついた。

<メモ>財政再建団体

地方財政再建促進特別措置法に基づき、国の監視下で財政赤字の解消を目指す自治体。実質赤字が一定額(市町村は標準財政規模の20%)を超えると指定対象となる。
夕張市の実質赤字は標準財政規模の8倍超の360億円。最近では1992年2月に福岡県赤池町(現・福智町)が指定を受け、2000年度に再建を完了した。

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自治体破たん法制、債務減免導入見送り・・・総務省研究会 (2006.11.18 読売新聞)

総務省の「新しい地方財政再生制度研究会」(座長・宮脇淳北大教授)は17日、地方自治体が財政破たんした場合、いわゆる「借金の棒引き」にあたる債務減免などの債務調整を導入するかどうかについて、

  1. 現行の地方行財政制度の下では導入しない
  2. 地方行財政制度が将来、抜本的に改革された場合の導入の是非は、判断を見送る

ことで一致した。
今月末にもまとめる報告に盛り込む。宮脇氏が同日の会合終了後、記者会見で明らかにした。

政府が早ければ来年の通常国会に提出する、自治体の「再生型破たん法制」に関する法案では、債務調整の導入は見送られる。
研究会は、債務調整について、9月の中間整理で、地方行財政制度の抜本改革を前提とした検討課題との見解を示したことを踏まえ、検討を進めてきた。

コメント

  1. 夕張破綻?日本中がトンチンカン

    財政破綻した夕張市の住民説明会では、住民が市長に噛み付いていた。しまいには、こ

  2. kubokawa より:

    いやー、全くそのとおりですね。
    ことの本質を日本国民全員、考えてもらいたいと思います。
    私はいつも考えています。

  3. カルロス より:

    >ことの本質を日本国民全員、考えてもらいたいと思います。
    その通りだと思います。
    あまりにくだらない上げ足取りや瑣末なことに対する批判が多すぎるような気がしますね。
    郵政造反組復党なんて言っているの見ると、いかに国民がバカにされているというのがわかります。
    そういうことに怒って欲しいものです。

  4. ベンダソン より:

    カルロス様、拙ブログへのコメントありがとうございます。
    「日本のマスコミがアンタッチャブルな理由」
    http://www.carlos.or.tv/essay-j/j-essayfront.html
    読ませていただきました。
    イヤハヤ、大変な力作ですね、敬服いたします。
    最初貴ブログを見たとき、ヘンテコリンな(失礼!)仮面ライダーみたいなお面をかぶった写真があったので、アブナイ人?なんて思ってしまいましたが、なかなかどうして、お見逸れしました。
    この国のマスコミは末期的状況にあり、国民を騙しつづけていることは、内部事情を知らなくても、論理的に分析すれば辻褄が合わないことが多すぎて直ぐに知れます。
    ブロガーの連携によって、これを崩していくしかないと思っていますので、是非とも、連携を図りたいものです。
    これからもよろしくお願いいたします。

  5. 危ない!

    今に始まったことではないが、このニッポン、いろいろオカシな事があって、でもそれら

  6. カルロス より:

    ベンダソンさん、ようこそ拙ブログへ
    >この国のマスコミは末期的状況にあり、国民を騙しつづけていることは、内部事情を知らなくても、論理的に分析すれば辻褄が合わないことが多すぎて直ぐに知れます。
    残念ながらその状況を知っているのは国民の少数派なんですよね。
    多くは知らない(特にITと縁のない層)し、知ろうともしないというのが現実と思います。
    これは実はレーガン以降のアメリカも同じ状況と聞いてます。
    似たもの同士ですね。

  7. かじ より:

    こんにちは
    久しぶりに、こちらのブログに来ました。
    日本の株はほとんど持っていませんので、日本の株価がどうかは、全体の日経しか見ていません。
    私も2006年のあと1月からの、ポートフォリオをチェックしていますが、今年も昨年と同じかそれ以上のパフォーマンスが出せそうです。
    日本は景気拡大で税収が増えたと報道されていますが、増収分って消費税2%分くらいでしょうかね、どうせ、役人はまともなことに使わないでしょね。
    日本が破産しても悠々自適に暮らせるように、お互いがんばりましょう。

  8. カルロス より:

    かじさん、こんにちは
    そうですね。景気回復と言われても一部の人以外は実感がないでしょうね。これで後退局面になったらどうなるんだろうと思います。

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